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作者: 山のタル
残酷な描写あり
107.新発見4
「『マジカライト』、魔素を取り込む未知の鉱石か……成る程、あり得ない話じゃないな」
 
 私の話を聞いて考察したカグヅチさんはそう言って納得した。
 
「それでミーティアさん、俺はどうやってその仮説を検証したらいいんだ?」
「カグヅチさんは以前『真・鬼闘術』は物質の性質を変化させることが出来るって言いていたでしょう? それを使ってマジカライトの性質を変化させてほしいの」
「具体的には?」
「魔石は衝撃に弱くて衝撃を受けたら壊れて魔力が四散してしまう特徴があるけど、おそらく魔素を取り込んで魔力に変換しているマジカライトがその脆い特徴を持ってると思うのよ。
 だからカグヅチさんは『真・鬼闘術』でマジカライトのその脆い特徴を、頑丈で壊れず、魔力が簡単に四散しない特徴に変化させてほしいの!」
「なるほどな。でもよ、どうやってそのマジカライトだけを変化させたらいいんだ? マジカライトは未知の鉱石なんだろう? 見た目も分からなけりゃ大きさも分からねぇ。俺はどうやってそのマジカライトを特定して『真・鬼闘術』を掛ければいいってんだ?」
「そこは術を使えない私は何もアドバイスできないから、カグヅチさんに色々試行錯誤してもらうしかないわ」
「相変わらず無茶な注文してくれるぜ……」
 
 肩をすくめてそう言いつつもカグヅチさんの目はやる気に満ちており、腕まくりまでして準備万端のようだった。
 
「どれどれ……」
 
 カグヅチさんは魔石を一つ手に取り、深く息を吐いて集中すると『真・鬼闘術』を発動させた。それと同時に私も集中して、カグヅチさんの魔力の流れの変化を観察する。
 『真・鬼闘術』を発動させるとカグヅチさんの全身を循環していた魔力の流れが変化して、魔力が手の平へとどんどん集約し始める。手の平に集約した魔力は次に魔石へと伝わり、魔石全体がカグヅチさんの魔力で覆われていく。
 魔石を覆ったカグヅチさんの魔力は、魔石の表面で不規則に動いていた。一見すれば魔力が不思議な動きをしているように感じるが、よく観察すればそれがカグヅチさんの意思によって動かされているのだと気付いた。
 恐らく今はああして、手にした魔石を細かく解析しているのだろう。私も錬金術で物質を細かく解析する時は、同じような魔力の動かし方をするから分かった。
 
 数十秒、数分、数十分と時間が経っていく。その間カグヅチさんの意識は手に持った魔石にずっと集中していて、私が入り込む余地はそこにない。私はカグヅチさんの作業の邪魔にならないように、少し離れたところで観察を続ることにした。
 
 そして更に数十分が経過した時、カグヅチさんの魔力の動きに変化があった。
 魔石の表面を這いずるように動いていた魔力が突然活発になり、魔石の中に出たり入ったりを繰り返し始めた。
 これは以前、目の前で『真・鬼闘術』を発動しているのを見た時と同じ光景だ。この動きが起こったという事は、カグヅチさんが魔石の性質を変化させ始めたという事だ。
 そしてしばらくすると、カグヅチさんは魔力を引っ込めて『真・鬼闘術』を解除した。
 
「……とりあえずやってみたが、どうだミーティアさん?」
 
 カグヅチさんから魔石を受け取った私は、魔石をじっくりと観察する。
 魔石の見た目は元の状態と変わらず角ばった真っ黒の光沢をしていて、特に変わったようなところはない。
 次に私は魔石を力いっぱい握ってみる。すると硬そうな見た目とは裏腹に、私の握る動作に合わせるように魔石は簡単にグニュッと潰れてしまう。感触としては粘土に近く、以前カグヅチさんが『真・鬼闘術』で変化させた魔石とほぼ同じ硬さだった。
 私は粘土をいじる時の様に魔石を握ったり、つまんで伸ばしたり、丸めたりしていろいろな形に変えてみる。
 
「……」
「……どうだ?」
 
 無心に魔石をこねる私にカグヅチさんが緊張した様子で聞いてくる。
 
「……前回の物よりはいいけど、まだ完全とは言えないわね」
 
 私が目指しているのは形を変形させても魔力が全く四散しない、完全加工出来る魔石だ。私がこねているこの魔石はまだほんの少しだが魔力が四散していた。
 それでも前回よりは魔力の四散する量は少なくなっているので、マジカライトの存在検証とするなら成功と言えるだろう。
 
「やっぱりそうか……、手ごたえはあったんだがなぁ~」
「でも魔力の四散量は前回より減ってるから、マジカライトの存在を証明する材料としては申し分ない結果よ」
「そう言ってくれるとありがたいぜ。それじゃ、もう少し頑張ってみるか!」
「頑張って、カグヅチさん!」
 
 
 
 しかしその後、気合いを入れ直したカグヅチさんは何度も『真・鬼鬪術』でマジカライトの性質変化を試してみたけど、どれも最初の結果を上回ることが出来なかった。
 
「……これもさっきと同じね……」
「う~ん、最初は手ごたえがあったから次はいけると思ったんだがな……」
「どう? 今日中にコツはつかめそうかしら?」
 
 私の言葉に、カグヅチさんは頭を掻きながら答えた。
 
「……すまねぇが、この調子だと今日中には難しそうだ……」
 
 申し訳なさそうにカグヅチさんは頭を下げるが、正直言ってカグヅチさんの成果は私の予想を上回るものだった。
 存在自体知られていなかった物質に『真・鬼闘術』を掛ける初めての挑戦に、初手で手ごたえを掴むとは思ってもみなかった。カグヅチさんが優秀な技術者であることを私は改めて認識した。
 
「気にしないでカグヅチさん。できれば成功してほしかったけど、どんなことでも新しい挑戦は必ず失敗から始まるものだし、こうなる可能性も考慮していたわ。
 さっきも言ったけど、少なくともマジカライトの存在を証明する材料としては上々の結果と言えるわ! 今日はそれだけでも十分よ」
 
 ……そうは言ったものの、実はマジカライトの存在は既に私が発見済みなのである。だからその存在を証明する材料など本当は必要無いのだ。
 では何故私がそんな嘘を言ったのかというと、魔石の完全加工にはマジカライトがカギになる可能性が非常に高い。なので、マジカライトの存在をカグヅチさんに認識してもらう必要があった。
 カグヅチさんなら私がマジカライトを発見したことを直接伝えても、その秘密を口外したりはしないだろう。でもそうすると、その話を信じてもらうためには他の余計な情報まで話す必要ができてしまう。いくらカグヅチさんが秘密を守ってくれるといっても、私の秘密は極力洩らすべきではない。
 なので最初に話した嘘の話に架空の魔術まで登場させて、遠回しにマジカライトの存在を伝えたのだ。
 
 しかし、折角マジカライトという新しい鉱石を発見して魔石の完全加工の可能性がみえたのに、早速つまずくとは……物事は上手くいかないものね。
 もしカグヅチさんが魔石の完全加工に成功してくれたなら、完全加工された魔石を使って新しい実験をするつもりだったけど……。
 
 私はカグヅチさんの方をチラリと見る。カグヅチさんは魔石と睨めっこをしながら頭を捻って唸っていた。
 もし、私が少し力を貸せば、成功の切っ掛けを与えることはできるかもしれない。……でも、新しい技術を必死で模索して新しい道を切り拓かんと探求心を燃やすカグヅチさんを見てると、私が答えを与えてその探求心を邪魔するのは無粋な気がした。
 カグヅチさんが今必死で燃やしている探究心は、錬金術という新しい術を研究している私も日夜感じていて強く共感できる感情だ。探求心を燃やしている時は辛くもあるが、同時に最も楽しい時間なのだ。だからその時間を横から邪魔される行為が、どれだけ嫌悪感を抱かせるかはよく理解している。
 
 その気持ちが、カグヅチさんに力を貸すという行為を後ろ髪を強く引っ張って抑制していた。
 しかし同時に、カグヅチさん一人だと魔石の完全加工技術を会得するのが何時いつになるか分からない不安も渦巻いていたのだ。
 カグヅチさんの気持ちを理解しつつも、新しい実験にいち早く取り掛かりたいという二つの矛盾する感情がぶつかり合う。
 
「…………私が悩んでいても仕方ないわね」
 
 しばらく悩んだものの、私が判断を下すべきではないと結論付け、私は意を決してカグヅチさんに声を掛けた。
 
「ねぇ、カグヅチさん。もし、カグヅチさんが今悩んでいる事を解決できるかもしれないヒントがあるとしたら、カグヅチさんはどうしたい?」
 
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