残酷な描写あり
R-15
出会い 5
二日後……。
「ちぃッ!やっぱり多いなぁ!!」
トーゼツは襲いかかるスライムの大群を炎を纏った槍で薙ぎ払っていた。
まるで津波のように液状で襲いかかるそれらは炎によって焦がされ、嫌な匂いを漂わせながら蒸発していく。
そんな中、薙ぎ払われていたスライムの一部がトーゼツの体に付着する。すると、付着した箇所の皮膚はジュ!という音を立てて煙を放ち始める。それは、スライムが捕食した獲物を溶かすために生成する酸であった。
「痛ッ!!」
しかし、軽い火傷程度。すぐに魔法陣も要らない下級魔術で傷を癒す。
「あぁ、さすがに体がつらくなってきたな……」
見て分かる通りトーゼツは現在一人で国境外の森で魔物狩りを行っていた。
基本は定期依頼では無い限り、勝手に自然体系を崩すような真似は許されないため魔物であっても基本、狩ることは許されていない。人が襲われている、などとなれば別の話だが。
そして今は例外の最中である。
厄災接近によって多くの獣が魔物と化し、セイヘン国境防壁付近まで現れているという。一部都市内部にも侵入し、人を食い荒らしている事件も起こっている。
そのため自然体系守るうんぬんよりも、害が出ないように獣を殺すことが許されており、多くの冒険者が魔物狩りへと出ている。トーゼツもその一人であった。
メユーはまだ情報収集の最中であり、二日後にまたギルドで会う予定になっている。その間もトーゼツは体が鈍らないように、そしてもっと強くなれるように、こうして一人で危険な戦いをやっているのだ。
だが、さすがに魔物狩りに慣れているとはいえ一人では出来ることが限られてくるうえ、戦いを補助してくれるような者もいない。回復も、戦闘も、索敵も、全て自分で行わなければいけない。
「くそ、今日はここまで—」
と思考しようとしたその瞬間
「いいや、まだだな。もう少し魔物を狩っていくか」
それにトーゼツには焦りがあった。
厄災の討伐。そのための実力は足りていない。だからこそ、体に無茶を聞かせてでもさらに戦いに身を置くことで強くならなければ、と。
そう言って、魔力で地面に魔法陣を描き、さらに魔術を展開する。
「中級魔術〈アラウンド・リサーチ〉」
これは索敵魔術だ。術者を中心に、大体二キロメートル以内のモノを調査するという効果である。またトーゼツは『魔力を帯びている生命』を対象として索敵しているため、それ以外の植物や小石、ただの獣などを見つけることはできない。
ちなみにこの〈アラウンド・リサーチ〉は剣士などの職でも会得可能なほど簡単な魔法だ。だが、その場合は下級魔術となり索敵範囲がかなり極小、二、三メートルになる。また、魔術師であれば、上級魔術へと昇級し、ざっと二十キロ以内の索敵を可能とする魔術である。
「魔物の数は……ん?」
そこでトーゼツは四体の魔力を帯びた生命体を感知する。
しかしそのうち三つは姿、形からして人間のようだ。そして、もう一つは魔物のようだが……。
(冒険者か?だが……)
そこからトーゼツは魔術効果を『魔力を帯びたモノ』から『呼吸している生命』に変更する。それにより、効果範囲内にいるネズミや虫と言った小さなモノすらも感知し始め、頭がうるさく感じ始めるのだが、意識を集中させ、さきほどの三人の冒険者の方を確認する。
(二人の呼吸が浅く、もう片方は荒い。さらには、魔物の方の呼吸が深い)
ここから導ける答えは一つ。
その魔物はかなり大きく、強い。そして三人で構成された冒険者パーティが戦い、二人が負傷。そして、今一人で戦っているという危険な状態であるということだ。
「これはまずい!!!」
トーゼツはその冒険者たちを守るためにすぐに駆け出す。移動しながら彼は自分の右手の人差し指にはめていた指輪に魔力を送る。すると、空中に黒い穴のようなものが出現し、そこへ持っていた槍を入れると、今度は穴に手を突っ込んで何かを引き出す。
それは、矢三本とクロスボウであった。
駆けていくスピードは落とさず、しかし矢をクロスボウに仕込みながら向い、そして—
「大丈夫か!?」
トーゼツは目的地へと到達し、叫ぶ。
やはり予想通りであった。二人の冒険者が倒れており、巨大な熊の姿をした魔獣がそこに立っていた。そして杖を持った少年がそこで怯えながらも、死にたくは無いと覚悟を決めて魔術を展開しようとしていたところであった。
叫んだことで一人と一体の意識はトーゼツの方へと向く。
そして、それと同時に矢に魔力を送り込み、発射させる。
「中級弓術〈突貫〉!」
それは重力の影響を受けているのか疑いたくなるほど真っすぐ、スピードが落ちることなく熊型の魔獣の頭に突き刺さり、そのまま風穴を開けて貫き通る。
「大丈夫か!?」
トーゼツは少年の方へと近寄る。
「あ、ありがとうございます!」
「いいや、礼はまだ早いようだぞ」
トーゼツはすぐに魔獣の方へと視線を戻す。すると、頭に大きな穴が開いているというのに倒れない。また、傷口の方からより多くの魔力を感知する。
(中級レベルの治癒魔術か!?)
魔獣はその名前の通り魔力を扱える獣のことだが、しょせんは獣。そのほとんどは魔力を肉体強化にしか使っていない。しかし、一部は魔術を用いる魔獣もいるのも事実。
それはドラゴンであったり、不死鳥と呼ばれるような討伐レベルが上級の魔獣だ。
(これも厄災の影響ってわけか?だが、魔法陣を通した魔術じゃない。かなり原始的な魔術になるな。であれば、無駄な魔力の消費に、魔術の効力はかなり激減しているはずだけど……油断は出来ないな)
魔獣は頭の治癒を優先しているようで、こちらに襲い掛かってくる様子はない。しかしその目は明らかにこちらを睨んできており、鋭い眼光は心を怯えさせる。
「とりあえず、コイツの相手は俺がする。お前はそこで倒れているお前の仲間を回収して逃げてくれさすがに三人守りながらじゃ戦いずらいしな」
それに二人は負傷者だ。今のところ、すぐに死ぬような致命的なケガではないが、放っておくのは危険ぐらいの負傷だ。ならば、すぐに安全な場所へと避難させるのが重要だ。
「だ、だが、アンタは…確か無職の―」
と言いかけている間にも、魔獣は治療を終えたようで、のっそりとその重く、デカい巨体を動かし、いまにも襲い掛かろうとしてきている。
それに対し、再びトーゼツはボウガンで矢を一発、そして素早く最後の矢を仕込み、二発目を発射する。再び弓術を発動させようとも思ったが、相手の動きが速すぎる。準備する時間が無い。ゆえに、ただ魔力を込めた二撃。上手くそれらは突き刺さり、多少動きを鈍らせる。
そうして、二人は魔獣の爪を用いた攻撃を避ける。
「迷っている時間は無いぞ!早く行け!!」
「……分かった、すぐに二人を安全な場所へと連れて応援も呼んでくる!!」
そうして、魔術でパーティメンバーを浮かせ、少年は走り去っていく。
「さぁて、これは強敵だぞ」
トーゼツは再び指輪の力で空間に黒い穴を出現させ、そこにボウガンを仕舞い込むと共に二つの短剣を取り出す。それは青と赤という対立した色であった。さらに持ち手の柄頭の所には、二つとも山羊のデザインが施されていた。
「グググ、ゥゥ」
魔獣は低い唸り声をあげ、こちらを見ている。
その両手にある剣のように鋭い爪には魔力が帯びており、一発でも当たるとアウトだとトーゼツは認識する。であれば―
「深い一撃で一気に削るよりも、相手が捉えきれない速さで少しずつ、少しずつ削っていく方がこの場合、良いだろうな」
そうして、トーゼツは二刀流の構えを取り、相手の動きを様子見る。
「ちぃッ!やっぱり多いなぁ!!」
トーゼツは襲いかかるスライムの大群を炎を纏った槍で薙ぎ払っていた。
まるで津波のように液状で襲いかかるそれらは炎によって焦がされ、嫌な匂いを漂わせながら蒸発していく。
そんな中、薙ぎ払われていたスライムの一部がトーゼツの体に付着する。すると、付着した箇所の皮膚はジュ!という音を立てて煙を放ち始める。それは、スライムが捕食した獲物を溶かすために生成する酸であった。
「痛ッ!!」
しかし、軽い火傷程度。すぐに魔法陣も要らない下級魔術で傷を癒す。
「あぁ、さすがに体がつらくなってきたな……」
見て分かる通りトーゼツは現在一人で国境外の森で魔物狩りを行っていた。
基本は定期依頼では無い限り、勝手に自然体系を崩すような真似は許されないため魔物であっても基本、狩ることは許されていない。人が襲われている、などとなれば別の話だが。
そして今は例外の最中である。
厄災接近によって多くの獣が魔物と化し、セイヘン国境防壁付近まで現れているという。一部都市内部にも侵入し、人を食い荒らしている事件も起こっている。
そのため自然体系守るうんぬんよりも、害が出ないように獣を殺すことが許されており、多くの冒険者が魔物狩りへと出ている。トーゼツもその一人であった。
メユーはまだ情報収集の最中であり、二日後にまたギルドで会う予定になっている。その間もトーゼツは体が鈍らないように、そしてもっと強くなれるように、こうして一人で危険な戦いをやっているのだ。
だが、さすがに魔物狩りに慣れているとはいえ一人では出来ることが限られてくるうえ、戦いを補助してくれるような者もいない。回復も、戦闘も、索敵も、全て自分で行わなければいけない。
「くそ、今日はここまで—」
と思考しようとしたその瞬間
「いいや、まだだな。もう少し魔物を狩っていくか」
それにトーゼツには焦りがあった。
厄災の討伐。そのための実力は足りていない。だからこそ、体に無茶を聞かせてでもさらに戦いに身を置くことで強くならなければ、と。
そう言って、魔力で地面に魔法陣を描き、さらに魔術を展開する。
「中級魔術〈アラウンド・リサーチ〉」
これは索敵魔術だ。術者を中心に、大体二キロメートル以内のモノを調査するという効果である。またトーゼツは『魔力を帯びている生命』を対象として索敵しているため、それ以外の植物や小石、ただの獣などを見つけることはできない。
ちなみにこの〈アラウンド・リサーチ〉は剣士などの職でも会得可能なほど簡単な魔法だ。だが、その場合は下級魔術となり索敵範囲がかなり極小、二、三メートルになる。また、魔術師であれば、上級魔術へと昇級し、ざっと二十キロ以内の索敵を可能とする魔術である。
「魔物の数は……ん?」
そこでトーゼツは四体の魔力を帯びた生命体を感知する。
しかしそのうち三つは姿、形からして人間のようだ。そして、もう一つは魔物のようだが……。
(冒険者か?だが……)
そこからトーゼツは魔術効果を『魔力を帯びたモノ』から『呼吸している生命』に変更する。それにより、効果範囲内にいるネズミや虫と言った小さなモノすらも感知し始め、頭がうるさく感じ始めるのだが、意識を集中させ、さきほどの三人の冒険者の方を確認する。
(二人の呼吸が浅く、もう片方は荒い。さらには、魔物の方の呼吸が深い)
ここから導ける答えは一つ。
その魔物はかなり大きく、強い。そして三人で構成された冒険者パーティが戦い、二人が負傷。そして、今一人で戦っているという危険な状態であるということだ。
「これはまずい!!!」
トーゼツはその冒険者たちを守るためにすぐに駆け出す。移動しながら彼は自分の右手の人差し指にはめていた指輪に魔力を送る。すると、空中に黒い穴のようなものが出現し、そこへ持っていた槍を入れると、今度は穴に手を突っ込んで何かを引き出す。
それは、矢三本とクロスボウであった。
駆けていくスピードは落とさず、しかし矢をクロスボウに仕込みながら向い、そして—
「大丈夫か!?」
トーゼツは目的地へと到達し、叫ぶ。
やはり予想通りであった。二人の冒険者が倒れており、巨大な熊の姿をした魔獣がそこに立っていた。そして杖を持った少年がそこで怯えながらも、死にたくは無いと覚悟を決めて魔術を展開しようとしていたところであった。
叫んだことで一人と一体の意識はトーゼツの方へと向く。
そして、それと同時に矢に魔力を送り込み、発射させる。
「中級弓術〈突貫〉!」
それは重力の影響を受けているのか疑いたくなるほど真っすぐ、スピードが落ちることなく熊型の魔獣の頭に突き刺さり、そのまま風穴を開けて貫き通る。
「大丈夫か!?」
トーゼツは少年の方へと近寄る。
「あ、ありがとうございます!」
「いいや、礼はまだ早いようだぞ」
トーゼツはすぐに魔獣の方へと視線を戻す。すると、頭に大きな穴が開いているというのに倒れない。また、傷口の方からより多くの魔力を感知する。
(中級レベルの治癒魔術か!?)
魔獣はその名前の通り魔力を扱える獣のことだが、しょせんは獣。そのほとんどは魔力を肉体強化にしか使っていない。しかし、一部は魔術を用いる魔獣もいるのも事実。
それはドラゴンであったり、不死鳥と呼ばれるような討伐レベルが上級の魔獣だ。
(これも厄災の影響ってわけか?だが、魔法陣を通した魔術じゃない。かなり原始的な魔術になるな。であれば、無駄な魔力の消費に、魔術の効力はかなり激減しているはずだけど……油断は出来ないな)
魔獣は頭の治癒を優先しているようで、こちらに襲い掛かってくる様子はない。しかしその目は明らかにこちらを睨んできており、鋭い眼光は心を怯えさせる。
「とりあえず、コイツの相手は俺がする。お前はそこで倒れているお前の仲間を回収して逃げてくれさすがに三人守りながらじゃ戦いずらいしな」
それに二人は負傷者だ。今のところ、すぐに死ぬような致命的なケガではないが、放っておくのは危険ぐらいの負傷だ。ならば、すぐに安全な場所へと避難させるのが重要だ。
「だ、だが、アンタは…確か無職の―」
と言いかけている間にも、魔獣は治療を終えたようで、のっそりとその重く、デカい巨体を動かし、いまにも襲い掛かろうとしてきている。
それに対し、再びトーゼツはボウガンで矢を一発、そして素早く最後の矢を仕込み、二発目を発射する。再び弓術を発動させようとも思ったが、相手の動きが速すぎる。準備する時間が無い。ゆえに、ただ魔力を込めた二撃。上手くそれらは突き刺さり、多少動きを鈍らせる。
そうして、二人は魔獣の爪を用いた攻撃を避ける。
「迷っている時間は無いぞ!早く行け!!」
「……分かった、すぐに二人を安全な場所へと連れて応援も呼んでくる!!」
そうして、魔術でパーティメンバーを浮かせ、少年は走り去っていく。
「さぁて、これは強敵だぞ」
トーゼツは再び指輪の力で空間に黒い穴を出現させ、そこにボウガンを仕舞い込むと共に二つの短剣を取り出す。それは青と赤という対立した色であった。さらに持ち手の柄頭の所には、二つとも山羊のデザインが施されていた。
「グググ、ゥゥ」
魔獣は低い唸り声をあげ、こちらを見ている。
その両手にある剣のように鋭い爪には魔力が帯びており、一発でも当たるとアウトだとトーゼツは認識する。であれば―
「深い一撃で一気に削るよりも、相手が捉えきれない速さで少しずつ、少しずつ削っていく方がこの場合、良いだろうな」
そうして、トーゼツは二刀流の構えを取り、相手の動きを様子見る。