初心者じゃない
みんなヤればできるんだよ
ヤればね
でもヤるかどうかはその子次第。だって彼らは――
ヤればね
でもヤるかどうかはその子次第。だって彼らは――
「なんだぁ、みんなできるじゃん」
方や頼りない女騎士、方や個人的に見掛け倒し説マシマシだったこのパーティ。いざとなったら自分ひとりで済ませちゃおと思ってたけどなんだぁ、みんなできるじゃん。
大事なことだからニ回言いました。
「今ので最後ですの?」
心配そうにあたりを見渡すあんずちゃん。そういうしぐさだけ見るといかにもザコですって感じなの。まぁでも、悪徳企業で用心棒やってたんだから当たり前か。
(たぶんいろんなひとに絡まれただろうし)
例えば借金まみれで無敵の人になっちゃった人とか。そういうなりふり構わないってタイプいちばん対処に困るんだよね、なに仕掛けてくるかわからないから。
ほか勢力争いでお互い用心棒雇ってたパターンとかいろいろ妄想膨らませてるところ、まっくろ僧侶さんが静かに歩みを進めてきた。
「御見逸れした。どうやら拙者が助力するまでもない技量をお持ちのようだ」
「ようやくわかってくださいましたか」
あんずちゃんがドデカい剣を地面に突き立てた。戦闘ではブンブン振り回してたけど、やっぱ手持ちとするには重たいらしい。そんなのよく背負ってられるよ。
(ま、こっちもたくさん詰まってるんだけどね)
暗器って意外と重たいんだよ?
「ケガをしているな」
「えっ」
あんずちゃんが僧侶の視線に気づき足元を見ると、ふくらはぎのあたりが少し赤くなっていた。微妙に血っぽいものも見えてる。
「少し動かないままで」
ブッちゃんが膝をつきそのケガに手を這わせた。いきなり触れられたことにビクっとするあんずちゃん。それでも言われたとおり、彼が傷口を見るジャマをせず見守る。
「あるがままの姿に――スキル、治癒促進」
「ッ!」
彼のことばに従い、その手とキズのまわりがにわかに光りだす。みるみるうちにキズが塞がれていき、あんずちゃんはむず痒さをガマンするように身体をモモジモジとさせた。
「ん、ちょっとくすぐったいですわ」
「自己治癒能力を促進させるスキルだ。治療スキルと異なり己自身のリソースを使う故、帰還後はたらふく栄養補給するといい」
(じこちゆ? りそーす? えいようほきゅう?)
ちんぷんかんぷんなんですがそれは。ほらあんずちゃんも頭にはてなマークいつつくらいあるし。
「どゆこと?」
「拙者の力ではなくあんず自身の力でキズを直したということだ」
「へーなるほど。じゃあフツーの治療と違うんだ」
僧侶は自分のアゴに指をくっつけた。
「うむ、使いすぎればあんずが死ぬ」
「ちょっと待ってなんですのソレ!?」
ツッコミ役がナイスツッコミを披露した。
「それより、もう周囲に敵影はないか?」
「うーん……」
グレースちゃんセンサーをフル活用して周囲を探索する。
(そんなスキルないけどね~)
なんていうか、野生のカン? それはともかくサーチんぐなら高いところに登るが吉なんだけど、今回のワニさんからして木登りよか地面におみみ当てたほうがいいかもしんない。
っていうカンに基づき地面にペタリと耳を当てた。おー、あんずちゃんとブッちゃんの心音がする。どっくんどっくん元気だねー。
それ以外の音は? 何者かが潜む気配なーし、ワニが接近する気配なーし。
(っていうかワニワニパニックはもうお腹いっぱいかなぁ……あっ)
「あー」
その音が耳に入って、わたしはこの中で最も巨大な男性に視線を向ける。彼はただ黙ってこちらを見返し、とくに足を動かす様子はない。
「なるほどなー、そうかー、はー」
また地べたにおみみ。
どしん、どしん。
こりゃあ間違いねーわ。
「グレースさん? なにかあったのですか?」
おとなりで心配性の女性騎士。それに返事することなく、わたしはさらに接近するその音に耳を傾けた。
(近いなぁ)
「これを見ろ」
そんななか、ブッちゃんがこちらに向け視線を促す。ひとまずエンカウント確定なのは置いといて、はいはいなんでしょ僧侶さま?
「これは野生動物ではなかったのか?」
と言って示したワニの死骸。それはやがて漆黒に変色し粒子となって霧散していく。
「マモノ、ですの?」
あんずちゃん御名答。いやちょっとまて。
「マモノってぜんぶまっくろじゃなかったっけ? それこそブッちゃん以上にまっくろくろすけでしょ」
「拙者はケンカを売られているのか」
「違うし、事実だし」
「うむ、お主もサルのように狡猾でチョコチョコ動き回るな」
「サルじゃないも人間だもん!」
(――そうだったっけ?)
あれ、なんか頭の中でピリッと電気が走ったような。
「いやちょっとまって」
わたしは重大事項に気付いた。
(今日のお夕飯ナシってこと? うわだっるぅ~)
「それよりグレースさん、何か感じていたのではありませんの?」
「あー、うん。もうすぐ見えるよ」
わたしはモチベーションをすべて持ってかれた声色で答えた。っていうかみんなも聞こえるでしょ? この地響き。
その方向にみんなして目を向けると、木々の間からまた巨大な生き物が姿を現した。
「親玉登場というわけか」
「大きいですわね……倒せますの?」
あんずちゃんがソレを見上げてつぶやいた。
身体の大きさはブッちゃんの四倍くらいか。身体は赤みがかっておりやや太っちょ体型。でも、いわゆるひとつのデブではなさそう。
(動けるデブと動けないデブの違いとは?)
まあそれは置いといて。身体はいかにも鬼っぽいようなナリに対し、ブッちゃんがワニの親玉と評価したりゆうはその頭にあった。
ワニです。めっちゃワニです。ただしカラーリングはまっかっか。
黄色いめんたまに縦長の瞳孔。いかにも近距離パワー型だけど、まさか潜土能力持ちだったりするかな。
(まあでも、以前戦ったひとつ目のモンスターより小さいし棍棒も持ってないしラクショーでしょ)
「あっくんの得物ならだいじょーぶだよ」
「まだそのニックネーム諦めてませんでしたの!?」
「来るぞ!」
そんなやりとりをしてる間に巨体の影が迫り、ブッちゃんが声をあげた。
「うっわーお、わりと素早い」
それぞれの方向に飛んでかわしつつ、わたしはこの間の戦闘を思い出していた。
ひとつ目の超巨大モンスター。あれの弱点は目だった。
(そういえば、あの時の女の子どこ行っちゃったんだろう?)
巨体のめんたまをただの一閃で仕留めたナゾの女性を思い出す。ううん、今はこの戦いに集中しないとね。
「ここからが本番だぜぃ!」
スプリットくんのマネをしてみた。
「マジメにやってくださいます!?」
「ふざけるな」
あんまり盛り上がらなかった。
スプリットくんのばか。
方や頼りない女騎士、方や個人的に見掛け倒し説マシマシだったこのパーティ。いざとなったら自分ひとりで済ませちゃおと思ってたけどなんだぁ、みんなできるじゃん。
大事なことだからニ回言いました。
「今ので最後ですの?」
心配そうにあたりを見渡すあんずちゃん。そういうしぐさだけ見るといかにもザコですって感じなの。まぁでも、悪徳企業で用心棒やってたんだから当たり前か。
(たぶんいろんなひとに絡まれただろうし)
例えば借金まみれで無敵の人になっちゃった人とか。そういうなりふり構わないってタイプいちばん対処に困るんだよね、なに仕掛けてくるかわからないから。
ほか勢力争いでお互い用心棒雇ってたパターンとかいろいろ妄想膨らませてるところ、まっくろ僧侶さんが静かに歩みを進めてきた。
「御見逸れした。どうやら拙者が助力するまでもない技量をお持ちのようだ」
「ようやくわかってくださいましたか」
あんずちゃんがドデカい剣を地面に突き立てた。戦闘ではブンブン振り回してたけど、やっぱ手持ちとするには重たいらしい。そんなのよく背負ってられるよ。
(ま、こっちもたくさん詰まってるんだけどね)
暗器って意外と重たいんだよ?
「ケガをしているな」
「えっ」
あんずちゃんが僧侶の視線に気づき足元を見ると、ふくらはぎのあたりが少し赤くなっていた。微妙に血っぽいものも見えてる。
「少し動かないままで」
ブッちゃんが膝をつきそのケガに手を這わせた。いきなり触れられたことにビクっとするあんずちゃん。それでも言われたとおり、彼が傷口を見るジャマをせず見守る。
「あるがままの姿に――スキル、治癒促進」
「ッ!」
彼のことばに従い、その手とキズのまわりがにわかに光りだす。みるみるうちにキズが塞がれていき、あんずちゃんはむず痒さをガマンするように身体をモモジモジとさせた。
「ん、ちょっとくすぐったいですわ」
「自己治癒能力を促進させるスキルだ。治療スキルと異なり己自身のリソースを使う故、帰還後はたらふく栄養補給するといい」
(じこちゆ? りそーす? えいようほきゅう?)
ちんぷんかんぷんなんですがそれは。ほらあんずちゃんも頭にはてなマークいつつくらいあるし。
「どゆこと?」
「拙者の力ではなくあんず自身の力でキズを直したということだ」
「へーなるほど。じゃあフツーの治療と違うんだ」
僧侶は自分のアゴに指をくっつけた。
「うむ、使いすぎればあんずが死ぬ」
「ちょっと待ってなんですのソレ!?」
ツッコミ役がナイスツッコミを披露した。
「それより、もう周囲に敵影はないか?」
「うーん……」
グレースちゃんセンサーをフル活用して周囲を探索する。
(そんなスキルないけどね~)
なんていうか、野生のカン? それはともかくサーチんぐなら高いところに登るが吉なんだけど、今回のワニさんからして木登りよか地面におみみ当てたほうがいいかもしんない。
っていうカンに基づき地面にペタリと耳を当てた。おー、あんずちゃんとブッちゃんの心音がする。どっくんどっくん元気だねー。
それ以外の音は? 何者かが潜む気配なーし、ワニが接近する気配なーし。
(っていうかワニワニパニックはもうお腹いっぱいかなぁ……あっ)
「あー」
その音が耳に入って、わたしはこの中で最も巨大な男性に視線を向ける。彼はただ黙ってこちらを見返し、とくに足を動かす様子はない。
「なるほどなー、そうかー、はー」
また地べたにおみみ。
どしん、どしん。
こりゃあ間違いねーわ。
「グレースさん? なにかあったのですか?」
おとなりで心配性の女性騎士。それに返事することなく、わたしはさらに接近するその音に耳を傾けた。
(近いなぁ)
「これを見ろ」
そんななか、ブッちゃんがこちらに向け視線を促す。ひとまずエンカウント確定なのは置いといて、はいはいなんでしょ僧侶さま?
「これは野生動物ではなかったのか?」
と言って示したワニの死骸。それはやがて漆黒に変色し粒子となって霧散していく。
「マモノ、ですの?」
あんずちゃん御名答。いやちょっとまて。
「マモノってぜんぶまっくろじゃなかったっけ? それこそブッちゃん以上にまっくろくろすけでしょ」
「拙者はケンカを売られているのか」
「違うし、事実だし」
「うむ、お主もサルのように狡猾でチョコチョコ動き回るな」
「サルじゃないも人間だもん!」
(――そうだったっけ?)
あれ、なんか頭の中でピリッと電気が走ったような。
「いやちょっとまって」
わたしは重大事項に気付いた。
(今日のお夕飯ナシってこと? うわだっるぅ~)
「それよりグレースさん、何か感じていたのではありませんの?」
「あー、うん。もうすぐ見えるよ」
わたしはモチベーションをすべて持ってかれた声色で答えた。っていうかみんなも聞こえるでしょ? この地響き。
その方向にみんなして目を向けると、木々の間からまた巨大な生き物が姿を現した。
「親玉登場というわけか」
「大きいですわね……倒せますの?」
あんずちゃんがソレを見上げてつぶやいた。
身体の大きさはブッちゃんの四倍くらいか。身体は赤みがかっておりやや太っちょ体型。でも、いわゆるひとつのデブではなさそう。
(動けるデブと動けないデブの違いとは?)
まあそれは置いといて。身体はいかにも鬼っぽいようなナリに対し、ブッちゃんがワニの親玉と評価したりゆうはその頭にあった。
ワニです。めっちゃワニです。ただしカラーリングはまっかっか。
黄色いめんたまに縦長の瞳孔。いかにも近距離パワー型だけど、まさか潜土能力持ちだったりするかな。
(まあでも、以前戦ったひとつ目のモンスターより小さいし棍棒も持ってないしラクショーでしょ)
「あっくんの得物ならだいじょーぶだよ」
「まだそのニックネーム諦めてませんでしたの!?」
「来るぞ!」
そんなやりとりをしてる間に巨体の影が迫り、ブッちゃんが声をあげた。
「うっわーお、わりと素早い」
それぞれの方向に飛んでかわしつつ、わたしはこの間の戦闘を思い出していた。
ひとつ目の超巨大モンスター。あれの弱点は目だった。
(そういえば、あの時の女の子どこ行っちゃったんだろう?)
巨体のめんたまをただの一閃で仕留めたナゾの女性を思い出す。ううん、今はこの戦いに集中しないとね。
「ここからが本番だぜぃ!」
スプリットくんのマネをしてみた。
「マジメにやってくださいます!?」
「ふざけるな」
あんまり盛り上がらなかった。
スプリットくんのばか。