残酷な描写あり
R-15
第16話 『奇妙な違和感⁉』
そっと目を開けると、
自分を抱きしめているスペスと、日のひかりに照らされた遺跡が見えた。
さっき――スペスに名前をよばれたあと、目の前が真っ暗になった。
なにが起きたのかはわからなかったが、それが収まった今も強く抱きしめられていることだけはわかった。
一度落ちつこうと息をおおきく吸ったら、スペスの匂いを近くで感じて、心臓がドキンと鳴った。
それを誤魔化すようにスペスに声をかける。
「な、なんだったの、今の?」
「わからない……、なんだったんだろう?」
「えっと――ゴメンちょっと痛いかも……」
「あっ、ああ……ごめん」
腕の力がぬかれ、スペスがゆっくりと手をはなす。
すぐそばに感じていた温もりがなくなって、アルマは思わず自分の頬をさわった。
――スペスは、今どんな顔をしてるんだろう?
そう思って顔をあげると、スペスは、いまにも吐きそうだった!
「んんぅーーー!」
口に手を当てて、うめくスペス。すでに限界が見えていた。
「きゃぁぁぁぁぁ! あっ……あっち! あっち向いてー‼︎」
アルマが指した方へクルリと向いたスペスは――
「うぇぇぇぇぇ……」
と昼食をすべて吐き出した。
「……大丈夫?」
大分傾いた太陽に照らされながら、アルマはしゃがみ込んだスペスの背中をさすっていた。
「うん、楽になってきた……」
《酔い覚まし》の魔法はすでにかけていた。
「アルマは、なんともないの?」
まだ青い顔のスペスが訊く。
「わたし? そうね、言われてみれば――」
と頭を左右にふってみる。
「すこしクラクラする……かも? さっきの真っ黒いやつのせいかしら? 魔法とかで急に目が見えなくなると、船酔いみたいな症状が出るっていうからね」
「……それだけ?」
「そうだけど?」
「えーっ」と、スペスが不満そうな声をあげる。
「日頃の行いのせいかしらね?」とアルマは笑った。
「それよりも――」
アルマが急に怪訝な顔をする。
決定的におかしな事がひとつあった。
「さっきまで、曇ってたわよね?」
上を見あげると、ひろがる青い空と、双子の山に沈みかける太陽が見えた。
「たしかに、そうだね」とスペスがうなずく。
「地面に影ができてたから、おかしいと思ったのよね……」
「ボクも明るいなとは思ってたんだけど」
ふたりは辺りをきょろきょろと見まわす。
「遺跡が光ってから芋を取りにいくまでは曇っていたと思うのよ――たぶん」
「そうだね」と、スペスがうなずく。
「ねぇ、これってどういう事? あの黒いのが雲をどうにかしちゃったの?」
「うーん、よくわからないし、何が起きたのかもわからないな」
スペスは腕を組む。
「アルマ、ほかにはおかしな事はない? 体は平気?」
「体は――」
アルマはあちこちを見たり、ぺたぺたと触ってみたりする。
「平気みたい」
「そっか」とスペスが安心した顔をする。
「……まあ何が起きたのかはわからないけど、無事ならよかったよ。次からはもっと気をつけてやるからさ」
「うん――」
と答えて、アルマはまた周りを見た。
「それじゃあ、遅くなるといけないし帰ろうよ」
そう促すスペスに返事をせず、アルマは何度もあたりを見まわしている。
「アルマ?」とスペスが声をかけた。
「えっ? あっ……そうねっ、帰りましょ!」
そう答えつつ、アルマはまだまわりを見て考えこんでいる。
「どうかしたの?」
「ねぇ、スペス――やっぱり、何かおかしな気がしない?」
「おかしい? どこが?」とスペスがあたりを見る。
「わかんないんだけど……、なにかがしっくりこないの。なんとなく居心地が悪いのよ」
「んー? なんだろうな?」とスペスは首をかしげた。
ふたりは改めてあたりを見まわす。
地面には、相変わらず石の寝床のような遺跡があって、いつも村の後ろにある双子の山も見えた。
なのに――アルマには、違和感がぬぐいきれなかった。
「よくわからないけど、今日はもう戻って休もうよ。吐いたせいか、おなかも空いてきたし……」
「そうよね、なにかスッキリしないけど、遅くなっちゃうからもう帰りましょ」
そう言ってふたりはすぐに遺跡を出た。
が、そこで急にアルマがきょろきょろとしはじめる。
「あれ――おかしいわね、勘違い?」
「どうしたの、なにか無くした?」
「無いのよ――」とアルマが答えた。
「道が……、道が無いの!」
「ええっ⁉ そんなはず……」
とスペスも行く先を見たが、すぐに『無いね……』と言った。
何をどう見ようとも、そこに道はなかった。
かわりに、道のあった場所には一本の木が生えている。
まわりにある山の方向から考えて、ここが道だったのは間違いなかった。
急に現れたその木は、そこまで大きくなかったが、それでも何年かの時間をかけて育ったもののように見えた。
「なに? なんなのよ、この木は! いったい……どういう事なの?」
言葉にならない不安が襲いかかってきて、アルマの声は震えていた。
「ちょっと待ってて!」
スペスが急いで反対側へまわりこむ。
「だめだよ、アルマ!」むこう側から、スペスの声がきこえた。
「――この先にも道は無い! ずっと木や草が生えてるだけだ!」
その瞬間に、アルマはさっき感じていた違和感の答えをみつけた。
自分を抱きしめているスペスと、日のひかりに照らされた遺跡が見えた。
さっき――スペスに名前をよばれたあと、目の前が真っ暗になった。
なにが起きたのかはわからなかったが、それが収まった今も強く抱きしめられていることだけはわかった。
一度落ちつこうと息をおおきく吸ったら、スペスの匂いを近くで感じて、心臓がドキンと鳴った。
それを誤魔化すようにスペスに声をかける。
「な、なんだったの、今の?」
「わからない……、なんだったんだろう?」
「えっと――ゴメンちょっと痛いかも……」
「あっ、ああ……ごめん」
腕の力がぬかれ、スペスがゆっくりと手をはなす。
すぐそばに感じていた温もりがなくなって、アルマは思わず自分の頬をさわった。
――スペスは、今どんな顔をしてるんだろう?
そう思って顔をあげると、スペスは、いまにも吐きそうだった!
「んんぅーーー!」
口に手を当てて、うめくスペス。すでに限界が見えていた。
「きゃぁぁぁぁぁ! あっ……あっち! あっち向いてー‼︎」
アルマが指した方へクルリと向いたスペスは――
「うぇぇぇぇぇ……」
と昼食をすべて吐き出した。
「……大丈夫?」
大分傾いた太陽に照らされながら、アルマはしゃがみ込んだスペスの背中をさすっていた。
「うん、楽になってきた……」
《酔い覚まし》の魔法はすでにかけていた。
「アルマは、なんともないの?」
まだ青い顔のスペスが訊く。
「わたし? そうね、言われてみれば――」
と頭を左右にふってみる。
「すこしクラクラする……かも? さっきの真っ黒いやつのせいかしら? 魔法とかで急に目が見えなくなると、船酔いみたいな症状が出るっていうからね」
「……それだけ?」
「そうだけど?」
「えーっ」と、スペスが不満そうな声をあげる。
「日頃の行いのせいかしらね?」とアルマは笑った。
「それよりも――」
アルマが急に怪訝な顔をする。
決定的におかしな事がひとつあった。
「さっきまで、曇ってたわよね?」
上を見あげると、ひろがる青い空と、双子の山に沈みかける太陽が見えた。
「たしかに、そうだね」とスペスがうなずく。
「地面に影ができてたから、おかしいと思ったのよね……」
「ボクも明るいなとは思ってたんだけど」
ふたりは辺りをきょろきょろと見まわす。
「遺跡が光ってから芋を取りにいくまでは曇っていたと思うのよ――たぶん」
「そうだね」と、スペスがうなずく。
「ねぇ、これってどういう事? あの黒いのが雲をどうにかしちゃったの?」
「うーん、よくわからないし、何が起きたのかもわからないな」
スペスは腕を組む。
「アルマ、ほかにはおかしな事はない? 体は平気?」
「体は――」
アルマはあちこちを見たり、ぺたぺたと触ってみたりする。
「平気みたい」
「そっか」とスペスが安心した顔をする。
「……まあ何が起きたのかはわからないけど、無事ならよかったよ。次からはもっと気をつけてやるからさ」
「うん――」
と答えて、アルマはまた周りを見た。
「それじゃあ、遅くなるといけないし帰ろうよ」
そう促すスペスに返事をせず、アルマは何度もあたりを見まわしている。
「アルマ?」とスペスが声をかけた。
「えっ? あっ……そうねっ、帰りましょ!」
そう答えつつ、アルマはまだまわりを見て考えこんでいる。
「どうかしたの?」
「ねぇ、スペス――やっぱり、何かおかしな気がしない?」
「おかしい? どこが?」とスペスがあたりを見る。
「わかんないんだけど……、なにかがしっくりこないの。なんとなく居心地が悪いのよ」
「んー? なんだろうな?」とスペスは首をかしげた。
ふたりは改めてあたりを見まわす。
地面には、相変わらず石の寝床のような遺跡があって、いつも村の後ろにある双子の山も見えた。
なのに――アルマには、違和感がぬぐいきれなかった。
「よくわからないけど、今日はもう戻って休もうよ。吐いたせいか、おなかも空いてきたし……」
「そうよね、なにかスッキリしないけど、遅くなっちゃうからもう帰りましょ」
そう言ってふたりはすぐに遺跡を出た。
が、そこで急にアルマがきょろきょろとしはじめる。
「あれ――おかしいわね、勘違い?」
「どうしたの、なにか無くした?」
「無いのよ――」とアルマが答えた。
「道が……、道が無いの!」
「ええっ⁉ そんなはず……」
とスペスも行く先を見たが、すぐに『無いね……』と言った。
何をどう見ようとも、そこに道はなかった。
かわりに、道のあった場所には一本の木が生えている。
まわりにある山の方向から考えて、ここが道だったのは間違いなかった。
急に現れたその木は、そこまで大きくなかったが、それでも何年かの時間をかけて育ったもののように見えた。
「なに? なんなのよ、この木は! いったい……どういう事なの?」
言葉にならない不安が襲いかかってきて、アルマの声は震えていた。
「ちょっと待ってて!」
スペスが急いで反対側へまわりこむ。
「だめだよ、アルマ!」むこう側から、スペスの声がきこえた。
「――この先にも道は無い! ずっと木や草が生えてるだけだ!」
その瞬間に、アルマはさっき感じていた違和感の答えをみつけた。