残酷な描写あり
93.ストール鉱山4
「……訪ねて来ておいてこんなこと言うのもあれなんだけど……、何この状況?」
兵士に連れられて事務室にやって来たセレスティアの開口一番の言葉であった。
それもそうだ。セレスティアが用があったのはボノオロス一人だけのはずで、決してプアボム公国を治める四大公の一人で友人でもあるオリヴィエ・マイン公爵や、一目で上流階級の人物だと判断できる礼服を着た人物に会いに来たわけではない。
ボノオロスはバツが悪そうに体を小さくしており、マイン公爵は悪戯がバレた子供の様にセレスティアから目を逸らし、そして謎の上流階級の人物はセレスティアに向かって異様なまでの上機嫌な笑みを作っていた。
明らかに不味い現場に来たと確信したセレスティア。嫌な予感がセレスティアの中で最大レベルの警鐘をけたたましく鳴り響かせていた。
「……ちょっとオリヴィエ、説明してほしいんだけど?」
マイン公爵の隣に移動し、そっと耳打ちして説明を求めるセレスティア。それと同時に未だに顔を逸らしているマイン公爵を半目で睨み圧を掛ける。
「……話しますので、そんなに睨まないでください、セレスティアさん……」
セレスティアの圧力に根負けしたマイン公爵は、セレスティアにこれまでの経緯を全て話した。
ブロキュオン帝国皇帝との会談を終えた後、皇帝の希望でストール鉱山の視察をすることになったこと。
視察に行こうとしたタイミングでセレスティアが訪ねて来たこと。
面会を断ろうとしたが皇帝が会いたいと主張したこと。
それを断ろうとしたが既に皇帝は淵緑の魔女の存在を知っており、そこからマイン公爵家との関係もある程度考察されていたこと。
そこまで知られているなら隠すよりも、一度会わせて皇帝の好奇心を満足させた方が面倒が少ないと判断したことを。
マイン公爵の話を聞いて、偶然とはいえタイミング悪く来てしまったことをセレスティアは後悔した。
とは言っても、セレスティアはマイン公爵の動向をいちいち把握してるわけではなく、その逆も然りである。結論を言えば、二人には未然にこうなる事態を防ぐ術など皆無だった。
つまり今回の事態は運命の悪戯と呼ぶ他になく、どちらかが悪いわけではない。ただ単にセレスティアとマイン公爵よりも、エヴァイアの方が強運を持っていただけにすぎないのだ。
「もういいかな?」
「あ、はい。待たせてすみませんでした」
セレスティアとマイン公爵の会話が終わったタイミングを見計らって、黙ってその様子を見ていたエヴァイアが声を掛けた。その声を聞いて、エヴァイアを待たせていた、と言うより置いてけぼりにしていたことに気付いたセレスティアは無意識に反射的に謝罪の言葉を口にした。
「初めまして淵緑の魔女さん。僕はエヴァイア、エヴァイア・ブロキュオン。ブロキュオン帝国で皇帝をしている者さ。よろしく!」
「初めまして皇帝陛下、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。私はセレスティアです。淵緑の魔女とも呼ばれたりもしますが、どうぞセレスティアとお呼びくだされば幸いです。こちらこそよろしくお願いします」
流れるような動作で一礼するセレスティア。先代のマイン公爵から教わった礼儀作法がここで役に立った。
「そんなに畏まらなくても、マイン公爵の時と同じ話し方で構わないよ」
「……そう? ならそうさせてもらうわ」
マイン公爵がハラハラした顔でセレスティアとエヴァイアのやり取りを見ていたが、エヴァイア本人がその話し方でいいと許可を出したのだから何も遠慮することはないと、セレスティアはいつも通りの話し方でエヴァイアに接することにした。
「それで、セレスティアはそこのボノオロスに用があるとのことだったけど、一体それは何なのかな?」
エヴァイアの好奇の目線がセレスティアに向けられる。その目線を受け取ったセレスティアは、背後に壁がそそり立った様な嫌な悪寒を感じた。
「……別に大したことじゃないし、また後日にしようかしら~。私の用事はオリヴィエや皇帝陛下の大事な公務に割り込ませる程重要じゃないから」
そう言って前方から迫りくる面倒事を後方には逃げれないので横に逃げて回避しようと試みるセレスティア。しかしエヴァイアがその動きを読んで、咄嗟に移動して退路を塞ぐ。
「僕はその大したことない用事にとても興味があるね。帰る前に内容だけでも是非聞かせてくれないかい? 内容によっては僕達の用事に組み込めるかもしれないよ?」
「うっ……」
「それと少し誤解があるようだから言っておくけど、僕がここに来たのは公務でも何でもないよ。ただのわがままさ。だから、セレスティアの用事を組み込むことはそれほど難しくないんだよ?」
「ううっ……!?」
追い詰められたセレスティアは、救助を求めるようにマイン公爵に目線を送った。
「オリヴィエ……」
「ごめんなさい、セレスティアさん……」
しかしマイン公爵は既に良い打開策が無いことに気付いて諦めており、救助は期待できなかった。セレスティアはもう逃げられないことをこの時点で確信した。
「……分かったわ、話せばいいんでしょ……」
そしてセレスティアは諦めた様子で、ボノオロスに頼もうとしていた用事を話した。
「魔獣が住処にしていた縦穴に、私を案内してほしいの」
◆ ◆
ストール鉱山の坑道は基本的に鉱石を乗せた台車が行き来し易いように縦横約5メートルの大きさで掘られている。他にも一定間隔で補強用の木材の枠が組まれていたり、凹凸を極力減らすように地面が綺麗に均されていたりと、安全面にも機能性にも配慮が行き届いている。
しかし今セレスティア達が歩いている場所は、その基本的とは様相が違っていた。
補強用の木材の枠は擦れて傷だらけになっており、所々では強い力が加わった所為でバッキリと折れたりしている。同様に天井や壁も一部が崩れてボロボロになっていた。
その中でも特に酷いのは地面で、大きな杭を何度も強く撃ち込んだ跡の様な穴が無数に空いてとても歩きづらくなっていた。
そんな穴に躓かないように気を付けながらボノオロスを先頭に、セレスティア、マイン公爵、エヴァイア、ヴェスパの順で一行は鉱山の奥を目指していた。因みにヴェスパがなぜここにいるかと言うと、ストール伯爵の命令でマイン公爵とエヴァイアの護衛を任されているからである。
そしてそのまましばらく歩いたところでボノオロスが立ち止まった。そこには「この先危険!」と書かれた立て看板が設置されており、その隣には見張りの兵士が二人立っていた。
「視察に来られたマイン公爵様と皇帝陛下をお連れしている。通らせてもらうぞ?」
「よろしいのですか? この先は崩落の可能性がある危険エリアですが……」
「マイン公爵様と皇帝陛下がこの先を見たいとおっしゃられているのだ」
「……分かりました。お気をつけて」
ボノオロスとの短いやり取りを終えた兵士は左右に避けて道を開け、その間をボノオロス達は通り過ぎて行く。
そこから先は奥に進めば進むほど坑道の荒れ具合は更に酷くなっていき、先程の兵士が言っていたようにいつ崩落してもおかしくない状態であった。
「本当に酷い荒れ具合ね。ボノオロスさん、どうしてここの修復は後回しにされているの?」
視察に来ているのはマイン公爵とエヴァイアのはずなのに、何故かセレスティアがボノオロスに気になった事を質問していた。
「それは鉱山の機能を停止させないためです。復興を急ぐのは優先課題ですが、その為に鉱山を停止させてしまうと、採掘された鉱石を利用している他の労働者の手も止まってしまうのです」
「そうなるといろいろな場所に影響が出て、結果経済が回らなくなり大変なことになります。だから今は被害が小さい場所から優先して復興に取り掛かってもらっているのです」
ボノオロスに続いてマイン公爵が補足するようにそう説明する。
「まあそのお陰で僕の国も輸入が制限されてしまったけど、輸出停止になるほどの被害が鉱山に出てなかったのが幸いだったよ」
「皇帝陛下にはご迷惑をおかけします」
「いや、こんな状況だし僕にも責任が無いわけじゃないから気にしないでくれ。むしろこうして現状を把握できたのはよかった。マイン公爵、もしよかったら僕の国からも復興支援で人手や資金を送らせてくれないかい?」
「それは助かります。是非お願いしたいです!」
「じゃあ詳しい内容は後日、書状で――」
いつの間にかセレスティアとボノオロスを置き去りにして、マイン公爵とエヴァイアで会話が盛り上がっていた。しかし話の内容的に、セレスティアとボノオロスに入り込む余地はなさそうである。仕方がないのでボノオロスは別の話題をセレスティアに振ることにした。
「そういえばセレスティア殿、目的の詳しいことは着いてから話すとのことでしたので今は聞きませんが、お二人を同行させて本当に良かったのですか? 見ての通り、ここはかなり危険な場所なんですよ?」
ボノオロスの言う通りで、先程の兵士がいた場所から魔獣の縦穴までのエリアは元々地盤が不安定な場所だった。それが魔獣のせいで坑道内がボロボロに壊され状況が悪化。崩落がいつ起きてもおかしくない危険地帯へと変貌していた。
「あの状況で何を言ったところで皇帝陛下は付いて来たでしょうし、そうなったらそれに同伴しているオリヴィエも付いて来らざるを得なかっただろうから止めるのは不可能だったでしょうね。
ああそれと、崩落の危険についてなら心配ないわよ。もし崩落が起きても私が魔術で何とかするから!」
「それは、頼もしいですね」
ボノオロスはセレスティアの力をその目で直接見たことはなく、魔獣との激闘の様子は報告で聞いただけである。しかしそれでも、身の丈よりも大きな大剣を生成しそれを操り攻撃していたなんて常識外れな力の使いが出来る人が『何とかする』と言っているのだ。その力を直接目にしていなくても、崩落が起きても何とかなりそうな期待をボノオロスに抱かせるのにはそれだけで十分だった。
それからしばらく歩いたところで、ボノオロスがまた立ち止まってこう言った。
「さあ、着きました。ここがその縦穴の入り口です」
兵士に連れられて事務室にやって来たセレスティアの開口一番の言葉であった。
それもそうだ。セレスティアが用があったのはボノオロス一人だけのはずで、決してプアボム公国を治める四大公の一人で友人でもあるオリヴィエ・マイン公爵や、一目で上流階級の人物だと判断できる礼服を着た人物に会いに来たわけではない。
ボノオロスはバツが悪そうに体を小さくしており、マイン公爵は悪戯がバレた子供の様にセレスティアから目を逸らし、そして謎の上流階級の人物はセレスティアに向かって異様なまでの上機嫌な笑みを作っていた。
明らかに不味い現場に来たと確信したセレスティア。嫌な予感がセレスティアの中で最大レベルの警鐘をけたたましく鳴り響かせていた。
「……ちょっとオリヴィエ、説明してほしいんだけど?」
マイン公爵の隣に移動し、そっと耳打ちして説明を求めるセレスティア。それと同時に未だに顔を逸らしているマイン公爵を半目で睨み圧を掛ける。
「……話しますので、そんなに睨まないでください、セレスティアさん……」
セレスティアの圧力に根負けしたマイン公爵は、セレスティアにこれまでの経緯を全て話した。
ブロキュオン帝国皇帝との会談を終えた後、皇帝の希望でストール鉱山の視察をすることになったこと。
視察に行こうとしたタイミングでセレスティアが訪ねて来たこと。
面会を断ろうとしたが皇帝が会いたいと主張したこと。
それを断ろうとしたが既に皇帝は淵緑の魔女の存在を知っており、そこからマイン公爵家との関係もある程度考察されていたこと。
そこまで知られているなら隠すよりも、一度会わせて皇帝の好奇心を満足させた方が面倒が少ないと判断したことを。
マイン公爵の話を聞いて、偶然とはいえタイミング悪く来てしまったことをセレスティアは後悔した。
とは言っても、セレスティアはマイン公爵の動向をいちいち把握してるわけではなく、その逆も然りである。結論を言えば、二人には未然にこうなる事態を防ぐ術など皆無だった。
つまり今回の事態は運命の悪戯と呼ぶ他になく、どちらかが悪いわけではない。ただ単にセレスティアとマイン公爵よりも、エヴァイアの方が強運を持っていただけにすぎないのだ。
「もういいかな?」
「あ、はい。待たせてすみませんでした」
セレスティアとマイン公爵の会話が終わったタイミングを見計らって、黙ってその様子を見ていたエヴァイアが声を掛けた。その声を聞いて、エヴァイアを待たせていた、と言うより置いてけぼりにしていたことに気付いたセレスティアは無意識に反射的に謝罪の言葉を口にした。
「初めまして淵緑の魔女さん。僕はエヴァイア、エヴァイア・ブロキュオン。ブロキュオン帝国で皇帝をしている者さ。よろしく!」
「初めまして皇帝陛下、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。私はセレスティアです。淵緑の魔女とも呼ばれたりもしますが、どうぞセレスティアとお呼びくだされば幸いです。こちらこそよろしくお願いします」
流れるような動作で一礼するセレスティア。先代のマイン公爵から教わった礼儀作法がここで役に立った。
「そんなに畏まらなくても、マイン公爵の時と同じ話し方で構わないよ」
「……そう? ならそうさせてもらうわ」
マイン公爵がハラハラした顔でセレスティアとエヴァイアのやり取りを見ていたが、エヴァイア本人がその話し方でいいと許可を出したのだから何も遠慮することはないと、セレスティアはいつも通りの話し方でエヴァイアに接することにした。
「それで、セレスティアはそこのボノオロスに用があるとのことだったけど、一体それは何なのかな?」
エヴァイアの好奇の目線がセレスティアに向けられる。その目線を受け取ったセレスティアは、背後に壁がそそり立った様な嫌な悪寒を感じた。
「……別に大したことじゃないし、また後日にしようかしら~。私の用事はオリヴィエや皇帝陛下の大事な公務に割り込ませる程重要じゃないから」
そう言って前方から迫りくる面倒事を後方には逃げれないので横に逃げて回避しようと試みるセレスティア。しかしエヴァイアがその動きを読んで、咄嗟に移動して退路を塞ぐ。
「僕はその大したことない用事にとても興味があるね。帰る前に内容だけでも是非聞かせてくれないかい? 内容によっては僕達の用事に組み込めるかもしれないよ?」
「うっ……」
「それと少し誤解があるようだから言っておくけど、僕がここに来たのは公務でも何でもないよ。ただのわがままさ。だから、セレスティアの用事を組み込むことはそれほど難しくないんだよ?」
「ううっ……!?」
追い詰められたセレスティアは、救助を求めるようにマイン公爵に目線を送った。
「オリヴィエ……」
「ごめんなさい、セレスティアさん……」
しかしマイン公爵は既に良い打開策が無いことに気付いて諦めており、救助は期待できなかった。セレスティアはもう逃げられないことをこの時点で確信した。
「……分かったわ、話せばいいんでしょ……」
そしてセレスティアは諦めた様子で、ボノオロスに頼もうとしていた用事を話した。
「魔獣が住処にしていた縦穴に、私を案内してほしいの」
◆ ◆
ストール鉱山の坑道は基本的に鉱石を乗せた台車が行き来し易いように縦横約5メートルの大きさで掘られている。他にも一定間隔で補強用の木材の枠が組まれていたり、凹凸を極力減らすように地面が綺麗に均されていたりと、安全面にも機能性にも配慮が行き届いている。
しかし今セレスティア達が歩いている場所は、その基本的とは様相が違っていた。
補強用の木材の枠は擦れて傷だらけになっており、所々では強い力が加わった所為でバッキリと折れたりしている。同様に天井や壁も一部が崩れてボロボロになっていた。
その中でも特に酷いのは地面で、大きな杭を何度も強く撃ち込んだ跡の様な穴が無数に空いてとても歩きづらくなっていた。
そんな穴に躓かないように気を付けながらボノオロスを先頭に、セレスティア、マイン公爵、エヴァイア、ヴェスパの順で一行は鉱山の奥を目指していた。因みにヴェスパがなぜここにいるかと言うと、ストール伯爵の命令でマイン公爵とエヴァイアの護衛を任されているからである。
そしてそのまましばらく歩いたところでボノオロスが立ち止まった。そこには「この先危険!」と書かれた立て看板が設置されており、その隣には見張りの兵士が二人立っていた。
「視察に来られたマイン公爵様と皇帝陛下をお連れしている。通らせてもらうぞ?」
「よろしいのですか? この先は崩落の可能性がある危険エリアですが……」
「マイン公爵様と皇帝陛下がこの先を見たいとおっしゃられているのだ」
「……分かりました。お気をつけて」
ボノオロスとの短いやり取りを終えた兵士は左右に避けて道を開け、その間をボノオロス達は通り過ぎて行く。
そこから先は奥に進めば進むほど坑道の荒れ具合は更に酷くなっていき、先程の兵士が言っていたようにいつ崩落してもおかしくない状態であった。
「本当に酷い荒れ具合ね。ボノオロスさん、どうしてここの修復は後回しにされているの?」
視察に来ているのはマイン公爵とエヴァイアのはずなのに、何故かセレスティアがボノオロスに気になった事を質問していた。
「それは鉱山の機能を停止させないためです。復興を急ぐのは優先課題ですが、その為に鉱山を停止させてしまうと、採掘された鉱石を利用している他の労働者の手も止まってしまうのです」
「そうなるといろいろな場所に影響が出て、結果経済が回らなくなり大変なことになります。だから今は被害が小さい場所から優先して復興に取り掛かってもらっているのです」
ボノオロスに続いてマイン公爵が補足するようにそう説明する。
「まあそのお陰で僕の国も輸入が制限されてしまったけど、輸出停止になるほどの被害が鉱山に出てなかったのが幸いだったよ」
「皇帝陛下にはご迷惑をおかけします」
「いや、こんな状況だし僕にも責任が無いわけじゃないから気にしないでくれ。むしろこうして現状を把握できたのはよかった。マイン公爵、もしよかったら僕の国からも復興支援で人手や資金を送らせてくれないかい?」
「それは助かります。是非お願いしたいです!」
「じゃあ詳しい内容は後日、書状で――」
いつの間にかセレスティアとボノオロスを置き去りにして、マイン公爵とエヴァイアで会話が盛り上がっていた。しかし話の内容的に、セレスティアとボノオロスに入り込む余地はなさそうである。仕方がないのでボノオロスは別の話題をセレスティアに振ることにした。
「そういえばセレスティア殿、目的の詳しいことは着いてから話すとのことでしたので今は聞きませんが、お二人を同行させて本当に良かったのですか? 見ての通り、ここはかなり危険な場所なんですよ?」
ボノオロスの言う通りで、先程の兵士がいた場所から魔獣の縦穴までのエリアは元々地盤が不安定な場所だった。それが魔獣のせいで坑道内がボロボロに壊され状況が悪化。崩落がいつ起きてもおかしくない危険地帯へと変貌していた。
「あの状況で何を言ったところで皇帝陛下は付いて来たでしょうし、そうなったらそれに同伴しているオリヴィエも付いて来らざるを得なかっただろうから止めるのは不可能だったでしょうね。
ああそれと、崩落の危険についてなら心配ないわよ。もし崩落が起きても私が魔術で何とかするから!」
「それは、頼もしいですね」
ボノオロスはセレスティアの力をその目で直接見たことはなく、魔獣との激闘の様子は報告で聞いただけである。しかしそれでも、身の丈よりも大きな大剣を生成しそれを操り攻撃していたなんて常識外れな力の使いが出来る人が『何とかする』と言っているのだ。その力を直接目にしていなくても、崩落が起きても何とかなりそうな期待をボノオロスに抱かせるのにはそれだけで十分だった。
それからしばらく歩いたところで、ボノオロスがまた立ち止まってこう言った。
「さあ、着きました。ここがその縦穴の入り口です」