残酷な描写あり
R-15
日課
寮生活のレンの朝は早い。
【太陽】が明るくなる前に起床し、訓練所へと足を運ぶ。
ここには日中に行けば、学園の生徒同士と訓練するのは勿論、成人したヒトたちと訓練ができる施設である。
【太陽】が夜を知らせている間はヒトの出入りはほとんどなく、来た者同士で訓練すると言うよりも、常に己と向き合った訓練に重きを置いているヒトばかりである。
レンはいつもなら木剣を持ち、打ち込み用の人形や素振りをするのだが、今日は違った。
真っ先に指揮棒のような杖を手に取る。
学園にあるような魔道具ではない為、魔法が放たれることはないのだが、面白い発見をする。
杖だけ何故か魔力を込めることができるのだ。
尤も込めたところで魔道具ではない。
木剣などでは見たことがないような反応であり、その挙動を楽しんでいた。
そして魔力が込められた杖は多少乱暴に扱っても壊れないという事。
そして、杖の延長線上に魔力を少しだけ伸ばせるという事が判った。
だがそれだけであり、なんでも破壊できるような威力を持ったわけではない。
少しびっくりさせる程度である。
魔力の形を自在に変える、という練習ではあるが、それでも良い汗の出る訓練だった。
すると、一人の犬族の男性がレンの所へ身に来る。
大人に見られるというのはレンにとっては緊張するものだが、背筋を伸ばして行儀良く立つ。
「そんな畏まらなくていいよ?キミは魔道具に興味あるのかい?」
「は、はい!オレ……ノーマジなんで……!」
「ふうん。キミが持ってるやつ、魔道具の抜け殻だからさ興味があると思ったらそういうことね。まあ、訓練毎日やってるみたいだけど、偶には体を休ませてあげなよ?」
「は、はい!ありがとうございます!」
犬族の男性はそのまま訓練所を出ていく。
レンが毎日訓練所に来ていることを知られている事にレンは嬉しくなり、杖を眺める。
(もっと頑張って、調査隊になれるようにしなくちゃ!)
レンは杖を返却し、寮の自室に戻って着替えを済ませる。
そのまま食堂に行き、学園生活の一日が始まるのである。
食堂の席は固定式であり、レンの席には既に食事が提供されていた。
席にはイタズラができないように【結界】の魔法が施されており、契約者の魔力でのみ解除ができる。
これも、魔道具の力を利用した機関であり、生活のほとんどは魔道具に頼れば過ごすことができる。
レンの朝ごはんが既に提供されているのは、訓練に行く前に食堂に伝えている為である。
草食魔獣の煮込み料理が提供され、それを豪快に頬張る。
そして美味しさのあまり目尻が下がり、自然と幸せな笑みが溢れてしまう。
レンは毎日の食事が非常に楽しく、特に訓練後のご飯が楽しみだった。
ペロリと平らげ、手を合わせて席を立つと残った皿に対して【結界】が展開される。
レンの魔力が感じ取れなくなった魔道具は鮮度の良いままの皿が保存し、割れたり汚れが固まったりする事を許さなかった。
そして、その足で教室へと向かうと既にサムは教室にて授業の準備をしていた。
「おはよう。相変わらず早いな」
「おはようございます。先生だって早いじゃないですか?何か手伝えることありますか?」
「先生だからなぁ……。そうだ、この紙を全ての席に配っておいてくれないか?今日は特別講師が来る事になってて、その案内だ。魔道具の事だから、お前も興味があるんじゃないか?」
レンは紙の束を受け取り、配る前に眺めてしまう。
「『魔法技術士のポチおがやってくる!古の魔道具から最新魔道具まで紹介。魔法のことでお悩みの方に相談コーナーもあります』かあ……。先生!このポチおってヒトは有名なんですか?」
「ん?有名も何もオク……じゃなくてポチおは五十年近く前、国に魔道具を普及したヒトだぜ?」
「えっ!?そんな有名なヒトが来るんですか!?」
「有名も何も、元々学園の臨時教師だし。定期的に教鞭を振っているぞ?」
レンの中で『ポチお』という魔法技術士のイメージ像が浮かび上がる。
それは屈強な体を持ち、この国の神ヴォルフの様に気高い気質、そして女王の様に知識を持ち合わせている想像だった。
この世界は魔獣が各地で闊歩しており、それらを狩り、肉を得ている。
中には非常に強力な個体が存在し、成人が数十人掛けて倒すものもいる。
しかし、そんな彼らでも犠牲になることが多く、五十年を生きられた個体は非常に珍しい。
そして、珍しいヒトが学園にやって来るのだ。
レンの好奇心がくすぐられすぎ、尻尾がブンブンと左右に振られる。
「ポチおの講義は強制じゃないから授業が終わったら屋内競技場に行くんだぞ?……って聴いちゃない。まあチラシにも書いてあるから大丈夫か」
早朝からレンにとってのビッグニュースを聴き、一日中授業に手がつかなかったのは言うまでもない。
§
レンは授業を全て終え、小走りで屋内競技場へと向かう。
しかし、間の悪いと言えば良いか競技場の前にハウルと取り巻きが立っていた。
「よお、オマエは何しにここに行くんだ?」
「何って……魔道具の臨時講義を受けるんだよ。そう言うハウルこそ講義を受けにきたの?」
「だれが魔道具に頼るもんか!あんなもの使うのは落ちこぼれだけと相場が決まってるんだよ!オマエみたいにな!」
取り巻きと共に魔道具のことを蔑み、笑いものにしていたが、レンは冷静に答えを返す。
「……別にオレとハウルは喧嘩しても一緒くらいの強さだったじゃん!」
「何をーッ!?」
図星を突かれたハウルは激昂し、レンの胸ぐらを掴み、持ち上げる。
怒りに満ちた表情でレンを睨みつけ、そのまま壁に押し付ける。
「俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ……!親父の特権で殺すぞ!クソノーマジが!」
「それは頂けないね。『彼の者の力を奪い取れ』」
突然の詠唱でハウルは腕力を失い、レンを離してしまう。
レンは声のした方へ視線を向けると見慣れない格好をした犬獣人がこちらに向かって歩いてきていた。
レンはその姿を知っていた。
「訓練所の……!?」
「や、今朝方ぶりかね?」
訓練所で話しかけてきた犬獣人の男性だったことに、レンは驚くのだった。
【太陽】が明るくなる前に起床し、訓練所へと足を運ぶ。
ここには日中に行けば、学園の生徒同士と訓練するのは勿論、成人したヒトたちと訓練ができる施設である。
【太陽】が夜を知らせている間はヒトの出入りはほとんどなく、来た者同士で訓練すると言うよりも、常に己と向き合った訓練に重きを置いているヒトばかりである。
レンはいつもなら木剣を持ち、打ち込み用の人形や素振りをするのだが、今日は違った。
真っ先に指揮棒のような杖を手に取る。
学園にあるような魔道具ではない為、魔法が放たれることはないのだが、面白い発見をする。
杖だけ何故か魔力を込めることができるのだ。
尤も込めたところで魔道具ではない。
木剣などでは見たことがないような反応であり、その挙動を楽しんでいた。
そして魔力が込められた杖は多少乱暴に扱っても壊れないという事。
そして、杖の延長線上に魔力を少しだけ伸ばせるという事が判った。
だがそれだけであり、なんでも破壊できるような威力を持ったわけではない。
少しびっくりさせる程度である。
魔力の形を自在に変える、という練習ではあるが、それでも良い汗の出る訓練だった。
すると、一人の犬族の男性がレンの所へ身に来る。
大人に見られるというのはレンにとっては緊張するものだが、背筋を伸ばして行儀良く立つ。
「そんな畏まらなくていいよ?キミは魔道具に興味あるのかい?」
「は、はい!オレ……ノーマジなんで……!」
「ふうん。キミが持ってるやつ、魔道具の抜け殻だからさ興味があると思ったらそういうことね。まあ、訓練毎日やってるみたいだけど、偶には体を休ませてあげなよ?」
「は、はい!ありがとうございます!」
犬族の男性はそのまま訓練所を出ていく。
レンが毎日訓練所に来ていることを知られている事にレンは嬉しくなり、杖を眺める。
(もっと頑張って、調査隊になれるようにしなくちゃ!)
レンは杖を返却し、寮の自室に戻って着替えを済ませる。
そのまま食堂に行き、学園生活の一日が始まるのである。
食堂の席は固定式であり、レンの席には既に食事が提供されていた。
席にはイタズラができないように【結界】の魔法が施されており、契約者の魔力でのみ解除ができる。
これも、魔道具の力を利用した機関であり、生活のほとんどは魔道具に頼れば過ごすことができる。
レンの朝ごはんが既に提供されているのは、訓練に行く前に食堂に伝えている為である。
草食魔獣の煮込み料理が提供され、それを豪快に頬張る。
そして美味しさのあまり目尻が下がり、自然と幸せな笑みが溢れてしまう。
レンは毎日の食事が非常に楽しく、特に訓練後のご飯が楽しみだった。
ペロリと平らげ、手を合わせて席を立つと残った皿に対して【結界】が展開される。
レンの魔力が感じ取れなくなった魔道具は鮮度の良いままの皿が保存し、割れたり汚れが固まったりする事を許さなかった。
そして、その足で教室へと向かうと既にサムは教室にて授業の準備をしていた。
「おはよう。相変わらず早いな」
「おはようございます。先生だって早いじゃないですか?何か手伝えることありますか?」
「先生だからなぁ……。そうだ、この紙を全ての席に配っておいてくれないか?今日は特別講師が来る事になってて、その案内だ。魔道具の事だから、お前も興味があるんじゃないか?」
レンは紙の束を受け取り、配る前に眺めてしまう。
「『魔法技術士のポチおがやってくる!古の魔道具から最新魔道具まで紹介。魔法のことでお悩みの方に相談コーナーもあります』かあ……。先生!このポチおってヒトは有名なんですか?」
「ん?有名も何もオク……じゃなくてポチおは五十年近く前、国に魔道具を普及したヒトだぜ?」
「えっ!?そんな有名なヒトが来るんですか!?」
「有名も何も、元々学園の臨時教師だし。定期的に教鞭を振っているぞ?」
レンの中で『ポチお』という魔法技術士のイメージ像が浮かび上がる。
それは屈強な体を持ち、この国の神ヴォルフの様に気高い気質、そして女王の様に知識を持ち合わせている想像だった。
この世界は魔獣が各地で闊歩しており、それらを狩り、肉を得ている。
中には非常に強力な個体が存在し、成人が数十人掛けて倒すものもいる。
しかし、そんな彼らでも犠牲になることが多く、五十年を生きられた個体は非常に珍しい。
そして、珍しいヒトが学園にやって来るのだ。
レンの好奇心がくすぐられすぎ、尻尾がブンブンと左右に振られる。
「ポチおの講義は強制じゃないから授業が終わったら屋内競技場に行くんだぞ?……って聴いちゃない。まあチラシにも書いてあるから大丈夫か」
早朝からレンにとってのビッグニュースを聴き、一日中授業に手がつかなかったのは言うまでもない。
§
レンは授業を全て終え、小走りで屋内競技場へと向かう。
しかし、間の悪いと言えば良いか競技場の前にハウルと取り巻きが立っていた。
「よお、オマエは何しにここに行くんだ?」
「何って……魔道具の臨時講義を受けるんだよ。そう言うハウルこそ講義を受けにきたの?」
「だれが魔道具に頼るもんか!あんなもの使うのは落ちこぼれだけと相場が決まってるんだよ!オマエみたいにな!」
取り巻きと共に魔道具のことを蔑み、笑いものにしていたが、レンは冷静に答えを返す。
「……別にオレとハウルは喧嘩しても一緒くらいの強さだったじゃん!」
「何をーッ!?」
図星を突かれたハウルは激昂し、レンの胸ぐらを掴み、持ち上げる。
怒りに満ちた表情でレンを睨みつけ、そのまま壁に押し付ける。
「俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ……!親父の特権で殺すぞ!クソノーマジが!」
「それは頂けないね。『彼の者の力を奪い取れ』」
突然の詠唱でハウルは腕力を失い、レンを離してしまう。
レンは声のした方へ視線を向けると見慣れない格好をした犬獣人がこちらに向かって歩いてきていた。
レンはその姿を知っていた。
「訓練所の……!?」
「や、今朝方ぶりかね?」
訓練所で話しかけてきた犬獣人の男性だったことに、レンは驚くのだった。