ちゃんと戦えるのですよ
だてに用心棒してなかったのよあんずちゃんは
「うひゃあ!」
地面にもぐり、そこが水辺であるかのように泳ぐウロコ。背中と顔だけちょっこり出してこちらのスキを伺っている。
モグラかな? いいえワニです。
「油断ならぬ相手よ」
こちらを取り囲むようにひとつ、ふたつ――より深くに潜っていなければ、ワニの数はぜんぶで三体。不意を打たれぬよう、わたしたちは互いに背中をよせそれぞれの視野を確保した。
「どうやら、地中深く潜る能力はないらしいな」
「わかるの?」
「こいつらの生態を考えた上での予測、あとカンだ」
「根拠のない自信はいりませんわよ!」
一匹のワニが、地面から土を巻き上げてあんずちゃんめがけ飛びかかった。
直角以上にあんぐり口が開く。鋭い牙をむき出しに迫るそれに対し、大剣をひっさげた少女は大きな予備動作で獲物を振るう。おお、あんずちゃん意外と動ける。
「でもやっぱ重くない?」
「そんなことありませんわ!」
勢いで振り上げて、大剣の重さを利用してぶち落とす。大きな爆発音とともにウロコが分断されワニは動かなくなった。
「やるぅ!」
んじゃこっちもおしごとモードに入りますかね。
(うん、よく見て対応すればかんたんな部類だ)
いわゆるワンパターン。潜水、んーっとせんつち? して背後や側面からしかけるタイプ。捕食動物がよくやる手口。いままでの獲物はそれでどーにかできたけど、残念ながら今回のターゲットは人間さまなのだ。
「狩るか狩られるか。そんな舞台に立ったことある?」
ま、そんなこと言っても通じないだろうけどね。
「まるわかりだよ!」
右から仕掛けてきたワニをジャンプしてかわし、そのすれ違いざまにナイフを突き立てる。
キィンと小気味よい音をたて弾かれた。あっらー意外と硬い装甲のようで。
あんずちゃんみたいに力にモノを言わせりゃ別なんでしょうけど、こっちはパワーじゃなくスキルでなんとかするタイプなのだ。ってことでウロコの間を縫ってヤりましょうかね。
(この程度ならスキル使わなくても楽勝!)
宣言通り、わたしはスキルを使わず素のダッシュだけでワニに肉薄し、地面に潜る前に硬い鱗のスキマへナイフを突き立てた。
ワニの絶叫がこだまする。っていうかこんな鳴き声だったのワニさん?
「ンもう、うるさいよ!」
キミは肉なの。弱肉強食のおにく。
どんな味なのかな? 焼くより煮たほうがおいしいのかな? そんなことを考えながら、わたしはさらに刃物をえぐりこませていくのだった。
「ほう、おおよそ初心者とは思えん身のこなし」
「だからいっぱしの冒険者だって言ってるじゃん」
なんて軽口を叩き合いつつ、チーム唯一の男子にして筋肉担当? の僧侶さんがさいごのワニと攻防を繰り広げている。
余裕ぶっこいて倒せてないじゃん! とツッコミを入れてやろうと思ったのだがちょっち事情があるらしい。っていうのも、ブッちゃんのほうはいっさい攻撃を仕掛けてないのだ。
受け止め、受け流す。相手の疲弊を待ってるのかな? と考えたけどなんかそうでもなさそう。
なんでかな? と尋ねる前に彼が動く。ワニがちょうどブッちゃんとあんずちゃんの間に割り込んだとき、大きくて黒い手がローブの中から姿をみせる。
その手が拳をつくる。子どもの頭をまるごと包んでしまえそうなサイズ。その手が瞬く間に光り、彼はその言葉を言い放った。
「スキル、掌波!」
あーなるほどわかった、タイミングを待ってたんだ。
「えっ?」
「あんずちゃーん! あとはよろしくねー!」
「え、なっ!」
地中を這ってたワニがこんどは空中キリモミ旋回からのダイビング。これにはですわ系少女騎士が下敷きになる未来しか見えないか――っと思いきや、またこの少女見せてくれましたよ。
「スキル、嵐!」
そう叫んだあんずちゃん。大剣をブンブン振り回したではありませんか。
「おお!」
砂塵が巻き上がるまでに風力アップ。なんか知らんけどワニがダメージ負ってるっぽい。ただ頑丈なウロコがなんとか耐え忍ぶも、吹っ飛んだ先にまっていたぶっとい剣が見事粉砕。
ベキィ! とかメシィ! 的な音をたてワニの背中をくの字に曲げて、最後にゃそのまま地面にどっすんこ。これはもれなくケー、オーというヤツですね。
「っふう。もう」
ひと仕事終えたって顔のあんずちゃん。しかしすぐ黒人僧侶に向き直り抗議の視線とおことばを贈りました。
「わたくしとグレースさんが一匹ずつ仕留めたのですから、最後はブーラーさんがやるべきではなかったですの?」
「結果良ければすべて重畳」
キズどころか埃や塵ひとつローブにつけず、ブッちゃんは紳士な態度で佇むのであった。
地面にもぐり、そこが水辺であるかのように泳ぐウロコ。背中と顔だけちょっこり出してこちらのスキを伺っている。
モグラかな? いいえワニです。
「油断ならぬ相手よ」
こちらを取り囲むようにひとつ、ふたつ――より深くに潜っていなければ、ワニの数はぜんぶで三体。不意を打たれぬよう、わたしたちは互いに背中をよせそれぞれの視野を確保した。
「どうやら、地中深く潜る能力はないらしいな」
「わかるの?」
「こいつらの生態を考えた上での予測、あとカンだ」
「根拠のない自信はいりませんわよ!」
一匹のワニが、地面から土を巻き上げてあんずちゃんめがけ飛びかかった。
直角以上にあんぐり口が開く。鋭い牙をむき出しに迫るそれに対し、大剣をひっさげた少女は大きな予備動作で獲物を振るう。おお、あんずちゃん意外と動ける。
「でもやっぱ重くない?」
「そんなことありませんわ!」
勢いで振り上げて、大剣の重さを利用してぶち落とす。大きな爆発音とともにウロコが分断されワニは動かなくなった。
「やるぅ!」
んじゃこっちもおしごとモードに入りますかね。
(うん、よく見て対応すればかんたんな部類だ)
いわゆるワンパターン。潜水、んーっとせんつち? して背後や側面からしかけるタイプ。捕食動物がよくやる手口。いままでの獲物はそれでどーにかできたけど、残念ながら今回のターゲットは人間さまなのだ。
「狩るか狩られるか。そんな舞台に立ったことある?」
ま、そんなこと言っても通じないだろうけどね。
「まるわかりだよ!」
右から仕掛けてきたワニをジャンプしてかわし、そのすれ違いざまにナイフを突き立てる。
キィンと小気味よい音をたて弾かれた。あっらー意外と硬い装甲のようで。
あんずちゃんみたいに力にモノを言わせりゃ別なんでしょうけど、こっちはパワーじゃなくスキルでなんとかするタイプなのだ。ってことでウロコの間を縫ってヤりましょうかね。
(この程度ならスキル使わなくても楽勝!)
宣言通り、わたしはスキルを使わず素のダッシュだけでワニに肉薄し、地面に潜る前に硬い鱗のスキマへナイフを突き立てた。
ワニの絶叫がこだまする。っていうかこんな鳴き声だったのワニさん?
「ンもう、うるさいよ!」
キミは肉なの。弱肉強食のおにく。
どんな味なのかな? 焼くより煮たほうがおいしいのかな? そんなことを考えながら、わたしはさらに刃物をえぐりこませていくのだった。
「ほう、おおよそ初心者とは思えん身のこなし」
「だからいっぱしの冒険者だって言ってるじゃん」
なんて軽口を叩き合いつつ、チーム唯一の男子にして筋肉担当? の僧侶さんがさいごのワニと攻防を繰り広げている。
余裕ぶっこいて倒せてないじゃん! とツッコミを入れてやろうと思ったのだがちょっち事情があるらしい。っていうのも、ブッちゃんのほうはいっさい攻撃を仕掛けてないのだ。
受け止め、受け流す。相手の疲弊を待ってるのかな? と考えたけどなんかそうでもなさそう。
なんでかな? と尋ねる前に彼が動く。ワニがちょうどブッちゃんとあんずちゃんの間に割り込んだとき、大きくて黒い手がローブの中から姿をみせる。
その手が拳をつくる。子どもの頭をまるごと包んでしまえそうなサイズ。その手が瞬く間に光り、彼はその言葉を言い放った。
「スキル、掌波!」
あーなるほどわかった、タイミングを待ってたんだ。
「えっ?」
「あんずちゃーん! あとはよろしくねー!」
「え、なっ!」
地中を這ってたワニがこんどは空中キリモミ旋回からのダイビング。これにはですわ系少女騎士が下敷きになる未来しか見えないか――っと思いきや、またこの少女見せてくれましたよ。
「スキル、嵐!」
そう叫んだあんずちゃん。大剣をブンブン振り回したではありませんか。
「おお!」
砂塵が巻き上がるまでに風力アップ。なんか知らんけどワニがダメージ負ってるっぽい。ただ頑丈なウロコがなんとか耐え忍ぶも、吹っ飛んだ先にまっていたぶっとい剣が見事粉砕。
ベキィ! とかメシィ! 的な音をたてワニの背中をくの字に曲げて、最後にゃそのまま地面にどっすんこ。これはもれなくケー、オーというヤツですね。
「っふう。もう」
ひと仕事終えたって顔のあんずちゃん。しかしすぐ黒人僧侶に向き直り抗議の視線とおことばを贈りました。
「わたくしとグレースさんが一匹ずつ仕留めたのですから、最後はブーラーさんがやるべきではなかったですの?」
「結果良ければすべて重畳」
キズどころか埃や塵ひとつローブにつけず、ブッちゃんは紳士な態度で佇むのであった。