残酷な描写あり
R-15
第62話 『もしかして、攻めてきた⁉』
「良くないお知らせです」
集落でスペスとアールヴの治療を終えたころ、
席を外していたイオキアが戻ってきた。
「いま、集落に向かって〝悪魔〟の集団が近づいて来ています」
「悪魔⁉」アルマが声を上げる。
「聞いたことあるけど……なんだっけ、それ?」
「悪魔っていったらほら、勇者様が倒した魔王の手下のことよ」
「ああ、なんか悪さをするヤツか」
「そんな悪戯するようなレベルじゃないわよ。悪魔は暴虐で残忍なものなの。町を襲って財宝を奪ったり、子供を攫ったり、それで、特に理由もなく殺したりするのよ。勇者様でさえ、何回も苦戦をさせられてるんだから」
「それは、なんとも怖いね」
顔をしかめるスペスに、アルマは、勇者の物語で読んだ悪魔について得意気に語る。
「悪魔は悪役にふさわしく見た目だって悪いのよ。太い手足には爪がぎゅっと生えてて、そのうえ頭には角があったりするの。
牙をむき出しにした口にはいつも歪んだ笑みを浮かべて悪臭を振り撒くし、皮膚だって青だとか緑だとか信じられないような色……を――」
話していたアルマは口をつぐみ、ふと脳裏に浮かんだ事を、イオキアに訊いた。
「イオキアさん……もしかして、さっきのって?」
「はい」と、イオキアがうなずく。
「先ほど戦いになったのが、オーガと呼ばれる悪魔です」
「あれが⁉」
名前を聞いたことがあった。まだ仲間が少なかった勇者を、何度も苦しめた相手だ。
腕力があり、粗暴で容赦がない上に、性格は残忍でしつこい。
「もしかして、ゴブリンも悪魔なのかな?」スペスが訊いた。
「ええ、そうです。ゴブリンも悪魔です」
「えっ⁉」
とアルマが意外そうな声をあげた。
さっきのオーガのような、勇者をも苦しめる、危険で邪悪なものが悪魔だと思っていた。
自分でも退治できたようなものまでが悪魔だとは思わなかった。
だが、言われてみれば特徴には当てはまるものがある。
「悪魔とはそもそも、神から楽園に住むことを許されなかった生き物の総称です」
イオキアがそう話しだす。
「神は多くの生き物を作りましたが、なかには凶暴だったり、他の生物に危害を加えるため、楽園からこの世界に放逐された種がいました。
それらは堕ちたものとして、楽園に住むものから悪魔と呼ばれ蔑まれていました」
「つまり、神サマは失敗した出来そこないを、この世界に捨てたって事?」
スペスが茶化すように訊いたが、イオキアは構わずに話をつづける。
「我々の祖先が楽園から追放された時、この世界にいた知恵をもつ生き物は悪魔だけでした。
その誕生の経緯からも分かるとおり、悪魔は総じて力が強く知恵の浅い、思慮に欠けるものが多いです。
われわれの祖先は、当時、すでに世界を支配していた悪魔にたいへん苦しめられたそうです。
それでも長い間に力をつけ、幾度もの戦いで悪魔を北へと追いやり、この地から駆逐しました」
「それが今、ここへ来てるんだ?」
「はい。先ほどのオーガを追跡していった者から報せがありました」
「そういう事って、よくあるの?」
「迷ったのか、はぐれたか、警戒すべき悪魔がこのあたりまで来ることは稀にあります。
ただその場合でも単独か少数だったので、それほどの危険もなく排除できていました」
「その言いかただと、今回のは、そういうレベルじゃないってことだよね?」
「詳しくはまだ調査中ですが――」
とイオキアは険しい顔をする。
「多数のゴブリンと何匹かのオーガに加えて、さらに大型の個体までいるようです。このところ丘の周辺に武装したゴブリンが現れていたのですが、どうやらそれが今回の斥候だったようで――」
「ま、待ってください!」アルマが声を上げる。
「ゴブリンだけじゃなく、さっきのが何匹もいるって事ですか⁉ それって、すごく危ないんじゃ!」
「ええ……ですからおふたりは、集落を離れたほうが良いかもしれません」
「アールヴ族は、どうするんですか……」
「いま話し合いをしておりますが、おそらくは戦うことになるでしょう」
「戦うって……」
アルマは愕然とする。
「あんな化け物相手に勝ち目があるんですか⁉ 悪魔ですよね!
集落ごと皆殺しにあうかもしれませんよ!」
「ええ。ですから、おふたりはすぐに避難を――」
「ちょとまって……待ってよ」
アルマは顔を青ざめて、急にブツブツとつぶやき始める。
「……悪魔がたくさんで……アールヴの集落に? もしかして、それって……!」
「どうしたのアルマ?」スペスが声をかけた。
「どうしようスペス! これってこれって……!」
浅い呼吸をくりかえしたアルマは、落ち着くように一度息を吸ってから言った。
「もしかして――魔王が攻めてきたんじゃないの⁉」
集落でスペスとアールヴの治療を終えたころ、
席を外していたイオキアが戻ってきた。
「いま、集落に向かって〝悪魔〟の集団が近づいて来ています」
「悪魔⁉」アルマが声を上げる。
「聞いたことあるけど……なんだっけ、それ?」
「悪魔っていったらほら、勇者様が倒した魔王の手下のことよ」
「ああ、なんか悪さをするヤツか」
「そんな悪戯するようなレベルじゃないわよ。悪魔は暴虐で残忍なものなの。町を襲って財宝を奪ったり、子供を攫ったり、それで、特に理由もなく殺したりするのよ。勇者様でさえ、何回も苦戦をさせられてるんだから」
「それは、なんとも怖いね」
顔をしかめるスペスに、アルマは、勇者の物語で読んだ悪魔について得意気に語る。
「悪魔は悪役にふさわしく見た目だって悪いのよ。太い手足には爪がぎゅっと生えてて、そのうえ頭には角があったりするの。
牙をむき出しにした口にはいつも歪んだ笑みを浮かべて悪臭を振り撒くし、皮膚だって青だとか緑だとか信じられないような色……を――」
話していたアルマは口をつぐみ、ふと脳裏に浮かんだ事を、イオキアに訊いた。
「イオキアさん……もしかして、さっきのって?」
「はい」と、イオキアがうなずく。
「先ほど戦いになったのが、オーガと呼ばれる悪魔です」
「あれが⁉」
名前を聞いたことがあった。まだ仲間が少なかった勇者を、何度も苦しめた相手だ。
腕力があり、粗暴で容赦がない上に、性格は残忍でしつこい。
「もしかして、ゴブリンも悪魔なのかな?」スペスが訊いた。
「ええ、そうです。ゴブリンも悪魔です」
「えっ⁉」
とアルマが意外そうな声をあげた。
さっきのオーガのような、勇者をも苦しめる、危険で邪悪なものが悪魔だと思っていた。
自分でも退治できたようなものまでが悪魔だとは思わなかった。
だが、言われてみれば特徴には当てはまるものがある。
「悪魔とはそもそも、神から楽園に住むことを許されなかった生き物の総称です」
イオキアがそう話しだす。
「神は多くの生き物を作りましたが、なかには凶暴だったり、他の生物に危害を加えるため、楽園からこの世界に放逐された種がいました。
それらは堕ちたものとして、楽園に住むものから悪魔と呼ばれ蔑まれていました」
「つまり、神サマは失敗した出来そこないを、この世界に捨てたって事?」
スペスが茶化すように訊いたが、イオキアは構わずに話をつづける。
「我々の祖先が楽園から追放された時、この世界にいた知恵をもつ生き物は悪魔だけでした。
その誕生の経緯からも分かるとおり、悪魔は総じて力が強く知恵の浅い、思慮に欠けるものが多いです。
われわれの祖先は、当時、すでに世界を支配していた悪魔にたいへん苦しめられたそうです。
それでも長い間に力をつけ、幾度もの戦いで悪魔を北へと追いやり、この地から駆逐しました」
「それが今、ここへ来てるんだ?」
「はい。先ほどのオーガを追跡していった者から報せがありました」
「そういう事って、よくあるの?」
「迷ったのか、はぐれたか、警戒すべき悪魔がこのあたりまで来ることは稀にあります。
ただその場合でも単独か少数だったので、それほどの危険もなく排除できていました」
「その言いかただと、今回のは、そういうレベルじゃないってことだよね?」
「詳しくはまだ調査中ですが――」
とイオキアは険しい顔をする。
「多数のゴブリンと何匹かのオーガに加えて、さらに大型の個体までいるようです。このところ丘の周辺に武装したゴブリンが現れていたのですが、どうやらそれが今回の斥候だったようで――」
「ま、待ってください!」アルマが声を上げる。
「ゴブリンだけじゃなく、さっきのが何匹もいるって事ですか⁉ それって、すごく危ないんじゃ!」
「ええ……ですからおふたりは、集落を離れたほうが良いかもしれません」
「アールヴ族は、どうするんですか……」
「いま話し合いをしておりますが、おそらくは戦うことになるでしょう」
「戦うって……」
アルマは愕然とする。
「あんな化け物相手に勝ち目があるんですか⁉ 悪魔ですよね!
集落ごと皆殺しにあうかもしれませんよ!」
「ええ。ですから、おふたりはすぐに避難を――」
「ちょとまって……待ってよ」
アルマは顔を青ざめて、急にブツブツとつぶやき始める。
「……悪魔がたくさんで……アールヴの集落に? もしかして、それって……!」
「どうしたのアルマ?」スペスが声をかけた。
「どうしようスペス! これってこれって……!」
浅い呼吸をくりかえしたアルマは、落ち着くように一度息を吸ってから言った。
「もしかして――魔王が攻めてきたんじゃないの⁉」