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作者: 犬物語
レブリエーロ
そのまんま東へ
 国境でもない長いドウクツを抜けると、そこは森の中だった。

「ですよねー」

 北国でもないし。そーいやアイン・マラハってどんくらいの場所にあるんだろう?

「人の気配なし。足跡複数確認も、これらは入り浸ってたワルいヤツらのものと思われます。待ち伏せはありません。おーばー」

 斥候としてひとり物陰から外の様子を伺ってみる。これぞ暗殺者ってかんじ、いやスカウトか。

 敵さんがいないのはしょーじき助かる。こんな戦闘向きでないカッコスラックスにスウェットじゃ動きにくいったらしゃーないの。

「面倒事にならず済みましたわね」

 同じく警戒しつつ光に当てられたのは、今は軽装鎧に身を包んだ姫騎士あんず。その甲冑は手入れが行き届きすぎて光を純度ひゃくぱーせんと反射しております。まぶしいからしまっといてくんない?

「ちぇ、つまんないの」

 などと供述しつつ杖をかざすは、盗賊大嫌い属性が付与された真っ赤なケープブラウス姿のロリっ子。その目はまるっこくてかわいいのに、中身はツンツン釣り目のが似合うお転婆っぷりよ。

「物騒なものをしまえ」

 呆れ顔で青い壁、じゃなくてブッちゃんがぶつくさ。深い群青色のローブが光に照らされ、見た目は立派な聖職者といった出で立ちだ。

 ドロちんは納得いかない顔で抗議した。

「獣道すらないじゃない」

「さっきも言ったが、すこし歩けば舗装された道にたどり着く。辛抱しろ」

(辛抱ねぇ)

 森の深みへ目を向ける。それほど鬱蒼としてるわけでもないので光量は確保できてるけど、真新しい私服でこんな道通った日にゃあ速攻でダメになりそうだ。

(さすらい用の服、もう一着買っとこ)

 逆に、いままでよく同じ装備のままやってこれたよ。最前線で戦うスプリットくんやサっちゃんはよくダメにしてて、可能な範囲ならビーちゃんが修繕したり、町で新調したりしてたな。

(まあ、サっちゃんはあまり必要なかったかもだけど)

 そもそも下着姿みたいなカッコでバトルしてたしなぁ。

 物陰に忍んで一撃必殺なグレースちゃんに比べ、スプリットくんやサっちゃんは真正面から敵とかちあう場面が多かった。だから相手の攻撃をライフ身体で受ける場面もままある。多少の損傷ならビーちゃんがチクチクしてくれたけど、どーしてもって場合はもちろん買い替えだ。

 サっちゃんはもともと野性的な服装のためあまり影響なかった。だってテキトーな服をビリビリ破って着ればよかったんだもの。アタイの美麗な肉体を誇示するのにぬのきれなんざいらねえ! とかおんなの子が言っちゃいけないセリフだよね。

 時にはゴロツキさんの装備を奪って破いてはいできあがりみたいなシーンもありつつ。さすがに見てらんないビーちゃんが「貸せ」って、せめてオシャレな感じにしようとアレンジ加えたときは、もうちょいなんとかなんねーのかこの筋肉女とさえ思いましたよ正直。

「グレース? どうした」

 先行する僧侶がこちらを振り向き怪訝そうな表情をつくった。

「まだ疲れが抜けてませんですの?」

「ううん、なんでもない」

「はやくしないと置いてくわよ」

 ドロちんとふたり旅だったらマジで置いてかれただろうな。そんなことを思いつつ、わたしの足は軽やかに仲間のもとへ運ばれていく。

 それから少し歩いて、人が辿ったらしい獣道にたどり着いた。さらに歩けば昔このルートが使われていたらしい名残に出くわし、やっと道らしい道の気配が漂ってくる。

 案の定マモノの襲撃もありましたが、とくに見せ場はなかったので三倍速でお送りします。っていうのも相手マモノさんがシングルだったからです。

 動きにくいわたしとドロちんの代わりにあんずちゃんが大活躍し、ひと息いれておにくを頬張りつつ旧道を歩いてみれば、やがてちゃんと舗装された道路にたどりつくことができました。

「こちらは石で舗装されているのですね」

「すぐレブリエーロだからな。もともとは小さな集落だったらしいが、時代と共に発展し、今では国内有数の都市に成長したらしい」

 馬車もよく通るけど、フラーまでは別ルートが主なのでこっちの道はあまり使われてないそう。博識ブッちゃんの解説はいりました。そういえばブッちゃんもドロちんもフラー周辺を活動拠点にしてるんだっけ。本来ならここまでは地図すら必要ないほど詳しいのかもしれない。

 フラーまでの道のりで見かけることのなかった植物を眺めつつ、わたしはあたたかい日差しを手で覆っていた。遠くに山が連なっている。そこを超えれば魔族の国カニスがあり、山脈に沿って北へ向かえば、さくらが目指してるフラッツ・スワンがあるんだって。ってことで、わたしたちはそのまま山脈を目指すことになるんだろうけど。

(山登りするのかな? それとも今回のような洞窟があるのかな?)

 ちょっぴり不安とドキドキワクワクがいっぱい。でも、いくら歩いてもその山脈は近寄ってくれず、そのかわりに地平線から浮かび上がってくる木造建築と木製のとりい? みたいな門。

「あれ」

 大きな街だと聞いてフラーのような城郭都市をイメージしていたのに。というわたしの気持ちを察した僧侶がいたようです。

「意外か? 集落が村、町と発展していきやがては都市と呼べるにまで成った。すると、もともと集落の近くを流れていた川にまで大きくなってしまい、今ではその川に掘をつなぎ外郭としている」

(はぇ~)

 へぇ~。

 ほぇ~。

 などと感心してる間に見えてきましたくだんの外堀。街をぐるっと囲うのはデカめの木でつくられた柵。ちょっぴりウェーブがかった橋と入口は石材でできており、昼下がりの絶妙な角度から照らされる灰褐色が長い歴史を物語っていた。

「ブーラーさんは物知りですわね」

「ヘンなことだけね」

「ドロシーよ。お主はもっと魔法以外の勉学に励まぬか」

「無駄な知識を取り込むつもりはないわ」

(ってことは、やっぱあの裸の男性の本は魔法関連なの?)

 どんな魔法だよ。なんてツッコミをしてる間に見えてきましたレブリエーロ。門扉は開かれているけど、その左右に兵士らしき甲冑姿の男性が槍の柄を地面に落として立っており、厳つい視線で遠方の旅人たちを見据えている。

 すなわち、わたしたちだ。

「みなカードは用意したか?」

 言われて一瞬「なにが?」と思ったがすぐに思い出す。そうだ、旅団の証を見せなきゃダメなんだ。

「ガラリーはフツーに入れたのに」

「大きな街だと必要なのでしょう。まさかスライムに溶かされたなんてことありませんわよね?」

「持ってるよ、ほら」

 長方形のカードを出し示す。地味でなんのデザイン性もないけど、これを鑑定スキルにかけると旅団員だってことがわかるらしい。ギルド登録した者全員に渡され、いちおう所属により色も変化する。

 わたしとあんずちゃんは旅団所属なので銀色。ブッちゃんとドロちんはギルド登録はあれど旅団無所属なので黒のカードを持ってる。

「よし、通れ」

 無骨な視線のおっちゃんたちは、その顔にお似合いな態度と簡潔さで仕事をこなしていた。無事四人全員がパス宣告を受け、石造りの門扉を抜けた先には、フラーとも違う新しい世界が広がっていた。
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