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作者: 細矢ひろゆき
残酷な描写あり R-15
第22話 『ダメならやりません⁉』
「では質問だ」女が言った。

「アタシの知るかぎりじゃあ、このあたりに人族は住んでいない」
  と言われて、アルマはすぐに緑の小人を思いうかべた。

「お前たちは何処からどうやって来た。
 正直に答えろ。もし嘘を言ったならすぐに叩き出す」

 疑心を隠そうともしない女に、アルマは思わずうつむいた。
 自分たちでも信じられないような不可解な出来事を、果たしてどこまで信じてもらえるだろうか。そう考えると言葉が出なかった。

 だが、このひとに下手なウソやごまかしは通用しない気がする。
 どう言えばいいのか。
 どうすれば信じてもらえるのか。
 そんな事ばかりが頭のなかをぐるぐると回る。

 助けを求めて隣を見ると、同じように考え込んでいたスペスと目が合った。
 ちいさく肩をすくめたスペスが、表情をやわらげる。

「あったことを正直に話そうか。それで追い出されたら、またその時に考えればいいさ」
「うん、そうよね――」
 結局、それしかない――アルマは素直にうなずいた。


 覚悟を決めたふたりは、女にこれまでに起きたことを話した。
 自分たちの名前。
 リメイラ村から来たこと。
 丘の上で暗闇に包まれ、よく似た別の場所にいたこと。
 緑の小人に追われたこと。
 村があった場所まで来て、この家を見つけたこと。
 ここを追い出されたら、もうどこに行けばいいのかわからないこと。

 必死に、自分たちに分かることを説明した。
 そのあいだ、女はうなずきながら黙って聞いていた。

 話し終えると、女は何かを考えているようだった。
 ふたりは固唾を飲んで女を見つめ、その言葉を待つ。

 信じてもらえるのか、もらえないのか。
 助けてくれるのか、くれないのか。
 受け入れか、追い出しか。
 希望か、絶望か。
 
 この女の考えひとつで結果は真逆になる。
 黙りこむふたりに、ようやく女が口を開いた。

「よし、腕相撲だな」

「は……?」「……え?」
 ふたりが同時に訊き返す。

「だから、腕相撲だ。知らないのか?」
「いえ、それは知ってますけど……」
 困惑してアルマは訊き返す。
「――なんでいきなり、腕相撲なのかがちょっと」

「ボクはその腕相撲っての、よく知らないんだけど」スペスが手を上げた。
「あぁ、もじゃもじゃ頭のお前は、別にいい――」
「なんで⁉」
「アタシが用があるのは、そっちの安産型のやつだからだ」
「たしかに安産型だけど、名前はアルマだよ」スペスが言う。

「あ、あのー」と、アルマは声をかけた。
「その……わたし、おしりが大きいの気にしてるんですけど……」

「そうか――それなら安産型! アタシと腕相撲で勝負しろ」
「アルマです!」
 と言ってから、こんどは遠慮がちに手を挙げる。

「――あのぉ、できれば理由を訊いても?」
「お前……腕相撲をするのに理由が必要なのか?」
 意外そうな真顔で訊いてきた。

「で、できれば、あんまりやりたくないんですけどー」
 アルマはビクビクしながら答える。

「本当にか……?」
 信じられないものを見たような女は、すこし考えたあとで――急にニヤリと笑う。 
「それなら、こうしようぜ!」
「――お前がアタシに勝ったらここに泊めてやる! だが負けたら、外で野宿しろ!」

「そんな! そんなの無理ですよ!」
 アルマが抗議するが、女はニヤニヤ笑いを崩さない。
「なら話はおわりだ安産型。いますぐに出ていくといい」

――このひと……、完っ全に足もとを見てバカにしてるっ!
 アルマは思った。
 ほんのすこしだけ頭にもきた。

「う~!」
 と、くやしそうに唸るアルマを、
「ちょっとちょっと」と横からスペスが突っついた。

「なによ!」
 イライラするアルマに、スペスが耳打ちをする。

(聞いて――どうせダメでも、結果は同じなんだよ。だったらさ、やってみればいいんじゃないかな。ついでに条件でもつけてみなよ。たとえば――)

 スペスの言うことにうなずいたアルマは、女にむき直る。
「わかりました、腕相撲を受けます! そのかわり――」
 アルマは、正面から女を見すえて言った。

「勝っても負けても、わたしたちに食料をください! それがダメだったらやりません!」

 スペスから入れ知恵されたとおりに言ってみたものの――
 アルマは正直、『それなら出ていけ!』の一言で終わるんじゃないかと思っていた。
 だが――

「いいだろう――負けても食料はやる」
 女はあっさりと条件を呑んだ。
「ついでにアタシの使ってたテントを貸してやるよ」

――テントまで貸してくれるなら、泊めてくれたっていいじゃない!
 アルマはまた少しイラッとしたが、せっかくの好条件を失うこともなかったので、黙ってうなずいた。

 ここに勝負が成立した。
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