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作者: 犬物語
モンスター
マモノとは別の存在
 我がパーティーの旅費がカツカツな原因の半分はオジサンにあるとおもう。っていうかお酒たかすぎ! なんでオトナってあんなの飲んでるの! 飲んだことないけどゼッタイまずいよあれヘンなニオイするもん!

 という個人の感想を申し上げたらみんな同意してくれてね? 流れで「オジサンひとりでがんばれ」的な雰囲気を出したらオジサンが泣き出しちゃったのでしぶしぶ現場に向かっているところです。

「マモノの線はうすい。ヤツらは基本的に集団で現れるし見た目ですぐわかる」

 今は凛々しい顔に無精髭。それぞれ専用装備をととのえて町のはなれへと進んでいる途中、さいごの確認がてら"モンスター"とやらについて再確認しているところ。

 この世界にはマモノがいる。それと同じようにモンスターと呼ばれる存在がいる。ただし、それらは野生動物のそれと扱いはかわらず、ただ人間に対し脅威であるか、積極的に襲ってくる存在なのかで判断されている。今回のはどっちも属性もちの贅沢なやつ。メッチャキケンだしあぶない。

 ゆえに高額報酬! 正義の炎を燃やす冒険者やギルドメンバーとかも放っておかないよね。

「町のすぐそばにモンスターが現れるなんて……」

 グウェンちゃんのことばに、オジサンは神妙な面持ちでヒゲをさすった。

「そのモンスターは昨日現れたらしい。本来、モンスターや野生動物たちは人間に寄り付かないはずが……遭遇した人の証言を整理したところこれまでにない名称不明の個体だったという」

「それがもう手配書になってるのか、はえーな」

「町の目と鼻の先にいるとあってはな。実際、町に駐屯する軍や自警団がモンスター退治に乗り出してるが苦戦してるのだろう。だからこそ高額の依頼票が発行されたんだ」

「ふーん。でもギルドの連中も旅の冒険者もノリ気じゃなかったような気がするぜ?」

「まあな」

 依頼票をヒラヒラ振って気の抜けた返事をした。

「知ってるだろうが、この報酬額は単独撃破時のものだ。他パーティーと協力したりすでに軍が動いてるなら報酬はそのぶんだけ減る。で、今回のしごとじゃすでに軍が動いてる」

「なるほど、あまりウマ味がないって判断かよ」

(なんかオトコ二人組がむずかしい話してる……ふぅーん)

 わたしはもういちど、そのモンスターが描かれてる依頼票に目をやった。

 目撃者の証言からつくられたそのモンスターはまるで巨人のようなサイズ感だ。腕も足もぶっとい。顔もデカい。あと大きな金棒? みたいのも持ってる。でも、それらの何より目立つ特徴がその顔にあった。

(おめめがひとつ)

 すっごい不便そう。視界だいじょうぶなのかなぁ。

「さて、未知なる巨大生物との戦いになるが、はじめはどうやって攻めようか?」

「私の弓で牽制しつつスプリットが撹乱。あの巨体では動きが遅くなるはずだ」

「そこでアタイが一撃を喰らわすってワケかい」

「ねえねえわたしは?」

「知らね」

「スプリットくんひどい!」

「トゥーサが近づくまでの援護が要るだろう。私と共にナイフを投擲するか、もしくはスプリットと並行して撹乱に当たるか、それは実際の動きで合わせるしかない」

「さっすがビーちゃんあったまいー!」

「トゥーサのパワーならこいつにダメージを与えられそうだが……想定外も考慮して私は臨機応変に対応するとしよう。グウェンは被害を受けてるだろう軍や自警団の回復を頼む」

「わかりました」

 オジサンが最後に締め、臨時の作戦タイムが終了した。すでに鉱山が視界に入っており、気のせいか爆発音のような音がとおくから聞こえてくる。それをわたし以上に鋭く感じ取ったスプリットくんが、鉱山の方向に目を細めた。

「ん……聞こえる」

「戦いの音か?」

「ああ。デカい音にヒトの怒号。どーやら盛り上がってるようだぜ」

「のんびり歩いていたら軍の連中へのイメージが悪くなるな」

「あ、おい!」

 走り出したオジサンをそれぞれが追いかけていく。その背中についていくにつれ、戦闘の激しさを物語る音が徐々に増していくのだった。





アレ・・がそうか」

 鉱山ちかくの雑木林。その奥のひらけた場所に飛び出したオジサンが思わずそう口走ったのは、モンスターが生物としてあまりにも規格外のサイズをしていたから。

「なるほど、あれだけの報奨金を用意するわけだ」

「ちょっとまってくれ。依頼票だとこんなデカくなかったはずじゃないかい?」

 サっちゃんですらモンスターをほぼ真上に見上げている。まるで山のように巨大な身体。足の長さだけでわたしたち全員の身長を超えてそうなほどに背が高く、手に持つ金棒はそびえ立つタワーを引っこ抜いたよう。依頼票はモノクロだったけど、実際の身体は燃えるような赤い色をしていた。

「はは、アタイが全力で体当たりしても倒れてくれるかどうか」

 サっちゃんが拳を握りしめ乾いた笑いを浮かべてる。みんなもそれに倣って絶望しきった表情だ。

「やってみないことにはわからん。まずは作戦通りに動くぞ!」

 唯一、戦い慣れした最年長だけが前向きなことばを放った。

(あれ、でも、うーん、あれ?)

 こんなモンスターは生まれてはじめて遭遇したはず。そうなんだけどどこか馴染みあるというか、はじめて会ったかんじがしない。

「おい、グレースどうした? なにボケッと突っ立ってんだよ」

「……あ」

 思い出した。

「サイクロプスだ!」

「なに?」

「ほらサイクロプスだよサイクロプス! あのひとつ目のモンスター!」

「グレース、よもやあのモンスターを知ってるのか?」

「……ああ」

 スプリットくんがすこし考えてから思い出したかのように相槌をうった。ほかのみんなもつい今しがた記憶を掘り起こしたみたいに「そういえば」とじぶんの頭の中を覗き込んでいる。例外に、この世界の住人だけが情報を求めていた。

「グレース、よもやあのモンスターを知ってるのか?」

「なんかの神話のひとで、目がひとつだけで、えーっともうわかんないビーちゃんなんか知ってる!?」

「ぇえ! いきなりそんなこと……たしか、神話では鍛冶の神だったような」

「それで、弱点はあるのか?」

「わかんない!」

「そ、そうか」

 オジサンがガクリと肩を落とした。

「ま、まあここで立ち止まってもしかたない。とりあえず作戦通りに行くぞ! 準備はいいな?」

「うん!」

 声色に緊張がはしり、それに背中を押されみんなの心にも火がついた。モンスターは金棒を振り回しておおぜいの人を薙ぎ払っている。これ以上被害を出さないためにも戦わなきゃ!

「みんなをイジメるヤツは――ゆるさない!」
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