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作者: 犬物語
再会と新クエスト
出会い、別れ、また出会う
「あああぁぁぁぁあああビーちゃんだービーちゃんだあ!」
「あはっ、なつかしいなこの感覚」

 引き締まった腹筋の感触を顔面。たわわなマシュマロの感覚を頭頂部に感じつつ、わたしはビーちゃんの腰にウデを回してガッツリホールド巻き付いた。

 キュッと引き締まった肢体。これは間違いないバスケットボール経験者だ。いやバレーボール? ソフトボール? あーんもうどれでもいいけどなんかスポーティ!

「イメチェンしたの? かわいいね!」

 ギューギュータイム終了。最後に腰まで伸びた髪の毛を堪能しつつ身体から離れ全身を見渡した。

 触感から人がつくる素材でないことがわかった。エルフ特製のナチュラリティーな服なんだろう。深い森林の香りと気品漂うアースカラーな布の服。たぶん、見た目以上に頑丈で刃物を通さないはずだ。

「っていうかちょっとまって。なんで? なんでビーちゃんいるの? っていうかマジ久しぶりじゃん! もーちょっとモフモフさせて!」
「今日のところはおあずけだ……ほら、みんな見てるぞ」

 懐に突進、と思いきやビーちゃんの長いウデが伸びてきた。そのまま彼女の手がグレースちゃんのヘッドをガッツリホールド。

 ぐぬぬ、前に進めない。そのままエルフの仲間系少女は我がパーティー一行を見渡していく。

「とつぜんの訪問を詫びさせてくれ。私の名はビシェル。グレースとは以前共に旅をした仲だ……ん?」

 見渡して、ビーちゃんはひとりの少女に焦点を当てた。

「おまえはあの時の女魔術師か」
「なに?」

 ドロちんのことだ。対するドロちんはあるで覚えがないと言いたいように攻撃的な視線を投げ返す。

(そうだ、ビーちゃんとドロちん会ってるじゃん)

 わたしはビーちゃんへの突進を断念しそちらの会話に混ざった。

「あの時だよドロちん。レストランでチビヒョロを焦がした時の」
「だれがチビですって! ――あぁ、あの時の」

 ちげーよ、と言い返そうとしたが思い出してくれたようです。当時を思い出しつつ、ビーちゃんは傍観者側だったにもかかわらずドロちんに謝罪の態度をとった。

「迷惑をかけたな」
「アンタが気にすることじゃないわ。悪いのあの悪党とオッサンじゃない」
(オジサンもカウントされてるんだ)

 いちおー穏便めにやってたんだけどね?

「それよりもアンタ、えーっとビシェルだったわね。その髪の毛ってもしかして」
「ああ、これか?」

 ビーちゃんは自身の腰まで伸びた髪を手にすくい、手前に示した。淡いライトブラウンのそれは、今は室内の雰囲気に当てられやや濃くなっている。

「かすかだけど魔力を感じるわね。それも人間が使うタイプじゃない」
「気付いたか、さすが魔術師だな」
「え、なになに何の話?」
「盛り上がってるとこわりーんだがー」

 顔をズイ。
 アルコール臭がもわ。
 くっさ。

「グレースの知り合いか? 紹介してくれよー若くてかわいーねーちゃんなら大歓迎だぜ?」
「……彼は」

 ビーちゃんガマンできず、かすかに顔をしかめた。

「オジサン枠」
「なるほど」

 理解がはやくて助かる。ビミョーな気配を察してか、我がベストフレンドが慌てたように起立し自分の胸に手を当てた。

「わたくしも貴方のことを存じ上げておりますわ」
「ああ、えーっと」
「はじめまして。わたくしはあんずと申します」
「あんずちゃんはね、わたしのルームメイトなんだ」
「なるほど。ふふ、グレースに振り回されてないか?」
「たまに」

 言って、ふたりは固い握手を交わした。

「拙者はブーラー。しがない僧侶だ」
「この世界に僧はいなかったと思うが」
「己の信念と受け取ってもらえれば良い」

 酔っ払い越しにあいさつを交わし、ビーちゃんは流れに沿って最も大きな体躯をしたウーマンに目を見開いた。

「異世界人で、いいんですね?」
「うん……ベリーです」
「あ、すまない。その、似たような体格の人を見たことはあるが」

 弓兵の脳裏に浮かんでいるだろう筋肉女子に思いを馳せる。みんな元気にやってるかなぁ。

「初めてだったので」
「気にしてないから」
「ベリーちゃんね、もっふもふなんだよ!」
「あぅ」

 ベリーちゃんに飛び込みもふもふを堪能。素朴なたぬきフェイス。ウェーブしつつ広がるヘアー。やさしい垂れ目、つんとした鼻。まるでおっきなぬいぐるみさんみたい。

「グレースはどこに行っても変わらないな。いつの間にかたくさんのオトモダチに囲まれてる。うらやましい限りだ」
「いつもこうなの?」

 グレースちゃんに抱きつかれつつ、ベリーちゃんはスラリとした体型のビーちゃんに問いかけた。

「ああ。拒否しようにもめげなくてな。気づいたら身体を許してしまっていた」
「その言い方誤解を生むと思うんだけど」

 ツンデレ魔術師によるジメッとした声色。カラトリーの衝突音と人の喧騒がコンスタントに耳に入ってきて、最後にゴトンという音が響く。

「俺の紹介は最後かよ。釣れないなぁ」

 サンダーさんが空のグラスをテーブルに置いたんだ。んで不満の言葉をネトついた笑みで発しつつ、酒臭い身体を持ち上げてビーちゃんに手を差し出した。

「サンダーランド。旅の医者で、今はこいつらの保護者をしてる」
(保護される側でしょ)

 戦闘シーンじゃ描写してないけど、サンダーさんずっと物陰に隠れてるからね?

(まあ、その後治療とかしてくれるけど)

「……よろしく」

 決して社交的な姿勢を崩さず、ビーちゃんは震える手でサンダーさんのそれを握り返した。ちょ、ビーちゃんお顔が弓兵モードになってるよ落ち着いて。

「っていうかビーちゃんなんでカニスにいるの? エルフの森へ帰るんじゃなかったっけ?」
「ああ」

 社交モード終了。やわらかい笑顔の弓兵はその話題に触れた途端、やや緊張の色を顕にしつつ声を潜ませた。

「グレースになら言っても構わないだろう……私はエルフたちの使者として、カニス領の同胞や魔族の――魔王の元を目指している」
「えっ?」

 この場に居合わせた全員がそれに驚きを示したり興味をもったり。視線や態度でそれを示していた。

「どうして?」
「龍脈の流れがおかしくなっているようだ。ニンフによると、それはアイン・マラハだけでなく大陸規模で発生している。このままでは大変なことになる」
「大変とは」

 ブッちゃんがより声を低くする。ブッちゃんドロちんの教養組はことの大きさを理解してるのか、龍脈というワードを聞いたとたんにマジメさに輪をかけた表情になった。

 つまり、なんか大変なことになってるってことだよね?

「世界が破滅する」
「ファッ!?」

 マジで?

「それは、どういうことですの?」
「グレースも知ってるだろうが、龍脈は地表に溢れ出たエネルギーのことだ。それと同時に、力の泉から世界各地へ広がる奔流そのものをも指す」
(うーんなるほど)

 わからん。けどなんとなくわかる。つまり、なんか地面の下ですっげーパワーが流れてるってことだよね。

「ニンフの言葉を借りれば、龍脈は生命エネルギーそのもの。そのバランスが崩れれば大陸の生命活動やライフサイクルも崩れていき、いずれすべて枯れ果ててしまうだろう」
「待て、いまニンフと言ったのか?」

 ブッちゃんがさらに神妙な表情。それにビーちゃんがうなずき肯定すると、青服の僧侶は信じられないといった風にイスへ体重を乗せた。

「なんと、実在したとは」
「ウチも今知ったわ。てっきりエルフの上位存在かと思ってたけど」
「そのイメージで間違いではない。いま、同胞たちは各地と連携し原因究明に当たっている。私たちはカニス領担当ということだ」

 言って、彼女はあるテーブルを指し示した。そこにはふたり、こちらの様子を伺っている。ふたりとも青い瞳で訝しげにこちらを射抜き、美しい肌と金髪のスキマからとんがった耳を覗かせていた。

「グレースはどうした? また新しいオトモダチを探して旅してるのか?」
「あのねあのね、わたしたちも魔王さまに会いに行くんだ!」

 ぞわ。
 周囲の喧騒がいちレベル下がり、たくさんの視線を感じるようになった。

「むぐっ」
「グレース! もっと小さな声で」

 背後からルームメイトい口を塞がれる。サンダーさんがクククと笑い、ベリーちゃんがあわわと慌て、ブッちゃんが周囲へ謝罪とそのまま食事を続行するよう促しつつ、ドロちんが「はぁ~このバカたれが」などと毒づきつつビーちゃんへの返答役を務める。

「旅団からの依頼よ。内容は話したくないからこれでいい?」
「あ、ああ……すまなかった」
「ぷは! んもう、ビーちゃんはわるくないよ!」
「ええ、グレースのせいですわね」
「ガビーン!」

 あんずちゃんさぁ、さいきんトゲキツくなぁい?

「そうか……これも何かの縁かもしれないな。グレース、ちょっといいか」
「ん?」
「旅団所属ということは、仕事を引き受けてくれるんだろう?」

 言って、ビーちゃんは弓兵のようにたくましく、それでいて裁縫上手そうなやさしい手を差し出した。
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