残酷な描写あり
R-15
出会い 2
メユーとトーゼツの二人は国境沿いに建てられた防壁の南門を通ってセイヘンへと戻っていく。
すると、そこはとても賑やかな都市部であった。この国の首都ではないものの、南にある国々との貿易地点であり、国境を守るための兵士たちが生活する場所ということもあって、セイヘンの中では首都に続いて二番目に栄えている都市とされている。
道路も舗装されており、大通りには多くの馬車が行き来している。それは商人のものなのか、それとも貴族を乗せているのか。とにかく絶えず何かが走っている。また、歩道も人が多く歩いており、歩行者を狙って屋台もいくつか並んでいる。このような光景は大抵、祭りなどのイベントではない限り見られないはずである。しかし、これがこの都市での日常であり、それが確実に栄えているという証拠でもあった。
二人も最初、この都市に来たばかりの頃はこの派手な風景に、賑やかな喧騒には驚かされていたが、今では慣れてしまい、何も感じることなく歩き続ける。
そうして二人は冒険者ギルドへと到着する。
ギルドとは何か、というのは説明不要かもしれないが、冒険者に依頼を申請したり、受けたりするための場所だ。大抵、何かしらの依頼待機で冒険者数人はいるのだが、そういう冒険者は駆け出しであったり、正直、低級と言わざるを得ない冒険者である。
先ほども述べた通り、ギルドは冒険者にやってほしい依頼の申請を行い、冒険者は申請された依頼を受け取る場所である。そして、誰でも受けられる自由な依頼は報酬金額が少なく、また貴族や商人の護衛であったり魔物討伐などの危険任務や高額報酬はそれなりの信頼のある強い冒険者が手配されることが基本だ。
そして、そういう強い冒険者はギルドから依頼内容の書かれた手紙が契約書が梱包されて家に送られてくる。そして、受けるのならば契約書にサインをして再び送る。もし受けないのであれば、手紙はそのまま返送する。そのような仕組みになっている。
つまり、毎日仕事を貰いに来る冒険者というのは、手紙を送ってもらえるほどまだ信頼の無い、または危険任務をこなす実力がないとギルドから思われている冒険者ということになる。
そんな待機中の冒険者たちを無視して二人は受付の方へと歩いていく。
近づいていくと、なんだか話し声が聞こえてくる。しかし、それは少しこもったノイズ混じりの会話であった。しかし受付には今、一人しかいない。
その声の正体は、受付に置かれた大きめの箱。旅行なんかに持っていくトランクほどの大きさのものから流れていた。
それは、いわゆるラジオというものだ。
この世界ではまだ発明されたばかりであり、世間に普及しておらず、冒険者ギルドや役所などの政府が絡む公共機関に設置されているぐらいで放送も国営のみで民営などはまだない。
また仕組みも少し異なっている。電気で動いているわけでなく、声を魔力エネルギーに変換。そこからさらに電波に変え、それをアンテナでキャッチ。それをまた魔力に戻し、それを音エネルギーに変換している。
これまた遠くにいる知らない人間の声が聞こえるということで話題になったが、ここでの生活が一年以上経ち始めた今では慣れたものだ。
「今日は早いね、二人とも」
ラジオのボリュームを下げながらメユーとトーゼツの二人にタメ口で話しかける受付嬢。きちんと依頼申請する外部の者とは敬語や丁寧な口調で話すが、冒険者として活動を始めて長く、見知った二人にはラフな感覚で話しかけるのであった。
「今日の定期依頼、終わったぜ」
そう言って、トーゼツはボン、と受付のカウンターテーブルの上に袋を置く。
定期依頼というのは、いわゆる魔物狩りのことである。
人を喰い殺し、畑を荒らすような魔物は増えないように冒険者が週に一回程度、狩りに行ってほしいと自治体が依頼を定期的に出す。もちろん、殺しすぎるとその森や山の自然体系を破壊しかねないので、殺しすぎないように狩る数を決めて依頼を出していることが多い。
報酬はそこそこ、だが魔物を相手しなければいけないということで中級冒険者に依頼が回ってくることが多い。
袋を開け、中身を見て一言。
「今回もそれなりの数しっかり殺してるねぇ。ったく、アンタ、職なしのニートでしょ?よくここまでやれるわね」
「うるせぇな。その代わり努力してるんだよ」
称賛しているようにも、小馬鹿にしているようにも感じ取れるその言葉をトーゼツは軽く流す。
「スライムのコアに、ゴブリンの鼻…うん、おっけー。確認したよ。あとでまた詳しく数をかぞえて査定して報酬を出すからね」
「ありがとうな。あと、これは依頼なんだが」
「おや?トーゼツがギルドに依頼?」
冒険者が冒険者に何か依頼を出すのは珍しいが、全く無い話ではない。
例えば、冒険者は本来、パーティを組む場合が多い。単独で冒険者をやっていけないわけではないが、その分、対応可能な任務の幅が狭くなるうえ、一人で色んなことをやらなければいけなくなる。
今回、メユーとトーゼツが行った魔物狩りの場合、魔物を探す、いわゆる探知を行い、見つけた魔物と戦い、負傷した場合は治癒、予想外の敵と相対したときは隠れる必要がある。それぞれ、探知や治癒と言ったものは魔術師。前線は剣士や槍士といった職持ちが行うのがセオリー。また、遠距離であれば弓士などが必要になる。
もちろん、パーティを組んでも、人数が足りないことは少なくない。そもそも、この世に生きるもの全てが冒険職の適正を持っている人間ではないし、仮に適性があっても、戦いに身を置くことが多い世界。隣の誰かが簡単に死ぬような世界だ。その世界に飛び込まず、別の生き方を探す者だって珍しくはない。
ゆえに単独で依頼を受けたりパーティを組んでも人数不足というのはよく聞く話。そういう時によく彼らはギルドに依頼する。手の空いている者で、適切な職を持った者がいれば手を貸してくれ、と。つまり冒険者が冒険者に何か依頼するというのは、いわば助っ人を求めているということだ。
だが、今回は助っ人が欲しいというわけではない。
「俺が依頼するわけじゃない。帰りに魔物に襲われている商人が居て助けたんだが、荷物を運んでいた荷馬車がバラバラになっていてな。それで、代わりの馬車と荷物整理、周辺確認の冒険者を数人、派遣してほしいということだ」
「その報酬は?」
「もちろん、商人持ちだ。今も商人は荷馬車の所で待機しているから、なるべく早く手配してほしい。内容的にもここで仕事が来るのを待っている奴らでも対応可能だと思うぜ」
「……そうねぇ。誰かに契約書を送る時間もないし、あと数時間待たせるわけにもいかないからトーゼツの言う通りかも。じゃあ、すぐにここにいる冒険者を何人か呼んでいかせようかしら」
「じゃあ、あとは頼んだよ」
そういって二人は受付から離れようとする。
「あれ?二人はいかないの?」
「うーん…もう魔物狩りで疲れちゃったしな。メユーはどうする?」
「アンタがいかないなら、私も行かないかな」
「ということだ。じゃあ、また明日。報酬をもらいにまた来るぜ」
そういって、今度こそ二人は受付から離れ、ギルドを出ていく。
「さて、今日のやるべきことは終わったし一緒にご飯でもいく?」
メユーはトーゼツにそのように言うが
「いや、明日も定期依頼があるし、まだ今日のぶんの報酬が貰えなかったからな」
そういって、彼は自分のポケットに入れていた銭入れ用の小さな革袋を開けひっくり返す。しかし、驚くほどに中からは何も出てこない。
中級レベルの冒険者とはいえ、不安定な収入だ。時期によっては全く仕事が入らないことだってある。しかし、最近はよく仕事が入ってきていたはずだ。
「おい、何に使ったのよ」
まっすぐトーゼツを見るメユー。
「は、ははは……ちょっとな」
そうしてまっすぐッ見てくるその視線をから逃げるように自分の目をそらすトーゼツ。
「また新しい魔具を買ったのか!?」
「しょうがないだろ!!俺は魔具に頼らねぇとやれていけないんだからよ!!」
そうして、手を合わせ、許しを請う。
「……はぁ、分かったよ。じゃあ、また明日」
そういって、振り返り際「ようやくお金も入って、時間もあるのに」とトーゼツに聞こえないぐらいの音量でぼそ、っと言い残していく。
「俺も今日は飯抜きだな。あぁ、腹減ったよ」
そうしてトーゼツもその場から歩いて去っていく。
すると、そこはとても賑やかな都市部であった。この国の首都ではないものの、南にある国々との貿易地点であり、国境を守るための兵士たちが生活する場所ということもあって、セイヘンの中では首都に続いて二番目に栄えている都市とされている。
道路も舗装されており、大通りには多くの馬車が行き来している。それは商人のものなのか、それとも貴族を乗せているのか。とにかく絶えず何かが走っている。また、歩道も人が多く歩いており、歩行者を狙って屋台もいくつか並んでいる。このような光景は大抵、祭りなどのイベントではない限り見られないはずである。しかし、これがこの都市での日常であり、それが確実に栄えているという証拠でもあった。
二人も最初、この都市に来たばかりの頃はこの派手な風景に、賑やかな喧騒には驚かされていたが、今では慣れてしまい、何も感じることなく歩き続ける。
そうして二人は冒険者ギルドへと到着する。
ギルドとは何か、というのは説明不要かもしれないが、冒険者に依頼を申請したり、受けたりするための場所だ。大抵、何かしらの依頼待機で冒険者数人はいるのだが、そういう冒険者は駆け出しであったり、正直、低級と言わざるを得ない冒険者である。
先ほども述べた通り、ギルドは冒険者にやってほしい依頼の申請を行い、冒険者は申請された依頼を受け取る場所である。そして、誰でも受けられる自由な依頼は報酬金額が少なく、また貴族や商人の護衛であったり魔物討伐などの危険任務や高額報酬はそれなりの信頼のある強い冒険者が手配されることが基本だ。
そして、そういう強い冒険者はギルドから依頼内容の書かれた手紙が契約書が梱包されて家に送られてくる。そして、受けるのならば契約書にサインをして再び送る。もし受けないのであれば、手紙はそのまま返送する。そのような仕組みになっている。
つまり、毎日仕事を貰いに来る冒険者というのは、手紙を送ってもらえるほどまだ信頼の無い、または危険任務をこなす実力がないとギルドから思われている冒険者ということになる。
そんな待機中の冒険者たちを無視して二人は受付の方へと歩いていく。
近づいていくと、なんだか話し声が聞こえてくる。しかし、それは少しこもったノイズ混じりの会話であった。しかし受付には今、一人しかいない。
その声の正体は、受付に置かれた大きめの箱。旅行なんかに持っていくトランクほどの大きさのものから流れていた。
それは、いわゆるラジオというものだ。
この世界ではまだ発明されたばかりであり、世間に普及しておらず、冒険者ギルドや役所などの政府が絡む公共機関に設置されているぐらいで放送も国営のみで民営などはまだない。
また仕組みも少し異なっている。電気で動いているわけでなく、声を魔力エネルギーに変換。そこからさらに電波に変え、それをアンテナでキャッチ。それをまた魔力に戻し、それを音エネルギーに変換している。
これまた遠くにいる知らない人間の声が聞こえるということで話題になったが、ここでの生活が一年以上経ち始めた今では慣れたものだ。
「今日は早いね、二人とも」
ラジオのボリュームを下げながらメユーとトーゼツの二人にタメ口で話しかける受付嬢。きちんと依頼申請する外部の者とは敬語や丁寧な口調で話すが、冒険者として活動を始めて長く、見知った二人にはラフな感覚で話しかけるのであった。
「今日の定期依頼、終わったぜ」
そう言って、トーゼツはボン、と受付のカウンターテーブルの上に袋を置く。
定期依頼というのは、いわゆる魔物狩りのことである。
人を喰い殺し、畑を荒らすような魔物は増えないように冒険者が週に一回程度、狩りに行ってほしいと自治体が依頼を定期的に出す。もちろん、殺しすぎるとその森や山の自然体系を破壊しかねないので、殺しすぎないように狩る数を決めて依頼を出していることが多い。
報酬はそこそこ、だが魔物を相手しなければいけないということで中級冒険者に依頼が回ってくることが多い。
袋を開け、中身を見て一言。
「今回もそれなりの数しっかり殺してるねぇ。ったく、アンタ、職なしのニートでしょ?よくここまでやれるわね」
「うるせぇな。その代わり努力してるんだよ」
称賛しているようにも、小馬鹿にしているようにも感じ取れるその言葉をトーゼツは軽く流す。
「スライムのコアに、ゴブリンの鼻…うん、おっけー。確認したよ。あとでまた詳しく数をかぞえて査定して報酬を出すからね」
「ありがとうな。あと、これは依頼なんだが」
「おや?トーゼツがギルドに依頼?」
冒険者が冒険者に何か依頼を出すのは珍しいが、全く無い話ではない。
例えば、冒険者は本来、パーティを組む場合が多い。単独で冒険者をやっていけないわけではないが、その分、対応可能な任務の幅が狭くなるうえ、一人で色んなことをやらなければいけなくなる。
今回、メユーとトーゼツが行った魔物狩りの場合、魔物を探す、いわゆる探知を行い、見つけた魔物と戦い、負傷した場合は治癒、予想外の敵と相対したときは隠れる必要がある。それぞれ、探知や治癒と言ったものは魔術師。前線は剣士や槍士といった職持ちが行うのがセオリー。また、遠距離であれば弓士などが必要になる。
もちろん、パーティを組んでも、人数が足りないことは少なくない。そもそも、この世に生きるもの全てが冒険職の適正を持っている人間ではないし、仮に適性があっても、戦いに身を置くことが多い世界。隣の誰かが簡単に死ぬような世界だ。その世界に飛び込まず、別の生き方を探す者だって珍しくはない。
ゆえに単独で依頼を受けたりパーティを組んでも人数不足というのはよく聞く話。そういう時によく彼らはギルドに依頼する。手の空いている者で、適切な職を持った者がいれば手を貸してくれ、と。つまり冒険者が冒険者に何か依頼するというのは、いわば助っ人を求めているということだ。
だが、今回は助っ人が欲しいというわけではない。
「俺が依頼するわけじゃない。帰りに魔物に襲われている商人が居て助けたんだが、荷物を運んでいた荷馬車がバラバラになっていてな。それで、代わりの馬車と荷物整理、周辺確認の冒険者を数人、派遣してほしいということだ」
「その報酬は?」
「もちろん、商人持ちだ。今も商人は荷馬車の所で待機しているから、なるべく早く手配してほしい。内容的にもここで仕事が来るのを待っている奴らでも対応可能だと思うぜ」
「……そうねぇ。誰かに契約書を送る時間もないし、あと数時間待たせるわけにもいかないからトーゼツの言う通りかも。じゃあ、すぐにここにいる冒険者を何人か呼んでいかせようかしら」
「じゃあ、あとは頼んだよ」
そういって二人は受付から離れようとする。
「あれ?二人はいかないの?」
「うーん…もう魔物狩りで疲れちゃったしな。メユーはどうする?」
「アンタがいかないなら、私も行かないかな」
「ということだ。じゃあ、また明日。報酬をもらいにまた来るぜ」
そういって、今度こそ二人は受付から離れ、ギルドを出ていく。
「さて、今日のやるべきことは終わったし一緒にご飯でもいく?」
メユーはトーゼツにそのように言うが
「いや、明日も定期依頼があるし、まだ今日のぶんの報酬が貰えなかったからな」
そういって、彼は自分のポケットに入れていた銭入れ用の小さな革袋を開けひっくり返す。しかし、驚くほどに中からは何も出てこない。
中級レベルの冒険者とはいえ、不安定な収入だ。時期によっては全く仕事が入らないことだってある。しかし、最近はよく仕事が入ってきていたはずだ。
「おい、何に使ったのよ」
まっすぐトーゼツを見るメユー。
「は、ははは……ちょっとな」
そうしてまっすぐッ見てくるその視線をから逃げるように自分の目をそらすトーゼツ。
「また新しい魔具を買ったのか!?」
「しょうがないだろ!!俺は魔具に頼らねぇとやれていけないんだからよ!!」
そうして、手を合わせ、許しを請う。
「……はぁ、分かったよ。じゃあ、また明日」
そういって、振り返り際「ようやくお金も入って、時間もあるのに」とトーゼツに聞こえないぐらいの音量でぼそ、っと言い残していく。
「俺も今日は飯抜きだな。あぁ、腹減ったよ」
そうしてトーゼツもその場から歩いて去っていく。