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作者: 山のタル
残酷な描写あり
109.新しい肉体1
 カグヅチさんの店を出てから、私ははやる気持ちに背中を押されながら真っ直ぐ屋敷に戻ってきた。出迎えてくれたアインと合流し、そのまま屋敷の地下にある“特別実験室”に向かう。
 長い階段を降りた先にある特別実験室の厳重な扉は既に開いていて、中には私の到着を待っていたミューダとニーナの姿があった。
 
「おかえりなさいませ、セレスティア様」
「遅かったではないか」
 
 ニーナは従者らしい振る舞いで私の帰りを温かく迎えてくれたが、ミューダは相変わらず不愛想な迎え方しかできないようだ。
 しかし私もミューダとは長い付き合いなので、そこは慣れた。というよりミューダがこう言う時は、大抵帰りが遅いことを心配してくれているかららしい。普段からミューダのすぐ傍で世話をすることが多いアインがそう言うのだから間違いないだろう。
 
「ただいま。ごめんねミューダ、ちょっと素材作りに難航したのよ」
「ふんっ、言い訳はいい。それより首尾はどうなのだ?」
 
 私は収納袋を渡して胸を張る。
 
「完璧、問題無しよ!」
 
 収納袋から完全加工魔石を取り出して眺めるミューダ。
 
「これが例の魔石か。見た目は大した違いはないのだな」
「まあ見てなさい」
 
 そう言って私も完全加工魔石を取り出して、ミューダの目の前で簡単に潰して見せる。
 
「どう?」
 
 私がして見せたのと同じことをミューダも試す。
 
「……これは、中々違和感のある感触だな」
 
 まあ、見た目が固そうな鉱石が手の力だけで簡単に変形するのだからそう感じるのも仕方ない。私も初めて触った時はそう思ったし。
 
「とりあえず始めましょうか。ニーナ、ユノはいる?」
「はい、こちらにいますわ」
 
 そう言ってニーナはスカートのポケットから金色の懐中時計を取り出した。
 私はその懐中時計の中にいる、ユノに話しかけた。
 
「久しぶりねユノ、元気にしてたかしら?」
 『お久しぶりですセレスティアさん。お陰様で元気に過ごせています』
 
 ユノはミューダの一番弟子だ。ミューダが私と出会うよりも遥か昔に、一緒に魔術の研究をしていたらしい。しかしある日、ユノは突然愛を語りながらミューダを襲ったそうで、そのまま返り討ちに遭って魂を本の中に封印され肉体を失ったそうだ。
 その後ミューダとは疎遠になったが、ひょんなことからサムスがユノを発見、回収して、今はサムスのサポートをして私達の計画を手伝ってもらっている。
 ……サムスからの報告ではユノにかなり振り回されて大変だったそうだけど、ミューダの弟子なだけあって能力はかなり有能だったらしい。
 
「もう呼ばれた理由は分かってると思うけど、これから約束していたユノの新しい身体を作るわ」
 
 ユノに私達の計画を手伝ってもらう事になったけど、魂だけの状態では色々活動に支障があるので新しい肉体を作ることを出会った時に約束していた。
 しかし肉体を作るといっても、私やアイン達と違ってユノは元の肉体が既に消失しているため同じことはできない。方法としてはシモンとチェリーの時と同じように新しい肉体を一から作らないといけないけど、そこには一つ問題があった。
 ユノはミューダの弟子というだけあり、魂だけの状態でもその魔力量は計り知れないくらい膨大なのだ。シモンやチェリーは私が作った人形を新しい肉体にしたけど、ユノの様に膨大な魔力の持ち主の魂を収めようとすれば、私の人形では肉体が負荷に耐えられず自然に崩壊してしまうだろう。
 そこで私はユノの魂を収めても負荷に耐えることができ、ユノの力を最大限まで引き出せる新しい器の開発に取り掛かった。そしてその時に思い付いたのが、カグヅチさんに開発を任せていた『完全加工魔石』で器を作るという案だった。
 この案を採用しようとした理由は、ユノの膨大な魔力を器が収め切れないなら、初めから魔力で出来た器を作ってその魔力をユノの魔力で上書きして、ユノの魔力で出来た器にしてやればいいのではと考えたからだ。こうすれば器はユノの一部となるので、その容量もユノの魔力量に合わせて自由自在に変えることができるはずだ。……理論上はね。
 
 私はユノにその事を説明して、これから行う器の製作作業の協力を頼んだ。ユノの答えは勿論『イエス』だった。
 
「それじゃあ器の製作は、手先が器用なアインとニーナに任せるわ」
「「お任せください」」
「ユノとミューダはアインとニーナに指示を出して、器の形をなるべく生前のユノの肉体そっくりに近づけて頂戴! その方が魂を移植した時に再構築が安全に完了するからね」
「わかった」
 『わかりました』
 
 そしてユノの器作りが始まった。ミューダとユノの指示通りにアインとニーナが手を動かして、沢山あった完全加工魔石を一つの大きな人型の塊へと仕上げていく。シモンとチェリーの時は私が錬金術で人形の形を簡単に整えたけど、今回は器が魔石のため錬金術で干渉したら魔石に変化が起こるかもしれないので、アインとニーナに丸投げして私はノータッチだ。
 
 私は内心ユノとミューダのどちらか、もしくは両方がお互いに都合のいいように生前のユノの姿からかけ離れた器を作るように指示をするかもしれないと思っていた。もしそんなことをされれば魂を移した時に肉体の再構築に不具合や事故が起きる可能性が高くなる。この世紀の実験がそんなしょうもない思惑で失敗するなんてあってはならない!
 だから二人が制作に口を出せるように二人に指示を出すように伝えた。そしてもし意見が食い違うようなことがあれば、私が割って入り舵を取る覚悟も完了していた。
 ……しかし、意外なことにミューダとユノはお互いに足を引っ張るどころか、確認を取りながら昔の記憶を呼び起こし、互いに協力して指示を出していた。
 ……どうやら、私の心配は杞憂きゆうだったようだ。
 
 そして作り始めてから一時間ほどで、遂にユノの新しい器が完成した。
 器は魔石特有の真っ黒く輝く光沢をしており、大きさは私より小さくティンクとほぼ同じくらいで、頭部の上には兎人ラビットマン特有の長い耳が二つあった。全体的に細身の体格で、ユノの言動から感じる大人の女性らしい艶めかしい特徴はほぼ無い、というより子供体型と言う方がしっくりくる感じだ。
 
「ミューダ、ユノ、一応聞くけどこの体型で間違いないのね?」
「ああ、こんな感じだった」
 『最後に鏡で見た時はこんな感じでした』
 
 一応確認してみたが二人が揃って同じことを言うので、まあ間違いはないのだろう。
 
「よし、それじゃあ次はユノの魂を器に移すわよ。お願いねミューダ」
「任せよ!」
 
 ここからは先はミューダの仕事だ。
 私はミューダに懐中時計ユノを手渡し、アインとニーナと一緒に後ろに下がって傍観する。
 
 『ああっ、師匠の手が、私の全身を優しく包んでくれてるぅ!! ハァ、ハァ、ハァ……くうぅん!!』
「「「うわぁ……」」」
 
 私とアインとニーナの三人は軽く引いた。
 
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