侵入調査
教会って独特の味があるよね
「なぁ、最近気づいたんだけどさ」
スプリットくんがまた両手をうしろに組むむずかしいカッコをしてた。
「こーゆーのって衛兵に任せればよくね? オッサンの知り合いにいたじゃん」
「正規の軍を動かすには証拠ってヤツが足らんのよなぁ。それにユージーンは別口の仕事があるからして」
筋肉があごひげをさする姿を見下ろす。
「あたいらの出番ってわけかい」
「御名答、そこで作戦なんだがね」
時は真夜中。シチュエーション的に完全なる不審者となった面々。
わたしは冒険用の普段着? がそのまま隠れられる色してるけど、オジサン含めみんなは地味だけど夜闇に紛れるにはちょっと目立つかんじ。っていうかサっちゃんに関してはめっちゃ目立ってる。
教会がある広場。向かい側の建物の影に潜みつつ、オジサンはとある提案をした。
「トゥーサはここで見張り番をしてくれ」
「見張るってなにをだい?」
「件の男が現れるかもしれん。もし見つけても戦うなよ? ヤツの戦闘能力は以前学習済みだな」
「はっ、そんじゃあ野郎が好き勝手するのを黙ってみてろってのか?」
「そうじゃない。ヤツのほかにも教会を出入りする輩が現れるとも限らん。そういったヤツの特徴をできる限りインプットしてくれると助かる。ビシェルといっしょにな」
「私もここに残るのですか?」
「弓は扱えんからな……それよりも、遠くを見極める視力をもつお前ならこっちを任せたい」
「なるほど、了解した」
「それで、教会へはチャールズさんとグレース、んでスプリットが侵入する」
「そういうことだトゥーサ……スプリット、腕のほうは大丈夫か?」
「このとおりだ」
言って、腕を振り回し健常ぶりをアピールする。いつもなら背中にある剣がなく、今は腰に複数の短剣を忍ばせている。
わたしとおなじ。
「グレースはこういうの慣れっこだろう?」
「うん」
だってオジサンにそう教わったんだもん。相手にバレないよう接近して、弱点を狙い一撃で仕留める。
狩りだとこれがけっこー役に立つ。だけどコレを人に使うのは――それはさすがにない、よね?
「で、あのヤローはどっから教会に入ってくんだ?」
「アニスからの情報によれば側面の扉だったな」
オジサンがその方向を示す。あの時つかった正面門は、今は静寂のなかに佇んでいて、教会や周囲のおうちの窓からほんのり明かりがのぞいてる。
その正面からちょっと外れたところに、目立たない小さな扉があった。カギはいつも開いていて、急病のひとを受け入れる場合でも使うらしい。
でも、実際にそういう用途で使われることは少ない。
「さて、今は身を潜めて待つことにしよう」
オジサンが用意してた黒いローブをはおり闇に溶けていく。わたしたちもそれに習い、サっちゃんとビーちゃんはオジサンからの指示で所定の場所に移動する。
その男が現れたのは、それからお月さまがすこし傾いてからのことだった。
「きたか」
「まちがいねぇあのヤローだ」
スプリットくんが拳を握りしめる。すごく細身で猫背。闇夜の中ギラギラした目が周囲を注意深く見渡し、スピードを落とさずに聖なる領域へと歩を進めていく。
扉に手をのばし、それを開け、やがて中に入っていった。
「怪しさ満点おまけに状況証拠は真っ黒のくろだ。さて、確実なる証拠を求めに行くとしよう」
影とどうかしていたオジサンが広場に身を乗り出し、わたしも慌ててそれについていく。
「わかってるとは思うが中に入ったら余計なことはするな。ヤツらに行動がバレたら一巻の終わりだからな」
「じゃあ最短ルートで司教の部屋につっこむのか?」
「ルートなんざ決めとらん。が、こっちには強力な助っ人がいるからな」
オジサンが木製の扉をひらく。ギチィと乾いた音が鳴り、中からろうそくの光が漏れて出た。
中にはひとりの修道女が待ち構えていた。
「彼女に手引きしてもらえばいい」
「アニスさん!」
彼女は一瞬だけ笑顔を見せ、けどすぐに凛としたものに変わる。
「こちらに」
通されたのは、以前案内された部屋とはまた違う場所。すこし狭くて、ところどころに木箱が置いてある。だれかを招く場所というより物置きみたいな感じがした。
「今からでも遅くはない。見なかったフリをして自室へもどったほうがいい」
部屋へ招き入れた彼女に対し、オジサンは開口一番そんなことばを放った。
「オジサン、なんでそんなこと言うの?」
「侵入者を招き入れ手助けしたとあれば、キミは教会にいられなくなる」
わたしはハッとして、修道服を着たアニスさんに振り向いた。
アニスさんはそんなオジサンの目をしっかり見つめ、首を横に振る。オジサンはその姿を穏やかな目で見つめていた。
「いいのです。わたしは神がこれを望んでいると信じていますから」
「決意は固いか……これも教会の、神のためかな?」
「もし司教様がそのような邪悪な存在と通じていたのであれば、彼は神の名の下に裁かれなければなりません。さあはやく。この先のルートはグウェンが確保してくれています」
アニスさんがみんなに先立って部屋から出ていき、周囲を注意深く観察する。廊下の奥にはグウェンちゃんがいて、こちらの姿に気づいたとたん、ハッとした顔で手招きをする。
「もうすぐ見回りが来ます。その前にこちらへ」
「アニス殿、助かった」
「みなさんの無事をいのります。そしてどうか、司教様の心を正しく導けますよう」
駆け去っていく面々を見送り、修道女はうやうやしく両手を交差させ、瞳を閉じた。
スプリットくんがまた両手をうしろに組むむずかしいカッコをしてた。
「こーゆーのって衛兵に任せればよくね? オッサンの知り合いにいたじゃん」
「正規の軍を動かすには証拠ってヤツが足らんのよなぁ。それにユージーンは別口の仕事があるからして」
筋肉があごひげをさする姿を見下ろす。
「あたいらの出番ってわけかい」
「御名答、そこで作戦なんだがね」
時は真夜中。シチュエーション的に完全なる不審者となった面々。
わたしは冒険用の普段着? がそのまま隠れられる色してるけど、オジサン含めみんなは地味だけど夜闇に紛れるにはちょっと目立つかんじ。っていうかサっちゃんに関してはめっちゃ目立ってる。
教会がある広場。向かい側の建物の影に潜みつつ、オジサンはとある提案をした。
「トゥーサはここで見張り番をしてくれ」
「見張るってなにをだい?」
「件の男が現れるかもしれん。もし見つけても戦うなよ? ヤツの戦闘能力は以前学習済みだな」
「はっ、そんじゃあ野郎が好き勝手するのを黙ってみてろってのか?」
「そうじゃない。ヤツのほかにも教会を出入りする輩が現れるとも限らん。そういったヤツの特徴をできる限りインプットしてくれると助かる。ビシェルといっしょにな」
「私もここに残るのですか?」
「弓は扱えんからな……それよりも、遠くを見極める視力をもつお前ならこっちを任せたい」
「なるほど、了解した」
「それで、教会へはチャールズさんとグレース、んでスプリットが侵入する」
「そういうことだトゥーサ……スプリット、腕のほうは大丈夫か?」
「このとおりだ」
言って、腕を振り回し健常ぶりをアピールする。いつもなら背中にある剣がなく、今は腰に複数の短剣を忍ばせている。
わたしとおなじ。
「グレースはこういうの慣れっこだろう?」
「うん」
だってオジサンにそう教わったんだもん。相手にバレないよう接近して、弱点を狙い一撃で仕留める。
狩りだとこれがけっこー役に立つ。だけどコレを人に使うのは――それはさすがにない、よね?
「で、あのヤローはどっから教会に入ってくんだ?」
「アニスからの情報によれば側面の扉だったな」
オジサンがその方向を示す。あの時つかった正面門は、今は静寂のなかに佇んでいて、教会や周囲のおうちの窓からほんのり明かりがのぞいてる。
その正面からちょっと外れたところに、目立たない小さな扉があった。カギはいつも開いていて、急病のひとを受け入れる場合でも使うらしい。
でも、実際にそういう用途で使われることは少ない。
「さて、今は身を潜めて待つことにしよう」
オジサンが用意してた黒いローブをはおり闇に溶けていく。わたしたちもそれに習い、サっちゃんとビーちゃんはオジサンからの指示で所定の場所に移動する。
その男が現れたのは、それからお月さまがすこし傾いてからのことだった。
「きたか」
「まちがいねぇあのヤローだ」
スプリットくんが拳を握りしめる。すごく細身で猫背。闇夜の中ギラギラした目が周囲を注意深く見渡し、スピードを落とさずに聖なる領域へと歩を進めていく。
扉に手をのばし、それを開け、やがて中に入っていった。
「怪しさ満点おまけに状況証拠は真っ黒のくろだ。さて、確実なる証拠を求めに行くとしよう」
影とどうかしていたオジサンが広場に身を乗り出し、わたしも慌ててそれについていく。
「わかってるとは思うが中に入ったら余計なことはするな。ヤツらに行動がバレたら一巻の終わりだからな」
「じゃあ最短ルートで司教の部屋につっこむのか?」
「ルートなんざ決めとらん。が、こっちには強力な助っ人がいるからな」
オジサンが木製の扉をひらく。ギチィと乾いた音が鳴り、中からろうそくの光が漏れて出た。
中にはひとりの修道女が待ち構えていた。
「彼女に手引きしてもらえばいい」
「アニスさん!」
彼女は一瞬だけ笑顔を見せ、けどすぐに凛としたものに変わる。
「こちらに」
通されたのは、以前案内された部屋とはまた違う場所。すこし狭くて、ところどころに木箱が置いてある。だれかを招く場所というより物置きみたいな感じがした。
「今からでも遅くはない。見なかったフリをして自室へもどったほうがいい」
部屋へ招き入れた彼女に対し、オジサンは開口一番そんなことばを放った。
「オジサン、なんでそんなこと言うの?」
「侵入者を招き入れ手助けしたとあれば、キミは教会にいられなくなる」
わたしはハッとして、修道服を着たアニスさんに振り向いた。
アニスさんはそんなオジサンの目をしっかり見つめ、首を横に振る。オジサンはその姿を穏やかな目で見つめていた。
「いいのです。わたしは神がこれを望んでいると信じていますから」
「決意は固いか……これも教会の、神のためかな?」
「もし司教様がそのような邪悪な存在と通じていたのであれば、彼は神の名の下に裁かれなければなりません。さあはやく。この先のルートはグウェンが確保してくれています」
アニスさんがみんなに先立って部屋から出ていき、周囲を注意深く観察する。廊下の奥にはグウェンちゃんがいて、こちらの姿に気づいたとたん、ハッとした顔で手招きをする。
「もうすぐ見回りが来ます。その前にこちらへ」
「アニス殿、助かった」
「みなさんの無事をいのります。そしてどうか、司教様の心を正しく導けますよう」
駆け去っていく面々を見送り、修道女はうやうやしく両手を交差させ、瞳を閉じた。