まえ
油断は命取りなのだよ
「え、そんなにショックだった?」
「うん」
うんって。
(あまりの精神体ダメージに口調がかわってる)
「あー不覚だったぁかんっぜんに油断してた」
だらぁっと天を見上げる。まあ森に囲まれてお空は見えないですけど。だからこそ、飛び散った石は木の枝にぶつかったり跳ね返ったりしてランダムな動きになり、みんなの意識を逸らす要因にもなったんだけど。
「サイアクだ。こんな古典的なトラップに引っかかるかふつー?」
「えっへん!」
わたしはムネを張った。なくはない、ああでもビーちゃんには負けるわ。
サっちゃんのそれはぁ、たぶんムネだけどムネじゃない。なにがって聞かれたらこまるけど。
「へぇ、つまりはオレたちの足音にまぎれたってことか」
「重ねて、石を四方八方に放り投げ雑音を追加し、人数の整合性を不可解なものにした。なるほど、すべてこのための布石だったのか」
頭に何発かくらった少年とムネのあるお方が納得した風です。しょーじきそこまで考えてなかったけどうまくいったから結果オーライなのだ。
「で、ごほうびは?」
「ぁあ?」
「かんぜんしょーりでしょ? はいごほうび」
できればおいしいごはん希望!
「ごほうびって、これはただの訓練で賭け事をしたワケじゃ」
「あっはっは! いーじゃないか。アタイの目にも完全勝利にみえたよ。なあ? ちんちくりん」
「ちんちくりんってなんですか……こちらから見てましたけど、グレースさんはみごとにチャールズさまの背後から近づき、その首にナイフを突き立てました」
観戦者が第三者の視点でジャッジいたします。そんでもうひと方も同意見。それはすなわち、はい。
「完全勝利だとおもいます」
「だよね? だよね!」
「まあ、それは認めるが」
「やった! じゃあ今日はおいしいごはんたべよ!」
「……はぁ、しかたない。今日はごちそうにするか」
「やったー!」
おにくだおにくだ! で、そのおにくはドコから調達するのかって?
もちろん自分で仕留めましたよ?
「なーんかナットクできねー」
みんなで火を囲み、その上でぐーるぐーる焼き上げたおにくを切り分けてると、さっきの訓練でこてんぱんにやられた少年が渋い顔をしていた。
「オッサンさ、なんかオレにだけ厳しくね?」
「気のせいだ」
言われたほうは火に木材を追加してる。火起こしからテント張り、なんだったらそのヘンの木を切って丸太にして腰掛けにしたり、おまけに即席の木皿まで作ってくれちゃう。
オジサンマジサバイバルスキルレベルマックス。
「いやそーだろ。トゥーサには体当たりだけで勝負つけたのに、オレはあのスキル使ってふつーに切り合ってたじゃん」
「私の訓練も兼ねてたからな。まあなんだ、おまえはもっと仕込んでやりたくなるんだよ」
「なんだよそれ」
「んー、でも確かにオジサンってスプリットくんにだけ厳しいかも」
って呟いたとたん子犬がキャッキャよろこんでる。
「だろ! ほらグレースだってそう言ってるじゃん」
「そうか?」
オジサンはすっとぼけた顔で言った。
たまに。っていうかわりとよく、オジサンはこういう感じにとぼけてみせる。このヘンが"おとこのひと"って感じだし、やたらスプリットくんに強くあたるのも男の子の問題なんだろーなぁって。
わたしにはよくわかんないや。ああでもひとつだけハッキリしてることがある。
「おにくはうまい」
お皿にみっちり、あったかぁ~いおにく。
「ちゃんと噛んで食べろよ」
「子どもか」
「似たようなもんだろ。っていうか、キミたち全員咀嚼回数が少なすぎだ。とくにグレース、ちょっとはグウェンとトゥーサを見習え。とくにトゥーサを見ろ。ちゃんと味わって食べてるだろ」
「しっかり噛むとより消化吸収がよくなって筋肉に栄養がまわるからな」
「はは、トゥーサらしい理由だ。ただ、そうか。やはり私たちは噛まないほうなのか」
「ん? ビーちゃんなんふぁあったの?」
「飲み込んでからしゃべってくれ――エルフの森にいたころも同じことを言われた。私としてはきちんとやってるつもりなのだが」
言って、彼女はおにくを頬張った。かみかみかみ、ごくん。
(さんかい!?)
わたしだってごかいは噛むのに!
「おまえらなぁ……それでよく胃袋がもつよ」
「そーゆーオジサンはどうなの?」
「私か? 最近は脂っこいのを食うとすぐ満腹になってなぁ。狩猟で生きてはいたが、どっちかってとじっくり煮込んでやわらかくしてから食ってたよ」
「ふーん」
いろいろあるんだね。
それはそれとておにくである。それだけで魅力的なフレーズなんだけど、なんと、いま、わたしの手元にはこーしんりょーという魔法のアイテムがございます。
おにくがよりおいしくなる効果、はつどう!
「ふふーん」
なんかピリッとしたヤツと、ほんのりあまいのと、なんか黒くてつぶつぶしたヤツ。それらをササッと自分の手にふって、ゆびでつまんで、それから指にすり落としていく。
それだけで食欲を誘うかほりが!! おなかがまたぐぅぅって鳴いてきた。
「食ったばかりなのにもう腹ペコかよ」
「えへへー、いただきます!」
わたしはおっきなおにくに噛みついた。まえはこんなの一口で飲み込めたけど、いまの口はちょっとちっちゃいから噛みちぎって食べるんだー。
(あれ?)
まえはって、いつ?
(うーんまあいいや、たーべよ)
こうして夜は過ぎていく。明日からまた旅のつづきだ。
「うん」
うんって。
(あまりの精神体ダメージに口調がかわってる)
「あー不覚だったぁかんっぜんに油断してた」
だらぁっと天を見上げる。まあ森に囲まれてお空は見えないですけど。だからこそ、飛び散った石は木の枝にぶつかったり跳ね返ったりしてランダムな動きになり、みんなの意識を逸らす要因にもなったんだけど。
「サイアクだ。こんな古典的なトラップに引っかかるかふつー?」
「えっへん!」
わたしはムネを張った。なくはない、ああでもビーちゃんには負けるわ。
サっちゃんのそれはぁ、たぶんムネだけどムネじゃない。なにがって聞かれたらこまるけど。
「へぇ、つまりはオレたちの足音にまぎれたってことか」
「重ねて、石を四方八方に放り投げ雑音を追加し、人数の整合性を不可解なものにした。なるほど、すべてこのための布石だったのか」
頭に何発かくらった少年とムネのあるお方が納得した風です。しょーじきそこまで考えてなかったけどうまくいったから結果オーライなのだ。
「で、ごほうびは?」
「ぁあ?」
「かんぜんしょーりでしょ? はいごほうび」
できればおいしいごはん希望!
「ごほうびって、これはただの訓練で賭け事をしたワケじゃ」
「あっはっは! いーじゃないか。アタイの目にも完全勝利にみえたよ。なあ? ちんちくりん」
「ちんちくりんってなんですか……こちらから見てましたけど、グレースさんはみごとにチャールズさまの背後から近づき、その首にナイフを突き立てました」
観戦者が第三者の視点でジャッジいたします。そんでもうひと方も同意見。それはすなわち、はい。
「完全勝利だとおもいます」
「だよね? だよね!」
「まあ、それは認めるが」
「やった! じゃあ今日はおいしいごはんたべよ!」
「……はぁ、しかたない。今日はごちそうにするか」
「やったー!」
おにくだおにくだ! で、そのおにくはドコから調達するのかって?
もちろん自分で仕留めましたよ?
「なーんかナットクできねー」
みんなで火を囲み、その上でぐーるぐーる焼き上げたおにくを切り分けてると、さっきの訓練でこてんぱんにやられた少年が渋い顔をしていた。
「オッサンさ、なんかオレにだけ厳しくね?」
「気のせいだ」
言われたほうは火に木材を追加してる。火起こしからテント張り、なんだったらそのヘンの木を切って丸太にして腰掛けにしたり、おまけに即席の木皿まで作ってくれちゃう。
オジサンマジサバイバルスキルレベルマックス。
「いやそーだろ。トゥーサには体当たりだけで勝負つけたのに、オレはあのスキル使ってふつーに切り合ってたじゃん」
「私の訓練も兼ねてたからな。まあなんだ、おまえはもっと仕込んでやりたくなるんだよ」
「なんだよそれ」
「んー、でも確かにオジサンってスプリットくんにだけ厳しいかも」
って呟いたとたん子犬がキャッキャよろこんでる。
「だろ! ほらグレースだってそう言ってるじゃん」
「そうか?」
オジサンはすっとぼけた顔で言った。
たまに。っていうかわりとよく、オジサンはこういう感じにとぼけてみせる。このヘンが"おとこのひと"って感じだし、やたらスプリットくんに強くあたるのも男の子の問題なんだろーなぁって。
わたしにはよくわかんないや。ああでもひとつだけハッキリしてることがある。
「おにくはうまい」
お皿にみっちり、あったかぁ~いおにく。
「ちゃんと噛んで食べろよ」
「子どもか」
「似たようなもんだろ。っていうか、キミたち全員咀嚼回数が少なすぎだ。とくにグレース、ちょっとはグウェンとトゥーサを見習え。とくにトゥーサを見ろ。ちゃんと味わって食べてるだろ」
「しっかり噛むとより消化吸収がよくなって筋肉に栄養がまわるからな」
「はは、トゥーサらしい理由だ。ただ、そうか。やはり私たちは噛まないほうなのか」
「ん? ビーちゃんなんふぁあったの?」
「飲み込んでからしゃべってくれ――エルフの森にいたころも同じことを言われた。私としてはきちんとやってるつもりなのだが」
言って、彼女はおにくを頬張った。かみかみかみ、ごくん。
(さんかい!?)
わたしだってごかいは噛むのに!
「おまえらなぁ……それでよく胃袋がもつよ」
「そーゆーオジサンはどうなの?」
「私か? 最近は脂っこいのを食うとすぐ満腹になってなぁ。狩猟で生きてはいたが、どっちかってとじっくり煮込んでやわらかくしてから食ってたよ」
「ふーん」
いろいろあるんだね。
それはそれとておにくである。それだけで魅力的なフレーズなんだけど、なんと、いま、わたしの手元にはこーしんりょーという魔法のアイテムがございます。
おにくがよりおいしくなる効果、はつどう!
「ふふーん」
なんかピリッとしたヤツと、ほんのりあまいのと、なんか黒くてつぶつぶしたヤツ。それらをササッと自分の手にふって、ゆびでつまんで、それから指にすり落としていく。
それだけで食欲を誘うかほりが!! おなかがまたぐぅぅって鳴いてきた。
「食ったばかりなのにもう腹ペコかよ」
「えへへー、いただきます!」
わたしはおっきなおにくに噛みついた。まえはこんなの一口で飲み込めたけど、いまの口はちょっとちっちゃいから噛みちぎって食べるんだー。
(あれ?)
まえはって、いつ?
(うーんまあいいや、たーべよ)
こうして夜は過ぎていく。明日からまた旅のつづきだ。