そうなると思ってた
結果から話そう。
セオス様の誘拐で罪を問われたのは図書館の司書と菓子店の店員そして王宮の下働き数名だけだった。
彼らは何の目的で誘拐事件を起こしたのか、お互い顔見知り程度だった彼らが結託するには誰か首謀者がいるのではないかと追求されたが、誰も口を割らなかった。
もしかすると話そうとしていても話せないのかも知れないと考察したのはルセウス。
試しに魔力探知を行う魔石を使ったところ、彼らに強い「沈黙」の「魔じない」がかけられていると分かり、特定の言葉に対して発動する様になっていた。
彼らの魔じないを解除するには時間がかかるらしい。
それほどまで強い魔力持つ者は誰か。目処は付いても⋯⋯目処が付くからこそ深く追求せず有耶無耶にしようとしているのだ。
実行犯だけが罪を問われる。
納得出来なくても、納得しなければならなかった。
「気持ちは分かるから、抑えてくれ」
アレクシオ王太子殿下からの見舞いだと沢山のお菓子が詰められた大袋を抱えてアイオリア様が訪ねてきたのはセオス様が誘拐された日から数日後。
あの日、王宮へ向かったルセウスが帰ってきたのは翌朝だった。
アイオリア様が言うにはルセウスは一晩中殿下に詰め寄ったそうだ。
「リシア家へ嫌がらせもディアを狙っているのも、セオス君を誘拐させたのも⋯⋯王女だ! 何故分かっているのに咎を受けない!」
「王女はただ「憂いた」だけだからな」
「人を操れる高度な魔じないは魔力の高い者しか使えないだろ!? それが出来る人間なんて限られているじゃないか!!」
「そうだとしても、それだけでは王女は「憂いた」だけ。そう言われてしまっている以上、決定的な証拠と王女の魔じないだと証明する事が必要だ。本当はお前だって分かっているだろう?」
怒りのルセウスに対しアイオリア様は冷静だった。冷静というか彼も悔しさを抑えているそんな様子に見える。
「証拠ならセオス君が持ってきただろう。あのハンカチーフには王女の象徴、白百合の花の刺繍が施されていたんだぞ? それにレースの切れ端も⋯⋯王女のドレスを調べれば──」
「それも言い逃れが出来てしまう。ドレスのレースはあの王女だ本体を処分してしまっているだろう。ハンカチーフにしても落としたとな」
アイオリア様の言葉にルセウスは唇を強く噛んだ。血が出そうなほど強く噛み締めたその口元は震えていて、今にも泣き出してしまいそうに見えた。
「では⋯⋯王女の横暴を見逃せと⋯⋯」
「違う。アレクシオもこのままにはしないと言っていただろう。俺達はアレクシオを信じて支える立場だ」
宥めるアイオリア様にルセウスは何も言えなくなってしまったようだ。
確かにこの数日で何か進展があったとは思えない。ただでさえ忙しいアレクシオ王太子殿下の事だから時間がかかってしまう事は仕方がないと思う。
「⋯⋯セオス君を怖い目に合わせてしまったのにか」
ぽつりと呟かれた言葉はとても小さく弱々しいものだったけれど、私達にははっきりと聞こえてしまった。
俯くルセウスの顔を見つめながら私はどう声をかければいいのか迷う。彼の苦しみを理解できるからこそ何も言えない自分が歯痒かった。
でも、ここで声を掛けてもきっと気休めにしかならないのは分かっていたけれど私は黙っていられなかった。
「決定的な証拠が必要なんですよね」
このままじゃいけない気がした。このままじゃ駄目だと思ったの。
それはルセウスの為ではなく私の為。
「ディーテ王女が私を嫌っているのは私がルセウスの婚約者だからですよね」
「ああ⋯⋯。王女は自分が気に入った男を侍らす趣味がある。ルセウスはそのお眼鏡にかなっているらしい」
「眼鏡だからですかね」
「ふはっ⋯⋯そこは、関係ないと思う」
アイオリア様が吹き出した。
そう。私がディーテ様に憎まれているのはルセウスの婚約者だから。
前回、私を聖女に仕立て上げ、神殿に押し込んだのは私を消してルセウスを手に入れる為だった。
そして今回の誘拐事件もセオス様には本当に申し訳ないけれど私への嫌がらせとしかディーテ様は思っていない。
なんでも手に入れて来た、手に入る事が当たり前のディーテ様。手に入らないものが欲しくなったから躍起になっているのだ。
それに悪事と呼ばれる事を揉み消し自分の思い通りに出来る権力と力を持っているから余計にたちが悪い。
私とは考えも倫理も違う。
そこまでの思考に至った時、私は決めた。
この半年、前回と同じにならないよう動いて来た。これは今でも変わらない決意。
けれど敢えて前回と同じ行動を取ってみる事にする。
ディーテ様が何をしても動じない、揺るがないという態度でいれば、焦りと苛立ちから彼女が何かボロを出すかもしれない。
希望的願望なのかも知れないけれど何より私はもう、諦めたくないのだ。
⋯⋯夢の記憶、後悔の気持ち。やり直しで感じる彼の気持ちが本物なら⋯⋯本物だと感じるからルセウスは嫌がるだろうけど。
「私を囮に使ってください」
驚きに見開かれたルセウスの瞳。
私はしっかりと見詰めて言えたかな。
セオス様の誘拐で罪を問われたのは図書館の司書と菓子店の店員そして王宮の下働き数名だけだった。
彼らは何の目的で誘拐事件を起こしたのか、お互い顔見知り程度だった彼らが結託するには誰か首謀者がいるのではないかと追求されたが、誰も口を割らなかった。
もしかすると話そうとしていても話せないのかも知れないと考察したのはルセウス。
試しに魔力探知を行う魔石を使ったところ、彼らに強い「沈黙」の「魔じない」がかけられていると分かり、特定の言葉に対して発動する様になっていた。
彼らの魔じないを解除するには時間がかかるらしい。
それほどまで強い魔力持つ者は誰か。目処は付いても⋯⋯目処が付くからこそ深く追求せず有耶無耶にしようとしているのだ。
実行犯だけが罪を問われる。
納得出来なくても、納得しなければならなかった。
「気持ちは分かるから、抑えてくれ」
アレクシオ王太子殿下からの見舞いだと沢山のお菓子が詰められた大袋を抱えてアイオリア様が訪ねてきたのはセオス様が誘拐された日から数日後。
あの日、王宮へ向かったルセウスが帰ってきたのは翌朝だった。
アイオリア様が言うにはルセウスは一晩中殿下に詰め寄ったそうだ。
「リシア家へ嫌がらせもディアを狙っているのも、セオス君を誘拐させたのも⋯⋯王女だ! 何故分かっているのに咎を受けない!」
「王女はただ「憂いた」だけだからな」
「人を操れる高度な魔じないは魔力の高い者しか使えないだろ!? それが出来る人間なんて限られているじゃないか!!」
「そうだとしても、それだけでは王女は「憂いた」だけ。そう言われてしまっている以上、決定的な証拠と王女の魔じないだと証明する事が必要だ。本当はお前だって分かっているだろう?」
怒りのルセウスに対しアイオリア様は冷静だった。冷静というか彼も悔しさを抑えているそんな様子に見える。
「証拠ならセオス君が持ってきただろう。あのハンカチーフには王女の象徴、白百合の花の刺繍が施されていたんだぞ? それにレースの切れ端も⋯⋯王女のドレスを調べれば──」
「それも言い逃れが出来てしまう。ドレスのレースはあの王女だ本体を処分してしまっているだろう。ハンカチーフにしても落としたとな」
アイオリア様の言葉にルセウスは唇を強く噛んだ。血が出そうなほど強く噛み締めたその口元は震えていて、今にも泣き出してしまいそうに見えた。
「では⋯⋯王女の横暴を見逃せと⋯⋯」
「違う。アレクシオもこのままにはしないと言っていただろう。俺達はアレクシオを信じて支える立場だ」
宥めるアイオリア様にルセウスは何も言えなくなってしまったようだ。
確かにこの数日で何か進展があったとは思えない。ただでさえ忙しいアレクシオ王太子殿下の事だから時間がかかってしまう事は仕方がないと思う。
「⋯⋯セオス君を怖い目に合わせてしまったのにか」
ぽつりと呟かれた言葉はとても小さく弱々しいものだったけれど、私達にははっきりと聞こえてしまった。
俯くルセウスの顔を見つめながら私はどう声をかければいいのか迷う。彼の苦しみを理解できるからこそ何も言えない自分が歯痒かった。
でも、ここで声を掛けてもきっと気休めにしかならないのは分かっていたけれど私は黙っていられなかった。
「決定的な証拠が必要なんですよね」
このままじゃいけない気がした。このままじゃ駄目だと思ったの。
それはルセウスの為ではなく私の為。
「ディーテ王女が私を嫌っているのは私がルセウスの婚約者だからですよね」
「ああ⋯⋯。王女は自分が気に入った男を侍らす趣味がある。ルセウスはそのお眼鏡にかなっているらしい」
「眼鏡だからですかね」
「ふはっ⋯⋯そこは、関係ないと思う」
アイオリア様が吹き出した。
そう。私がディーテ様に憎まれているのはルセウスの婚約者だから。
前回、私を聖女に仕立て上げ、神殿に押し込んだのは私を消してルセウスを手に入れる為だった。
そして今回の誘拐事件もセオス様には本当に申し訳ないけれど私への嫌がらせとしかディーテ様は思っていない。
なんでも手に入れて来た、手に入る事が当たり前のディーテ様。手に入らないものが欲しくなったから躍起になっているのだ。
それに悪事と呼ばれる事を揉み消し自分の思い通りに出来る権力と力を持っているから余計にたちが悪い。
私とは考えも倫理も違う。
そこまでの思考に至った時、私は決めた。
この半年、前回と同じにならないよう動いて来た。これは今でも変わらない決意。
けれど敢えて前回と同じ行動を取ってみる事にする。
ディーテ様が何をしても動じない、揺るがないという態度でいれば、焦りと苛立ちから彼女が何かボロを出すかもしれない。
希望的願望なのかも知れないけれど何より私はもう、諦めたくないのだ。
⋯⋯夢の記憶、後悔の気持ち。やり直しで感じる彼の気持ちが本物なら⋯⋯本物だと感じるからルセウスは嫌がるだろうけど。
「私を囮に使ってください」
驚きに見開かれたルセウスの瞳。
私はしっかりと見詰めて言えたかな。