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作者: Siranui
残酷な描写あり
第九十四話「いざ長崎へ」
 第五次剣血喝祭開催まで残り3日――

 またボロボロの教会に生徒が集められた。今度は何を言われるのかとざわざわし始めていた。

「静粛に!」

 いつの間にかステージに立っていたベディヴィエルの鋭い声で、教会の空気が一瞬にして断たれた。急激冷凍したかの如く全員が一斉に黙り込む。
 それを確認し、ベディヴィエルはマイクを手に取り話しだした。

「――皆の者よ、もうあっという間に祭の刻が来た! 本来ならあと3日後にこの学園で行われる予定だったが、今回は日本という国の長崎という所でこの祭が行われる。
 ここからではかなり遠く、全生徒の移動が困難だ。だから、今日君達には開催地である長崎に行ってもらう!」

 あまりにも急すぎるからか、生徒達から「そんなの無茶だ……」やら「何でその対策を最初からしなかったんだ!」やら様々な声が飛び交っていた。

「これがあまりに無茶な事なのは分かっている。だが、全生徒を転送装置のみで長崎へ行くにはそれほどの時間が必要なのだ! 生徒会一同、大変申し訳無いとも思っている。だが、協力してほしい。3年ぶりとなる祭を成功させるために!!」

 ……ちっ、何が祭を成功させるだ。例年死者を多く出してるというのに成功だなんてよく言える。

「はぁ……」

 俺――大蛇はそんな愚痴を心の中に留めておきながらベディヴィエルの話を聞いていた。恐らく『常夏の血祭り』という別名を知っている者なら誰しもそう思うだろう。そもそも祭りで死者……それも殺されるだなんて事はあり得ないのだ。

「大蛇君?」
「すまない、独り言だ」

 右隣にいたエレイナに声をかけられ、咄嗟とっさにそう口にした。勿論ため息を吐いただけなので独り言なんてしてない。

「正直今は時間がない。これから我々生徒会も含め、君達は副会長のカペラによる睡眠魔法で眠ってもらう。その後は長崎に着き次第、君達の携帯に学園宛からメールが出されるからそれを読んでくれ……準備出来たか、カペラ」
「言われる前からとっくに準備済みよ」

 話があまりにも急すぎて、生徒達が一斉に慌てだす。それも無理ない。何故ならこれから俺達は眠らされるのだから。

「おいおい……何が何だか分かんねぇよ」
「今完全に分かってるのはこれから長崎に行くってのと眠らされる事だけだな」

 しかも、あの生徒会副会長のカペラの睡眠魔法だ。効きとしては申し分ないだろう。人間嫌いという噂もあるからもしかしたらお得意の獄炎魔法で生徒全員を焼き尽くす可能性だってある。少なくとも、今の生徒会は信用出来ない。

 生徒達がざわざわとしている中にも関わらず、カペラは右手を掲げ、アメジスト色の球体をてのひらから精製する。

「『無獄無楽ロストホール』」

 刹那、球体から狼煙の如くアメジスト色の煙が宙を舞い、破壊された教会を包み込んだ。生徒達、そしてベディヴィエル含む生徒会一同もその睡眠魔法で一瞬にして眠りについた。

「あぅ……やべ…………」

 一気に睡魔の大群が襲ってくる。もう耐えられそうにない。

「てめぇら……し、死ぬんじゃねぇぞ……!」
「ぜっ……たぃにぃ…………全員無事にさせよう……」
「お前ら……期待してるからな」

 ただそれだけを教会に残し、俺達作戦メンバー一同は眠りについてしまった――
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