残酷な描写あり
189.計画の達成
ヨウコウの話しも終わり、私とヨウコウは新しい協力関係を約束することにした。
これは貿易都市との間に作ったものと違って、私とヨウコウ二人だけの個人的な関係だ。
私としてもヨウコウとの関係を良好にしておく事は、今後も何かと役に立つことは間違いないので断る理由は皆無だった。
話すことも全て終わったということで私が帰ろうとすると、ヨウコウが「外まで見送りましょう」と言い出した。
特に拒否する理由もなかったので、私はヨウコウと一緒に議長室を出た。
そして別室で待たされていたオリヴィエとエヴァイアの二人と合流し、入ってきた時と同じ中央塔の裏口から外に出る。
「では皆さん、またいつか会いましょう」
出口まで付いて来たヨウコウは私達にそれだけ言うと、アッサリと踵を返して中央塔の中へ戻って行った。
またいつか……ね。頻繁には会いたくないけど、協力関係を約束した以上、何かしらの理由で近いうちにまた会うことになりそうだ。そしてそれは、ヨウコウも分かっているのだろう。
「それじゃあ、僕もこの辺りで帰るとするよ」
「えっ……?」
エヴァイアの事だから、てっきりまた何か理由を付けて私に絡んでくると思っていたのに、そんな様子もなくあっさりと自分の馬車に乗ろうとしているのは意外だった。
「そう意外そうな顔で驚かないでほしいな……。勿論セレスティアとは話したいことが沢山あるさ。でも今、世界は変革の時を迎えている最中だ。正直忙しくてそれどころではないというのが現状さ」
「じゃあ今日はどうしてここに来たの?」
「ヨウコウにどうしても来てほしいと頼まれてしまったら断れないよ」
そう言ってエヴァイアは両肩を大きくすくめる。
薄々感じてはいたけど、エヴァイアとヨウコウは対等な関係に見えても、実のところはエヴァイアの方が頭が上がらない感じなのだろう。
まあ、相手は本物の神様だから、仕方ないと言えば仕方ない気もするけどね……。
「まあ、情勢が落ち着けば僕の自由な時間も出来るだろうから、その時にヨウコウと何を話したのか聞きにまた会い来るさ。じゃあまたね」
エヴァイアはそれだけ言うと、馬車に乗り込み去って行った。
足早に去っていく様を見ると、本当に忙しい中わざわざ時間を作ってヨウコウに付き合っていたのだろう。
もし次に会った時は、せめて愚痴ぐらいは聞いてあげようかな……。
「それじゃあセレスティアさん、私達も戻りましょうか」
「そうね。それじゃあ別荘までお願いね」
「お任せください」
私は来た時と同じようにオリヴィエの馬車に乗せてもらい、別荘まで送ってもらう。
当然その道中でオリヴィエに、ヨウコウとどんな話をしていたのかと詰め寄られた。
まあ聞いて来るだろうとは思っていたので、「私から話せる内容じゃないから、聞きたいならヨウコウに直接聞いて」と言って受け流しておいた。
流石にこう言ってしまえばオリヴィエも諦めるしかなかったみたいで、悔しそうにムスッと頬を膨らませて黙ってしまった。
非常に可愛らしい仕草だ。……その歴戦の格闘家みたいな体格じゃなかったらもっと可愛らしかったのだけどね。
「……セレスティアさん、また何か余計なこと考えてませんか?」
おっと、いけないいけない。私はいつも通り適当に誤魔化して話を逸らせることに成功した。
そうこうしている内に、私の別荘の門前に到着する。
「セレスティアさん、私も色々落ち着いたら会いに行きますからね!」
私が馬車から降りると、オリヴィエもエヴァイアと似たようなことを言って去って行った。
どうやらオリヴィエも、まだまだ忙しさの最中にいるようだ。
去っていくオリヴィエの馬車を見送った私は、別荘の門を開いて中に入る。
すると私の帰宅を察知したかのように、すぐにふたつの影が迫ってきた。
この別荘の警備を任せているシモンと愛馬のチェリーだ。
「おかえりなさいませ、セレスティア様!」
「ただいま」
私はチェリーの顔を撫でてあげると、チェリーは嬉しそうに鼻を鳴らしてすり寄ってくる。
ひとしきり撫でながら、私はエヴァイアとヨウコウの話を思い出した。
あの時はすぐに想像をしないように考えるのを止めたが、ひとつだけどうしても気になっていたことがあったのだ。
「……ねえシモン、あまり思い出させたくはないのだけど、あなたたちが亡くなった日、火事以外にも何かなかった?」
「火事以外、ですか?」
シモンは顎に手を当てて記憶を探り、私の突然の問いに答えようとしていた。
そしてしばらくすると、何かを思い出したようで、私にこう言った。
「確か火事が起こる前、ほんの短い時間ですが、強い地響きがありました」
「地響き?」
「多分山のどこかで地滑りでも起きたのだと思うのですが、相当に大きな揺れだったと記憶しています。僕も含めた兵士達が状況を掴めずに混乱していましたから。火事があったのは、そのすぐ後でしたね」
「なるほど、どうやらその地響きの揺れで火事が起きたのは間違いなさそうね」
……やっぱり、おそらく間違いない。
確実な証拠はないけれど、私がそれを強く確信するには十分だった。シモンとチェリーが亡くなる原因になった、火事の本当の真相を――。
「しかし、いきなりどうしたのですか? そんな昔の事を気になさるなんて」
「……ううん、何でもないわ」
そうだ、彼等にこの話をしたところで、何かが変わるわけでもない。
彼等の中ではもう終わった話だ。今更蒸し返す必要もないだろう。
「それよりも、私はこれから屋敷に戻るから、いつも通りここの留守は任せたわよ!」
「はい、お任せください!」
「ヒヒ~ン!」
ふたりにそう言って、私は別荘の転移陣を使って屋敷へと帰還した。
「おかえりなさいませ、セレスティア様」
屋敷に戻るといつも通りアインが出迎えてくれる。
私はアインに屋敷の全員を応接室に集めるように頼み、先に応接室に行ってみんなが揃うのを待つ。
しばらくすると、アインが屋敷の全員を集めてやって来た。
「――よし、全員集まったわね」
私は全員が集まったところで、先程の貿易都市での出来事を全員に話して共有した。
ただし、神になる方法だけは話さないことにした。
別にヨウコウから直接口止めされているわけじゃないけど、これはヨウコウが私を信頼してくれたからこそ話してくれたことだ。ヨウコウが許可しない限り絶対に話してはいけない話だ。誰にも、ミューダにさえもだ……。
それにヨウコウとの関係を考えれば、この辺りの判断の線引きはしっかりと厳しくしておいた方がいいだろう。
話を戻すが、貿易都市の実質的なトップ、貿易都市評議会議長に選ばれたヨウコウに対するみんなの反応は様々だった。
ミューダは神という存在についてブツブツと何か考えを巡らせ、ヨウコウの事を知らないアインとモランとエミリーの3人は反応が薄い。
それとは反対に貿易都市で活動していた4人は、ヨウコウの事を知っていたみたいで信じられないと言った顔で驚いていた。
話を聞くと、ヨウコウがウェイトレスをしていたあの飲食店は貿易都市の中でもかなり有名なお店だったらしく、なんとヨウコウ自身が経営者だったらしい。そして当然そんなヨウコウ自身も、他では類を見ない独自の接客をすることで相当な有名人だったそうだ。
「あの店にはヨウコウと料理長の二人しかおらず、ヨウコウは自身の分身を何体も作り出して大量の接客作業を一人でこなしていたんです」
「初めてあの光景を見た時は、驚いて言葉も出ませんでしたわ」
「思わず料理の味が吹き飛んでしまうくらいのインパクトはありましたね」
「あの分身の操作技術はお父さんにも匹敵するとは思っていたけど……神様って凄い強い人だったならそれも納得かな」
4人はヨウコウとヨウコウのお店について、それぞれの感想を呟きながら教えてくれる。
なるほどね……。どうやら話を聞く限りでは、ヨウコウはお店を経営することで、自分の存在を貿易都市中に広めていたようだ。
接客を通して自分の存在を多くの人に認知させると同時に人気を稼ぎ、それを信仰に変換して封印で失った力を回復させていたのだろう。
そして力と知名度を十分に手に入れたヨウコウは、世界が変革を迎えたこのタイミングで表舞台に登場することを選んだ。
……本当に、自分の特性とタイミングを上手に利用したと感心するしかない。
「とにかくこれで、私達と貿易都市との関係はより強固なものとなったわ。つまり私達は、これまで以上に安定した資金を確保できるようになるということよ!」
傍から見ればヨウコウの思惑に上手く利用されているだけなのだろうけど、結果としてそれが私達の利益に繋がるのだから気にすることはない。
私達の目的は、世間に出ることなく自分のしたいことに集中できる環境を手に入れることだ。極論を言ってしまえば、その目的が達成できるならその他の事は細事でしかない。
ただし現状だとその目的の達成には、貿易都市の後ろ盾を得たミーティアの工房が必要不可欠だ。つまりこれからも、貿易都市との関係維持には細心の注意を払う必要がある。
みんなにもその考えを伝え、それを踏まえた上で今後の行動を決めていこうという事で話はまとまった。
「まあ何にしても、研究資金を稼ぐという私達の計画は、これで一先ず達成できたわ。これからはまた、資金を気にせず研究に時間を費やせる生活に戻れそうね」
「ああ、ようやくだな」
ミューダの言う通り、ようやくだ。まだ完全とは言えないけど、ようやくここまで環境を整えることが出来た。
思い返してみれば、始めこそは他者に頼らず屋敷の住人達だけで資金を稼ごうとしていた。
それが今では、貿易都市の運営事業になるミーティアの工房の経営者に私がなり、直接何もしなくても資金を稼げるようになっている。
もちろん、当初の予定からは大きく外れた予想外の事態は幾つもあったし、その度に私達は何故か巻き込まれて手を貸すことになってしまった。
だけど今にして思えば、その予想外の事態に巻き込まれたからこそ、今の最良の結果を得ることが出来たとも言える。
……本当に、人生とはどう転ぶか分からないものだ。
「でもまだ、全ての懸念が無くなった訳じゃないわ。これからも、私達の目的の為に頑張っていきましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
こうして私達はこれから向かうの未来の為に、改めて気持ちを一丸にするのだった。
これは貿易都市との間に作ったものと違って、私とヨウコウ二人だけの個人的な関係だ。
私としてもヨウコウとの関係を良好にしておく事は、今後も何かと役に立つことは間違いないので断る理由は皆無だった。
話すことも全て終わったということで私が帰ろうとすると、ヨウコウが「外まで見送りましょう」と言い出した。
特に拒否する理由もなかったので、私はヨウコウと一緒に議長室を出た。
そして別室で待たされていたオリヴィエとエヴァイアの二人と合流し、入ってきた時と同じ中央塔の裏口から外に出る。
「では皆さん、またいつか会いましょう」
出口まで付いて来たヨウコウは私達にそれだけ言うと、アッサリと踵を返して中央塔の中へ戻って行った。
またいつか……ね。頻繁には会いたくないけど、協力関係を約束した以上、何かしらの理由で近いうちにまた会うことになりそうだ。そしてそれは、ヨウコウも分かっているのだろう。
「それじゃあ、僕もこの辺りで帰るとするよ」
「えっ……?」
エヴァイアの事だから、てっきりまた何か理由を付けて私に絡んでくると思っていたのに、そんな様子もなくあっさりと自分の馬車に乗ろうとしているのは意外だった。
「そう意外そうな顔で驚かないでほしいな……。勿論セレスティアとは話したいことが沢山あるさ。でも今、世界は変革の時を迎えている最中だ。正直忙しくてそれどころではないというのが現状さ」
「じゃあ今日はどうしてここに来たの?」
「ヨウコウにどうしても来てほしいと頼まれてしまったら断れないよ」
そう言ってエヴァイアは両肩を大きくすくめる。
薄々感じてはいたけど、エヴァイアとヨウコウは対等な関係に見えても、実のところはエヴァイアの方が頭が上がらない感じなのだろう。
まあ、相手は本物の神様だから、仕方ないと言えば仕方ない気もするけどね……。
「まあ、情勢が落ち着けば僕の自由な時間も出来るだろうから、その時にヨウコウと何を話したのか聞きにまた会い来るさ。じゃあまたね」
エヴァイアはそれだけ言うと、馬車に乗り込み去って行った。
足早に去っていく様を見ると、本当に忙しい中わざわざ時間を作ってヨウコウに付き合っていたのだろう。
もし次に会った時は、せめて愚痴ぐらいは聞いてあげようかな……。
「それじゃあセレスティアさん、私達も戻りましょうか」
「そうね。それじゃあ別荘までお願いね」
「お任せください」
私は来た時と同じようにオリヴィエの馬車に乗せてもらい、別荘まで送ってもらう。
当然その道中でオリヴィエに、ヨウコウとどんな話をしていたのかと詰め寄られた。
まあ聞いて来るだろうとは思っていたので、「私から話せる内容じゃないから、聞きたいならヨウコウに直接聞いて」と言って受け流しておいた。
流石にこう言ってしまえばオリヴィエも諦めるしかなかったみたいで、悔しそうにムスッと頬を膨らませて黙ってしまった。
非常に可愛らしい仕草だ。……その歴戦の格闘家みたいな体格じゃなかったらもっと可愛らしかったのだけどね。
「……セレスティアさん、また何か余計なこと考えてませんか?」
おっと、いけないいけない。私はいつも通り適当に誤魔化して話を逸らせることに成功した。
そうこうしている内に、私の別荘の門前に到着する。
「セレスティアさん、私も色々落ち着いたら会いに行きますからね!」
私が馬車から降りると、オリヴィエもエヴァイアと似たようなことを言って去って行った。
どうやらオリヴィエも、まだまだ忙しさの最中にいるようだ。
去っていくオリヴィエの馬車を見送った私は、別荘の門を開いて中に入る。
すると私の帰宅を察知したかのように、すぐにふたつの影が迫ってきた。
この別荘の警備を任せているシモンと愛馬のチェリーだ。
「おかえりなさいませ、セレスティア様!」
「ただいま」
私はチェリーの顔を撫でてあげると、チェリーは嬉しそうに鼻を鳴らしてすり寄ってくる。
ひとしきり撫でながら、私はエヴァイアとヨウコウの話を思い出した。
あの時はすぐに想像をしないように考えるのを止めたが、ひとつだけどうしても気になっていたことがあったのだ。
「……ねえシモン、あまり思い出させたくはないのだけど、あなたたちが亡くなった日、火事以外にも何かなかった?」
「火事以外、ですか?」
シモンは顎に手を当てて記憶を探り、私の突然の問いに答えようとしていた。
そしてしばらくすると、何かを思い出したようで、私にこう言った。
「確か火事が起こる前、ほんの短い時間ですが、強い地響きがありました」
「地響き?」
「多分山のどこかで地滑りでも起きたのだと思うのですが、相当に大きな揺れだったと記憶しています。僕も含めた兵士達が状況を掴めずに混乱していましたから。火事があったのは、そのすぐ後でしたね」
「なるほど、どうやらその地響きの揺れで火事が起きたのは間違いなさそうね」
……やっぱり、おそらく間違いない。
確実な証拠はないけれど、私がそれを強く確信するには十分だった。シモンとチェリーが亡くなる原因になった、火事の本当の真相を――。
「しかし、いきなりどうしたのですか? そんな昔の事を気になさるなんて」
「……ううん、何でもないわ」
そうだ、彼等にこの話をしたところで、何かが変わるわけでもない。
彼等の中ではもう終わった話だ。今更蒸し返す必要もないだろう。
「それよりも、私はこれから屋敷に戻るから、いつも通りここの留守は任せたわよ!」
「はい、お任せください!」
「ヒヒ~ン!」
ふたりにそう言って、私は別荘の転移陣を使って屋敷へと帰還した。
「おかえりなさいませ、セレスティア様」
屋敷に戻るといつも通りアインが出迎えてくれる。
私はアインに屋敷の全員を応接室に集めるように頼み、先に応接室に行ってみんなが揃うのを待つ。
しばらくすると、アインが屋敷の全員を集めてやって来た。
「――よし、全員集まったわね」
私は全員が集まったところで、先程の貿易都市での出来事を全員に話して共有した。
ただし、神になる方法だけは話さないことにした。
別にヨウコウから直接口止めされているわけじゃないけど、これはヨウコウが私を信頼してくれたからこそ話してくれたことだ。ヨウコウが許可しない限り絶対に話してはいけない話だ。誰にも、ミューダにさえもだ……。
それにヨウコウとの関係を考えれば、この辺りの判断の線引きはしっかりと厳しくしておいた方がいいだろう。
話を戻すが、貿易都市の実質的なトップ、貿易都市評議会議長に選ばれたヨウコウに対するみんなの反応は様々だった。
ミューダは神という存在についてブツブツと何か考えを巡らせ、ヨウコウの事を知らないアインとモランとエミリーの3人は反応が薄い。
それとは反対に貿易都市で活動していた4人は、ヨウコウの事を知っていたみたいで信じられないと言った顔で驚いていた。
話を聞くと、ヨウコウがウェイトレスをしていたあの飲食店は貿易都市の中でもかなり有名なお店だったらしく、なんとヨウコウ自身が経営者だったらしい。そして当然そんなヨウコウ自身も、他では類を見ない独自の接客をすることで相当な有名人だったそうだ。
「あの店にはヨウコウと料理長の二人しかおらず、ヨウコウは自身の分身を何体も作り出して大量の接客作業を一人でこなしていたんです」
「初めてあの光景を見た時は、驚いて言葉も出ませんでしたわ」
「思わず料理の味が吹き飛んでしまうくらいのインパクトはありましたね」
「あの分身の操作技術はお父さんにも匹敵するとは思っていたけど……神様って凄い強い人だったならそれも納得かな」
4人はヨウコウとヨウコウのお店について、それぞれの感想を呟きながら教えてくれる。
なるほどね……。どうやら話を聞く限りでは、ヨウコウはお店を経営することで、自分の存在を貿易都市中に広めていたようだ。
接客を通して自分の存在を多くの人に認知させると同時に人気を稼ぎ、それを信仰に変換して封印で失った力を回復させていたのだろう。
そして力と知名度を十分に手に入れたヨウコウは、世界が変革を迎えたこのタイミングで表舞台に登場することを選んだ。
……本当に、自分の特性とタイミングを上手に利用したと感心するしかない。
「とにかくこれで、私達と貿易都市との関係はより強固なものとなったわ。つまり私達は、これまで以上に安定した資金を確保できるようになるということよ!」
傍から見ればヨウコウの思惑に上手く利用されているだけなのだろうけど、結果としてそれが私達の利益に繋がるのだから気にすることはない。
私達の目的は、世間に出ることなく自分のしたいことに集中できる環境を手に入れることだ。極論を言ってしまえば、その目的が達成できるならその他の事は細事でしかない。
ただし現状だとその目的の達成には、貿易都市の後ろ盾を得たミーティアの工房が必要不可欠だ。つまりこれからも、貿易都市との関係維持には細心の注意を払う必要がある。
みんなにもその考えを伝え、それを踏まえた上で今後の行動を決めていこうという事で話はまとまった。
「まあ何にしても、研究資金を稼ぐという私達の計画は、これで一先ず達成できたわ。これからはまた、資金を気にせず研究に時間を費やせる生活に戻れそうね」
「ああ、ようやくだな」
ミューダの言う通り、ようやくだ。まだ完全とは言えないけど、ようやくここまで環境を整えることが出来た。
思い返してみれば、始めこそは他者に頼らず屋敷の住人達だけで資金を稼ごうとしていた。
それが今では、貿易都市の運営事業になるミーティアの工房の経営者に私がなり、直接何もしなくても資金を稼げるようになっている。
もちろん、当初の予定からは大きく外れた予想外の事態は幾つもあったし、その度に私達は何故か巻き込まれて手を貸すことになってしまった。
だけど今にして思えば、その予想外の事態に巻き込まれたからこそ、今の最良の結果を得ることが出来たとも言える。
……本当に、人生とはどう転ぶか分からないものだ。
「でもまだ、全ての懸念が無くなった訳じゃないわ。これからも、私達の目的の為に頑張っていきましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
こうして私達はこれから向かうの未来の為に、改めて気持ちを一丸にするのだった。