魔族「食堂と酒場の違いがわからん」
犬にアルコールはダメ、ゼッタイ
匂いも刺激が強いので近づけないようにしてね
匂いも刺激が強いので近づけないようにしてね
「こまった」
メシ処がない。
「いやあるだろ」
サンダーさんは見るからにわくわくした顔。
くそう、オヤジのくせに。
ジジイ一歩手前のくせに。
初老のくせいに目ぇ輝かせやがって。
「ここがメシ屋だ」
山を下ってなだらかな斜面広がる草原地帯。そのど真ん中に、まるで備え付けユニットバスのようにぽつんと置かれたバーグの町。
初めて出会った待ち人とミート→グッバイしてからの表通りそして噴水がある広場。まるで人間が暮らす町のそれと同じく、あれ? 魔族ってもしかして見た目以外なにも変わらんの? などと思い始めた矢先にこれよ。
「どーみても酒場じゃない」
とある木造建築にぶら下がった看板をまじまじ見つめ異論を唱えるロリ魔女。いつもロリロリ言うてますが、彼女はアサシンあんどプリンセスナイトより年上なのだ。
「しかたねーだろ他にねーんだから」
などと、かくも他に選択肢がないかのように申し上げておりますが、このヤブ医者の表情ったらなんと晴れやかなことか。てめー真っ昼間からアルコール漬けにするつもりだな?
(イヤだなー)
あの匂い鼻にツンとくるのです。
聞いたら他のみんなも同じ感想らしく、あんずちゃんやブッちゃんはクシャミが出やすくなったり、ドロちんに至っては酒を呑んでる人に殺意さえ覚えるとのこと。こりゃあオジサンと同席させられませんわ。
「まったく驚きですわね、食事処がまさか酒場しかないだなんて」
「魔族にとって、食堂も酒場も違いが無かったのだろう。ここでも食事はできるのだからな」
あんずちゃんに解説しつつ、自分でも納得いかない表情の僧侶さま。情に厚く人助けが趣味のブッちゃんと言えど、酒場突入任務はちと足元が重たくなる。わたしたちは基本お酒えぬじーなのです。
(そんな環境でも平気なスティさんが特別だったんだよ。グウェンちゃんも、アニスさんのためとはいえよく酒場に入り浸ってたなー)
「あぅー」
一方、僧侶の背後に陣取るベリーちゃんはただただ入口を見つめ、その先にあるおいしい食べ物に思いを馳せている。だってほら――。
(あっ)
べちゃ。
「ん?」
僧侶、頭頂部に違和感。僧侶言うて坊主じゃなくサイド刈り上げの超短髪ツーブロックヘアーにつき、雫がこぼれ落ちることはなかった。
「これは」
「ごめん」
手で触り、ベトついた手のひらをマジマジ僧侶。
謝罪する超大型雪女。
「……入ろう」
ブッちゃん、無言でハンカチを取り出しおててと頭をふきふき。何事も無かったかのように門扉に手をかけた。
外観はふつうの木造建築といった感じ。そこから一歩足を踏み出すと、ほんのりアルコール臭と木造建築によくある自然の香り、そしておいしそうな香りがほのかに漂ってきた。
(おお、これは)
間違いない。
ハンバーグだ。
じゅるり。
「いらっしゃいませー」
店主さんらしき人がカウンター越しに営業スマイル。
ウェイトレス姿だ。今まで見てきた魔族と違ってわたしたちと同じ肌色だけど、頭の両サイドにちょこんとツノが生えてるし、カウンターの下からにょっきり飛び出してるシッポは、おそらく彼女のものだろう。
「思ったより普通ですわね」
あんずちゃんがぽつり、毒にも薬にもならない感想を言う。
「うむ、酒場というより、どちらかと言えば普通の洋食屋に見受けられるが……」
「どーせならそうしてほしかったわ。酒なんて堕落の元でしかないのに」
「そんなこと言うなってちんちくりん。おめーも呑んでみろよ、飛ぶぞ?」
「死ね」
口だけで視線の絡み合いは拒否。そのままちょこちょこと前に出て、店主に案内を要求する。
「えっと、ニンゲンさまろくめい、でいいですか?」
ウェイトレスさん。初っ端から目立つベリーちゃんを認めてから戸惑いの表情を浮かべ、やっぱり戸惑い気味にそう確認してきた。やっぱ魔族からしてもこのサイズ感はおかしいのか。
(そうだよねぇ。入口の扉マジでギリギリだったもんねぇ)
「こんなナリだがいちおう人間だ。あ、正真正銘の人間は俺だけで、こいつらは異世界のな」
言われて納得の魔族さん。なるほど、異世界人となればこんな規格外の身長でも受け入れられるのか。
マジで? 今までそんなオトモダチ候補見たこと無いんだけど?
「どの席でも自由にどうぞー」
「おーい、ハイボールもひとつ!」
カウンター席からのリクエストに応え、ウェイトレス魔族はこちらに背を向けてしまった。ふと見渡すとそれなりに席が埋まっていて、そのうち魔族っぽい人は七割といったところ。
「人間さんが多いんだね」
「グレース、わたくしたちも人間ですわ」
「ボク、人間なのかな?」
「当たり前でしょう? ベリーさんまで、もう」
そんなやりとりをするうち、会話に不参加の魔女っ子が席を確保。なぜか冷たい視線のドロちんに急かされつつ、わたしたちはひとつの円卓を囲むことになった。
「アンタは近づかないで」
「ほう?」
「酒臭いジジイはごめんよ」
と、対面いちばん奥を指定する低身長高生意気なおんなの子。
「安心しろ、そんなに呑まねーよ」
「一杯でも呑むなっつってんのよ!」
「ど、ドロシーさんあまり騒がないで」
ドロちんのとなりを確保する女騎士。彼女が着席する間際、ボリューミーな茶髪が淡くひかり、フローラルな香りが鼻腔をくすぐった。
「まったくかわいそうだねぇ、人生のありがたみを享受できないとは。あーすまん! とりあえずビール頼むわ」
魔女の対面にてぶっきらぼうに座る。言われたウェイトレスさんがすぐさまグラスに注ぎ、注文から秒で黄色い液体が到着した。
「へぇ早いな。ここはおねーさんがひとりで切り盛りしてるのかい?」
「うふふ、どうかしらね?」
おねーさんは縦にながいピンク色の瞳を細めた。
「あぁいいね~、そのつれない態度、もっとキミを追いかけたくなるよ」
「たくさん注文してくれたら追いかけていいわよ? じゃ、決まったら呼んでね」
(腰の角度、声の抑揚、さらにさり際のウインクまで――やべえ)
アレはまさしく魔性の女だ。女のわたしが言うんだから間違いない。
「振られましたわね」
ざまぁ気配で口元を隠す女騎士。それでも、我がパーティーの新たな呑べぇ担当はくじけなかった。
「なぁに、一度スルーされた程度でヘコたれるようじゃ男じゃねえ」
「そーなの?」
「一緒にするな」
ブッちゃんがマジでメーワクそーに着席した。真っ先に座ったドロちんから時計回りにあんずちゃん、わたし、サンダーさん、ブッちゃん、そしてベリーちゃんとなっております。
「はやくたべる――はぅぁぁぁ」
最年長がアルコールをグイッと傾けるなか、うちの最高身長ちゃんはテーブル中央のメニュー表を取り出し色鮮やかな料理を目を踊らせていた。
ヨダレも踊らせている。
いやそれはダメだ。
「はい、ベリーさん」
「ん、ごめん」
近場のあんずちゃん、すかさずナプキンを取り出しベリーちゃんの口元とテーブルを拭き取った。それでも止まらないのでベリーちゃんには口を閉じてもらうことになった。
「ごくん」
「このままではベリーさんが自らの唾液で満腹になってしまいますわ。早く決めてしまいましょう」
(言われなくても!)
なにたべる?
やっぱおにく?
おにくだよね?
おにくにしよう!
「じゃあわたしは――」
「グレース?」
(え?)
背後からの声。
女性、やや低く落ち着いた声色。
発生源からして身長は高い。
聞き覚えがある。
「だれ?」
わたしは振り向いた。
白い肌、モデルのようなライン、スポーティーな筋肉質の身体を、人間のそれと異なる素材の服で覆っている。
「久しぶりだな。こんなところで再開するとは思わなかった」
「ビーちゃん!」
わたしはイスから立ち上がり、その胸に飛び込んだ。
メシ処がない。
「いやあるだろ」
サンダーさんは見るからにわくわくした顔。
くそう、オヤジのくせに。
ジジイ一歩手前のくせに。
初老のくせいに目ぇ輝かせやがって。
「ここがメシ屋だ」
山を下ってなだらかな斜面広がる草原地帯。そのど真ん中に、まるで備え付けユニットバスのようにぽつんと置かれたバーグの町。
初めて出会った待ち人とミート→グッバイしてからの表通りそして噴水がある広場。まるで人間が暮らす町のそれと同じく、あれ? 魔族ってもしかして見た目以外なにも変わらんの? などと思い始めた矢先にこれよ。
「どーみても酒場じゃない」
とある木造建築にぶら下がった看板をまじまじ見つめ異論を唱えるロリ魔女。いつもロリロリ言うてますが、彼女はアサシンあんどプリンセスナイトより年上なのだ。
「しかたねーだろ他にねーんだから」
などと、かくも他に選択肢がないかのように申し上げておりますが、このヤブ医者の表情ったらなんと晴れやかなことか。てめー真っ昼間からアルコール漬けにするつもりだな?
(イヤだなー)
あの匂い鼻にツンとくるのです。
聞いたら他のみんなも同じ感想らしく、あんずちゃんやブッちゃんはクシャミが出やすくなったり、ドロちんに至っては酒を呑んでる人に殺意さえ覚えるとのこと。こりゃあオジサンと同席させられませんわ。
「まったく驚きですわね、食事処がまさか酒場しかないだなんて」
「魔族にとって、食堂も酒場も違いが無かったのだろう。ここでも食事はできるのだからな」
あんずちゃんに解説しつつ、自分でも納得いかない表情の僧侶さま。情に厚く人助けが趣味のブッちゃんと言えど、酒場突入任務はちと足元が重たくなる。わたしたちは基本お酒えぬじーなのです。
(そんな環境でも平気なスティさんが特別だったんだよ。グウェンちゃんも、アニスさんのためとはいえよく酒場に入り浸ってたなー)
「あぅー」
一方、僧侶の背後に陣取るベリーちゃんはただただ入口を見つめ、その先にあるおいしい食べ物に思いを馳せている。だってほら――。
(あっ)
べちゃ。
「ん?」
僧侶、頭頂部に違和感。僧侶言うて坊主じゃなくサイド刈り上げの超短髪ツーブロックヘアーにつき、雫がこぼれ落ちることはなかった。
「これは」
「ごめん」
手で触り、ベトついた手のひらをマジマジ僧侶。
謝罪する超大型雪女。
「……入ろう」
ブッちゃん、無言でハンカチを取り出しおててと頭をふきふき。何事も無かったかのように門扉に手をかけた。
外観はふつうの木造建築といった感じ。そこから一歩足を踏み出すと、ほんのりアルコール臭と木造建築によくある自然の香り、そしておいしそうな香りがほのかに漂ってきた。
(おお、これは)
間違いない。
ハンバーグだ。
じゅるり。
「いらっしゃいませー」
店主さんらしき人がカウンター越しに営業スマイル。
ウェイトレス姿だ。今まで見てきた魔族と違ってわたしたちと同じ肌色だけど、頭の両サイドにちょこんとツノが生えてるし、カウンターの下からにょっきり飛び出してるシッポは、おそらく彼女のものだろう。
「思ったより普通ですわね」
あんずちゃんがぽつり、毒にも薬にもならない感想を言う。
「うむ、酒場というより、どちらかと言えば普通の洋食屋に見受けられるが……」
「どーせならそうしてほしかったわ。酒なんて堕落の元でしかないのに」
「そんなこと言うなってちんちくりん。おめーも呑んでみろよ、飛ぶぞ?」
「死ね」
口だけで視線の絡み合いは拒否。そのままちょこちょこと前に出て、店主に案内を要求する。
「えっと、ニンゲンさまろくめい、でいいですか?」
ウェイトレスさん。初っ端から目立つベリーちゃんを認めてから戸惑いの表情を浮かべ、やっぱり戸惑い気味にそう確認してきた。やっぱ魔族からしてもこのサイズ感はおかしいのか。
(そうだよねぇ。入口の扉マジでギリギリだったもんねぇ)
「こんなナリだがいちおう人間だ。あ、正真正銘の人間は俺だけで、こいつらは異世界のな」
言われて納得の魔族さん。なるほど、異世界人となればこんな規格外の身長でも受け入れられるのか。
マジで? 今までそんなオトモダチ候補見たこと無いんだけど?
「どの席でも自由にどうぞー」
「おーい、ハイボールもひとつ!」
カウンター席からのリクエストに応え、ウェイトレス魔族はこちらに背を向けてしまった。ふと見渡すとそれなりに席が埋まっていて、そのうち魔族っぽい人は七割といったところ。
「人間さんが多いんだね」
「グレース、わたくしたちも人間ですわ」
「ボク、人間なのかな?」
「当たり前でしょう? ベリーさんまで、もう」
そんなやりとりをするうち、会話に不参加の魔女っ子が席を確保。なぜか冷たい視線のドロちんに急かされつつ、わたしたちはひとつの円卓を囲むことになった。
「アンタは近づかないで」
「ほう?」
「酒臭いジジイはごめんよ」
と、対面いちばん奥を指定する低身長高生意気なおんなの子。
「安心しろ、そんなに呑まねーよ」
「一杯でも呑むなっつってんのよ!」
「ど、ドロシーさんあまり騒がないで」
ドロちんのとなりを確保する女騎士。彼女が着席する間際、ボリューミーな茶髪が淡くひかり、フローラルな香りが鼻腔をくすぐった。
「まったくかわいそうだねぇ、人生のありがたみを享受できないとは。あーすまん! とりあえずビール頼むわ」
魔女の対面にてぶっきらぼうに座る。言われたウェイトレスさんがすぐさまグラスに注ぎ、注文から秒で黄色い液体が到着した。
「へぇ早いな。ここはおねーさんがひとりで切り盛りしてるのかい?」
「うふふ、どうかしらね?」
おねーさんは縦にながいピンク色の瞳を細めた。
「あぁいいね~、そのつれない態度、もっとキミを追いかけたくなるよ」
「たくさん注文してくれたら追いかけていいわよ? じゃ、決まったら呼んでね」
(腰の角度、声の抑揚、さらにさり際のウインクまで――やべえ)
アレはまさしく魔性の女だ。女のわたしが言うんだから間違いない。
「振られましたわね」
ざまぁ気配で口元を隠す女騎士。それでも、我がパーティーの新たな呑べぇ担当はくじけなかった。
「なぁに、一度スルーされた程度でヘコたれるようじゃ男じゃねえ」
「そーなの?」
「一緒にするな」
ブッちゃんがマジでメーワクそーに着席した。真っ先に座ったドロちんから時計回りにあんずちゃん、わたし、サンダーさん、ブッちゃん、そしてベリーちゃんとなっております。
「はやくたべる――はぅぁぁぁ」
最年長がアルコールをグイッと傾けるなか、うちの最高身長ちゃんはテーブル中央のメニュー表を取り出し色鮮やかな料理を目を踊らせていた。
ヨダレも踊らせている。
いやそれはダメだ。
「はい、ベリーさん」
「ん、ごめん」
近場のあんずちゃん、すかさずナプキンを取り出しベリーちゃんの口元とテーブルを拭き取った。それでも止まらないのでベリーちゃんには口を閉じてもらうことになった。
「ごくん」
「このままではベリーさんが自らの唾液で満腹になってしまいますわ。早く決めてしまいましょう」
(言われなくても!)
なにたべる?
やっぱおにく?
おにくだよね?
おにくにしよう!
「じゃあわたしは――」
「グレース?」
(え?)
背後からの声。
女性、やや低く落ち着いた声色。
発生源からして身長は高い。
聞き覚えがある。
「だれ?」
わたしは振り向いた。
白い肌、モデルのようなライン、スポーティーな筋肉質の身体を、人間のそれと異なる素材の服で覆っている。
「久しぶりだな。こんなところで再開するとは思わなかった」
「ビーちゃん!」
わたしはイスから立ち上がり、その胸に飛び込んだ。