残酷な描写あり
R-15
第4話 『な・に・か・し・ら⁉』
「えっ……?」
という声に、急いでアルマが振り返ると、スペスは額の汗を手でぬぐっていた。
手に〝赤い草〟を持ちながら……。
ふたりが、固まったように見つめあう。
「うああぁぁぁぁぁっ! 熱い! 熱い! っていうか痛いっ!」
いきなりスペスがしゃがみこみ、顔を押さえて地面をバタバタと転げまわった。
「もうっ!」
すぐにアルマは駆け寄ると、暴れるスペスの腕を強引に顔からひきはがす。
そのまま地面に押さえつけると、スペスの顔は真っ赤に腫れていた。
「触っちゃ駄目っ! よけいに酷くなるからっ!」
腕を押さえられたスペスがおとなしくなると、アルマは素早く周りを見まわして、近くの草についた青い実をみつける。
それをサッとつかみ取ったアルマは、手でパンッとつぶし、その青い汁をスペスの顔に塗りつけた。
「よしっ……!」
塗った場所から赤みが引くのを確認すると、アルマはさらに何個かの実を取って、丁寧に腫れたところに塗っていく。
「あ……だいぶ、痛くなくなってきた……よ」
スペスが目が開けられるくらいになると、アルマはさっきの手拭いでスペスの顔をふいた。
「大丈夫?」
「いや、ひどい目にあったよ……」
苦笑いをしながらスペスが起きあがったので、アルマはほっと息をついた。
「あの草はね〝火焔草〟っていって火の魔素がすっごく強いのよ。あの状態のまま放っておくと、ひどい火傷になることもあるんだからね」
そう説明しながら、アルマは青い実をスペスに手渡す。
「はい、コレをつぶして、さわった手にも塗っておいて」
「これは……?」
おそるおそるといった感じで、スペスが受け取る。
「〝冷ましの実〟、火の魔素をおさえてくれるから」
アルマが説明すると、スペスは素直につぶして手に塗りつけた。
「さて、一ついいかしら、スペス」腰に手を当てて、アルマは言った。
「もうわかったと思うけど、この辺りには危険なものがあるんだから、何かに触る前にはわたしに必ず訊いて! はい返事!」
「わかりました!」
「よろしい!」と、アルマはうなずく。
「……とはいってもね、いまの時期は口に入れたりしなければほぼ平気なモノばかりなのよね。触るだけで問題になるのってそれこそ火焔草くらいなのに、いきなりそれを顔につけるだなんて……スペスってば、ほんとに運が〝良かった〟わね」
「ひどいことを言うなぁ……」とスペスは困ったように笑う。
「――それを言うなら〝運が悪い〟だよね?」
「あら、そんなことはないわよ。あなたはとても運が良いの」
アルマは、噛んで含めるように言った。
「だって……もしココにわたしがいなかったら、その顔は爛れて二度と元には戻らなかったかもしれないし――」
「怖っ!」
「本当によかったわね、わたしがいて。ほらほらっ、感謝しなさいっ」
アルマは、からかうように言って笑った。
「ああ……いや、うん、本当にありがとうアルマ。また助けられちゃったね」
「いいのよ」とアルマは首をふった。「ちゃんと注意しなかったわたしも悪かったし。だから、おあいこね」
「そんなことはないよ。アルマはやさしいね」
「いやだわ、急にほめたって何も出ないわよっ!」
アルマが照れかくしにバシッと肩を叩くと、スペスが飛びあがった。
「痛っっったぁい!」
「あっ……。ご、ごめんね! そんなに強くたたいていないでしょ?」
「うぅ……そうかなぁ。かなり痛かったんだけど……」
とスペスが肩を押さえる。
「さっきから、アルマに運ばれたり、押さえつけられたりしてて思ってたんだけど――」
「……なによ?」アルマの眉がピクッと動く。
「もしかしなくても……アルマって〝ちからが強い〟よね?」
「なぁんですって?」
急に低い声になったアルマが、スペスの腕をがっちりとつかまえた。
「スペス~? 怒らないから、もう一回言ってみなさい?」
笑顔のアルマが、スペスに迫る。
「ご、ごごご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
怯えた声を出しながら、スペスはブンブンと腕を振ったが、アルマに掴まれている箇所だけ固定されたように動かなった。
「気にしてたなら謝るっ、謝るからー! 腕をねじるのはやめてー! いたいっ、痛ったたたたたた、ホントにイタイ、イタイィィぃぃ!」
アルマは笑顔のまま、ギリギリとスペスの腕を絞る。
「わたしはねっ、家の手伝いとかしてるから、ちょっと……そう、ほんのちょっとよ、ちょっと力がある〝だけ〟なのよ。お祭りの時の腕相撲大会だって、みんなが出ろ出ろって言うから出たらたまたま優勝しちゃっただけ、なのにっ! みんなしてバカぢからとか! 猛者とか! 腕自慢とか! ドスコイとか! 好き放題に言ってくれちゃって!」
「言ってない! ボクはひとつも言ってないからーっ! いたい、いたい、ちぎれるーっ! っていうか、ドスコイってなにーっ⁉」
「……知らないけど、昔からひとをバカにするときに使う言葉……ドスコイっていうほうがドスコイなのよ」
そう言ってようやくアルマは手をはなす。
掴まれていたスペスの腕には、まっ赤な手形がのこっていた。
「火焔草よりもひどい――」
「な・に・か・し・ら?」
笑顔のアルマが、もう一度スペスの腕に手をかける。
「イイエナニモ……」
と勢いよくスペスが頭を振った。
「ちょっとアルマさんに手を握られちゃって、ドキドキして赤くなっただけ……だよ」
「ほほほ、それはごめんあそばせ……|《治癒》!」
腕をもったままアルマが魔法をかけると、スペスの腕についた手形がきえた。
「これで証拠はのこりませんわ。でも、お気をつけて。つぎも手加減できるとはかぎりませんことよ」
「手加減……?」
スペスが信じられないという顔をして腕をみる。
「な・に・か・し・ら?」アルマがにっこりと微笑んだ。
「イイエナニモ……」
スペスは再びブンブンと頭を振った。
という声に、急いでアルマが振り返ると、スペスは額の汗を手でぬぐっていた。
手に〝赤い草〟を持ちながら……。
ふたりが、固まったように見つめあう。
「うああぁぁぁぁぁっ! 熱い! 熱い! っていうか痛いっ!」
いきなりスペスがしゃがみこみ、顔を押さえて地面をバタバタと転げまわった。
「もうっ!」
すぐにアルマは駆け寄ると、暴れるスペスの腕を強引に顔からひきはがす。
そのまま地面に押さえつけると、スペスの顔は真っ赤に腫れていた。
「触っちゃ駄目っ! よけいに酷くなるからっ!」
腕を押さえられたスペスがおとなしくなると、アルマは素早く周りを見まわして、近くの草についた青い実をみつける。
それをサッとつかみ取ったアルマは、手でパンッとつぶし、その青い汁をスペスの顔に塗りつけた。
「よしっ……!」
塗った場所から赤みが引くのを確認すると、アルマはさらに何個かの実を取って、丁寧に腫れたところに塗っていく。
「あ……だいぶ、痛くなくなってきた……よ」
スペスが目が開けられるくらいになると、アルマはさっきの手拭いでスペスの顔をふいた。
「大丈夫?」
「いや、ひどい目にあったよ……」
苦笑いをしながらスペスが起きあがったので、アルマはほっと息をついた。
「あの草はね〝火焔草〟っていって火の魔素がすっごく強いのよ。あの状態のまま放っておくと、ひどい火傷になることもあるんだからね」
そう説明しながら、アルマは青い実をスペスに手渡す。
「はい、コレをつぶして、さわった手にも塗っておいて」
「これは……?」
おそるおそるといった感じで、スペスが受け取る。
「〝冷ましの実〟、火の魔素をおさえてくれるから」
アルマが説明すると、スペスは素直につぶして手に塗りつけた。
「さて、一ついいかしら、スペス」腰に手を当てて、アルマは言った。
「もうわかったと思うけど、この辺りには危険なものがあるんだから、何かに触る前にはわたしに必ず訊いて! はい返事!」
「わかりました!」
「よろしい!」と、アルマはうなずく。
「……とはいってもね、いまの時期は口に入れたりしなければほぼ平気なモノばかりなのよね。触るだけで問題になるのってそれこそ火焔草くらいなのに、いきなりそれを顔につけるだなんて……スペスってば、ほんとに運が〝良かった〟わね」
「ひどいことを言うなぁ……」とスペスは困ったように笑う。
「――それを言うなら〝運が悪い〟だよね?」
「あら、そんなことはないわよ。あなたはとても運が良いの」
アルマは、噛んで含めるように言った。
「だって……もしココにわたしがいなかったら、その顔は爛れて二度と元には戻らなかったかもしれないし――」
「怖っ!」
「本当によかったわね、わたしがいて。ほらほらっ、感謝しなさいっ」
アルマは、からかうように言って笑った。
「ああ……いや、うん、本当にありがとうアルマ。また助けられちゃったね」
「いいのよ」とアルマは首をふった。「ちゃんと注意しなかったわたしも悪かったし。だから、おあいこね」
「そんなことはないよ。アルマはやさしいね」
「いやだわ、急にほめたって何も出ないわよっ!」
アルマが照れかくしにバシッと肩を叩くと、スペスが飛びあがった。
「痛っっったぁい!」
「あっ……。ご、ごめんね! そんなに強くたたいていないでしょ?」
「うぅ……そうかなぁ。かなり痛かったんだけど……」
とスペスが肩を押さえる。
「さっきから、アルマに運ばれたり、押さえつけられたりしてて思ってたんだけど――」
「……なによ?」アルマの眉がピクッと動く。
「もしかしなくても……アルマって〝ちからが強い〟よね?」
「なぁんですって?」
急に低い声になったアルマが、スペスの腕をがっちりとつかまえた。
「スペス~? 怒らないから、もう一回言ってみなさい?」
笑顔のアルマが、スペスに迫る。
「ご、ごごご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
怯えた声を出しながら、スペスはブンブンと腕を振ったが、アルマに掴まれている箇所だけ固定されたように動かなった。
「気にしてたなら謝るっ、謝るからー! 腕をねじるのはやめてー! いたいっ、痛ったたたたたた、ホントにイタイ、イタイィィぃぃ!」
アルマは笑顔のまま、ギリギリとスペスの腕を絞る。
「わたしはねっ、家の手伝いとかしてるから、ちょっと……そう、ほんのちょっとよ、ちょっと力がある〝だけ〟なのよ。お祭りの時の腕相撲大会だって、みんなが出ろ出ろって言うから出たらたまたま優勝しちゃっただけ、なのにっ! みんなしてバカぢからとか! 猛者とか! 腕自慢とか! ドスコイとか! 好き放題に言ってくれちゃって!」
「言ってない! ボクはひとつも言ってないからーっ! いたい、いたい、ちぎれるーっ! っていうか、ドスコイってなにーっ⁉」
「……知らないけど、昔からひとをバカにするときに使う言葉……ドスコイっていうほうがドスコイなのよ」
そう言ってようやくアルマは手をはなす。
掴まれていたスペスの腕には、まっ赤な手形がのこっていた。
「火焔草よりもひどい――」
「な・に・か・し・ら?」
笑顔のアルマが、もう一度スペスの腕に手をかける。
「イイエナニモ……」
と勢いよくスペスが頭を振った。
「ちょっとアルマさんに手を握られちゃって、ドキドキして赤くなっただけ……だよ」
「ほほほ、それはごめんあそばせ……|《治癒》!」
腕をもったままアルマが魔法をかけると、スペスの腕についた手形がきえた。
「これで証拠はのこりませんわ。でも、お気をつけて。つぎも手加減できるとはかぎりませんことよ」
「手加減……?」
スペスが信じられないという顔をして腕をみる。
「な・に・か・し・ら?」アルマがにっこりと微笑んだ。
「イイエナニモ……」
スペスは再びブンブンと頭を振った。