残酷な描写あり
R-15
第5話 『結婚ってなに⁉』
「あっ、いっけない――」
急に空をみて、アルマは言った。
「……ふざけてたら、だいぶ時間がたっちゃったわ。日が暮れる前にいそいで薬草を集めないと」
「ああ、そういえばそうだったね。よかったら手伝うけど、ボクに何かできることはある?」
「そうねえ……じゃあさっきの冷ましの実を集めてきてもらえる?」
アルマはカゴから採取道具を出して答える。
「形はもうわかるでしょ。色が薄いのは熟してないから避けて。数は百個くらいあるといいわね。ひとつの草からぜんぶは取らないで、かならず何粒かは残しておいてね。あとは、こういうかたちの葉っぱがあったら何枚か採っておいてくれる。できるだけ大きいほうがいいわ。それと――」
手早く指示をだしたアルマは、スペスに袋と手袋を渡し、自分もすぐ採取にとりかかった。
遮るものがない丘の上の遺跡で、ふたりは汗を浮かべながら薬草をあつめた。
「どう? 終わった?」
ひと通りあつめ終わったころ、アルマが声をかけた。
「うん、みんな集めたよ」
「あら、ずいぶん早いのね、ちょっと見せて」
とスペスの袋をのぞきこんだアルマは、『へー!』と声をあげた。
「言ったとおりに、ちゃんと集めてあるじゃない――スペスってば、なかなかいい目をしてるのね。これは思ってたよりもずーっと助かっちゃったわ、ありがと!」
「へへへ、どういたしまして。お役に立てたなら、なによりだよ」
「うんうん、とってもお役に立ってくれたわよ。えっと、こうだっけ?」
アルマが親指を立てると、笑いながらスペスも同じようにして返した。
「それで? スペスは、何をしていたの?」
「ああ、うん、ここの石のならびが気になってさ、ちょっと見てたんだ。最初はボク、あの真ん中あたりにいた気がするんだけどねぇ……」
「ふーん……そう」とアルマは気のない返事をした。
「でもね――わたしが訊きたいのは、そこに詰めこんであるモノのほうなんですけど?」
アルマが指さしたスペスのポケットは、どれもパンパンにふくらんでいて、あちこちから〝赤い草〟がはみ出していた。
「えっ――これは火焔草だけど? アルマ、知ってるよね?」
「そうじゃなくて、その大量の火焔草で何をするつもりなのかを訊いてるの!」
「ああ、そういうことか」とスペスはうなずいた。
「いや、なんか面白い草だから、あとで調べてみようと思ってさ、一緒に集めておいたんだ。これって本当に不思議だよねー、やっぱり赤いところにあの熱くなるヤツが入ってるのかなぁ? アルマはどう思う?」
「えっ? どうとか言われても……」アルマはちょっと考える。
「――そんなことを楽しそうに語られると、ちょっと引くっていうか、正直気持ち悪いって思う?」
「ひどい」
「あ、ごめんね。でもソレ、けっこう危ないものなんだから、取扱いには気をつけてよ。誰かの迷惑にならなければそれでいいけど」
「あーうん、気をつけるよ、危なさは身に染みてわかったからね」とスペスはうなずいた。
「それならいいわ。じゃあ――すこしだけ休んでから、わたしの村に行きましょ」
「そう? じゃあボクは、もうちょっと遺跡を見ていきたいから、行く時になったら教えてくれる?」
そのままスペスは並べられた石のほうに走っていくと、上にのぼったり、特定の石にしがみついて、あちこちを叩いたりし始めた。
「ほんっと、おかしな人ね」
苦笑したアルマは、しばらくスペスを眺めていたが、やがて手近な石へと腰をおろしカゴから本を取り出して開く。
しばらくのあいだ遺跡には、草が風にゆれる音と、アルマがページをめくる音だけが聞こえていた
* * * * * * *
ひと休みしてから遺跡を出たふたりは、けもの道のような、かすれて消えそうな踏み跡をたどって丘をくだっていた。
アルマしか通らないこの道は荒れていて、しばしば現れる大きな石や、太い木の根を踏み越えるたびに、前を歩くアルマのおさげがぴょんと跳ねた。
それを見ながら後ろをついてくるスペスが、アルマに訊ねる。
「さっき言ってた勇者って人は、そのあとどうなったの? 人族の敵――魔王だっけ? ソレを倒したあとは?」
「うーん、あとの話はあんまり伝わってないんだけどね――」
そう言いながらアルマは、途中にあった大きめの段差を、ヒョイと飛びおりる。
「魔王を倒したあとの勇者様は、各国のお姫様をはじめ多くの女性と結婚して、たくさん子供を授かったらしいわ。それで、若いうちに亡くなったそうよ」
「ふーん……、結婚ってなに?」
「えっ⁉︎ 結婚っていうのは……アレよアレ」
なんて説明したら良いのかとアルマは考える。
「好きな人同士が――って好きじゃない場合もあるんだけど……、男と女の人がね――って男女じゃない場合もあるのよね、子供を作るため? ……作らないこともあるし」
「アルマにも、よく分からないの?」
「いやいやっ、わかる! わかるんだけどっ! と、とにかく、一緒にいたいって思う人とずっと一緒にいようねって決める事!」
雑な結論になった。
「そういう契約?」
「契約? まあ契約といえば契約かもね。味気ない言い方になっちゃうけど……」
湧き水で湿った斜面をくだりながら、アルマはそう答えた。
「それならさアルマ」
「なに?」
「ボクと結婚してよ」
「はぁっ⁉︎」
勢いよくふりむいたアルマは、ぬかるむ地面で足を滑らせてドシンと尻もちをついた。
急に空をみて、アルマは言った。
「……ふざけてたら、だいぶ時間がたっちゃったわ。日が暮れる前にいそいで薬草を集めないと」
「ああ、そういえばそうだったね。よかったら手伝うけど、ボクに何かできることはある?」
「そうねえ……じゃあさっきの冷ましの実を集めてきてもらえる?」
アルマはカゴから採取道具を出して答える。
「形はもうわかるでしょ。色が薄いのは熟してないから避けて。数は百個くらいあるといいわね。ひとつの草からぜんぶは取らないで、かならず何粒かは残しておいてね。あとは、こういうかたちの葉っぱがあったら何枚か採っておいてくれる。できるだけ大きいほうがいいわ。それと――」
手早く指示をだしたアルマは、スペスに袋と手袋を渡し、自分もすぐ採取にとりかかった。
遮るものがない丘の上の遺跡で、ふたりは汗を浮かべながら薬草をあつめた。
「どう? 終わった?」
ひと通りあつめ終わったころ、アルマが声をかけた。
「うん、みんな集めたよ」
「あら、ずいぶん早いのね、ちょっと見せて」
とスペスの袋をのぞきこんだアルマは、『へー!』と声をあげた。
「言ったとおりに、ちゃんと集めてあるじゃない――スペスってば、なかなかいい目をしてるのね。これは思ってたよりもずーっと助かっちゃったわ、ありがと!」
「へへへ、どういたしまして。お役に立てたなら、なによりだよ」
「うんうん、とってもお役に立ってくれたわよ。えっと、こうだっけ?」
アルマが親指を立てると、笑いながらスペスも同じようにして返した。
「それで? スペスは、何をしていたの?」
「ああ、うん、ここの石のならびが気になってさ、ちょっと見てたんだ。最初はボク、あの真ん中あたりにいた気がするんだけどねぇ……」
「ふーん……そう」とアルマは気のない返事をした。
「でもね――わたしが訊きたいのは、そこに詰めこんであるモノのほうなんですけど?」
アルマが指さしたスペスのポケットは、どれもパンパンにふくらんでいて、あちこちから〝赤い草〟がはみ出していた。
「えっ――これは火焔草だけど? アルマ、知ってるよね?」
「そうじゃなくて、その大量の火焔草で何をするつもりなのかを訊いてるの!」
「ああ、そういうことか」とスペスはうなずいた。
「いや、なんか面白い草だから、あとで調べてみようと思ってさ、一緒に集めておいたんだ。これって本当に不思議だよねー、やっぱり赤いところにあの熱くなるヤツが入ってるのかなぁ? アルマはどう思う?」
「えっ? どうとか言われても……」アルマはちょっと考える。
「――そんなことを楽しそうに語られると、ちょっと引くっていうか、正直気持ち悪いって思う?」
「ひどい」
「あ、ごめんね。でもソレ、けっこう危ないものなんだから、取扱いには気をつけてよ。誰かの迷惑にならなければそれでいいけど」
「あーうん、気をつけるよ、危なさは身に染みてわかったからね」とスペスはうなずいた。
「それならいいわ。じゃあ――すこしだけ休んでから、わたしの村に行きましょ」
「そう? じゃあボクは、もうちょっと遺跡を見ていきたいから、行く時になったら教えてくれる?」
そのままスペスは並べられた石のほうに走っていくと、上にのぼったり、特定の石にしがみついて、あちこちを叩いたりし始めた。
「ほんっと、おかしな人ね」
苦笑したアルマは、しばらくスペスを眺めていたが、やがて手近な石へと腰をおろしカゴから本を取り出して開く。
しばらくのあいだ遺跡には、草が風にゆれる音と、アルマがページをめくる音だけが聞こえていた
* * * * * * *
ひと休みしてから遺跡を出たふたりは、けもの道のような、かすれて消えそうな踏み跡をたどって丘をくだっていた。
アルマしか通らないこの道は荒れていて、しばしば現れる大きな石や、太い木の根を踏み越えるたびに、前を歩くアルマのおさげがぴょんと跳ねた。
それを見ながら後ろをついてくるスペスが、アルマに訊ねる。
「さっき言ってた勇者って人は、そのあとどうなったの? 人族の敵――魔王だっけ? ソレを倒したあとは?」
「うーん、あとの話はあんまり伝わってないんだけどね――」
そう言いながらアルマは、途中にあった大きめの段差を、ヒョイと飛びおりる。
「魔王を倒したあとの勇者様は、各国のお姫様をはじめ多くの女性と結婚して、たくさん子供を授かったらしいわ。それで、若いうちに亡くなったそうよ」
「ふーん……、結婚ってなに?」
「えっ⁉︎ 結婚っていうのは……アレよアレ」
なんて説明したら良いのかとアルマは考える。
「好きな人同士が――って好きじゃない場合もあるんだけど……、男と女の人がね――って男女じゃない場合もあるのよね、子供を作るため? ……作らないこともあるし」
「アルマにも、よく分からないの?」
「いやいやっ、わかる! わかるんだけどっ! と、とにかく、一緒にいたいって思う人とずっと一緒にいようねって決める事!」
雑な結論になった。
「そういう契約?」
「契約? まあ契約といえば契約かもね。味気ない言い方になっちゃうけど……」
湧き水で湿った斜面をくだりながら、アルマはそう答えた。
「それならさアルマ」
「なに?」
「ボクと結婚してよ」
「はぁっ⁉︎」
勢いよくふりむいたアルマは、ぬかるむ地面で足を滑らせてドシンと尻もちをついた。