まえにちょっとあってね
おねショタの需要に応えたい
「こらイギー、きちんと挨拶しろ」
「わっ」
ポンと背中を押され、さくらの影に隠れていた少年との距離が密になった。少年といえばスプリットくんだけど、ここにいるのは本当の意味での少年だ。
ドロちんといい勝負の身長。距離が縮まり驚いた様子でこっちを凝視する少年の目はまるく大きく純粋な透明感に溢れていた。こんな目で甘えられたら、きっとさくらみたいな本当はやさしいおねーさんだったら守ってあげたくなっちゃうんじゃないかなって。
「なに見てんだよ」
おねーさんに睨まれた。
「なんでもないでーす」
と吹けない口笛でごまかしてみる。なおも怪しむさくらに対し、我が親友から助け舟を提供いただいた。
「この子はさくらさんの知り合いですか?」
「この街で拾った。近所の薬屋に世話になってるらしい」
腰に手を据え説明口調でこちらを見渡す。
「異世界人でこの事件の関係者でもある。本来ならさっさと家に返すかギルドに預かってほしいもんだが」
と言ったところで、少年はぼふんとさくらの腰に額をすりつけた。
「ヤダッ」
「……」
声にならぬ声とため息。さくらは困ったように目を棒の形にする。
「このとおり、離れてくれねーんだよ」
心底めんどくさそうにしてるけど、口調はやや穏やかで、そうだなぁ、例えるならイタズラ好きの親戚の子どもを諌めるおねーさん的な? そんな関係性に見えなくもない。
「プッ」
そんなやりとりを見て、ほのぼの視線でない吹き出し笑いのロリっ子がひとり。
「滑稽ね。神出鬼没のコンクルージョン団長はいつからママになったのかしら?」
(めっちゃケンカ売ってるー)
そんな空気を察しない純朴少年がひとり。
「ママじゃないし。おねーちゃんだもん」
「うっさいわねこのガキ」
(それブーメランだよドロちん)
どこかに鏡はありませんでしょうか?
「一匹狼が売りじゃなかったの?」
「バカいえ、まわりが勝手にそう思ってるだけだ」
「それなら少しは団長らしくしたら? あの受け付けの人毎回ぼやいてたわよ?」
みなさんお気づきでないようですがかなーりの音量でしゃべっております。さらに火花と煤けた気配を察したらしい方が数人、こちらに心配と娯楽入り混じった視線で様子を伺っていますね。
ここはフラーほどの広さはなく、その分コモンスペースなどは割合として狭くなる。もうちょいテンションサゲ進行でお願いしたいのですがですがそれはそれとしてさ。
(なんかドロちんさん、さくらに当たりキツくない?)
「さくらと何かあったの?」
ヒソヒソ声でおっきくて黒い僧侶さんにたずねてみる。でもって僧侶さんもひっそり気味に手で口元を押さえつつ教えてくれた。
「以前ちょっとあってな」
「ちょっと?」
わたし、すっごく気になります! っていう視線でおねだり攻撃したら教えてくれました。しぶしぶといった形で語りだすブッちゃんに、わたしもあんずちゃんも興味津々です。
「どれほど前かは定かではないが、風の噂では、とある魔法使い見習いの家近くにモンスターが現れたらしい。それを退治したのがコンクルージョン団長だったという話だが、その団長が、つまりさくらが倒したモンスターが魔法使いの家に倒れ込んだのだ」
あくまで噂話だ。ブッちゃんはそう重ねて言った。
「それは、かわいそうに」
あんずちゃんは心を痛めているようだ。つまりおうちをぺしゃんこにされた恨みがあると。うーんなるほど、ドロちんには逆恨みとも言い切れない悲しい過去がありました。
「その一件で魔法使いは烈火の如き怒りを発したという」
(お?)
「その怒りは周囲の森を焼き尽くしたとか。まあ、噂とは尾びれをひくものだ」
なんだ? 急に流れ変わったぞ?
「そして、大切な家を壊された魔法使いはコンクルージョンへカチコミをかけた」
「カチコミ!」
いつの時代の任侠映画ですか?
「旅団本部は混乱を極めたらしい。右手には火の粉が舞い、左手では氷結の砂塵が巻き上がった。前後不覚の空間の中、魔法少女は騒乱の果てにフラーを滅ぼさんとした魔法使いの一撃を放たんとしたが、コンクルージョン団長は究極奥義で粉砕した」
「スケールでかくね? それぜったいウソだよね? っていうか最終奥義が腹パンってなんだよ」
「そんなことがあったのですね」
「あんずちゃん信じちゃってるよ! ピュアすぎだよこの天然ですわ女騎士!」
「最終的に、コンクルージョン団長は魔法使いの骸をフラー郊外へ放り捨てたという」
「死んどるがな」
それもうウワサじゃなくてガセじゃん。
「勝手に話膨らませないでくれる?」
などと話をぶった斬ってきたのは噂話の御本人たちである。
「なんだそりゃ。おれはただジャマなモンスターをどかしただけだ」
「じゃあわざわざ他人の家の上にふっ飛ばさないでくれる?」
(あ、それ実話だったんだ)
「ちゃんとそっちへ飛ぶぞって伝えたじゃねーか」
「人の話聞きなさいよ! そもそもベクトルがおかしいって言ってるの!」
「ベクトルだぁ? それはこっちのセリフだぜ。てめー何をトチ狂ってフラーのど真ん中で隕石使おうとした?」
(めてお)
それゲームでよくあるやつ? あの隕石がんがん落っことしてくるやつ?
「しかも制御失敗したよな? あ?」
さくらがあの鋭い目つきでガン責めする。ドロシーは臆さず立ち止まろうとするも、真上から見下ろしてくる団長の威圧感に目が泳いでいた。
「仕方ないじゃない! あの時はまだ未熟で、習得したばかりの魔法だったし、け、けど練習ではちゃんとできたんだから!」
「そんな危険なスキル街なかで使うな」
「なるほど、つまり噂話の真実はこうか」
ブッちゃんが推理探偵の主人公のように人差し指をたて、さながら今から犯人を追い詰めるシーンであるかのように語り始めた。
「ドロシーはコンクルージョン旅団本部を訪れさくら殿に抗議を申し入れに訪れた。そこからケンカに発展し、ドロシーは大魔法の制御に失敗。それが暴発してしまう前にさくら殿が未然に防ぎ、ドロシーを無力化したと」
「ああそうだな。ついでに言うと腹パンかまして放っぽり出したのは事実だぜ」
さくらは皮肉めいた笑みをドロちんに向け、ドロちんは苦い思い出が蘇ったのかぐぬぬと悔しそうに歯を食いしばってる。あはは、子どもっぽくてかわいーなーじゃなくてちょっと待ってそれってつまりさ。
(かんっぜんな逆恨みじゃねーか!)
じゅーぜろでドロちんの過失ですありがとうございます。
「わっ」
ポンと背中を押され、さくらの影に隠れていた少年との距離が密になった。少年といえばスプリットくんだけど、ここにいるのは本当の意味での少年だ。
ドロちんといい勝負の身長。距離が縮まり驚いた様子でこっちを凝視する少年の目はまるく大きく純粋な透明感に溢れていた。こんな目で甘えられたら、きっとさくらみたいな本当はやさしいおねーさんだったら守ってあげたくなっちゃうんじゃないかなって。
「なに見てんだよ」
おねーさんに睨まれた。
「なんでもないでーす」
と吹けない口笛でごまかしてみる。なおも怪しむさくらに対し、我が親友から助け舟を提供いただいた。
「この子はさくらさんの知り合いですか?」
「この街で拾った。近所の薬屋に世話になってるらしい」
腰に手を据え説明口調でこちらを見渡す。
「異世界人でこの事件の関係者でもある。本来ならさっさと家に返すかギルドに預かってほしいもんだが」
と言ったところで、少年はぼふんとさくらの腰に額をすりつけた。
「ヤダッ」
「……」
声にならぬ声とため息。さくらは困ったように目を棒の形にする。
「このとおり、離れてくれねーんだよ」
心底めんどくさそうにしてるけど、口調はやや穏やかで、そうだなぁ、例えるならイタズラ好きの親戚の子どもを諌めるおねーさん的な? そんな関係性に見えなくもない。
「プッ」
そんなやりとりを見て、ほのぼの視線でない吹き出し笑いのロリっ子がひとり。
「滑稽ね。神出鬼没のコンクルージョン団長はいつからママになったのかしら?」
(めっちゃケンカ売ってるー)
そんな空気を察しない純朴少年がひとり。
「ママじゃないし。おねーちゃんだもん」
「うっさいわねこのガキ」
(それブーメランだよドロちん)
どこかに鏡はありませんでしょうか?
「一匹狼が売りじゃなかったの?」
「バカいえ、まわりが勝手にそう思ってるだけだ」
「それなら少しは団長らしくしたら? あの受け付けの人毎回ぼやいてたわよ?」
みなさんお気づきでないようですがかなーりの音量でしゃべっております。さらに火花と煤けた気配を察したらしい方が数人、こちらに心配と娯楽入り混じった視線で様子を伺っていますね。
ここはフラーほどの広さはなく、その分コモンスペースなどは割合として狭くなる。もうちょいテンションサゲ進行でお願いしたいのですがですがそれはそれとしてさ。
(なんかドロちんさん、さくらに当たりキツくない?)
「さくらと何かあったの?」
ヒソヒソ声でおっきくて黒い僧侶さんにたずねてみる。でもって僧侶さんもひっそり気味に手で口元を押さえつつ教えてくれた。
「以前ちょっとあってな」
「ちょっと?」
わたし、すっごく気になります! っていう視線でおねだり攻撃したら教えてくれました。しぶしぶといった形で語りだすブッちゃんに、わたしもあんずちゃんも興味津々です。
「どれほど前かは定かではないが、風の噂では、とある魔法使い見習いの家近くにモンスターが現れたらしい。それを退治したのがコンクルージョン団長だったという話だが、その団長が、つまりさくらが倒したモンスターが魔法使いの家に倒れ込んだのだ」
あくまで噂話だ。ブッちゃんはそう重ねて言った。
「それは、かわいそうに」
あんずちゃんは心を痛めているようだ。つまりおうちをぺしゃんこにされた恨みがあると。うーんなるほど、ドロちんには逆恨みとも言い切れない悲しい過去がありました。
「その一件で魔法使いは烈火の如き怒りを発したという」
(お?)
「その怒りは周囲の森を焼き尽くしたとか。まあ、噂とは尾びれをひくものだ」
なんだ? 急に流れ変わったぞ?
「そして、大切な家を壊された魔法使いはコンクルージョンへカチコミをかけた」
「カチコミ!」
いつの時代の任侠映画ですか?
「旅団本部は混乱を極めたらしい。右手には火の粉が舞い、左手では氷結の砂塵が巻き上がった。前後不覚の空間の中、魔法少女は騒乱の果てにフラーを滅ぼさんとした魔法使いの一撃を放たんとしたが、コンクルージョン団長は究極奥義で粉砕した」
「スケールでかくね? それぜったいウソだよね? っていうか最終奥義が腹パンってなんだよ」
「そんなことがあったのですね」
「あんずちゃん信じちゃってるよ! ピュアすぎだよこの天然ですわ女騎士!」
「最終的に、コンクルージョン団長は魔法使いの骸をフラー郊外へ放り捨てたという」
「死んどるがな」
それもうウワサじゃなくてガセじゃん。
「勝手に話膨らませないでくれる?」
などと話をぶった斬ってきたのは噂話の御本人たちである。
「なんだそりゃ。おれはただジャマなモンスターをどかしただけだ」
「じゃあわざわざ他人の家の上にふっ飛ばさないでくれる?」
(あ、それ実話だったんだ)
「ちゃんとそっちへ飛ぶぞって伝えたじゃねーか」
「人の話聞きなさいよ! そもそもベクトルがおかしいって言ってるの!」
「ベクトルだぁ? それはこっちのセリフだぜ。てめー何をトチ狂ってフラーのど真ん中で隕石使おうとした?」
(めてお)
それゲームでよくあるやつ? あの隕石がんがん落っことしてくるやつ?
「しかも制御失敗したよな? あ?」
さくらがあの鋭い目つきでガン責めする。ドロシーは臆さず立ち止まろうとするも、真上から見下ろしてくる団長の威圧感に目が泳いでいた。
「仕方ないじゃない! あの時はまだ未熟で、習得したばかりの魔法だったし、け、けど練習ではちゃんとできたんだから!」
「そんな危険なスキル街なかで使うな」
「なるほど、つまり噂話の真実はこうか」
ブッちゃんが推理探偵の主人公のように人差し指をたて、さながら今から犯人を追い詰めるシーンであるかのように語り始めた。
「ドロシーはコンクルージョン旅団本部を訪れさくら殿に抗議を申し入れに訪れた。そこからケンカに発展し、ドロシーは大魔法の制御に失敗。それが暴発してしまう前にさくら殿が未然に防ぎ、ドロシーを無力化したと」
「ああそうだな。ついでに言うと腹パンかまして放っぽり出したのは事実だぜ」
さくらは皮肉めいた笑みをドロちんに向け、ドロちんは苦い思い出が蘇ったのかぐぬぬと悔しそうに歯を食いしばってる。あはは、子どもっぽくてかわいーなーじゃなくてちょっと待ってそれってつまりさ。
(かんっぜんな逆恨みじゃねーか!)
じゅーぜろでドロちんの過失ですありがとうございます。