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作者: 細矢ひろゆき
残酷な描写あり R-15
第88話 『トロルを攻略する⁉』
 アルマが木剣をかまえてトロルに相対あいたいし、その後ろにスペスが立つ。イオキアと隊長は背後にまわった。

「待たせたねっ!」
 言うなり、スペスはスリングにつめた石を飛ばした。巨人は横に大きく動き、石をよける。

 体勢をくずしたトロルにアルマがかけ寄ろうとしたが、すぐにトロルが姿勢を戻したので、あわててまた距離をとった。

 うしろからは、イオキアと隊長から矢と、風の魔法が飛ぶが、トロルは意にも介さず、そのままアルマにむかって棍棒を叩きつけた。

 轟音と土煙があがり、一瞬アルマの姿が見えなくなる。
「アルマ!」スペスが叫んだ。

「へいき!」と言う声とともに、すぐにアルマの姿が見える。

 アルマはそのまま、棍棒の届くぎりぎりを、出たり入ったりしながら動きつづけた。スペスもスリングにセットした次の石を、巨人の頭めがけて飛ばす。

 だがトロルはこれも素早く身体をかがめてかわした。トロルがかなりの勢いで避けたので、首にかけている首飾りが、カチャーンと高く鳴る。


――おかしいな。
 戦いながら、トロルの動きを観察していたスペスは思った。

 この暗いなかで、飛んでくる石を避けるトロルの視力と反応速度には驚いたが、そもそも石が当たったくらいでは、トロルは怪我をしない。
 事実トロルは、イオキア達の弓や魔法を、避けようともしなかった。

――それなのに、ボクの投げる石は、体勢がくずれるほど大きく避けた。
  もしかして……。

 頭にうかんだものを検証するために、スペスはスリングに石をセットすると、さらにもうひとつの石を、手に持った。

 タイミングを図りながらスリングをクルクル回すと、トロルが避けやすいように、わざと横を狙って投げる。
 さらに、すぐまた石をセットし、トロルが避けそうな方向へ、連続で二投目を放った。

 果たして、アルマを攻撃しようとしていたトロルは、それをやめて最初の石をよけた。だが、よけた先にも次の石が飛んでいる。
 それを避けられなかったトロルは、片手で、石をたたき落とした。

――やっぱりトロルは、ボクの投げる石を嫌がっている。

 スペスは理由を考える。

――長老さんを助けるときに使った火焔草が原因なのは間違いない……。だけど怪我が治るトロルが顔ならともかく、それ以外のところまであんなふうにして避けるのは何故だろう?

 疑問を感じたスペスは、トロルを見上げた。
 夜空の星々を背景に、頭の形くらいはわかるが、暗い上に高さがあるので、細かいところまではよく見えない。


「聞いてくれ、アルマ!」スペスは言った。
「なによ! 忙しいんっ……だけどっ!」
 アルマがトロルの攻撃をかわしながら答える。

「あいつの〝頭〟をよく見たいんだ! なにかに《灯り》の魔法をかけて、頭の高さまで投げてくれ。
 時間は短くていいから、光の量を多くして! あと目が明かるさに慣れちゃうから、光は見ないように!」

「注文がっ……多いわ、ねっ!」
 動きながら、何かないかとポケットを探ったアルマは、たまたま手が触れた飴玉に《灯り》をかけて、そのまま空へ放り投げる。

 強く光りながら昇る飴玉に照らされて、灰暗色に見えていた集落が、わずかの間だけ、色をとり戻した。
 光源を見ないように手をかざして、スペスはトロルの頭を観察する。

 まぶしそうに目を細めているトロルの顔や頭は、焼け焦げて、ただれていた。腕の一部の毛もなくなっていて、火傷の痕が見える。

 飴玉にかけられた光は、トロルの頭を飛び越えたあと、沈む太陽のように落ちる途中で消えた。
 あたりが暗闇にもどると、スペスが叫ぶ。

「火だ‼︎」

 スペスは、イオキアのほうへ叫ぶ。
「イオキアさん! こいつは火の傷が治りにくいみたいだ! なにか火で攻撃をしてくれ!」

 すかさずイオキアからひとつ、隊長からふたつの炎の矢が飛ぶ。
 トロルはふたつは避けたが、ひとつが腕に当たり、長い体毛の焦げる嫌なにおいがした。

 トロルの反応からして効果はあるようだったが〝弱い〟とスペスは思った。
「もっと強い魔法はないの!」。

「残念ながらありません!」
 イオキアが悔しそうに叫ぶ。
「もともとわれわれは、火の魔法をあまり好まないんです!」

「アルマは!」
「ごめんっ、わたしもできないっ!」
「くそっ!」とスペスは唸った。

 せっかく弱点がわかっても、有効な手段がなかった。火焔草の小瓶がポケットにはまだふたつあったが、強く警戒するトロルに確実に当てる方法がなかった。
 効果が大きいだけに、これだけは絶対に外したくなかった。

――やっぱり、倒して頭を狙うしかないのか……。

 スペスはすぐに次の策を考える。
「わかった! イオキアさんたちは魔法で牽制しつづけて! それと、しばらくのあいだ、あんまりこっちを見ないようにしてくれ!」

「わかりました!」とイオキアが答えた。

「アルマ! 五つあとに、で頼む!」
「ええっ⁉ なにっ?」

「五つあとに、時間最短で光量最大! だっ! 数えてくれ!」
「わ、わかった……っ!」

 アルマはポケットの飴玉を握ると、遅延させた|《灯り》をかける。同時に大声で数をかぞえはじめた。

「5、4!」
 イオキアたちから炎の矢がとび、トロルを牽制する。

「3、2!」
 スペスもスリングをとばしてアルマを援護した。

「1!」
 アルマが飴玉を真上に投げた。

 飴玉はわずかな光を放ちながら上がっていき、そこにトロルの目が吸い寄せられる。

 瞬間、アルマの真上で音のない光の爆発が起きた。
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