残酷な描写あり
188.神への条件
ヨウコウに言われて、オリヴィエとエヴァイアはこの部屋どころか議長室からも出て行ってしまった。
オリヴィエもエヴァイアも私だけが残る事を気にした様子だったが、ヨウコウに出るように言われてしまえば従うしかなかった。
「それで、二人をわざわざ追い出すなんて、一体何をするつもりなの?」
「そう身構えないでください。ただ、あの二人には聞かせる事の出来ない話があるだけです」
ヨウコウが嘘を付いている様子はないけど、あの二人に聞かせられない話というのは怪しすぎる。
あの二人はそれぞれの国の最高権力者だ。何の権力も持たない私とは違う。
そんな二人には聞かせられなくて私には聞かせられる話とは、一体どんな話なのか想像もつかない。いや、そもそもそんな話があるのかどうかも怪しい所だ。
正直に言って、聞いてしまったら何か後戻り出来なくなりそうな予感がして怖い。
……だがしかし、もし本当にそういう話があるのなら、それが一体どんな内容なのか興味があるのも事実だ。
「……それで、その話って言うのは、一体どんな話なのかしら?」
結局私は、好奇心の方を手に取った。
「それはですね……セレスティアさん、『神になる方法』を知りたくはありませんか?」
「神になる……? そんな方法が……!?」
ヨウコウはこくりと頷いて答える。
まさか……本当にそんな方法があるのか? ……いや、そういえばヨウコウが封印された時の話をした時に、「神になった」とか言っていた気がする。
てっきりあれは、ヨウコウが神として生まれた的なことを言っているのかと思ったけど、もしかしてそうじゃなかったの!?
「……正直に言えば、とても興味がある話だわ。だけど何故、それを私に話そうとするの?」
ヨウコウが肯定しているから、神になる方法は本当にあるのだろう。でもその方法を、どうして私に話そうとしているのかが分からない。
普通に考えれば、神になる方法なんて誰にも伝えずに隠し通しておいた方がいいものに違いないだろう。
それをわざわざ教えようとするなんて、一体ヨウコウは何を考えているんだ……?
「そうですね、正直私もこの話は決して他言しないと決めていた話です。ですが、私がセレスティアさんにこの話をしようと……いえ、しなくてはいけないと思った大きな理由は、セレスティアさんが神になる条件を満たす可能性があるからです」
「……えっ?」
私が、神になる条件を満たす可能性がある……ですって?
あまりにも衝撃的な話に、私の思考は一瞬固まってしまった。
「ま、待って! 仮に私が神になる条件を満たす可能性があるとしてよ、どうしてそれが私にこの話をすることに繋がるの?」
「それは、何も知らない状態で神になってしまっては困るからです。私にとっても、セレスティアさんにとってもね」
「どういうこと?」
「神になるには、3つの条件を満たす必要があります。この条件を全て満たした瞬間、その者は神になります。何も知らない内にいきなり神になってしまったら困ると思いませんか?」
「た、確かに、それは困るわね……」
ある日気づいたらいきなり自分が神になっていたとか……冗談でも勘弁してほしいわ。
「それに私も突然同じ存在が誕生してしまったら、対応を色々考えないといけませんので困ってしまいます」
ヨウコウの言う通り、自分と同じくらいの力を持った者が突然現れでもしたら、どういう関係性になるとしても色々考えないといけなくなるのは確かだ。
「……分かった。話を詳しく聞かせてくれるかしら?」
「先程話したように、神になるには3つの条件を満たす必要があります。1つ、竜種を凌駕するほどの魔力を有している事。2つ、多種多様な種族から信仰されている事。3つ、神としての役目が明確である事です」
1つ目は何となく分かる。生き物にとって魔力の量は強さの証だ。
生物を超越する神になるというなら、生物界の頂点を越えている必要があるのは当然と言えば当然だ。
「1つ目は何となくわかるけど、他の2つの条件の意味はどういうことなの?」
「そうですね、では2つ目の条件から説明しましょう。まず信仰についてですが、これはすでに説明しましたね?」
そう言われて、私はヨウコウから聞いた話を思い出す。
「確か、相手を信頼したり好意を抱くこと、だったわね」
「その通りです。つまり2つ目の条件は、様々な種族の人々から信頼と好意を集めているということです。そして、セレスティアさんはもうすでにこの条件を満たしています」
「なんですって!?」
私が、多種多様な種族から信仰されているですって?
……でも確かに、最近は色々な人と関わる事が多かった。
もしかしてその所為で……?
「信じられないといった様子ですが、セレスティアさんに多種多様な種族からの信仰が集まっているのは事実です。意図的ではなかったかもしれませんが、セレスティアさんの正しい行いの結果と言えるでしょう」
……信じたくはないけど、思い返してみればストール鉱山の事件から始まり、これまで多種多様な種族の人達と知り合いになった。
それがまさか信仰を集める結果に繋がっていたなんて……。
「信じるしかないのね……。わかったわ、じゃあ3つ目の条件を説明してくれないかしら」
「はい。3つ目の条件についてですが、神には必ず何らかの『役目』が与えられています。私で例えるなら、ディヴィデ大山脈を守護することです。それにより私は、『守り神』という神になったのです」
そういえば役目によって神の分類が変わる的なことを言っていたわね。
「つまり、どういう役目を持った神になるかが明確にならないと、神にはなれないという事かしら?」
「大まかにはその認識であってます。……しかし重要なのは、その役目が自分ではなく他者に決められてしまうという点です」
「どういうこと?」
「信仰は信頼し好意を抱くことだと説明しましたが、実はそこには信仰する相手に対する期待と願いが込められているのです。つまり、人々が信仰する対象にどんな役割を求めているのか、これが神としての役目を決定するのです」
なるほど。確かに考えればその通りだ。
私は神様を信仰したことは一度もないけど、一般論から言えば、信者は信仰する対象に必要としていることを願うものだ。
ヨウコウの場合で言うなら、ディヴィデ大山脈を守護するように信者たちが願った。だからヨウコウは、ディヴィデ大山脈を守護する役目を与えられた『守り神』になったのだろう。
「それで、私はこの3つ目の条件を満たしているのかしら?」
私の質問にヨウコウは首を横に振った。
「3つ目の条件は、神としての役目が明確である事です。現在セレスティアさんは十分な信仰を集めていますが、そこに込められている期待と願いは全く統一されていません。これが3つ目の条件を満たせていない理由です」
ヨウコウの言う通りなら、今現在私を信じる人達が私に求めている願いが全て違う方向を向いているということだろう。
そのことに私は安堵するが、同時に油断はできないと強く感じた。
今はまだいいが、人の思考なんて結構簡単に変わってしまう。何かがあった時、この条件をいつ満たしてしまってもおかしくない。
「条件を満たさないように、これから気を付けないといけないわね……」
「セレスティアさんは、神になりたくないのですか?」
少し不思議そうな顔でヨウコウはそんなことを聞いてきた。
神になりたいかどうか……そんな答えは最初から決まっている。
「なりたくないわよ、そんな面倒くさいもの」
「……随分ハッキリと言い切りましたね」
「当然でしょ。私はただ、世間に出ることなく自分のしたいことに集中できる環境が欲しいだけ。神になる必要性なんてないし、なれるとしても絶対面倒な事になるからなりたくないわ」
もしかしたら、神になっても今のヨウコウの様に上手く隠しながら過ごすことは出来るかもしれない。
だけどヨウコウの話を聞く限りだと、神になったら神としての役目に縛られることになってしまう。
もしかするとその所為で、ようやく整い始めた研究に集中できる環境を自ら捨てる事になってしまうかもしれない。
研究を続けられなくなる可能性がある以上、神になる選択肢なんて選ぶつもりはない。
「……どうやら意志は固いようですね。分かりました、では私から少しアドバイスをしましょう」
「それは是非聞きたいわね」
「神にならないためには、残り2つの条件の両方、もしくは片方を満たさないことです。少し前にセレスティアさんは竜種を凌駕するほどの魔力を有していました。どのような方法を使ったかまでは分かりませんが、もし同じ事が出来るなら今後は控えた方がいいでしょう」
多分ヨウコウが言っているのは、サピエル7世と戦った時の事だ。
あの時は『輪廻逆転』で復活して貯めていた魔力の全てが還元され、確かに竜種を凌駕する魔力を手にしていた。
つまり今後は、迂闊に『輪廻逆転』を使ってしまわない様に気を付けないといけないということか……。
「そしてセレスティアさんは今十分な信仰を集めていますので、これらの願いが統一されないように気を付けなければなりません。違う言い方をするなら、人の意見に従わない様に気を付けた方がいいでしょう」
「人の意見に従わない?」
「もし今後セレスティアさんが信仰を向けてきている人達の願いを考え無しに叶えていけば、次第に彼等の中でセレスティアさんがどういう存在なのかが明確になっていきます。そうなれば彼等がセレスティアさんに向ける願いが統一されていき、最終的にセレスティアさんの役目が決まってしまいます」
「なるほど。だから、あえて人の意見に従うなってことね」
「そういうことです」
そういったヨウコウだが、すぐ付け加える様に「ただ、何事も程々に、ですけどね」と小さく呟いた。
まあ、知人が少ない私にも人付き合いというものがある。全ての意見を無視することは出来ない。
何事も程々に、流され過ぎないように、今後は気を付けていこうと心に誓うのだった……。
オリヴィエもエヴァイアも私だけが残る事を気にした様子だったが、ヨウコウに出るように言われてしまえば従うしかなかった。
「それで、二人をわざわざ追い出すなんて、一体何をするつもりなの?」
「そう身構えないでください。ただ、あの二人には聞かせる事の出来ない話があるだけです」
ヨウコウが嘘を付いている様子はないけど、あの二人に聞かせられない話というのは怪しすぎる。
あの二人はそれぞれの国の最高権力者だ。何の権力も持たない私とは違う。
そんな二人には聞かせられなくて私には聞かせられる話とは、一体どんな話なのか想像もつかない。いや、そもそもそんな話があるのかどうかも怪しい所だ。
正直に言って、聞いてしまったら何か後戻り出来なくなりそうな予感がして怖い。
……だがしかし、もし本当にそういう話があるのなら、それが一体どんな内容なのか興味があるのも事実だ。
「……それで、その話って言うのは、一体どんな話なのかしら?」
結局私は、好奇心の方を手に取った。
「それはですね……セレスティアさん、『神になる方法』を知りたくはありませんか?」
「神になる……? そんな方法が……!?」
ヨウコウはこくりと頷いて答える。
まさか……本当にそんな方法があるのか? ……いや、そういえばヨウコウが封印された時の話をした時に、「神になった」とか言っていた気がする。
てっきりあれは、ヨウコウが神として生まれた的なことを言っているのかと思ったけど、もしかしてそうじゃなかったの!?
「……正直に言えば、とても興味がある話だわ。だけど何故、それを私に話そうとするの?」
ヨウコウが肯定しているから、神になる方法は本当にあるのだろう。でもその方法を、どうして私に話そうとしているのかが分からない。
普通に考えれば、神になる方法なんて誰にも伝えずに隠し通しておいた方がいいものに違いないだろう。
それをわざわざ教えようとするなんて、一体ヨウコウは何を考えているんだ……?
「そうですね、正直私もこの話は決して他言しないと決めていた話です。ですが、私がセレスティアさんにこの話をしようと……いえ、しなくてはいけないと思った大きな理由は、セレスティアさんが神になる条件を満たす可能性があるからです」
「……えっ?」
私が、神になる条件を満たす可能性がある……ですって?
あまりにも衝撃的な話に、私の思考は一瞬固まってしまった。
「ま、待って! 仮に私が神になる条件を満たす可能性があるとしてよ、どうしてそれが私にこの話をすることに繋がるの?」
「それは、何も知らない状態で神になってしまっては困るからです。私にとっても、セレスティアさんにとってもね」
「どういうこと?」
「神になるには、3つの条件を満たす必要があります。この条件を全て満たした瞬間、その者は神になります。何も知らない内にいきなり神になってしまったら困ると思いませんか?」
「た、確かに、それは困るわね……」
ある日気づいたらいきなり自分が神になっていたとか……冗談でも勘弁してほしいわ。
「それに私も突然同じ存在が誕生してしまったら、対応を色々考えないといけませんので困ってしまいます」
ヨウコウの言う通り、自分と同じくらいの力を持った者が突然現れでもしたら、どういう関係性になるとしても色々考えないといけなくなるのは確かだ。
「……分かった。話を詳しく聞かせてくれるかしら?」
「先程話したように、神になるには3つの条件を満たす必要があります。1つ、竜種を凌駕するほどの魔力を有している事。2つ、多種多様な種族から信仰されている事。3つ、神としての役目が明確である事です」
1つ目は何となく分かる。生き物にとって魔力の量は強さの証だ。
生物を超越する神になるというなら、生物界の頂点を越えている必要があるのは当然と言えば当然だ。
「1つ目は何となくわかるけど、他の2つの条件の意味はどういうことなの?」
「そうですね、では2つ目の条件から説明しましょう。まず信仰についてですが、これはすでに説明しましたね?」
そう言われて、私はヨウコウから聞いた話を思い出す。
「確か、相手を信頼したり好意を抱くこと、だったわね」
「その通りです。つまり2つ目の条件は、様々な種族の人々から信頼と好意を集めているということです。そして、セレスティアさんはもうすでにこの条件を満たしています」
「なんですって!?」
私が、多種多様な種族から信仰されているですって?
……でも確かに、最近は色々な人と関わる事が多かった。
もしかしてその所為で……?
「信じられないといった様子ですが、セレスティアさんに多種多様な種族からの信仰が集まっているのは事実です。意図的ではなかったかもしれませんが、セレスティアさんの正しい行いの結果と言えるでしょう」
……信じたくはないけど、思い返してみればストール鉱山の事件から始まり、これまで多種多様な種族の人達と知り合いになった。
それがまさか信仰を集める結果に繋がっていたなんて……。
「信じるしかないのね……。わかったわ、じゃあ3つ目の条件を説明してくれないかしら」
「はい。3つ目の条件についてですが、神には必ず何らかの『役目』が与えられています。私で例えるなら、ディヴィデ大山脈を守護することです。それにより私は、『守り神』という神になったのです」
そういえば役目によって神の分類が変わる的なことを言っていたわね。
「つまり、どういう役目を持った神になるかが明確にならないと、神にはなれないという事かしら?」
「大まかにはその認識であってます。……しかし重要なのは、その役目が自分ではなく他者に決められてしまうという点です」
「どういうこと?」
「信仰は信頼し好意を抱くことだと説明しましたが、実はそこには信仰する相手に対する期待と願いが込められているのです。つまり、人々が信仰する対象にどんな役割を求めているのか、これが神としての役目を決定するのです」
なるほど。確かに考えればその通りだ。
私は神様を信仰したことは一度もないけど、一般論から言えば、信者は信仰する対象に必要としていることを願うものだ。
ヨウコウの場合で言うなら、ディヴィデ大山脈を守護するように信者たちが願った。だからヨウコウは、ディヴィデ大山脈を守護する役目を与えられた『守り神』になったのだろう。
「それで、私はこの3つ目の条件を満たしているのかしら?」
私の質問にヨウコウは首を横に振った。
「3つ目の条件は、神としての役目が明確である事です。現在セレスティアさんは十分な信仰を集めていますが、そこに込められている期待と願いは全く統一されていません。これが3つ目の条件を満たせていない理由です」
ヨウコウの言う通りなら、今現在私を信じる人達が私に求めている願いが全て違う方向を向いているということだろう。
そのことに私は安堵するが、同時に油断はできないと強く感じた。
今はまだいいが、人の思考なんて結構簡単に変わってしまう。何かがあった時、この条件をいつ満たしてしまってもおかしくない。
「条件を満たさないように、これから気を付けないといけないわね……」
「セレスティアさんは、神になりたくないのですか?」
少し不思議そうな顔でヨウコウはそんなことを聞いてきた。
神になりたいかどうか……そんな答えは最初から決まっている。
「なりたくないわよ、そんな面倒くさいもの」
「……随分ハッキリと言い切りましたね」
「当然でしょ。私はただ、世間に出ることなく自分のしたいことに集中できる環境が欲しいだけ。神になる必要性なんてないし、なれるとしても絶対面倒な事になるからなりたくないわ」
もしかしたら、神になっても今のヨウコウの様に上手く隠しながら過ごすことは出来るかもしれない。
だけどヨウコウの話を聞く限りだと、神になったら神としての役目に縛られることになってしまう。
もしかするとその所為で、ようやく整い始めた研究に集中できる環境を自ら捨てる事になってしまうかもしれない。
研究を続けられなくなる可能性がある以上、神になる選択肢なんて選ぶつもりはない。
「……どうやら意志は固いようですね。分かりました、では私から少しアドバイスをしましょう」
「それは是非聞きたいわね」
「神にならないためには、残り2つの条件の両方、もしくは片方を満たさないことです。少し前にセレスティアさんは竜種を凌駕するほどの魔力を有していました。どのような方法を使ったかまでは分かりませんが、もし同じ事が出来るなら今後は控えた方がいいでしょう」
多分ヨウコウが言っているのは、サピエル7世と戦った時の事だ。
あの時は『輪廻逆転』で復活して貯めていた魔力の全てが還元され、確かに竜種を凌駕する魔力を手にしていた。
つまり今後は、迂闊に『輪廻逆転』を使ってしまわない様に気を付けないといけないということか……。
「そしてセレスティアさんは今十分な信仰を集めていますので、これらの願いが統一されないように気を付けなければなりません。違う言い方をするなら、人の意見に従わない様に気を付けた方がいいでしょう」
「人の意見に従わない?」
「もし今後セレスティアさんが信仰を向けてきている人達の願いを考え無しに叶えていけば、次第に彼等の中でセレスティアさんがどういう存在なのかが明確になっていきます。そうなれば彼等がセレスティアさんに向ける願いが統一されていき、最終的にセレスティアさんの役目が決まってしまいます」
「なるほど。だから、あえて人の意見に従うなってことね」
「そういうことです」
そういったヨウコウだが、すぐ付け加える様に「ただ、何事も程々に、ですけどね」と小さく呟いた。
まあ、知人が少ない私にも人付き合いというものがある。全ての意見を無視することは出来ない。
何事も程々に、流され過ぎないように、今後は気を付けていこうと心に誓うのだった……。