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作者: 山のタル
残酷な描写あり
39.二度あることは三度ある5
「では、儂らはこれで失礼いたします」
 
 翌朝、朝食を摂って直ぐにエールフィングさん達は浮遊島に帰ることになった。
 
 あの後、私はミューダに話しておきたいことがそれはもう山ほどあったので、エールフィングさん達の事をアインとモランに丸投げして、早々にミューダを連れて自室へと戻った。
 そして、エールフィングさん達は夜のとばりも落ちていたこともあり、屋敷に泊まってもらうことにした。そのおかげでモランは久しぶりの家族団欒を楽しめたようで、表情も昨日の不機嫌なものじゃなく明るいものに戻っていた。
 後でモランに話を聞いたら、どうも家出に反対だったハーケンが自分を連れ戻しに来たとモランは思っていたようで、あんなにも不機嫌な顔をしていたという。
 しかし家族全員で話をしたら、ハーケンにモランを連れ戻す意思が無いことが解って安堵したそうだ。
 
「モラン、くれぐれも無茶だけはするなよ! 帰りたくなったらいつでも帰ってきていいからな! それから、それから――」
「お父さん、私はもう子供じゃないよ。手に職を持った大人なの! 心配してくれるのは嬉しいけど、お父さんもいい大人なんだから、いい加減子離れしないとダメだよ!」
「うぅ、モランが冷たい……」
 
 モランに注意され、子供のマグラ達に慰められるハーケン。父親としてその姿はどうかと思う……。
 そんな残念な者を見るような私の視線に気づいたのか、しょんぼりとした顔を一瞬でキリッとした顔に切り替え、昨日と同じように鋭い目で睨みながら私の前にやって来る。
 
「セレスティア殿」
「な、何かしら?」
「どうか、モランの事をよろしくお願いします」
 
 今度は目線を私に向けたままにせず、ただ一言、そう言ってハーケンは頭を下げた。
 親馬鹿のハーケンのことだから、てっきりモランの事で何か色々言ってくるつもりかと思って身構えていた私は、アッサリすぎるその一言に拍子抜けした。
 
「モランは大人だと言っていますが、翼人族の基準で言えば年齢的にまだまだ子供です。それに、モランは亡くなった妻にそっくりな子ですから、身体的にもまだまだ成長するはずです。――そこでセレスティア殿、モランの成長を私の代わりに記録してくれませんか? 文章でも絵でも成長して着られなくなった衣服でも構いません。我が子が成長した証を何かしらの形にして残してほしいのです! 今まで私が貯めてきた『モラン成長記録コレクション』の続きを、セレスティア殿に託します!」
 
 ……前言撤回。やっぱり親馬鹿は油断してはいけなかった。
 
「お、お父さん!?」
「父上……」
「お父さん……モランが大切なのは分かりますが、それはいくらなんでも……」
「そんなコレクションを……」
「作ってたなんて……」
 
 ハーケンのこの発言に、目を見開いて驚愕するモランと、呆れたといった表情で流石にドン引きするモランの兄姉達。
 
「何を言う。親なら子供の成長を把握するのは当たり前の事だろう? それに、コレクションならモランだけではなく、ちゃんとお前達全員分あるから安心しろ!」
「「「「えええぇぇぇーーーー!!!!????」」」」
 
 ……………流石にないわー。
 ん? なぜ頷いているのエールフィングさん……? 「なる程!」と言う顔をするなスペチオさん!
 
 
 
「さて、ワシもそろそろ行くとするかの」
 
 マグラ達兄妹が団結した様子で「処分する!」と息巻いて飛び立つと、それを止めようとハーケンとエールフィングさんが急いで追いかける様に飛び去って行く姿を見送った後、スペチオさんがそう言った。
 
「なんだ、もう行くのか? もう少しゆっくりして行けばいいのに」
「いや、ティンクの成長も見れたし、十分に特訓もしたからワシはもう満足じゃ。ティンク、これからも精進するのじゃぞ!」
「はい、お父さん!」
「うむ。さて、セレスティア――」
「嫌よ」
「……まだ何も言っとらんじゃろ」
 
 そんなこと言わなくてもスペチオさんがこれから何を言おうとしているかぐらい想像はつく。
 
「どうせさっきの話に影響されて、『ワシもティンクの成長コレクションを作りたいから頼んだぞ!』とでも言うつもりでしょ?」
「分かっているのなら何故断るのじゃ?」
「……逆にさっきのやり取りを見て、何故いけると思ったのかしら?」
「ワシはな、ハーケンの親としてのあの熱意に感動した! だからワシも同じことをしようと思ったのじゃ! 同じく子供を心から愛する親としてな! だから頼むセレスティア、この通りじゃ!」
 
 スペチオさんは両手を合わせて頭を下げるが、その姿を見ても私の中にはやる気という感情が一切湧いて来なかった。
 そもそも、さっきのハーケンさんの頼みも引き受けるつもりはない。モランも嫌がっていたし。
 しかし、私がそう言ったところでスペチオさんは簡単には引き下がらないのは目に見えている。ここは、私が言うよりティンクに言ってもらった方が効果はあるだろう。
 そう思い、私はティンクを手招きして呼び寄せると、スペチオさんに言ってほしい言葉を耳打ちして伝える。
 
「え、それを言えばいいんですか? ……分かりました」
 
 ティンクは私から言葉を預かると、一歩前に踏み出してスペチオさんと向かい合う。
 
「ええと、お父さん。それをセレスティア様に頼むのは流石に恥ずかしいからやめてほしいかな? それに、ティンクは今ハンターとして活動してるから、セレスティア様に頼んでもティンクの成長を記録するのは出来ないと思うよ?」
「うむむ……確かにそうじゃな……」
 
 ティンクにそう言われて困ったように唸るスペチオさん。そうだ、そのまま諦めろ!
 
「……そういえば、住処の奥にティンクが小さい時着ていた服を仕舞っていた気がするのぅ。ハーケンもコレクションは着られなくなった衣服でもいいと言っていたし、それを掘り出して整理すればコレクションに使えそうじゃな。よしっ!」
 
「よしっ!」……じゃないわよ! そこは諦めるところでしょう!?
 
「そうと決まれば早速帰って探さなくては! では、またの!」
 
 そう言ってスペチオさんは竜の姿に戻って飛び立つと、私やティンクが言葉を返すよりも早く空の彼方へと消えて行った――。
 
「…………まあ、個人的にやるのなら、いいのかしら? ティンクはどう思う?」
「う~ん、コレクションを作られるのは恥ずかしいけど、ティンクはお父さんがセレスティア様に迷惑をかけないのなら、お父さんのやりたい事を止めたいとは思いません」
 
 どうやら、親よりも子供達の方がよっぽど大人のようだ。
 
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