残酷な描写あり
第九話 『ノアvsアクス』
両者の剣がぶつかり合う度に火花を散らす。
「ハハッ! 久しぶりに全力でやれる」
アクスは満面の笑みを浮かべて、剣に更に魔力を込める。
【剣技・黑の荊】
突き出した真っ黒い剣が無数に枝分かれして、黒い茨がノアに襲い掛かる。
ノアはその攻撃を躱しながら、アクスに肉薄する。
「ハッ、いつまで余裕ぶれるかなッ!」
アクスは無数に枝分かれした茨を鞭のように振り回す。
「雑だな」
ノアはアクスの雑な攻撃を軽く受け流し、懐に入る。
「剣技・双緋ッ――!!」
地中に潜む魔力の流れを感知して技を中断し、咄嗟に後ろに飛び退くと先程までいた場所の地面から黒い茨が突き出て来て、茨の壁が形成させる。
「こんな事も出来るのか、魔法武器は」
「ほぉ、勘のいいやつだな。だが、コレならどうだ!」
アクスが剣を振り下ろすと、一つに纏まっている茨の壁がバラバラに分かれて、周囲の地面に潜り込む。
「さぁさぁ〜、勘でどこまで避けれるかな?」
「勘?」
ノアはアクスの言葉に疑問を抱く。
「お前、何か勘違いして無いか?」
「は? なんだ、時間稼ぎか?」
問いかけに対する反応から、ノアはアクスの実力を見抜き無意識に本音を呟く。
「魔法武器に頼りすぎるのも考えものだな」
「はぁ?」
「身の丈に合わない物を使ってるから、武器に実力が伴って無いんだな」
「――なに上から物言ってんだ! テメェ、ブチ殺すぞ!」
アクスの大声でノアは自分が本音を呟いていた事に気づく。
そして、今度はアクスに対して話しかける。
「お前じゃ、俺には勝てない」
「――マジで……ぶっ殺す!」
アクスは額に青筋を浮かべて、攻撃を開始する。
周囲の地面から黒い茨が次々と飛び出して、ノアに迫る。
対するノアは無数に迫り来る茨の魔力の流れを感じ取り、視界の外の攻撃も見ずに対処する。
「あ? どうなってんだ」
アクスはノアが全ての攻撃を完全に見切っている様を見て、唖然とする。
その隙をノアは見逃さず、仕掛ける。
【剣技・八咫烏】
「――な、クソッ!」|
一撃目の斬撃を受けてから、攻撃が飛んで来ていることに気づき、二撃目を間一髪で避けて続く斬撃を弾いて防ぎ切る。
【剣技・双緋撃】
「――いつの間にッ!」
背後を取ったノアがアクスの背中に袈裟斬りを浴びせる。
アクスの鎧に三本の傷がつく。
「ハッ、効かねーな!」
アクスは振り返って斬りかかるが、ノアが真下からその剣を狙って切り上げ弾く。
「このッ!」
「単調なんだよ、全てが――【剣技・狂乱螺旋】」
剣を突き出し、螺旋状の斬撃を放つ。斬撃は鎧の胴部を少しずつ削る。
アクスは剣から黒い衝撃波を放ち、ノアに攻撃して後ろに下がり距離を取る。
「テメェの攻撃なんか効かねーんだよ! 俺にはこの鎧がッ――!」
ノアはアクスに距離を取らせず、ピッタリとくっついて猛攻を続ける。
「クソッ……うぜぇなッ!!」
アクスはなんかとノアの剣を防ぎつつ、地面に潜らせたままの黒い茨を一斉に出して攻撃する。
「だから、雑だって言ってるだろ」
ノアは一斉に襲い掛かって来た、茨を最小限の動きで全て避ける。
「なんで、当たんねーだ! クソッ!【剣技・黒一閃】」
アクスはやけくそ気味に黒い斬撃を数発飛ばす。
「目で見てるからだろ」
ノアは黒い斬撃を弾き飛ばしながら、近づく。
「意味わかんねーこと言ってんなよ! 見ないでどうやって――」
「剣士は魔力の流れを感じ取るものだろ」
ノアはアクスの攻撃全てを真正面から弾き飛ばし、懐に入って剣だけに闘気を集中して渾身の一太刀を振り下ろす。
アクスは剣で受け止めようするが、気づいた時にはノアの一太刀で鎧を真っ二つに破壊された後だった。
「――なッ!! この、剣技・黒円ッ――」
アクスが技を出す前に、ノアは剣を切り上げ致命傷を与える。
「ぐあッ! こ、こんなハズ――」
ノアは勢いを緩めず、瀕死のアクスにトドメの一撃を浴びせる。
「がはッ……」
アクスは仰向けに倒れ、息絶える。
ノアとアクスの戦いはノアの勝利で幕を閉じた。
◇◇◇
「や、やったのか? ノア」
戦いを見守っていたアルバートが、遠くからノアに声をかける。
「ああ、終わったよ。鎧が硬くて時間が掛かったが」
「流石だなぁ! ……って、指輪! 指輪!」
「指輪?」
アルバートはアクスがアリサの大切な指輪を持っている事を思い出し、近付いて指輪を探す。
「どこだ〜、うーん」
「指輪ってなんだ?」
「アリサの大切な物をコイツが取ったんだよ!」
「それは……多分、切れて――」
「アー!!!」
見つかった指輪は見事、真っ二つに切れていた。
「やっぱり……」
ノアは困った様に顎に手を当てる。
アルバートはなんとかくっ付かないかと、何度も切れ目を合わせてみる。
「頼む〜くっ付いてくれ! ぐぬぬっ!」
「いや、切れてるから合わせても」
「そうだ! 竜の息吹で切れ目を溶かして溶接?ってのをすれば――」
「まてまて、そんな事したら指輪が溶けるどころか無くなる」
「でも、この指輪はアリサにとっての形見なんだぞ。どうにかして元通りに」
そこに、アリサが寄って来てアルバートが切れた指輪を渡す。
アリサは指輪の内側に刻まれた文字を確認する。
幸いにも刻まれた文字は傷ついておらず、二つの文字の間が切れていた。
「大丈夫です! 私は戻ってきただけでも嬉しいですから!」
アリサはそう言って笑顔を浮かべるが、その笑顔はどこか哀愁を帯びていた。
「すまない……」
「いや、本当に気にしないでください。それより、アイリスさんが心配です!」
「私は無事ですよ。魔力を少しばかり使い過ぎて疲労してるだけですから」
アイリスが歩きながら、こちらに来る。
「兄さん、急いでジークさん達の方に向かいましょう。あちらには団長が居るみたいですし」
「そうだな」
「え、お父さんも来てるんですか?」
「そうだぞ! でもジークだけじゃ無くてSランクの冒険者も居るから心配する事ないぞ!」
「そ、そうですか……」
ノア達は砦から出て、外に居るブラックウルフに乗り西の拠点に急いで向かう。