ニックネームは大事
初対面からなかよしになるため
ブーラーさんはずっと扉の前で待ってた。なんか目を閉じて、たまにオジサンやスプリットくんがしてる、なんだっけ? えーっとめいそう? をしてたのかな。
さっきより雲が目立ってきた。まだ白く、あたたかい風が吹き抜けてるから雨になることはなさそうだ。それでも夜冷えてしまうことがあり得るし、フラーの城門は夜間閉鎖してしまうのでスタイリッシュなお仕事ぶりを発揮せねばなるまい。
「まぁ、動物を追い払うだけだから楽勝だよねー」
「いきなりなんですの?」
心のなかで済ましたつもりが、つい口に出ちゃったっぽい。怪訝な顔をするあんずちゃんに、わたしは顔を向けずに答えを返した。
「ううんべつに」
「はぁ……それにしても、本当にこんなところに野生動物の群れがいるのでしょうか?」
ついついこぼれたわたしの独り言が、彼女の思いを外に表現させたようだ。
「油断めされるな。どのような仕事も全力を尽くさねば、いざというとき力を発揮できない」
まっくろ牧師がオジサンが言いそうなことを再生する。威圧感たっぷりの出で立ちは、街中ですれ違う人の注目をけっこー浴びてたけど、彼は彼でその視線に慣れきってしまっているらしい。
(黒人さんだよね?)
この世界は異世界ヨーロッパ的な雰囲気を醸し出しておいて、その実建物や文化はいろんなものが混ざってる。
そこで暮らす人もいろんな人がいて、わたしたちと同じような顔の人もいればちょっと鼻が高い人、いろんな色の髪の毛の人、そしてブーラーさんのように肌の黒い人までわーるどわいどなのだ。
(でも絶対数は少なかったよね……いないことはなかったけど)
なんでだろう? なんてことを考えてるうちに新しい言葉が飛び交った。
「しかし、それがそなたらの戦衣装か。およそ駆け出し冒険者とは思えんな」
言いながら、彼はこちらの装備をまじまじと見つめた。
「だからバリバリの冒険者だって言ってるじゃん」
(それに、依頼内容は動物を追い払うだけでいいんだけど、街の外では何があるかわからないもんね)
にしてもブーラーさんいちいち古臭い口調だなぁ。
(んー、さんはちょっと距離感)
なんかいー感じの呼び方があれば、さてどうしたものか。
「ブーラーさんはそのままでよろしいのですか?」
「拙者は戦いを望まぬ。しかし自衛の術は心得ているし、なにより拙者は僧侶だ。回復役を担おう」
自身の杖を見せ役割をアピールする。いち枚のローブの中にはたくましい筋肉が隠されており、彼の言葉がウソではないことを証明している。
それはそれとしてブーラーさんのニックネーム問題だ。はてさてどのような呼びが良いのやら。
(ブーラー、ブー、いやそれはイジメじゃない? ラーはなんかしっくりこない。んー)
「ブラ?」
あーダメだこれセクハラだ。
「だからいきなりなんですの!?」
あんずちゃんのツッコミスキルが上達した。
「なんかしっくりこなくてぇ……じゃあブッちゃん?」
「は」
当の本人が、疑問とも同意ともつかない渋いイントネーションで音を発した。
(あ、でもいまのいーかも)
だって僧侶だし? ちゃんと仏の道っぽい響きだし?
この世界の宗教はどっちかってと西洋? なんか背中に十字架背負ってそうな団体さまだけどブッちゃんはふつーにブッちゃんだよね?
「じゃあブッちゃんで」
「は」
こんどはより疑問符が強調されたトーンになった。
「え、だめ?」
「グレースさん。いきなりだめ? と言われてもちんぷんかんぷんですわ」
こんどは呆れたような口調であんずちゃんがこちらに顔を向けた。
「きちんと呼び名についての話だと言ってくれませんと」
「よびな」
こらこらブッちゃん。話の流れが見えないからってただ他人の発音をたどればいいってもんじゃないから。
「ブーラーさんのニックネームだよ。じゃあこれからよろしくブッちゃん!」
「ぶっちゃん……まあ、それで結束が深まるのであれば、それで」
いいのか? って顔。よし、つまりオーケーということだ。
「それじゃあ行くぞー、おー!」
「あ、ちょっと待ってくださいな!」
重大な懸念事項が解決したことによりグレースちゃんのテンションバク上がり。思わず歩速もアップしつつ、まだまだ太陽が傾くには時間がかかりそう。
記念すべき初仕事。その成功を祈るかのように、雲間から差し込む日差しがわたしたちを照らしてくれた。
さっきより雲が目立ってきた。まだ白く、あたたかい風が吹き抜けてるから雨になることはなさそうだ。それでも夜冷えてしまうことがあり得るし、フラーの城門は夜間閉鎖してしまうのでスタイリッシュなお仕事ぶりを発揮せねばなるまい。
「まぁ、動物を追い払うだけだから楽勝だよねー」
「いきなりなんですの?」
心のなかで済ましたつもりが、つい口に出ちゃったっぽい。怪訝な顔をするあんずちゃんに、わたしは顔を向けずに答えを返した。
「ううんべつに」
「はぁ……それにしても、本当にこんなところに野生動物の群れがいるのでしょうか?」
ついついこぼれたわたしの独り言が、彼女の思いを外に表現させたようだ。
「油断めされるな。どのような仕事も全力を尽くさねば、いざというとき力を発揮できない」
まっくろ牧師がオジサンが言いそうなことを再生する。威圧感たっぷりの出で立ちは、街中ですれ違う人の注目をけっこー浴びてたけど、彼は彼でその視線に慣れきってしまっているらしい。
(黒人さんだよね?)
この世界は異世界ヨーロッパ的な雰囲気を醸し出しておいて、その実建物や文化はいろんなものが混ざってる。
そこで暮らす人もいろんな人がいて、わたしたちと同じような顔の人もいればちょっと鼻が高い人、いろんな色の髪の毛の人、そしてブーラーさんのように肌の黒い人までわーるどわいどなのだ。
(でも絶対数は少なかったよね……いないことはなかったけど)
なんでだろう? なんてことを考えてるうちに新しい言葉が飛び交った。
「しかし、それがそなたらの戦衣装か。およそ駆け出し冒険者とは思えんな」
言いながら、彼はこちらの装備をまじまじと見つめた。
「だからバリバリの冒険者だって言ってるじゃん」
(それに、依頼内容は動物を追い払うだけでいいんだけど、街の外では何があるかわからないもんね)
にしてもブーラーさんいちいち古臭い口調だなぁ。
(んー、さんはちょっと距離感)
なんかいー感じの呼び方があれば、さてどうしたものか。
「ブーラーさんはそのままでよろしいのですか?」
「拙者は戦いを望まぬ。しかし自衛の術は心得ているし、なにより拙者は僧侶だ。回復役を担おう」
自身の杖を見せ役割をアピールする。いち枚のローブの中にはたくましい筋肉が隠されており、彼の言葉がウソではないことを証明している。
それはそれとしてブーラーさんのニックネーム問題だ。はてさてどのような呼びが良いのやら。
(ブーラー、ブー、いやそれはイジメじゃない? ラーはなんかしっくりこない。んー)
「ブラ?」
あーダメだこれセクハラだ。
「だからいきなりなんですの!?」
あんずちゃんのツッコミスキルが上達した。
「なんかしっくりこなくてぇ……じゃあブッちゃん?」
「は」
当の本人が、疑問とも同意ともつかない渋いイントネーションで音を発した。
(あ、でもいまのいーかも)
だって僧侶だし? ちゃんと仏の道っぽい響きだし?
この世界の宗教はどっちかってと西洋? なんか背中に十字架背負ってそうな団体さまだけどブッちゃんはふつーにブッちゃんだよね?
「じゃあブッちゃんで」
「は」
こんどはより疑問符が強調されたトーンになった。
「え、だめ?」
「グレースさん。いきなりだめ? と言われてもちんぷんかんぷんですわ」
こんどは呆れたような口調であんずちゃんがこちらに顔を向けた。
「きちんと呼び名についての話だと言ってくれませんと」
「よびな」
こらこらブッちゃん。話の流れが見えないからってただ他人の発音をたどればいいってもんじゃないから。
「ブーラーさんのニックネームだよ。じゃあこれからよろしくブッちゃん!」
「ぶっちゃん……まあ、それで結束が深まるのであれば、それで」
いいのか? って顔。よし、つまりオーケーということだ。
「それじゃあ行くぞー、おー!」
「あ、ちょっと待ってくださいな!」
重大な懸念事項が解決したことによりグレースちゃんのテンションバク上がり。思わず歩速もアップしつつ、まだまだ太陽が傾くには時間がかかりそう。
記念すべき初仕事。その成功を祈るかのように、雲間から差し込む日差しがわたしたちを照らしてくれた。