ショタが需要あると聞いて
おねショタぁ……おね、ショタぁ……
「さくらも来てたんだね」
内部を見物する仲間を差し置いて、わたしは団長のもとへ走ろうとして、そしたらさくらのほうからこちらに近づいてきた。
「よう」
わたしではなく、その後ろにいるみんなへの声掛けだった。最初にブッちゃんが気づき、その巨体を動かしさくらを正面に迎え入れる。
「さくら殿か」
続けてみんなも気づき、団員としてあんずちゃんが礼儀作法を尽くした。
「お久しぶりです団長。フラーを出立して以来ですわね」
「カタいのはいい。それより盗賊の件だ」
(やっぱさくらも知ってたんだね)
メンドウ事だと言わんばかりに片目を閉じ頭のうらをかきかき。彼女はコンクルージョン団長なんだから、とーぜんギルドからまっさきに連絡来るよね。
「二日前ここに着いたんだが急に呼び出されてな。ったくフラッツ・スワンに向かわなきゃいけねーのにめんどくせぇ」
(はっや)
二日って、わたしたちそのころまだガラリーに到着したくらいじゃない? ブッちゃんのお導きで最短ルートを通ったはずなのですが。
「ふつかぁ? 馬車を使って快適な旅でもしてたのかしら」
「黙れクソガキ」
ロリっ子の皮肉を一蹴。逆に猛烈な挑発カウンターを食らったドロちんはふわっとしたショートヘアを逆立てた。
「はあ!?」
「ただの盗賊だと聞いて調べてみりゃあ、盗賊に見せかけてけっこー底が深い組織だぜ」
言って、彼女は含んだ笑いと共に右腕を張り上げた。
「試しに偶然を装ってブチのめしてみたが、なかなかいいサンドバッグだった」
(偶然を装ってブチのめすとは)
なにその積極的な当たり屋みたいな表現。しかもサンドバック扱いだし。
「あの装備はとてもただの盗賊には見えなかった。金やブツを盗むアコギな商売で稼げる量じゃねぇからどこかに資金源があるに違いない、たとえばフラーにのさばる悪徳不動産屋とかな」
「ブルームーンですか」
元従業員? が苦虫を噛み潰したような表情をつくる。ここはギルド支部であるからして、間違っても盗賊さんたちに又聞きされることはないだろう。さくらもそんな意識で声量を抑えずしゃべっており、周囲のなかにはこちらに聞き耳を立ててる者もいる。
「そーいやおめぇも元一味だったな」
「それは、わたくしが無知だったころの話で今は――」
さくらとあんずちゃんがしゃべってる間、わたしはこっちに聞き耳を立ててる人に聞き耳を立てたり、二階まで吹き抜けになった建物の内装を見渡したりしてみる。
ふと視界に入ったのはドーム状に形成された石の塊。地面からニョキっと生えて、どこかモグラ型のモンスターを思い起こさせる。それはワッフルみたいな模様があり、スキマからはドームの内部が見て取れた。
中央には炎を灯すための台座。つまり、あれは夜間照明なんだろう。今は陽の光が差し込んでるけど、夜になったらアレが光ってこの部屋を照らす。石壁の閉鎖的な空間で、あの灯籠はどんな温かみをくれるのだろうか。
「我々もガラリーで似た手勢を認知している。どうやら、ブルームーンは想像以上に版図を広げているようだ」
状況を冷静に分析するブッちゃんに対し、さくらはやや冷ややかな視線を向けた。
「ブーラー。てめぇ強いのになぜ本気で戦わねえ」
「我が拳は他者に向けられるものではない」
「犬種としての呪縛か。ご苦労なこった」
彼に悪態をつくでもなく、けど吐き捨てるように彼女は言った。ちょっとまって、いま彼女はなんて言った?
(けんしゅ……じゅばく)
わからない。それを理解しようとして頭が、わたしの奥底にある何かが拒否しているような気がした。
「ブルームーンが一枚噛んでることはほぼ確実で、盗賊どもは強力なバックを得て調子に乗ってるらしい。現に、おれがレブリエーロに到着してから盗賊による被害が五件あった」
認知された件数だけでな。さくらはそう続け、全員が息を呑んだ。
「ヤツらの狡猾さからすると、実際の被害はその倍あってもおかしくねぇ。で、おれはそれらしい一軒を預かってるところなんだが……」
そこまで言って、彼女はなぜか渋い顔をした。これまでしたことのないような、どこからどう手をつければいいかわからないような困りきった表情。なんでかなと尋ねる前に、その正体は元気な少年の声を共にやってきた。
「おねーちゃーん! ねえねえ見てこれ!」
声のイメージ通り、ひとりの少年がこちらへやってきた。
足音でいえばトコトコ。ガラリーで見た無邪気な少女とおんなじように、こっちは純真無垢なおとこの子がおっきなおめめを輝かせ、ちっこいオモチャをブンブン振り回している。
(えっ)
かわいいとか、さくらの知り合いかなとか、そんなことを思えば良かったのかもしれない。でも、わたしの意識は少年の華奢に見える足元に寄っていた。
たった一歩で数メートルは跳ねた。その細足からどのようなエネルギーが生まれるのか、少年はただ無邪気な笑顔でさくらを見つめ、手に持ったオモチャを――え、なにそれカブトムシ?
「おっきいの見つけた!」
「おま、やめろ! そんなの捨ててこい!」
「えーヤダ!」
近寄りがたい雰囲気のおねーちゃんにグイグイきてる。少年は身体つきもほそく、ドロちんよりさらに小柄に見える。ふたり並んだらどっちのほうが小さいのだろう?
灰色に白いライン柄のシャツ。そして同じく灰色の短パンに身を包み、身軽で動きやすい服装のなか、さくらの周辺をぴょこぴょこ跳ね回っていた。
「こっちは話し中なんだよ、もう少し向こうで遊んでろ、な?」
さくらが困ったように少年の背中を押す。いつもなら目をキッとさせて「あっち行け!」とか言いそうなのにこの落差よ。さくらの新しい一面が見れたような気がして、ちょっとだけうれしくなった。
対する少年は、背の高いおねーちゃんにアピールしようと必死に腕をのばしている。そのせいでシャツが上にずらされ、チラリとおなかとおへそが見えていた。
「その子は?」
このまま眺めてもいーんだけど、さくらが困ってるしみんなもどうすればいいのかわかんモードになってるので陽キャ代表のわたしことグレースちゃんが切り込み隊長を務めさせていただきました。
「おれたちと同じ異世界人だ。盗賊に大切なものを盗まれたってギルドに訴えててな、タイミングよく異世界人のおれがいたからそのまま投げられたって寸法だが……おら、挨拶くらいしろ」
「あっ」
ここに来て、少年ははじめてわたしたちの存在に気付いた的な反応。そしてすぐさまさくらのうしろに隠れる。
「……」
無言である。これには我がパーティーの短気担当ドロちんが黙っちゃいませんぞ?
「なによ、しつけのなってないガキね」
「怖がらせてどうする。我々はさくらの友人だ、心配しなくて良い」
(そういうアナタのが怖がらせそうなのですが)
サイズ的な意味で。案の定、少年はすっぽりおねーちゃんの背中に収まってしまいました。
「勘弁してくれよったく」
その場を動こうにも、少年はさくらの背中にひっついて離れてくれない。そこでようやく、さくらが物理的にひっぺがしわたしたちとの壁を解き放った。
視線の絡み合いは断固拒否の模様。
「……こんにちは」
こちらが聞き取れるギリギリの声量だった。
内部を見物する仲間を差し置いて、わたしは団長のもとへ走ろうとして、そしたらさくらのほうからこちらに近づいてきた。
「よう」
わたしではなく、その後ろにいるみんなへの声掛けだった。最初にブッちゃんが気づき、その巨体を動かしさくらを正面に迎え入れる。
「さくら殿か」
続けてみんなも気づき、団員としてあんずちゃんが礼儀作法を尽くした。
「お久しぶりです団長。フラーを出立して以来ですわね」
「カタいのはいい。それより盗賊の件だ」
(やっぱさくらも知ってたんだね)
メンドウ事だと言わんばかりに片目を閉じ頭のうらをかきかき。彼女はコンクルージョン団長なんだから、とーぜんギルドからまっさきに連絡来るよね。
「二日前ここに着いたんだが急に呼び出されてな。ったくフラッツ・スワンに向かわなきゃいけねーのにめんどくせぇ」
(はっや)
二日って、わたしたちそのころまだガラリーに到着したくらいじゃない? ブッちゃんのお導きで最短ルートを通ったはずなのですが。
「ふつかぁ? 馬車を使って快適な旅でもしてたのかしら」
「黙れクソガキ」
ロリっ子の皮肉を一蹴。逆に猛烈な挑発カウンターを食らったドロちんはふわっとしたショートヘアを逆立てた。
「はあ!?」
「ただの盗賊だと聞いて調べてみりゃあ、盗賊に見せかけてけっこー底が深い組織だぜ」
言って、彼女は含んだ笑いと共に右腕を張り上げた。
「試しに偶然を装ってブチのめしてみたが、なかなかいいサンドバッグだった」
(偶然を装ってブチのめすとは)
なにその積極的な当たり屋みたいな表現。しかもサンドバック扱いだし。
「あの装備はとてもただの盗賊には見えなかった。金やブツを盗むアコギな商売で稼げる量じゃねぇからどこかに資金源があるに違いない、たとえばフラーにのさばる悪徳不動産屋とかな」
「ブルームーンですか」
元従業員? が苦虫を噛み潰したような表情をつくる。ここはギルド支部であるからして、間違っても盗賊さんたちに又聞きされることはないだろう。さくらもそんな意識で声量を抑えずしゃべっており、周囲のなかにはこちらに聞き耳を立ててる者もいる。
「そーいやおめぇも元一味だったな」
「それは、わたくしが無知だったころの話で今は――」
さくらとあんずちゃんがしゃべってる間、わたしはこっちに聞き耳を立ててる人に聞き耳を立てたり、二階まで吹き抜けになった建物の内装を見渡したりしてみる。
ふと視界に入ったのはドーム状に形成された石の塊。地面からニョキっと生えて、どこかモグラ型のモンスターを思い起こさせる。それはワッフルみたいな模様があり、スキマからはドームの内部が見て取れた。
中央には炎を灯すための台座。つまり、あれは夜間照明なんだろう。今は陽の光が差し込んでるけど、夜になったらアレが光ってこの部屋を照らす。石壁の閉鎖的な空間で、あの灯籠はどんな温かみをくれるのだろうか。
「我々もガラリーで似た手勢を認知している。どうやら、ブルームーンは想像以上に版図を広げているようだ」
状況を冷静に分析するブッちゃんに対し、さくらはやや冷ややかな視線を向けた。
「ブーラー。てめぇ強いのになぜ本気で戦わねえ」
「我が拳は他者に向けられるものではない」
「犬種としての呪縛か。ご苦労なこった」
彼に悪態をつくでもなく、けど吐き捨てるように彼女は言った。ちょっとまって、いま彼女はなんて言った?
(けんしゅ……じゅばく)
わからない。それを理解しようとして頭が、わたしの奥底にある何かが拒否しているような気がした。
「ブルームーンが一枚噛んでることはほぼ確実で、盗賊どもは強力なバックを得て調子に乗ってるらしい。現に、おれがレブリエーロに到着してから盗賊による被害が五件あった」
認知された件数だけでな。さくらはそう続け、全員が息を呑んだ。
「ヤツらの狡猾さからすると、実際の被害はその倍あってもおかしくねぇ。で、おれはそれらしい一軒を預かってるところなんだが……」
そこまで言って、彼女はなぜか渋い顔をした。これまでしたことのないような、どこからどう手をつければいいかわからないような困りきった表情。なんでかなと尋ねる前に、その正体は元気な少年の声を共にやってきた。
「おねーちゃーん! ねえねえ見てこれ!」
声のイメージ通り、ひとりの少年がこちらへやってきた。
足音でいえばトコトコ。ガラリーで見た無邪気な少女とおんなじように、こっちは純真無垢なおとこの子がおっきなおめめを輝かせ、ちっこいオモチャをブンブン振り回している。
(えっ)
かわいいとか、さくらの知り合いかなとか、そんなことを思えば良かったのかもしれない。でも、わたしの意識は少年の華奢に見える足元に寄っていた。
たった一歩で数メートルは跳ねた。その細足からどのようなエネルギーが生まれるのか、少年はただ無邪気な笑顔でさくらを見つめ、手に持ったオモチャを――え、なにそれカブトムシ?
「おっきいの見つけた!」
「おま、やめろ! そんなの捨ててこい!」
「えーヤダ!」
近寄りがたい雰囲気のおねーちゃんにグイグイきてる。少年は身体つきもほそく、ドロちんよりさらに小柄に見える。ふたり並んだらどっちのほうが小さいのだろう?
灰色に白いライン柄のシャツ。そして同じく灰色の短パンに身を包み、身軽で動きやすい服装のなか、さくらの周辺をぴょこぴょこ跳ね回っていた。
「こっちは話し中なんだよ、もう少し向こうで遊んでろ、な?」
さくらが困ったように少年の背中を押す。いつもなら目をキッとさせて「あっち行け!」とか言いそうなのにこの落差よ。さくらの新しい一面が見れたような気がして、ちょっとだけうれしくなった。
対する少年は、背の高いおねーちゃんにアピールしようと必死に腕をのばしている。そのせいでシャツが上にずらされ、チラリとおなかとおへそが見えていた。
「その子は?」
このまま眺めてもいーんだけど、さくらが困ってるしみんなもどうすればいいのかわかんモードになってるので陽キャ代表のわたしことグレースちゃんが切り込み隊長を務めさせていただきました。
「おれたちと同じ異世界人だ。盗賊に大切なものを盗まれたってギルドに訴えててな、タイミングよく異世界人のおれがいたからそのまま投げられたって寸法だが……おら、挨拶くらいしろ」
「あっ」
ここに来て、少年ははじめてわたしたちの存在に気付いた的な反応。そしてすぐさまさくらのうしろに隠れる。
「……」
無言である。これには我がパーティーの短気担当ドロちんが黙っちゃいませんぞ?
「なによ、しつけのなってないガキね」
「怖がらせてどうする。我々はさくらの友人だ、心配しなくて良い」
(そういうアナタのが怖がらせそうなのですが)
サイズ的な意味で。案の定、少年はすっぽりおねーちゃんの背中に収まってしまいました。
「勘弁してくれよったく」
その場を動こうにも、少年はさくらの背中にひっついて離れてくれない。そこでようやく、さくらが物理的にひっぺがしわたしたちとの壁を解き放った。
視線の絡み合いは断固拒否の模様。
「……こんにちは」
こちらが聞き取れるギリギリの声量だった。