ドラゴンという存在
この世界におけるドラゴンはどのような存在か? グレースは、あの緑色の少女キャサリンの言葉を思い出す
「ひゃっほーい!」
ドラゴンブレス、略してドラブレを颯爽と避けましてからの急旋回。羽がもげてガラ空きになった側面へ潜り込んでく。
懐に入った。
「かったーい!」
爪でドラゴンを引っ掻いてみる。
やべえ、ウロコかたい。
こいつぁあ持ち合わせの武器じゃビクともしないや。
(と、フツーなら思っただろうね)
残念ながら、今のグレースちゃんはすーぱーつよつよケモノモードなのだ!
「それそれそれー!」
同じとこに同じ角度でなんかいもなんかいもパワー!
しつこいのは得意だもんね!
「うわっとぅ! っへへ、そろそろ"かゆい"通り越して"いたい"くらいになってきたかな?」
傷口が赤く、その中のおにくが見えてきた。
その時、ドラゴンが旋回してこっちに攻撃。
むだなのだ! こっちはキミの数百倍は素早く動けるもんね。
でもコレを続けると勝負がつくの明日になりそう。
(ってことでドロちんにお頼みしますか)
そろそろ呪文詠唱終わるころだよね?
やたら長いお言葉。
たぶんスゲー魔法を撃つ。
(アシストするよ!)
うまいこと標的になりやすいよう、わたしはドラゴンを追い込んでいく。
「ほらほらあっち行けわんわん!」
「ギャオオオオオオオオオン!」
ドシン。
巨体が一歩動くたびに地面が揺れる。
ブッちゃんはあんずちゃんの傍にいて、あんずちゃんは気を取り戻しまた大剣を手に取った。
ドロちん覚醒中、
グレースちゃん本気モード、
ブッちゃんとあんずちゃんも体勢を立て直した。
もう負ける要素なくない?
「ドロちん!」
わたしはちっちゃくてかわいいわんちゃんに声を掛ける。それを待っていたかのように、ドロちんはその呪文の詠唱を終えた。
「触れるものすべてを滅ぼせ――逃げなさい。今回ばかりはマジのマジで殺るから」
っべ、見た目あんなかわいーのに目だけ大量殺人犯だ。
暗殺者より暗殺者してる。
わたしは飛び退いた。
「スキル、爆風!」
ドロちんがその言葉を唱え、両手をドラゴンに向けた。
純粋な光がうまれた。
それが実体を得た。
破裂し、炸裂し、行き場を失った純粋なエネルギーが、それでもドロちんの手により一方向へと注がれる。
「ッ!!」
すなわち、ドラゴンの元へ。
ドラゴンの叫びは聞こえなかった。ただ、ドロちんが唱えた呪文の炸裂音とまばゆい光の中で、飛び散る瓦礫に巻き込まれぬよう岩陰に隠れることしかできなかった。
(……やったの?)
けたたましい破壊音の後に訪れた静寂。
恐ろしいほどに静まり返った空間のなか、破壊の中心には一匹の犬と、その手が示す先に倒れ伏したドラゴンがいた。
「驚いたわ」
ドロちんが唇を開く。
「生きてる――まだ身体を残してるなんて」
その言葉と共にドラゴンが動く。
ドロちんの警戒態勢は解かれてない。
「まだ生きてるのか」
「ブッちゃん! あんずちゃんだいじょうぶ!?」
「ええ、なんとか」
「ヤツは虫の息よ、今がチャンスだわ!」
「わかりましたわ! って」
子犬が叫び、あんずちゃんが応えつつ首を捻った。
「あなた誰ですの?」
「説明はあと!」
ドロちんの言葉通り、ドラゴンはまだ動けた。
でもそれだけ。
さっきよりなおさら鈍くて、この状態でなくてもぜんぜん見切れる程度に軽くいなすことができた。
そこからブッちゃんとあんずちゃんが畳み掛ける。ドロちんの魔法で半ばもげていたもう片方の翼に焦点を合わせての連携で切断し、ドラゴンの飛行能力を完全に奪った。
加えてドロちんの魔法。
そのスキにわたしが懐に差し込みキズを開いていく。
苦悶の表情、叫び声。
命のやりとりをしている。
この瞬間だけは、生き残るためとはいえ心苦しくなる。
ドラゴンの胸が避けていた。
おそらくその先に心臓。
わたしは、自分が所持する中で最も長く、最も切れ味のある短刀を手に持った。
(せめて、苦痛は一瞬で――ごめんね)
そこに腕を押し込み、突き刺そうとして。
「え?」
ドラゴンが消えた。
側頭部に衝撃。
わたしは一瞬意識を失った。
(なんで?)
つぎに目を見開いたとき、わたしは壁に埋もれていた。
変身が解けてる。この時になってようやく、体中に痛みが走っていることを自覚し、身体が動かないことも自覚した。
遠くにドラゴンが見える。
飛んでた。
みんなも見える。
とつぜんの出来事にみんな混乱してるようだった。
わたしだっておなじだ。
なんであんな動きができるの?
両翼を斬り落としたんだよ?
なんで? これじゃまるでさくらや、あのふたりが使ってたチート――あっ。
(キャサリン)
思い出した。
あのふたりの片割れ。緑色の瞳。ほんのり緑色の髪をしたあの少女の言葉。
「ドラゴンはシステムの根幹に位置する存在。そのレプリカさえ破壊することはできない」
このドラゴンはレプリカじゃない。
正真正銘のドラゴンだ。
そういうことなの?
ブッちゃんが空中へ放り投げられる様を無力に眺め、わたしは絶望が背中を登っていく感覚を味わっていた。
ドラゴンブレス、略してドラブレを颯爽と避けましてからの急旋回。羽がもげてガラ空きになった側面へ潜り込んでく。
懐に入った。
「かったーい!」
爪でドラゴンを引っ掻いてみる。
やべえ、ウロコかたい。
こいつぁあ持ち合わせの武器じゃビクともしないや。
(と、フツーなら思っただろうね)
残念ながら、今のグレースちゃんはすーぱーつよつよケモノモードなのだ!
「それそれそれー!」
同じとこに同じ角度でなんかいもなんかいもパワー!
しつこいのは得意だもんね!
「うわっとぅ! っへへ、そろそろ"かゆい"通り越して"いたい"くらいになってきたかな?」
傷口が赤く、その中のおにくが見えてきた。
その時、ドラゴンが旋回してこっちに攻撃。
むだなのだ! こっちはキミの数百倍は素早く動けるもんね。
でもコレを続けると勝負がつくの明日になりそう。
(ってことでドロちんにお頼みしますか)
そろそろ呪文詠唱終わるころだよね?
やたら長いお言葉。
たぶんスゲー魔法を撃つ。
(アシストするよ!)
うまいこと標的になりやすいよう、わたしはドラゴンを追い込んでいく。
「ほらほらあっち行けわんわん!」
「ギャオオオオオオオオオン!」
ドシン。
巨体が一歩動くたびに地面が揺れる。
ブッちゃんはあんずちゃんの傍にいて、あんずちゃんは気を取り戻しまた大剣を手に取った。
ドロちん覚醒中、
グレースちゃん本気モード、
ブッちゃんとあんずちゃんも体勢を立て直した。
もう負ける要素なくない?
「ドロちん!」
わたしはちっちゃくてかわいいわんちゃんに声を掛ける。それを待っていたかのように、ドロちんはその呪文の詠唱を終えた。
「触れるものすべてを滅ぼせ――逃げなさい。今回ばかりはマジのマジで殺るから」
っべ、見た目あんなかわいーのに目だけ大量殺人犯だ。
暗殺者より暗殺者してる。
わたしは飛び退いた。
「スキル、爆風!」
ドロちんがその言葉を唱え、両手をドラゴンに向けた。
純粋な光がうまれた。
それが実体を得た。
破裂し、炸裂し、行き場を失った純粋なエネルギーが、それでもドロちんの手により一方向へと注がれる。
「ッ!!」
すなわち、ドラゴンの元へ。
ドラゴンの叫びは聞こえなかった。ただ、ドロちんが唱えた呪文の炸裂音とまばゆい光の中で、飛び散る瓦礫に巻き込まれぬよう岩陰に隠れることしかできなかった。
(……やったの?)
けたたましい破壊音の後に訪れた静寂。
恐ろしいほどに静まり返った空間のなか、破壊の中心には一匹の犬と、その手が示す先に倒れ伏したドラゴンがいた。
「驚いたわ」
ドロちんが唇を開く。
「生きてる――まだ身体を残してるなんて」
その言葉と共にドラゴンが動く。
ドロちんの警戒態勢は解かれてない。
「まだ生きてるのか」
「ブッちゃん! あんずちゃんだいじょうぶ!?」
「ええ、なんとか」
「ヤツは虫の息よ、今がチャンスだわ!」
「わかりましたわ! って」
子犬が叫び、あんずちゃんが応えつつ首を捻った。
「あなた誰ですの?」
「説明はあと!」
ドロちんの言葉通り、ドラゴンはまだ動けた。
でもそれだけ。
さっきよりなおさら鈍くて、この状態でなくてもぜんぜん見切れる程度に軽くいなすことができた。
そこからブッちゃんとあんずちゃんが畳み掛ける。ドロちんの魔法で半ばもげていたもう片方の翼に焦点を合わせての連携で切断し、ドラゴンの飛行能力を完全に奪った。
加えてドロちんの魔法。
そのスキにわたしが懐に差し込みキズを開いていく。
苦悶の表情、叫び声。
命のやりとりをしている。
この瞬間だけは、生き残るためとはいえ心苦しくなる。
ドラゴンの胸が避けていた。
おそらくその先に心臓。
わたしは、自分が所持する中で最も長く、最も切れ味のある短刀を手に持った。
(せめて、苦痛は一瞬で――ごめんね)
そこに腕を押し込み、突き刺そうとして。
「え?」
ドラゴンが消えた。
側頭部に衝撃。
わたしは一瞬意識を失った。
(なんで?)
つぎに目を見開いたとき、わたしは壁に埋もれていた。
変身が解けてる。この時になってようやく、体中に痛みが走っていることを自覚し、身体が動かないことも自覚した。
遠くにドラゴンが見える。
飛んでた。
みんなも見える。
とつぜんの出来事にみんな混乱してるようだった。
わたしだっておなじだ。
なんであんな動きができるの?
両翼を斬り落としたんだよ?
なんで? これじゃまるでさくらや、あのふたりが使ってたチート――あっ。
(キャサリン)
思い出した。
あのふたりの片割れ。緑色の瞳。ほんのり緑色の髪をしたあの少女の言葉。
「ドラゴンはシステムの根幹に位置する存在。そのレプリカさえ破壊することはできない」
このドラゴンはレプリカじゃない。
正真正銘のドラゴンだ。
そういうことなの?
ブッちゃんが空中へ放り投げられる様を無力に眺め、わたしは絶望が背中を登っていく感覚を味わっていた。