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作者: 山のタル
残酷な描写あり
108.新発見5
 質問されたカグヅチさんは、私の顔を見る。
 目線の交差は一瞬で、カグヅチさんはすぐにこう答えた。
 
「そりゃあ、すぐにでも教えて欲しいさ!」
 
 カグヅチさんの回答は、「当然だろう?」と言わんばかりのものだった。
 
「……自分で答えを見つけたい、という気持ちはないのかしら?」
 
 カグヅチさんはこれも即答で返した。
 
「職人気質が強くて頭の固い年寄り連中なら、自分の矜持やプライドの為にそういう事を言うかもしれねえな。勿論、俺もそういう気持ちは分からないでもないし、その気持ちが無いと言えば嘘になる。
 だけど、魔石の完全加工は俺だけじゃなくてミーティアさんの目標でもあるだろう? だったら俺の矜持やプライドを主張して答えを出すのが長引いちまうより、誰からでもいいから手っ取り早くヒントを貰ってさっさと答えを見つけた方が良いに決まってるぜ!」
「そう……、その通りね」
 
 カグヅチさんがそう言うなら、私としても目標を達成するために力を使う覚悟を決めないとね!
 
「カグヅチさん、もう一度試してみてくれないかしら?」
 
 カグヅチさんは私の言う通りに魔石を手に取る。
 すかさず私はカグヅチさんが『真・鬼鬪術』を発動する前に、魔石を持っているカグヅチさんの手に自分の手を重ねる。
 
「ミーティアさん!?」
 
 私のいきなりの行為にカグヅチさんが驚く。私は真剣な言葉遣いでカグヅチさんを落ち着かせる。
 
「いいからそのまま集中して」
 
 私はカグヅチさんに重ねている手に魔力を込め、錬金術発動の準備を済ませる。
 
「私が手伝ってあげる。……少しビックリするかもしれないけど我慢してね」
 
 その言葉と同時に私はカグヅチさんの手に向けて錬金術を発動させた。
 
「うおぉ!?」
 
 私の魔力が手から流れ込んでくる感覚に、カグヅチさんが驚いた声を上げる。事前に注意はしたので私はそれに構うことなく作業を続けた。
 
 私の推測だとカグヅチさんが魔石の完全加工化に成功できないのは、単純にカグヅチさんの魔力を感じる感覚が鈍いからだと思う。
 マジカライトの大きさは砂粒以下のとても小さいもので、肉眼で目視するのは難しい。だからマジカライトの存在を認識する為には、小さい小さいマジカライト一つ一つが保有する魔力を正確に感じ取れる程の鋭い感覚が必要になる。
 私やミューダやティンクくらいの鋭い感覚を持っているなら正確に感じ取ることが出来るだろうけど、カグヅチさんの感覚はそれよりも数段劣っている。多分いくつかのマジカライトの魔力を一つの大きな塊として捉えれる程度のものでしかないだろう。
 しかし勘違いしないでほしいのは、それでも一般的な尺度でみた場合、カグヅチさんの感覚はかなり高い部類に分類されるということだ。だけどそれだとさっきも言ったように、マジカライトを正確に感知することはできない。
 そこで私はその問題を解決するために、錬金術でカグヅチさんの感覚器官に干渉して魔力感知の精度を私と同レベルまで引き上げることにした。
 本来こういった肉体の強化はカグヅチさんの『真・鬼闘術』が得意とするところだが、錬金術でも真似できないことはない。しかし、『真・鬼闘術』と『錬金術』では術の原理が異なるためいくつかの違いがある。……まあそれは今説明する必要はないわね。
 
 カグヅチさんの強化は魔力を感じる感覚だけだったので、ものの数十秒で完了した。
 
「……これでマジカライトを感じ取れるようになったはずよ。さあやってみて」
「お、おう……」
 
 私に何かされたのは分かったが何をされたのかは分からず戸惑ったままのカグヅチさんは、とりあえず私に言われた通り『真・鬼闘術』を発動させる。
 
「こ、これは?! 魔石の中に無数の小さい魔力の粒がある!?」
 
 カグヅチさんは術を発動してすぐに、自身に起きた変化に気が付けたようだ。次にカグヅチさんは私に説明を求めてくるだろうことは簡単に予測できるので、それよりも先に私は説明してあげることにした。これは別に隠しても意味はないからね。
 
「さっきカグヅチさんの魔力を感知する力を引き上げさせてもらったわ。今カグヅチさんが感じている小さい魔力の粒、それがマジカライトよ」
「こ、これが、この小さい無数のやつがそうなのか?」
「魔石の完全加工が上手く成功しなかったのは、カグヅチさんがマジカライトの魔力を正確に感知できなかったからだと思うの。でも、今ならそれが感じ取れるわ! さあ頼むわよ、カグヅチさん!」
「お、おう……!」
 
 カグヅチさんはまだ半信半疑といった様子だけど、とりあえず私の言う通りに『真・鬼闘術』で魔石の性質を変化させる。
 
 ……変化はあっという間に完了した。カグヅチさんはあまりにもあっさり変化が完了したことに拍子抜けしたようで、「これでいいのか?」と言いたげな視線を私に向けてきた。
 カグヅチさんはこれまで何度も同じ作業をしてある程度の感覚を掴んでいたし、今はマジカライトを正確に感じ取れるようになったことで作業の効率化と明確化を同時に両立できるようになっていたので当然の結果だ。
 
 とりあえず頷き返して魔石を受け取った私は、魔石の形を変形させて変化を確認する。
 魔石の感触は今までと同じで粘土のような感触で硬さもほぼ同じだった。これがカグヅチさんが試行錯誤の結果導き出した、魔石を簡単に成形しやすく、それでいて自然に型崩れしない特徴を両立させた適度な硬度なのだろう。
 握る、丸める、伸ばす。粘土をこねる様に魔石の形を次々変えながら、今までの懸念材料だった魔力の変化を確認する。
 
「………」
「どうだ……ミーティアさん?」
「……か…ぺ……」
「えっ?」
「完璧、完璧よカグヅチさん! これよ、これこそ私が求めていた物よ!!」
 
 色々試した結果、形を変形させても内包する魔力は全く四散しなかった。これこそ私が求めていた、完全加工を可能とした魔石だ!
 
「やったわ! ついにやったわよカグヅチさん!!」
「本当か!? やったぜぇー!!」
 
 私とカグヅチさんはしばらくの間、新技術開拓の成功を祝って喜び合った。
 
 
 
 しばらく喜び合ってお互いに興奮が少し落ち着いた後、私はカグヅチさんに“完全加工魔石”を大量に量産してもらった。
 その作業を待つ間に私は、カグヅチさんが作った完全加工魔石を使って色々な試みをしてみることにした。そしてその試みの中で一つ、面白いことが分かった。
 粘土のような硬度の完全加工魔石はその性質も粘土の様になっているみたいで、複数の魔石を一緒に混ぜる様にこねることで一つの大きな塊にすることができたのだ。
 この事実は完全加工魔石の将来的な実用性の高さを証明するもので、私にとってもカグヅチさんにとっても大きな夢が膨らむ事実だった。
 
「終わったぜミーティアさん」
 
 カグヅチさんに呼ばれて、私は魔石をいじる手を止めた。
 そしてカウンターの上を見ると、カウンターのスペースいっぱいに完全加工魔石が山積みされていた。
 
「山ほど用意してくれってことだったけど、こんなものでいいか?」
「うん、これだけあれば問題ないわ! 上出来よカグヅチさん!」
「しかしミーティアさん、こんだけ大量の魔石をどうやって運ぶんだ?」
 
 カグヅチさんの疑念はもっともだ。なにせ完全加工魔石の量は私一人で抱えれる許容範囲を遥かに超えていたし、仮に袋に全て詰めたとしても総重量が重すぎる。更に私は馬車を使わずに徒歩でここに来ていたので、細身の女性が一人でこの量を運ぶ絵面を想像できないのも無理はない。
 だけど、その懸念の必要ない。私に抜かりはないのだ!
 
「大丈夫よカグヅチさん。これがあるから」
 
 そう言って私が取り出した袋を見て、カグヅチさんは私の言いたいことを理解してくれた。
 
「なるほど、収納袋か!」
「その通り!」
 
 収納魔術が付与された収納袋なら、量も重さも関係なく運ぶことが出来る。そもそも魔石を持って来た時も収納袋を使ったのだから、持ち帰る時も同じ事をすればいい話なのだ。
 ということで早速カグヅチさんにも手伝ってもらい、カウンター上の完全加工魔石を一つ残らず収納袋に収納した。
 
「これでよし……それじゃあカグヅチさん、今日はありがとう。またね!」
「えっ、もう帰るのかミーティアさん?」
 
 ここでの用事は全て終わったから居残る理由も無い。それに私は、早く屋敷に帰ってこの魔石を使った実験をしたいのだ。
 
「うん、用事は全て終わったからね。また何かあったら来るわ!」
「あっちょっ、ミーティアさん! 待っ――」
 
 カグヅチさんはまだ何か言いたげだったけど、私は引き止められないように足早にカグヅチさんの店を後にするのだった。
 
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