残酷な描写あり
R-15
第89話 『倒れろぉぉぉっ⁉』
瞬間、アルマの真上で音のない光の爆発が起きた。
それは雷光のように一瞬だけあたりを真昼のように照らし、すべての者に影を生み出して、すぐに消える。
「グォォォォォオオ!!」
閃光をまともに受けたトロルが、目を押さえて咆えた。
〝いける!〟と皆が思ったが、視界を奪われたトロルはすぐに棍棒をめちゃくちゃに振り回しはじめ、左右の足を交互にドカドカと踏み鳴らした。
トロルが右に左に身体を回して棍棒を振るたびに、風が唸りをあげ、首飾りが威嚇するかのようにカチャリ、カチャリとするどく鳴った。
小さな嵐となったトロルに迂闊に近づけば、棍棒を叩きつけられるか、足で踏み潰されるかのどちらかになる。
「あれじゃ、寄れないわ!」アルマが言いながら距離を取る。
隊長がまとめて放った十数本の炎の矢が、かわせないトロルに突き刺さったが、それでもなお、トロルは暴れるのをやめなかった。
「くそっ、手がつけられない!」スペスが言った。
「私がやります!」
そう言ってイオキアが走り寄り、トロルが激しく踏みつけるたびにゆれる地面に手をついた。
そのとたん、地を蹴ったはずのトロルの足が、そのままふみ抜くようにガクンと沈んだ。
地面には大穴が開き、トロルの片足が落ちていた。
開いた穴はすぐに塞がりはじめ、がっちりとトロルの足を固定する。
バランスを崩したトロルの足が止まった。
「今だ!」
スペスはムチを振って、トロルの自由なほうの足に巻きつかせる。
「ひっぱって! アルマ!」
「わかった!」
アルマは木剣を腰紐に差すと、スペスと一緒にムチを持って思いきり引く。
ムチに引かれたトロルの足が、勢いよく前へ飛び出した。
片足を地面に固定され、片足をひっぱられたトロルの股が大きく開く。
「倒れろぉぉぉっ!」
スペスとアルマは全力でムチを引いたが、トロルは揺らぐ体のバランスを絶妙に保ちながら、引かれる足のほうへと大きく身体をあずけた。
重心が移動して、浮いていた足がズシンと地につく。
長い毛に覆われたトロルの両脚は、ほとんどまっすぐに開いていたが、トロルはその信じられない平行感覚でいまだ倒れずにいた。
スペスとアルマが引くムチは、トロルの足首に食い込んで、目一杯まで伸びていたが、どれだけ引こうとも、体重が乗った足はもう動かなかった。
「ガァァァァァアア!!」
とトロルが咆え、ぐっと足に力を入れる。
バカンッ! と拘束していた地面が割れ、うしろに伸びたトロルの足が自由になる。その足をひきつけて、まっすぐに立ったトロルは、不意に、ふたりが引っぱる足から力を抜いて、前に振った。
拮抗していた力を急にいなされて、スペスとアルマの身体が後ろへ泳ぐ。
トロルが少し足をうごかすと、食い込んでいたムチは足からクルクルとほどけた。
「うわっ!」「きゃっ!」
引いていたムチがすっぽ抜けたふたりは、完全に体勢を崩し、もつれるようにして倒れる。
「ま、まずい……」
ふたりは慌てて起き上がったが、トロルは即座に、足元にあったアールヴの亡骸を拾って、投げつけた。
「だ……ダメ」
アルマは飛んでくるアールヴを、叩き落とすことに躊躇する。
「アルマっ!」
とっさにスペスがアルマを抱き寄せ、アールヴの骸が激突する。
かばわれたアルマはぶつかるのを避けられたが、かわりにスペスが背中に食らい、激しく咳き込んだ。
「スペスっ⁉」
アルマは咄嗟に治癒魔法をかけつつ、次の攻撃にそなえてトロルのほうを見た。
だが、闇に立ったトロルは、アルマたちとは逆を向いた。
その目が、アールヴの女隊長のほうを向いていた。
トロルに目をつけられた隊長は、すぐさま反対の森へ走り出すが、獲物を逃がすまいとするトロルが、すぐに追いかける。
巨体のトロルの足は速く、ぐんぐんと隊長に追いついていった。離れた所にいたイオキアもあとを追っていたが、トロルとはどんどん離されていく。
見ていたアルマは、スペスの治療で動けなかった。もし動けたとしても、とても間にあわなかった。
アルマに唯一出来たのは、隊長が森まで逃げ切るように願うことだけで――
そして、それは叶わなかった。
それは雷光のように一瞬だけあたりを真昼のように照らし、すべての者に影を生み出して、すぐに消える。
「グォォォォォオオ!!」
閃光をまともに受けたトロルが、目を押さえて咆えた。
〝いける!〟と皆が思ったが、視界を奪われたトロルはすぐに棍棒をめちゃくちゃに振り回しはじめ、左右の足を交互にドカドカと踏み鳴らした。
トロルが右に左に身体を回して棍棒を振るたびに、風が唸りをあげ、首飾りが威嚇するかのようにカチャリ、カチャリとするどく鳴った。
小さな嵐となったトロルに迂闊に近づけば、棍棒を叩きつけられるか、足で踏み潰されるかのどちらかになる。
「あれじゃ、寄れないわ!」アルマが言いながら距離を取る。
隊長がまとめて放った十数本の炎の矢が、かわせないトロルに突き刺さったが、それでもなお、トロルは暴れるのをやめなかった。
「くそっ、手がつけられない!」スペスが言った。
「私がやります!」
そう言ってイオキアが走り寄り、トロルが激しく踏みつけるたびにゆれる地面に手をついた。
そのとたん、地を蹴ったはずのトロルの足が、そのままふみ抜くようにガクンと沈んだ。
地面には大穴が開き、トロルの片足が落ちていた。
開いた穴はすぐに塞がりはじめ、がっちりとトロルの足を固定する。
バランスを崩したトロルの足が止まった。
「今だ!」
スペスはムチを振って、トロルの自由なほうの足に巻きつかせる。
「ひっぱって! アルマ!」
「わかった!」
アルマは木剣を腰紐に差すと、スペスと一緒にムチを持って思いきり引く。
ムチに引かれたトロルの足が、勢いよく前へ飛び出した。
片足を地面に固定され、片足をひっぱられたトロルの股が大きく開く。
「倒れろぉぉぉっ!」
スペスとアルマは全力でムチを引いたが、トロルは揺らぐ体のバランスを絶妙に保ちながら、引かれる足のほうへと大きく身体をあずけた。
重心が移動して、浮いていた足がズシンと地につく。
長い毛に覆われたトロルの両脚は、ほとんどまっすぐに開いていたが、トロルはその信じられない平行感覚でいまだ倒れずにいた。
スペスとアルマが引くムチは、トロルの足首に食い込んで、目一杯まで伸びていたが、どれだけ引こうとも、体重が乗った足はもう動かなかった。
「ガァァァァァアア!!」
とトロルが咆え、ぐっと足に力を入れる。
バカンッ! と拘束していた地面が割れ、うしろに伸びたトロルの足が自由になる。その足をひきつけて、まっすぐに立ったトロルは、不意に、ふたりが引っぱる足から力を抜いて、前に振った。
拮抗していた力を急にいなされて、スペスとアルマの身体が後ろへ泳ぐ。
トロルが少し足をうごかすと、食い込んでいたムチは足からクルクルとほどけた。
「うわっ!」「きゃっ!」
引いていたムチがすっぽ抜けたふたりは、完全に体勢を崩し、もつれるようにして倒れる。
「ま、まずい……」
ふたりは慌てて起き上がったが、トロルは即座に、足元にあったアールヴの亡骸を拾って、投げつけた。
「だ……ダメ」
アルマは飛んでくるアールヴを、叩き落とすことに躊躇する。
「アルマっ!」
とっさにスペスがアルマを抱き寄せ、アールヴの骸が激突する。
かばわれたアルマはぶつかるのを避けられたが、かわりにスペスが背中に食らい、激しく咳き込んだ。
「スペスっ⁉」
アルマは咄嗟に治癒魔法をかけつつ、次の攻撃にそなえてトロルのほうを見た。
だが、闇に立ったトロルは、アルマたちとは逆を向いた。
その目が、アールヴの女隊長のほうを向いていた。
トロルに目をつけられた隊長は、すぐさま反対の森へ走り出すが、獲物を逃がすまいとするトロルが、すぐに追いかける。
巨体のトロルの足は速く、ぐんぐんと隊長に追いついていった。離れた所にいたイオキアもあとを追っていたが、トロルとはどんどん離されていく。
見ていたアルマは、スペスの治療で動けなかった。もし動けたとしても、とても間にあわなかった。
アルマに唯一出来たのは、隊長が森まで逃げ切るように願うことだけで――
そして、それは叶わなかった。