スライムが需要あると聞いて
スライムが弱キャラと言われたのはいつまでだったか
「ちょうどいい。ここをキャンプ地としよう」
黒焦げの山を積み上げてる最中、黒焦げじゃないけど黒っぽい僧侶がそうつぶやいた。
理由はかんたん。盗賊さんがたっぷり蓄えた備蓄に狩猟で得た食糧。上を見上げれば光が差し込み、その空気穴のおかげでここで火起こしすることも可能だ。
事実、わたしはドサクサに紛れておにくをぐるりぐるりの真っ最中である。上手に焼けたかな?
「ちょっとグレース。こっち手伝いなさいよ」
「えー」
ちっこい魔王少女、じゃなかった魔法少女にどやされ立ち上がる。こういうのは火加減が大事なんだけどなぁ。
「こらそこロープ緩んでるじゃないの」
「わかったよぅ」
グロッキーな盗賊どもをまとめて縛る。完成した人間ボールを投げてはしって咥える遊びはしなくて、ドロちんが身の丈に合わない杖をそれに向け意識を集中させていた。
「こんなものね……力は心に寄りて力たり」
「なにそれ?」
「スキル強化呪文。集中したいから話しかけないで」
「はぁーい」
(ちぇ、教えてくれてもいーじゃん)
たぶん理解できないけど。
「力は風。集え、囲え、巻き上げよ。我が妖杖に宿れ」
(ぜんぜんわかんない)
呪文? そんなのスキルに必要あったっけ? 勉強熱心なドロちんのことだから、きっと本かなにかで知ったんだろう。
一瞬興味が湧いて、そーいえばおにく焼いてたなと速攻で忘れ果て、そしてドロちんはキリッとした目を肉の塊に向けた。
「スキル、風」
突風を生み出し相手にぶつける魔法。一瞬びくりとしたが、それはいつものように周囲に激しい風を起こさなかった。
まるで風の壁が形成されたように気流が生まれ、それが縛り上げた盗賊たちを包み込む。
「ふん!」
少女がふんばるような声を漏らし杖を高く掲げると、それに呼応するかのように風が宙へと舞い上がり、それにつられ肉塊たちも飛んでいった。
行く先は件の風穴だ。
「すごいですわね。魔法にはそのような使い方があるのですか」
あんずちゃんが甲冑の下に装備する肌着の姿で感心した声を出した。肌着とはいうけれど、ただの布の服よりは断然丈夫だし下着的なニュアンスはない。
「これで邪魔者は消えたな。あそこではロープを垂らしてここまで降りてくるのも一苦労だろう。まあ」
言って、ブッちゃんは見上げていた風穴から視線を切り、盗賊のほとんどをボロ雑巾にクラスチェンジさせた張本人にジットリとした目を向けた。
「復讐心すら残ってないだろうがな」
「ですが、洞窟の外から仲間がやってこないとも限りませんわ」
「そのための見張り番でしょ」
「えっ」
なんかドロちんこっち見てるんだけど?
「この前はあんず、ブーラーの順番だったわよね。ってことで任せたわ」
「ちょいまち! ドロちんだってやってないじゃん!」
「うちは盗賊退治で大活躍したもん」
(うぇ~どうしよ。かんっぜんに寝不足になっちゃうよ)
「たすけてあんずちゃーん」
周囲のヘルプを期待してみる。ところがどっこいあんずちゃんは黒いのとお話中。
「地上があそこにあるということは、出口がすぐ近くにあるということでしょうか」
「ありえるが、ここに至るまで無意識に坂を登ってきた可能性も捨てきれん。山の中腹あたりだろうか」
「あの穴を介して荷物のやり取りをしていたということでしょうか」
(難しくて話題に踏み込めない)
しかも話しかけにくい雰囲気だし。
「ってことでヨロシクね」
背中に手を添えつつ、ドロちんはにししと笑い本日の夜勤担当者を確定させた。
(ん、んー…………ねむい)
あたまがフラフラするぅ。夜連番はキツいッス。
眠気をごまかせるような娯楽もないッス。だって洞窟だもん。ふつーの野宿だったら、たまに夜行性の動物がお邪魔してきたり命のやりとりをしかけてきたりするんだけど、本日は洞窟の奥の奥なのでそんなイベントもなっしんぐ。
盗賊がやり返しにくっかな? と準備はしてたけどないっぽい。上のヤツらはまだ伸びてるし、仲間らしき影もやってこない。強いて言えば、たまにコウモリが飛んでる程度かなー。
(あやつらは夜に活動するタイプだから、この時間帯は外でげんきに遊んでいるのです)
「ふああぁぁぁっ――ン」
(ねむい)
ゴロッとした石に腰掛け焚き木から視線をそらせば、そこには盗賊が使ってた寝具でぐっすりお休み中の仲間たち。
あんずちゃんとブッちゃんは簡易ベッドで。ドロちんは「きったない薄汚れたクソどもの汗と油にまみれたふとんなんて触れたくもない」って自前の寝袋で熟睡中。わたしより年上なクセにゼータクなガキんちょめ。
(あぁーあ、なにか眠気覚ましになるようなことないかなー)
盗賊さん仕返しにきてくんないかなー。
「このままじゃタイクツすぎて寝ちゃうよー」
っていうか寝ていい?
こんなトコだしクマさん襲ってこないよね?
野生動物どころかモンスターもいないよね?
マモノだって今日くらいは見逃してくれるよね?
(あ、やば)
そんなこと考えてたら眠気がイッキに。
(あーれー身体からちからがぬけていくぅ~)
こくん、こくん。
首が壊れた機械みたいになってる。全身のちからが抜けてって意識がもうろうとしてきた。
(あ"ぁ"~なんかカラダがピリピリするんじゃぁ~……………………)
え?
「ん?」
身体がピリピリする?
「なんで」
かるくマヒってんだけど。
「つめたッ」
それを自覚した瞬間、あたまのてっぺんにひんやりとした感触を覚えた。天井から水がしたたっているのかな? そう思い、多少ぎこちなく頭に手を伸ばす。
手がプリンに触れた。
プリンじゃなかった。
(あっ)
スライムじゃん。
(なーんだーそりゃあ身体の感覚がなくなるワケだよー毒盛られてたんじゃーん)
皮膚から吸収される毒って最強じゃね? じゃなくて。
「ちょ、わ、やだ!」
頭に乗っかったそれ。手で振り払おうとするも、その手がスライムのなかに食い込むだけでまったく意味なし。それどころか、天井から伝ってきたスライムはわたしの頭にどんどんのっかって、あ、やべーこれ窒息するんじゃね?
「わーやめろー!」
「んー……なにようるさいわねぇ」
「み、みみみみみみんなおきてー!!」
わたしは叫んだ。マジで叫んだ。これでもかってくらい大きな声で叫んだ。
黒焦げの山を積み上げてる最中、黒焦げじゃないけど黒っぽい僧侶がそうつぶやいた。
理由はかんたん。盗賊さんがたっぷり蓄えた備蓄に狩猟で得た食糧。上を見上げれば光が差し込み、その空気穴のおかげでここで火起こしすることも可能だ。
事実、わたしはドサクサに紛れておにくをぐるりぐるりの真っ最中である。上手に焼けたかな?
「ちょっとグレース。こっち手伝いなさいよ」
「えー」
ちっこい魔王少女、じゃなかった魔法少女にどやされ立ち上がる。こういうのは火加減が大事なんだけどなぁ。
「こらそこロープ緩んでるじゃないの」
「わかったよぅ」
グロッキーな盗賊どもをまとめて縛る。完成した人間ボールを投げてはしって咥える遊びはしなくて、ドロちんが身の丈に合わない杖をそれに向け意識を集中させていた。
「こんなものね……力は心に寄りて力たり」
「なにそれ?」
「スキル強化呪文。集中したいから話しかけないで」
「はぁーい」
(ちぇ、教えてくれてもいーじゃん)
たぶん理解できないけど。
「力は風。集え、囲え、巻き上げよ。我が妖杖に宿れ」
(ぜんぜんわかんない)
呪文? そんなのスキルに必要あったっけ? 勉強熱心なドロちんのことだから、きっと本かなにかで知ったんだろう。
一瞬興味が湧いて、そーいえばおにく焼いてたなと速攻で忘れ果て、そしてドロちんはキリッとした目を肉の塊に向けた。
「スキル、風」
突風を生み出し相手にぶつける魔法。一瞬びくりとしたが、それはいつものように周囲に激しい風を起こさなかった。
まるで風の壁が形成されたように気流が生まれ、それが縛り上げた盗賊たちを包み込む。
「ふん!」
少女がふんばるような声を漏らし杖を高く掲げると、それに呼応するかのように風が宙へと舞い上がり、それにつられ肉塊たちも飛んでいった。
行く先は件の風穴だ。
「すごいですわね。魔法にはそのような使い方があるのですか」
あんずちゃんが甲冑の下に装備する肌着の姿で感心した声を出した。肌着とはいうけれど、ただの布の服よりは断然丈夫だし下着的なニュアンスはない。
「これで邪魔者は消えたな。あそこではロープを垂らしてここまで降りてくるのも一苦労だろう。まあ」
言って、ブッちゃんは見上げていた風穴から視線を切り、盗賊のほとんどをボロ雑巾にクラスチェンジさせた張本人にジットリとした目を向けた。
「復讐心すら残ってないだろうがな」
「ですが、洞窟の外から仲間がやってこないとも限りませんわ」
「そのための見張り番でしょ」
「えっ」
なんかドロちんこっち見てるんだけど?
「この前はあんず、ブーラーの順番だったわよね。ってことで任せたわ」
「ちょいまち! ドロちんだってやってないじゃん!」
「うちは盗賊退治で大活躍したもん」
(うぇ~どうしよ。かんっぜんに寝不足になっちゃうよ)
「たすけてあんずちゃーん」
周囲のヘルプを期待してみる。ところがどっこいあんずちゃんは黒いのとお話中。
「地上があそこにあるということは、出口がすぐ近くにあるということでしょうか」
「ありえるが、ここに至るまで無意識に坂を登ってきた可能性も捨てきれん。山の中腹あたりだろうか」
「あの穴を介して荷物のやり取りをしていたということでしょうか」
(難しくて話題に踏み込めない)
しかも話しかけにくい雰囲気だし。
「ってことでヨロシクね」
背中に手を添えつつ、ドロちんはにししと笑い本日の夜勤担当者を確定させた。
(ん、んー…………ねむい)
あたまがフラフラするぅ。夜連番はキツいッス。
眠気をごまかせるような娯楽もないッス。だって洞窟だもん。ふつーの野宿だったら、たまに夜行性の動物がお邪魔してきたり命のやりとりをしかけてきたりするんだけど、本日は洞窟の奥の奥なのでそんなイベントもなっしんぐ。
盗賊がやり返しにくっかな? と準備はしてたけどないっぽい。上のヤツらはまだ伸びてるし、仲間らしき影もやってこない。強いて言えば、たまにコウモリが飛んでる程度かなー。
(あやつらは夜に活動するタイプだから、この時間帯は外でげんきに遊んでいるのです)
「ふああぁぁぁっ――ン」
(ねむい)
ゴロッとした石に腰掛け焚き木から視線をそらせば、そこには盗賊が使ってた寝具でぐっすりお休み中の仲間たち。
あんずちゃんとブッちゃんは簡易ベッドで。ドロちんは「きったない薄汚れたクソどもの汗と油にまみれたふとんなんて触れたくもない」って自前の寝袋で熟睡中。わたしより年上なクセにゼータクなガキんちょめ。
(あぁーあ、なにか眠気覚ましになるようなことないかなー)
盗賊さん仕返しにきてくんないかなー。
「このままじゃタイクツすぎて寝ちゃうよー」
っていうか寝ていい?
こんなトコだしクマさん襲ってこないよね?
野生動物どころかモンスターもいないよね?
マモノだって今日くらいは見逃してくれるよね?
(あ、やば)
そんなこと考えてたら眠気がイッキに。
(あーれー身体からちからがぬけていくぅ~)
こくん、こくん。
首が壊れた機械みたいになってる。全身のちからが抜けてって意識がもうろうとしてきた。
(あ"ぁ"~なんかカラダがピリピリするんじゃぁ~……………………)
え?
「ん?」
身体がピリピリする?
「なんで」
かるくマヒってんだけど。
「つめたッ」
それを自覚した瞬間、あたまのてっぺんにひんやりとした感触を覚えた。天井から水がしたたっているのかな? そう思い、多少ぎこちなく頭に手を伸ばす。
手がプリンに触れた。
プリンじゃなかった。
(あっ)
スライムじゃん。
(なーんだーそりゃあ身体の感覚がなくなるワケだよー毒盛られてたんじゃーん)
皮膚から吸収される毒って最強じゃね? じゃなくて。
「ちょ、わ、やだ!」
頭に乗っかったそれ。手で振り払おうとするも、その手がスライムのなかに食い込むだけでまったく意味なし。それどころか、天井から伝ってきたスライムはわたしの頭にどんどんのっかって、あ、やべーこれ窒息するんじゃね?
「わーやめろー!」
「んー……なにようるさいわねぇ」
「み、みみみみみみんなおきてー!!」
わたしは叫んだ。マジで叫んだ。これでもかってくらい大きな声で叫んだ。