残酷な描写あり
R-15
メリルのお願い
「失礼します!」
レンは扉をノックした後、保健室の扉を開ける。
メリルは競技場で叱られた時よりも険しい表情をしており、レンは思わず小さくなる。
そんなレンに気がついたメリルは表情を少し和らげる。
「レンか。部活があるのにわざわざすまない。……というより今日は部活は休みにしてほしいんだ」
メリルから部活を休みにと聴き、約束を破ってしまったことによるペナルティではないかと思い、落ち込む。
勘違いをしているレンにメリルは慌てた様子で口を開く。
「今日の件で活動停止をすると言ったのではないぞ?それに関してはもう終わったことだ。一日だけ個人的に休みにして欲しいのだ」
「あ……よ、よかった……。何か、トラブルですか?」
「そうなんだ。昨日出会ったリコという野狐族の女子は覚えているかな?」
レンは野狐族の女子と聴きすぐに思い出し、頷く。
それを確認したメリルは話を続ける。
「生徒間の問題を曝すのは良くないのだが……依頼内容は彼女の偵察任務だ。これから彼女と他三人が近郊だが魔獣がいるエリアに踏み入れる。彼女たちは特級クラスのヒトだが少し問題があってな……。彼女たちが危険な状況にならないように見張ってて欲しいんだ」
「ま、魔獣……!?危険な場所じゃ……!」
「特級クラスは魔力も魔法もお前たちとレベルが違う。普通の状況ならばお前に偵察任務という危険な事はさせない。何かあれば紋章魔法を使って彼女の援護をし、共に帰ってきてくれ。報酬はしっかりとさせて貰う。どうか引き受けてくれないだろうか?」
「わ、わかりましたっ!」
レンは快く返事をするとメリルは安心したような表情を浮かべ、地図と杖状の魔道具を机の上に出す。
「先ずはこの地図。これはポチおが作った魔道具でリコとお前、そして学園の位置関係を示してくれる物だ。魔力を注げば起動するから、お前ならすぐに使いこなせるだろう」
メリルは地図の魔道具をレンに渡し、杖状の魔道具を持ち上げる。
訓練用と違い、水色や緑などの輝きを放つ不思議な金属だった。
「これは護身用でいざという時だけ使う事。中には【爆裂】の魔法が入っている。起動ように魔石もあるから、紋章魔法の使用で魔力が無くなった時でも使える。使用しない事を祈るよ」
レンは杖状の魔道具を受け取り、カバンに入れようとすると止められる。
メリルは自身のベルトを指差して場所を示す。
レンは恐る恐るベルトに魔道具を近づけると、カチッという音と共にベルトに吸い付いた。
「この制服をデザインしたのもポチおだ。自分の作った魔道具をすぐに使えるように工夫していると聞いた事がある。魔力を込めて引っ張るとすぐに取れるから安心するといい」
「先生は行かれないのですか……?」
レンが不安そうにメリルを見ると申し訳ない表情を浮かべ頭を下げる。
「すまないな。今日は女王様とヴォルフ様に呼び出しを受けている日でな……。不安かもしれないが、私はお前が見事こなしてくれる事を期待している」
女王様とヴォルフ様という二人の名称を聴き、レンは納得した表情を浮かべる。
この国の最高権力者である二人からの呼び出しとあれば拒否する事ができない。
レンは両手の拳を握り締め、決意の表情を浮かべるとメリルが突然レンの頬に口付けをする。
思春期真っ只中の彼にそんな事をすれば慌てるのは無理もなく、バタバタと転げ回る。
「そんなに焦らなくても……」
「だ、だ、だ、だって……!き、キスですよ!?」
「……私の付与魔法だ。大怪我を負うような事態になれば一度だけ完全回復させるもの。これはカウンターで発動するから魔力の心配はしなくていい。……心を弄ぶような真似をしてしまってすまない」
メリルからの手厚い支援を受け、レンは内心気が気でなかったが、メリルにお辞儀をして保健室を出ていく。
「ふく様がイタズラをしたい気持ちが少しわかった気がします……」
メリルは窓から外を眺め、走ってリコの元へ向かうレンを見届けるのだった。
§
レンは非常に楽しく近郊を歩いていた。
周りは岩と草原が広がる場所であり、所々大木が生えている。
レン達未成年の獣人は近郊を歩く事を禁じられている。
それは魔獣が出てくるからであり、弱い魔獣ならまだしも、少し強い魔獣が複数体出た時、確実に死んでしまうからだ。
そのため定期的に近郊の魔獣達は狩られているが、油断はできない。
それでも自由に歩けるというのはレンにとって楽しいの一言であり、見るもの全てが輝いて見える。
小高い丘に到着し、地図の魔道具でリコとの位置を確認する。
紙でできた魔道具は非常に珍しく、レンは慎重にそれを広げる。
すると途中まで記された世界地図のようなものだった。
レンは山の凹凸まで詳細に描かれた地図を見て好奇心がくすぐられる。
「いけない、いけない……!リコさんを捜さないと……!」
レンは少しだけ魔力を込めると、ぼんやりとした光の柱が地図上に現れる。
赤い光、黄色の光、青い光の三色はそれぞれ学園、レン、リコを示している事がわかる。
なぜ分かるかというと青い光――つまりリコは他の二つの光から遠ざかっているという事から読み取れた。
そして赤い光の近くには『フォクノナティア学園』と表記されている為、消去法で黄色の光はレンだという事が判る。
「歩いているならまだまだ間に合うハズ……!」
レンは方角を確認した後、地図を畳み、走ってリコの居るだろうと思われる場所へと向かったのだった。
レンは扉をノックした後、保健室の扉を開ける。
メリルは競技場で叱られた時よりも険しい表情をしており、レンは思わず小さくなる。
そんなレンに気がついたメリルは表情を少し和らげる。
「レンか。部活があるのにわざわざすまない。……というより今日は部活は休みにしてほしいんだ」
メリルから部活を休みにと聴き、約束を破ってしまったことによるペナルティではないかと思い、落ち込む。
勘違いをしているレンにメリルは慌てた様子で口を開く。
「今日の件で活動停止をすると言ったのではないぞ?それに関してはもう終わったことだ。一日だけ個人的に休みにして欲しいのだ」
「あ……よ、よかった……。何か、トラブルですか?」
「そうなんだ。昨日出会ったリコという野狐族の女子は覚えているかな?」
レンは野狐族の女子と聴きすぐに思い出し、頷く。
それを確認したメリルは話を続ける。
「生徒間の問題を曝すのは良くないのだが……依頼内容は彼女の偵察任務だ。これから彼女と他三人が近郊だが魔獣がいるエリアに踏み入れる。彼女たちは特級クラスのヒトだが少し問題があってな……。彼女たちが危険な状況にならないように見張ってて欲しいんだ」
「ま、魔獣……!?危険な場所じゃ……!」
「特級クラスは魔力も魔法もお前たちとレベルが違う。普通の状況ならばお前に偵察任務という危険な事はさせない。何かあれば紋章魔法を使って彼女の援護をし、共に帰ってきてくれ。報酬はしっかりとさせて貰う。どうか引き受けてくれないだろうか?」
「わ、わかりましたっ!」
レンは快く返事をするとメリルは安心したような表情を浮かべ、地図と杖状の魔道具を机の上に出す。
「先ずはこの地図。これはポチおが作った魔道具でリコとお前、そして学園の位置関係を示してくれる物だ。魔力を注げば起動するから、お前ならすぐに使いこなせるだろう」
メリルは地図の魔道具をレンに渡し、杖状の魔道具を持ち上げる。
訓練用と違い、水色や緑などの輝きを放つ不思議な金属だった。
「これは護身用でいざという時だけ使う事。中には【爆裂】の魔法が入っている。起動ように魔石もあるから、紋章魔法の使用で魔力が無くなった時でも使える。使用しない事を祈るよ」
レンは杖状の魔道具を受け取り、カバンに入れようとすると止められる。
メリルは自身のベルトを指差して場所を示す。
レンは恐る恐るベルトに魔道具を近づけると、カチッという音と共にベルトに吸い付いた。
「この制服をデザインしたのもポチおだ。自分の作った魔道具をすぐに使えるように工夫していると聞いた事がある。魔力を込めて引っ張るとすぐに取れるから安心するといい」
「先生は行かれないのですか……?」
レンが不安そうにメリルを見ると申し訳ない表情を浮かべ頭を下げる。
「すまないな。今日は女王様とヴォルフ様に呼び出しを受けている日でな……。不安かもしれないが、私はお前が見事こなしてくれる事を期待している」
女王様とヴォルフ様という二人の名称を聴き、レンは納得した表情を浮かべる。
この国の最高権力者である二人からの呼び出しとあれば拒否する事ができない。
レンは両手の拳を握り締め、決意の表情を浮かべるとメリルが突然レンの頬に口付けをする。
思春期真っ只中の彼にそんな事をすれば慌てるのは無理もなく、バタバタと転げ回る。
「そんなに焦らなくても……」
「だ、だ、だ、だって……!き、キスですよ!?」
「……私の付与魔法だ。大怪我を負うような事態になれば一度だけ完全回復させるもの。これはカウンターで発動するから魔力の心配はしなくていい。……心を弄ぶような真似をしてしまってすまない」
メリルからの手厚い支援を受け、レンは内心気が気でなかったが、メリルにお辞儀をして保健室を出ていく。
「ふく様がイタズラをしたい気持ちが少しわかった気がします……」
メリルは窓から外を眺め、走ってリコの元へ向かうレンを見届けるのだった。
§
レンは非常に楽しく近郊を歩いていた。
周りは岩と草原が広がる場所であり、所々大木が生えている。
レン達未成年の獣人は近郊を歩く事を禁じられている。
それは魔獣が出てくるからであり、弱い魔獣ならまだしも、少し強い魔獣が複数体出た時、確実に死んでしまうからだ。
そのため定期的に近郊の魔獣達は狩られているが、油断はできない。
それでも自由に歩けるというのはレンにとって楽しいの一言であり、見るもの全てが輝いて見える。
小高い丘に到着し、地図の魔道具でリコとの位置を確認する。
紙でできた魔道具は非常に珍しく、レンは慎重にそれを広げる。
すると途中まで記された世界地図のようなものだった。
レンは山の凹凸まで詳細に描かれた地図を見て好奇心がくすぐられる。
「いけない、いけない……!リコさんを捜さないと……!」
レンは少しだけ魔力を込めると、ぼんやりとした光の柱が地図上に現れる。
赤い光、黄色の光、青い光の三色はそれぞれ学園、レン、リコを示している事がわかる。
なぜ分かるかというと青い光――つまりリコは他の二つの光から遠ざかっているという事から読み取れた。
そして赤い光の近くには『フォクノナティア学園』と表記されている為、消去法で黄色の光はレンだという事が判る。
「歩いているならまだまだ間に合うハズ……!」
レンは方角を確認した後、地図を畳み、走ってリコの居るだろうと思われる場所へと向かったのだった。