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作者: 山のタル
残酷な描写あり
106.新発見3
「それで、ミーティアさんの用事は何なんだ?」
 
 八柱の行動を考察していた私の思考をカグヅチさんが引き戻してくれ、ここに来た目的を思い出した。
 
「ふっふっふっ、よく聞いてくれたわカグヅチさん!」
 
 突然笑いだしてテンションを高くしてそう言った私に、カグヅチさんは少し気押され気味にな表情をした。
 
「今日はこれを持ってきたの!」
 
 私はそう言って魔石が大量に収納された収納袋をカグヅチさんに手渡した。
 受け取った収納袋からいくつか魔石を取り出して中身を確認したカグヅチさん。取り出しても取り出しても魔石はどんどん出て来て、遂にはカウンターいっぱいになっても収納袋にはまだまだ沢山残っていた。
 それもそうだ。屋敷にあった魔石をすべて持ってきたのだから、小さなカウンターの上に全て置くこと自体がそもそも不可能なのだから。
 
 私が予想以上に大量の魔石を持ってきた事実を認識したカグヅチさんの表情は、明らかに険しものに変化した。
 
「ミーティアさん、数日前に素材を納品してくれたのにまたすぐにこんなに大量の魔石を持ってくるなんて、一体どういうつもりなんだ?」
 
 カグヅチさんへの素材の納品は定期的に行っており、鉄や鉱石や魔石等の様々な素材を卸している。しかしそれはカグヅチさんの言う通り数日前に卸したばかりで、こんなにすぐ、しかも魔石だけを持ってくるなんて思ってもなかっただろう。
 カグヅチさんからすれば私のこの行動は予想外だったようだ。その証拠に今、私が何を考えているのか全く読みことが出来ずに困惑している様子だった。
 しかしそれも当然の反応だった。何せ私が今日来た理由は、まだ誰も発見したことのなかった未知なる物を証明するためなのだから。
 
「今回魔石を大量に持ってきたのは、カグヅチさんにの製作を頼みに来たからよ!」
「ある物だって? その為にこんなに魔石を大量に持ってきたのか?」
「その通りよ!」
「それを作るのに、こんなに魔石がいるのか?」
「多分十分に足りるけど、今後のことも考えたらあって困る物じゃないでしょう?」
 
 カグヅチさんはますます私の考えが分からなくなったようで、頭に加えて首まで捻ってしまった。
 ……これ以上答えを勿体ぶるのは可哀そうだし、そろそろ教えてあげよう。
 
「ごめんなさい。いじわるが過ぎたわね……。カグヅチさんには私が持ってきた魔石を加工して、私の指定した形の物を今すぐに作って欲しいのよ!」
「魔石の加工だって!?」
 
 私の依頼にカグヅチさんは驚いた声を上げる。
 
「ちょっと待ってくれ、その技術はまだ未完成だ! あれから色々試したみたけどよ、前回以上の物はまだ作れてねぇ!
 ミーティアさんの頼みなら喜んで作らせてもらうけどよぉ、今してもとてもミーティアさんが納得できる品質にはならねぇぞ!?」
 
 カグヅチさんは私の求める物が、魔石の完全加工だという事を理解してくれている。私の要望には応えるつもりはあるけど、職人気質の強いカグヅチさんは未完成の技術で未熟な物を作ってしまう事を心配しているし、そんな自分を認めることは簡単には出来ないようだ。
 その部分は私も研究者として強く共感できるので、カグヅチさんの気持ちはよく分かる。だからこそ、そんな時にはどんな言葉を掛けるのが正解かもよく分かっている。
 
「ふっふっふっ、その事ならもう心配する必要はないわカグヅチさん!」
「なに……? ま、まさかミーティアさん!? あんた……」
 
 自信満々にそう言い切った私の様子を見て、カグヅチさんも私が魔石以外に持ってきたものの存在に感づいたようだ。
 
「そうよ! 魔石の完全加工、その基盤となりえる物をついに見つけたのよ!!」
「本当かミーティアさん!?」
「ええ!」
 
 自信満々に短く言い切る私の態度に、カグヅチさんは拳を握り締めガッツポーズを決めて喜びを露にした。
 
「それでミーティアさん、それは一体何なんだ?!」
「落ち着いてカグヅチさん。ちゃんと順を追って説明するから」
 
 食い気味に迫るカグヅチさんを落ち着かせて、一つ一つ順番に説明する。
 
「以前来た時に魔石について話をして、鉱夫関係の人に話を聞いてみるって会話をしたのを覚えてる?」
「ああ、それなら俺の方でも話をしてみたが、全員一般的な事しか知らなくて収穫はなかったぜ。まあ、ある程度予想はできてたがな」
 
 そう言って肩をすくめるカグヅチさん。正直私も貿易都市にいる鉱夫のレベルじゃ欲しい情報は持っていないだろうとカグヅチさんと同じ予想をしていたので、それについて何も言う事はない。
 
「私はストール鉱山の方に行って、そこの鉱夫長をしているボノオロスっていう人と話が出来たわ」
「ストール鉱山っていえば、大陸一の鉱山じゃねぇか!? そこの鉱夫長と話が出来たって……、ミーティアさんはすげぇ商人だと思っていたが、まさかそんな大物とコネがあるとは思わなかったぜ」
 
 感心した様子でそう言うカグヅチさん。ストール鉱山が大陸一の鉱山なのは知っていた。けど、カグヅチさんの反応を見る限りじゃ、その知名度と影響力は私の想像を上回るものだったようだ。
 
「まあ、聞けた話は多分カグヅチさんと大差ないと思うわ。魔石の特性や分布の特徴、採掘方法や採掘の注意点等々ね。……ただ、その中で気になったことが一つあったのよ」
「それは一体なんだったんだ?」
「鉱山で魔石が纏って大量に採掘された場所には必ず魔素溜まりがある、という話よ」
「えっ? ミーティアさん、その話は俺も聞いたが別におかしな所はねえだろう? 前にも言ったと思うけどよ、魔石は地下で魔素溜まりから魔素を取り込んで変異したもので、その証拠に魔素溜まりの近くからは魔石が大量に見つかるらしいって」
 
 確かにその話は前にカグヅチさんの店に来たときに聞いた話で、世間一般にも浸透している程の有名な話でおかしな所はない。
 しかし私は、それをおかしいと思える一つの事実を知っていた。
 
「じゃあカグヅチさん、こんな話は知っているかしら? 鉱石が魔石に変質するには、膨大な量の魔素が必要なのよ」
「いや、その話は初めて聞いたが、そうなのか?」
「ええ、これは事実よ。実際に実験した魔術師の記録があってね、そこには事細かに実験の詳細が書かれていたわ」
 
 その魔術師は私のことだけど、その事を正直にカグヅチさんに伝える必要はない。今の私は『錬金術師のセレスティア』ではなく『商人のミーティア』なのだから。
 
「今まで魔石を人工的に作り出せなかったのは、変質に必要な膨大な魔素や魔力を持つ魔術師が存在しなかったからよ。その魔術師を除いてね。
 その証拠に、今まで魔石を人工的に作り出せたなんて話、聞いたことなんてないでしょう?」
「……なるほどなぁ」
 
 カグヅチさんは私の説明にまだ納得しきれていないといった様子だったが、とりあえずは信じてくれたようだ。
 
「さてここで問題になるのは、魔石が大量に見つかる場所には魔素溜まりがあるという事実よ。魔石への変質に大量の魔素が必要なら魔石が大量に見つかる場所は魔素が吸い尽くされているはずだから、魔素溜まりなんてものが存在するわけないでしょう?」
「た、確かに!?」
 
 私の提示した矛盾にカグヅチさんは驚きの表情を浮かべる。
 
「だからカグヅチさん、私はこう思ったの。魔石溜まりは魔石が大量にあるから出来るのではなくて、偶然近くにあった多くの魔石が何らかの理由で砕けて魔素が漏れ出て形成されたんじゃないかって。そう考えれば、矛盾の説明にはなるでしょう?」
「確かに魔石は脆いし、砕けたら魔素が四散する。それが地下で起きたら魔素の逃げ場がないから一か所に溜まってしまうというわけだな。……確かにそれなら矛盾は無いから納得のいく説明だ。けどよミーティアさん、その新しい事実のどこに魔石加工の基盤があるんだ?」
「まあそう急かさないでカグヅチさん。さっきまでの話は前座で、本題はこれからよ」
 
 私はとりあえずカグヅチさんのはやる気持ちを落ち着かせて、本題を切り出した。
 
「魔石は大量の魔素を取り込んだ鉱石が変質した物だってさっき説明したけど、その魔術師の実験の記録にはこうも書かれていたの。『ただし、全ての鉱石が魔石に変質するわけではない』ってね」
「……ということはつまり、魔石に変質する鉱石には何か特定の条件があるってことか?」
「その通りよカグヅチさん。問題はその条件が何かなのだけど、結局その魔術師は明確な答えを見つけられなかったの」
 
 勿論これは嘘だ。あくまでも商人としての私ミーティアが魔石加工の基盤となりえる物を見つけたという架空の理由が必要なのだ。
 
「そいつは残念だな……。でも、ミーティアさんにはその答えはもう見当がついてるんだろう? そうじゃなかったらここに来て『魔石加工の基盤が見つかった』なんて言う訳ないからな!」
 
 早く教えてくれと言わんばかりに、カグヅチさんは身を乗り出し新しい玩具を見つけた子供の様に目を輝かせて私の顔を覗いていた。
 
「その魔術師はいくつかの仮説を考えたのだけど、その魔術師の力をもってしてもどの仮説もしっかりと検証することが出来なかったの。でもその数ある仮説の中で一つだけ、カグヅチさんなら検証出来そうなものがあったの!」
「それは何だ?」
「『魔石となる鉱石には、魔素を取り込んで魔力に変換する特性を持った未知の鉱石が含まれている』というものよ!」
「未知の鉱石、だと?」
「そうよ。その魔術師はその未知の鉱石にこんな名前を付けていたわ。『マジカライト』、とね」
 
 
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