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作者: 犬物語
異世界人おおすぎ問題
引き続きサーカス団のパフォーマンスをお楽しみください
 圧倒されるってこういうことを言うんだ。

 ただ一本の棒に身体をあずけるだけで、人は翼をもつことができる。ときには重力を無視して、両手をほうりだして、その空間を我がもののように踊り舞う。

 彼女を照らすスポットライトは色鮮やかで、時にはその姿に光を浴びせ、時には闇に隠して艶やかな演技を演出してくれる。一片の暗闇から姿を表した彼女は、まるで天使のように輝いて見えた。

 魅了された。さいしょはさむそーなカッコだなみたいに思ってたけど、今はすっかりサーカスいちばんのはながた? のファンになっちゃいました。

「すごかった! ほんとすごかった!」

「そんなに喜んでくれたのかい? ありがとね」

 地に降り立た天使がこちらに笑顔を向け、そしてステージの裏へと消えていく。ステキな時間だからこそあっという間に過ぎてっちゃうんだな。

 そして、また燕尾服のおじいさんが現れ演目のつづきを告げていく。

「この日のために用意しておいたとっておきでございます」

「フッ、偶然遭遇したパーティー相手に口がうまいな」

「何をおっしゃられますチャールズ様。我々一同、みなさまのため存分に腕をふるいましょう――次の演目は炎の魔術師によるパフォーマンスをご披露いたしましょう!」

 言い終わらないうちにイカツイにーちゃんがズバッ! って出てきた。んで手になんかたいまつ持ってる。

「え?」

 で、それをそれをこっちに向けて、

「わひゃああああ!!!」

 息を吹きかけたんだよね、その火に。やさしくふぅ~とかじゃなくて、なんか口に含んでるみず? をまるごとブフォオ! ってかんじで。

 そしたら、その火がこっちに向かって襲いかかってきた。

「な、なんですかいまのは!」

「あぶねーだろこんちくしょう!」

「慌てるなスプリット。そういうショーだ」

 なんて言ってる間にこんどは炎をまとったロープですよおきゃくさん。あーやっぱそれブンブン振り回すのね。

「わーすっごい! なんかキレー!」

 イカツイにーちゃんが上半身裸でくるくるまわってる。両手にロープをもって、っていうか手ぇあつくない? あついよね? だってあのひと汗かいてるもん。

「ほぉ大した度胸だ。一歩まちがえば自らに火の粉が散るというのに」

「オッサンはなんでそんなれーせーなんだよ」

「ふむ、ロープではなく矢じりに火を灯せば効果的か?」

「ビシェル、お前までマジメくさってなに考えてんだ」

「騒がしいぞ……ほら、せっかく無料でプロの芸が見られるんだ。もう少し前に出ていいんだぞ」

 みんなより背がちっちゃい少女を気遣って、オジサンがスペースを用意してくれた。舞い散る火の粉がこわかったのか、その少女ははじめ一歩うしろに下がってたけど、年長者のすすめもありステージのきわに寄っていく。

「……すごい、ですね」

 最前列。ちょっぴり緊張しながらも、グウェンちゃんはたくさんの光に目を奪われていた。

 それからながーーーーーーい一輪車に乗ったりめっちゃはずむ床でジャンプしたり火をつけられたわっかをくぐったり。もうとにかくぜんぶすごかった。なにがいちばんすごいかって、やるひとみんなかんたんそうにこなしてるんだよね。

 わたしだってよ? おししょーさま仕込みの暗殺術でナイフ投げ! とかパパパッとできるかもしんないけど、さすがに仲間の頭に乗せたりんごを狙えって言われたら「むりです」って答えると思う。

 みんなの演目がおわって、さいごにあのおじいさんがシルクハットから一枚のチケットを取り出しオジサンに渡してた。むりょーしょーたいけんって言ってたからそういうアレなんだと思う。

 サーカスはこれからヒガシミョーに向かうって言ってた。わたしたちとは逆方向だけど、オジサンたちがこのチケットをだれかに渡して、それを手にサーカスを訪れる人がいて、そうやってどんどん有名になっていくのだそうだ。よくわかんないけど、オジサンが商魂たくましいなって言ってた。





「半年くらい前だったかねぇ。偶然人を見つけて近くの村まで案内してもらったんだ」

 解散と言いつつサーカステントの中でみんなとおしゃべりしてた時、髪型をもとのふわふわカールに戻した妖しいおねーさんが近くの席に座った。

 やっぱり異世界からやってきた人らしい。例によってこの世界に来るまでの記憶があいまいになってたそうだ。

「あのころは本当にイヤだったわぁ。髪の毛のセットも乱れちまうしさんざんだったよ」

「そーいえばステージの上にいたときはまっすぐだったよね?」

 髪の毛に視線をやって聞いてみる。

「ああこれ? 気分によって変えてるんだよ。まあ昔からの趣味みたいなもんさ」

「むかし? ってことは異世界にやってくる前からそうだったの?」

「ああそうだね……そのはずなんだけどよく覚えてないんだよねぇ」

 手慣れた様子でかみのけを梳く。彼女の髪がゆびの間をすりぬけてやわらかく揺れた。

「いつもだれかの隣で歩いてたような気がするんだけど、それも思い出せやしない。だけど、たまたまこのサーカスのショーを見たときどこか懐かしいって感じたのさ」

 さっきまでポールダンスを披露していた場所を見上げる。

「ここにいれば何かを思い出せそうな気がする。幸い、あたいにゃセンスがあったらしくてね。ポールダンスもイッパツで覚えちまった」

「へぇ~」

 あのスプリットくんを釘付けにしたダンスをですかぁ。

「ん、なに見てんだよ?」

「べっつにぃ」

「ひとつ聞いていいか?」

(およ?)

 珍しくサっちゃんが興味津々な感じでおります。さてどんな質問をするんだろう?

「あの棒にほとんど掴まってなかったよな? アレはどうやってたんだ?」

 その質問を受けて、おねーさんは嬉しそうに笑った。

「何もとくべつなことはしてないよ。ただポールに体重を寄せてくっついてるだけ。力で握ったところですぐに落ちてしまうからね」

「信じらんないねぇ……その身体のどこにあんなパワーが」

「だから力じゃないって言ってるだろ? その頭ン中まで筋肉でできてんのかい?」

「否定はできねーな」

(うんたしかに)

 むしろ肯定派です。

「異世界人はみんなそうなのですか?」

 ふと、すみっこにちょこんと座っていたグウェンちゃんがオジサンにそんなことを訊ねた。

「そう、とは?」

「異世界人はみな記憶がないのですか?」

 オジサンはうーんと考え込んだ。

「わからん。昔の異世界人にそのような症状を訴えたものはいないし、そもそも今の状況がおかしいのだ。ハッキリとは言えんが、異世界人は数年にひとり、同じ年でも数人いたら多いレベルだった。それが今年に限って、私のまわりだけでこれほどいるのだ」

 これほど。視線を右から左に流してそれぞれの異世界人を流し見ていく。

「へえ、みんな異世界人なのかい?」

「うん。オジサン以外はみーんなそうだよ」

 ってことでオトモダチにならない? わたしは元気にそう言った。
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