残酷な描写あり
R-15
大ピンチ
完全に囲まれ、窮地に追い込まれた状況であり、レンは頭をフル回転させるが対策が立てられなかった。
それは攻撃手段が皆無だったという事。
レンは紋章魔法を使う魔力は残っているものの、発動までの時間を考えると確実に獣のお腹の中に入ってしまうだろう。
そして、リコはレンと同じく魔法無しと来た。
狼型の獣に対して二人は対抗手段がなかったのだ。
レンは落ち込んだ表情でリコに声をかける。
「リコさん……」
「なんでしょうか?」
「ここはオレが引き受けるから、リコさんは逃げて……!そして、学園に帰ったら中等クラスのサム先生にオレのこと伝えて欲しいんだ……。できる?」
「出来ません」
「え……!?なんで……!?」
出来ないと即答されレンは思わずツッコミを入れる。
リコの表情は至って真面目であり、ふざけた様子もなかった。
「あなたはこんな私を助けてくれたんです……。必ず生きてください。私は野狐族だから、どうなろうと良いんです」
「ダメだよ!野狐族だって立派な国民だよ!」
レンはそう言い放つとリコは面を食らったように驚く。
レンの本気度合いを確認し、リコは意思のこもった目でレンを見つめる。
「少しだけですが時間を稼ぎます。私は生まれつき魔力がちょっと多く持って生まれたので、それを解放すれば少しは威嚇になるかもしれません」
レンはリコが特級クラスの生徒である事を思い出し、リコに賭けることにした。
「少しだけ威嚇したらあの岩場に行こう……!できるかわからないけど、やってみたい事があるんだ……!」
リコは頷き、獣たちの前に出る。
目を瞑り、深呼吸をする。
次の瞬間、目を開き、魔力を解放させる。
リコを中心とした魔力の波が広がり、獣たちやレンを威嚇する。
サムやメリルよりも強大な魔力にレンは思わず身を屈めてしまった。
獣たちも数歩下がり、今すぐに襲ってくるような状況から脱出する事ができた。
(魔力がちょっと多いレベルじゃない……!先生たちを平気で超えてくる魔力量じゃないか!?)
レンの中でリコにより特級クラスという実力を目の当たりにし、一気にメリルと同等の実力者だと実感する。
もちろん魔力だけでは本当の実力とは言えないが、未熟な部分は出鱈目な量の魔力でカバーしていた。
(これで魔法無しって言われてるんだ……。オレなんかよりもったいない逸材じゃないか……!)
レンはそう感じつつも、リコの手を引き、近くの岩場に身を潜める。
隠れているわけではなく、お互いがいつ攻撃を仕掛けるかを図るための行動である。
リコの魔力を一時的に解放したおかげで獣たちの警戒網が広がり、捕食者・被捕食者の関係ではなく互いが捕食者という形となっていた。
それでも狼の形をしている獣は非常に賢い。
二人の攻撃手段がないと見るや攻撃を仕掛けてくるだろう。
レンはそれを認識した上でこの岩場に陣取る。
そして、その辺に転がっていた木の棒を拾い、土に紋章を描いていく。
レンの行動に首を傾げるリコだったが、一歩ずつ近づいてくる獣たちに向かって魔力で威嚇する。
「よし……。木の棒とこれを使って……」
レンは紋章を描いた時に使った木の棒と砂のようなものを紋章の上に置く。
この砂のようなものは【爆裂】の魔法が込められていた魔道具の残骸であり、実はこっそりと回収していたのだった。
(魔道具に使われた素材は役目を終えると壊れる。けれど、元は魔力を流しやすい素材……。一度しか使えないかもしれないけれど、それでもいい……!)
レンは空中に風の紋章を描き、心を落ち着かせるために大きく深呼吸をし、ゆっくりと目を見開く。
強い意志を宿した瞳には失敗するビジョンは一切写っていなかった。
「『神々の恩寵を受けた素材たちよ。全てを結びつける力を以って、互いに手を取り合え。烈風の力を込められしその武具は我らの力と成せ!』」
レンは残りの魔力を全て【結合】の魔法に注ぎ込み、祈るように完成を見守る。
リコの背後から【結合】魔法の光が溢れ出し、その場にいる全員が光に釘付けとなる。
「ウォゥッ!」
中央に立っていた獣が短く吠えると左右の獣たちがリコに向かって飛び出す。
状況が悪くなる前に攻撃を仕掛けたのである。
リコは魔力による威嚇が効かなくなり、表情を強張らせながらもレンの前に立ち塞がる。
すると、リコの右手に棒状の物がねじ込まれる。
何も変哲もない木の枝をした見た目だが、レンの目は何か達成感のあるような表情をしていた。
「リコさんゴメン……。オレ、これ作って魔力がなくなったんだ……。一回しか……もしかしたら発動できないかもしれないけれど、風の魔法を込めた魔道具なんだ。これでアイツらを……」
レンは体力の限界が訪れ、両手を地面につけて肩で息をする。
リコは手渡された魔道具を眺め、獣たちに向き直す。
「……『大いなる大気よ、我に牙を向ける不届者に裁きの鉄槌を』」
紋章魔法の存在を知らなかったリコだが、魔道具に紋章の模様が写っていたことから、レンに倣って詠唱を試みた。
魔道具はリコの魔力と共鳴すると風の紋章を出現させた。
「え……なにそれ……!?」
レンが驚くのも無理もない。
リコが魔道具で呼び出した紋章は半径五メートル以上のものだった。
当の本人は全く気づいておらず、そのまま魔法を行使したのである。
レンは訓練時に起きた出来事を思い出し、リコを押し倒しながら岩場の陰に身を潜める。
突然のことで戸惑っていると爆風のような衝撃を伴った風魔法が周囲を薙ぎ払っていく。
二人が身を潜めた場所へ吹き返してくる風は無かったものの、荒れ狂う暴風に耐えていたのだった。
それは攻撃手段が皆無だったという事。
レンは紋章魔法を使う魔力は残っているものの、発動までの時間を考えると確実に獣のお腹の中に入ってしまうだろう。
そして、リコはレンと同じく魔法無しと来た。
狼型の獣に対して二人は対抗手段がなかったのだ。
レンは落ち込んだ表情でリコに声をかける。
「リコさん……」
「なんでしょうか?」
「ここはオレが引き受けるから、リコさんは逃げて……!そして、学園に帰ったら中等クラスのサム先生にオレのこと伝えて欲しいんだ……。できる?」
「出来ません」
「え……!?なんで……!?」
出来ないと即答されレンは思わずツッコミを入れる。
リコの表情は至って真面目であり、ふざけた様子もなかった。
「あなたはこんな私を助けてくれたんです……。必ず生きてください。私は野狐族だから、どうなろうと良いんです」
「ダメだよ!野狐族だって立派な国民だよ!」
レンはそう言い放つとリコは面を食らったように驚く。
レンの本気度合いを確認し、リコは意思のこもった目でレンを見つめる。
「少しだけですが時間を稼ぎます。私は生まれつき魔力がちょっと多く持って生まれたので、それを解放すれば少しは威嚇になるかもしれません」
レンはリコが特級クラスの生徒である事を思い出し、リコに賭けることにした。
「少しだけ威嚇したらあの岩場に行こう……!できるかわからないけど、やってみたい事があるんだ……!」
リコは頷き、獣たちの前に出る。
目を瞑り、深呼吸をする。
次の瞬間、目を開き、魔力を解放させる。
リコを中心とした魔力の波が広がり、獣たちやレンを威嚇する。
サムやメリルよりも強大な魔力にレンは思わず身を屈めてしまった。
獣たちも数歩下がり、今すぐに襲ってくるような状況から脱出する事ができた。
(魔力がちょっと多いレベルじゃない……!先生たちを平気で超えてくる魔力量じゃないか!?)
レンの中でリコにより特級クラスという実力を目の当たりにし、一気にメリルと同等の実力者だと実感する。
もちろん魔力だけでは本当の実力とは言えないが、未熟な部分は出鱈目な量の魔力でカバーしていた。
(これで魔法無しって言われてるんだ……。オレなんかよりもったいない逸材じゃないか……!)
レンはそう感じつつも、リコの手を引き、近くの岩場に身を潜める。
隠れているわけではなく、お互いがいつ攻撃を仕掛けるかを図るための行動である。
リコの魔力を一時的に解放したおかげで獣たちの警戒網が広がり、捕食者・被捕食者の関係ではなく互いが捕食者という形となっていた。
それでも狼の形をしている獣は非常に賢い。
二人の攻撃手段がないと見るや攻撃を仕掛けてくるだろう。
レンはそれを認識した上でこの岩場に陣取る。
そして、その辺に転がっていた木の棒を拾い、土に紋章を描いていく。
レンの行動に首を傾げるリコだったが、一歩ずつ近づいてくる獣たちに向かって魔力で威嚇する。
「よし……。木の棒とこれを使って……」
レンは紋章を描いた時に使った木の棒と砂のようなものを紋章の上に置く。
この砂のようなものは【爆裂】の魔法が込められていた魔道具の残骸であり、実はこっそりと回収していたのだった。
(魔道具に使われた素材は役目を終えると壊れる。けれど、元は魔力を流しやすい素材……。一度しか使えないかもしれないけれど、それでもいい……!)
レンは空中に風の紋章を描き、心を落ち着かせるために大きく深呼吸をし、ゆっくりと目を見開く。
強い意志を宿した瞳には失敗するビジョンは一切写っていなかった。
「『神々の恩寵を受けた素材たちよ。全てを結びつける力を以って、互いに手を取り合え。烈風の力を込められしその武具は我らの力と成せ!』」
レンは残りの魔力を全て【結合】の魔法に注ぎ込み、祈るように完成を見守る。
リコの背後から【結合】魔法の光が溢れ出し、その場にいる全員が光に釘付けとなる。
「ウォゥッ!」
中央に立っていた獣が短く吠えると左右の獣たちがリコに向かって飛び出す。
状況が悪くなる前に攻撃を仕掛けたのである。
リコは魔力による威嚇が効かなくなり、表情を強張らせながらもレンの前に立ち塞がる。
すると、リコの右手に棒状の物がねじ込まれる。
何も変哲もない木の枝をした見た目だが、レンの目は何か達成感のあるような表情をしていた。
「リコさんゴメン……。オレ、これ作って魔力がなくなったんだ……。一回しか……もしかしたら発動できないかもしれないけれど、風の魔法を込めた魔道具なんだ。これでアイツらを……」
レンは体力の限界が訪れ、両手を地面につけて肩で息をする。
リコは手渡された魔道具を眺め、獣たちに向き直す。
「……『大いなる大気よ、我に牙を向ける不届者に裁きの鉄槌を』」
紋章魔法の存在を知らなかったリコだが、魔道具に紋章の模様が写っていたことから、レンに倣って詠唱を試みた。
魔道具はリコの魔力と共鳴すると風の紋章を出現させた。
「え……なにそれ……!?」
レンが驚くのも無理もない。
リコが魔道具で呼び出した紋章は半径五メートル以上のものだった。
当の本人は全く気づいておらず、そのまま魔法を行使したのである。
レンは訓練時に起きた出来事を思い出し、リコを押し倒しながら岩場の陰に身を潜める。
突然のことで戸惑っていると爆風のような衝撃を伴った風魔法が周囲を薙ぎ払っていく。
二人が身を潜めた場所へ吹き返してくる風は無かったものの、荒れ狂う暴風に耐えていたのだった。