残酷な描写あり
R-15
第10話 『没収します⁉』
翌日は、雲が多いが良い天気で、村のうしろに並んでそびえる双子の山がよく見えた。
朝に村を出たふたりは、遺跡へつづく細道をひたすらに登る。
山道に慣れているアルマは、おおきなカゴを背負いながらも息を切らさずに歩いていた。その足元では、幾重にも積もった落ち葉がやわらかな音をたてている。
「まって……、まってよ~」
うしろからスペスが、荷物をカチャカチャいわせながら呼び止める。
「なによ……。さっきから、なさけない声を出さないで」
足を止めてアルマがふり返ると、スペスはだいぶ後ろを歩いていた。
――ちょっと速かったかしら……?
配慮が足りなかったかとアルマは反省する。
リメイラは人の住む場所としてはかなりの高所にある。高い山は、息があがりやすく、平地から来ただけで、体調をくずす人がいるくらいだ。
それを考えると、むしろスペスは良くついてきている方だといえた。
――もしかして、高地の出身なのかしら……?
そうアルマは考えたが、それにしては、あきらかに山歩きに慣れていない。
遠目に見ても余分な動きが多く、歩くときに無駄に体力を使っているのがわかった。
もう足も出ないのか、スペスはアルマが止まるのを見て膝に手をついた。
しかたなくアルマはへばっているスペスのところまで下りて行き『休みましょ』と声をかけて、そばの岩に腰をおろした。
「た……たすかるよ……」
びっしょりと汗をかいたスペスは、岩に腰をおろすと、ゼィゼィと荒く息をつく。
「はい、これでも食べて」
とアルマはポケットから出したアメを、スペスにわたした。
「ありがとう……」とスペスが口にいれる。
「はぁはぁ……甘いものを食べたら……少しだけ……力がもどった気が……するよ」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「ごめん、まだムリ……」
スペスは、肩を大きく上下させて言った。
「ふふ、冗談よ」
アルマが笑うと、スペスも苦笑いをうかべる。
「正直、ここまで登りがキツいとは思わなかったなぁ……」
「ちょっとペースが速かったのよ。ここからはスペスが先に行ってくれる。わたしが後からついていくから」
「いや、ボクは平気だよ。少し休めば大丈夫」
強がるスペスに、アルマはいいのよ、と首を振った。
「山を歩くときは、遅い方に合わせるのが基本なの。思ってたよりもスペスがついてきたから、わたしもちょっと速くなっちゃったのよ」
「……そうなんだ」
「でーもっ!」
と言って、アルマはじーっとスペスを見た。
「――あなたの場合、他のところにも原因があるわよねー?」
「な……、なんのこと?」
「なんのこと? じゃないわよ。なんなの、その大荷物は? そんなに持って来たら重くて疲れるに決まってるでしょ! ソレ、いったい何が入ってるのよ!」
アルマが指さしたスペスのカバンは、パンパンに膨らんでいて、中に入りきらなかった袋が外側にいくつも吊るしてあった。
さらには、服のポケットにまで物が詰めこまれているのが見て取れる。
「いやっ、これは――」と、あからさまにスペスが目をそらす。「……いろいろだよ、いろいろ」
「いろいろって、なによ? 怪しいわね……ちょっと見せなさい!」
「あっ、ダメだって、ちょっと! あーっ!」
スペスからカバンを剥ぎとって、アルマは中を開ける。
「芋ね……」
まず出てきたのは、村で栽培されている丸芋が五個。ずっしりと重たい良い芋だった。
「畑を手伝った時にもらったんだけど、万が一、遭難したら食料になるかと思って……」
スペスの言葉に、アルマは素朴な疑問を口にする。
「これ、生だと食べられないわよ?」
「大丈夫、鍋とフライパンも持ってきた」
スペスがカバンの外にぶらさげられた袋をさす。
歩くときにカチャカチャいってたのはコレか。そう思ったアルマは芋と調理器具をまとめて自分のカゴにほうり投げた。
「没収!」
「えー⁉︎」という抗議の声など気にしない。
次に出てきたのは、服だった。薄くて柔らかいし、着心地は良さそうだが、外で着る服じゃない。
なんとなく――見たことがある気がした。
「アルマのお父さんにもらったパジャマだよ。遭難したときによく眠れるように」
なるほどね、見たことがあるわけだ……。
「没収!」
「そんなっ!」
丁寧にたたんでカゴへ。
「次! これは……、まくら?」
「それがないと眠れな――」
「没収!」
「早いっ!」
「時間がもったいないから、サクサクいくわよ」とアルマはさらにカバンをあさる。
「あとは水筒……は、いいとして、本ね。『よい子のまほうにゅうもん』って、勉強用に貸したやつじゃない。熱心なのはいいけど、歩きながらは読めないわよ?」
「おっしゃるとおりです」
スペスが大人しくうなずく。
「こっちの空の入れ物や袋は?」
「珍しい草や、虫がいたら入れようと思いまして……」
「まあ、いいわ……そんなに重くないし」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「なんでさっきから敬語なのよ……」
ちょっとやりすぎたかなと思いながら、アルマはゴソゴソと取り調べをつづける。
「あとはたいしたものはないわね……」カバンの底までのぞきこんでアルマは言った。
「でも、やっぱりこのカバン、いい革を使っているわね。スペスって、もしかして、いいとこのお坊ちゃんだったりするのかしら?」
「いいとこのお坊ちゃん?」
「貴族とかお金持ちの子供のことよ」
「へえ、もしそうなら――いろんな女の子と結婚できるってことだよね。だったらいいなぁ」
「はいはいソウデスね」と、アルマは冷めた目を向けた。
「じゃあ次は……そこにぶら下げてるやつ」
とアルマは、スペスの腰の物に目をやる。
「それ、ヤクー用のムチでしょ?」
朝に村を出たふたりは、遺跡へつづく細道をひたすらに登る。
山道に慣れているアルマは、おおきなカゴを背負いながらも息を切らさずに歩いていた。その足元では、幾重にも積もった落ち葉がやわらかな音をたてている。
「まって……、まってよ~」
うしろからスペスが、荷物をカチャカチャいわせながら呼び止める。
「なによ……。さっきから、なさけない声を出さないで」
足を止めてアルマがふり返ると、スペスはだいぶ後ろを歩いていた。
――ちょっと速かったかしら……?
配慮が足りなかったかとアルマは反省する。
リメイラは人の住む場所としてはかなりの高所にある。高い山は、息があがりやすく、平地から来ただけで、体調をくずす人がいるくらいだ。
それを考えると、むしろスペスは良くついてきている方だといえた。
――もしかして、高地の出身なのかしら……?
そうアルマは考えたが、それにしては、あきらかに山歩きに慣れていない。
遠目に見ても余分な動きが多く、歩くときに無駄に体力を使っているのがわかった。
もう足も出ないのか、スペスはアルマが止まるのを見て膝に手をついた。
しかたなくアルマはへばっているスペスのところまで下りて行き『休みましょ』と声をかけて、そばの岩に腰をおろした。
「た……たすかるよ……」
びっしょりと汗をかいたスペスは、岩に腰をおろすと、ゼィゼィと荒く息をつく。
「はい、これでも食べて」
とアルマはポケットから出したアメを、スペスにわたした。
「ありがとう……」とスペスが口にいれる。
「はぁはぁ……甘いものを食べたら……少しだけ……力がもどった気が……するよ」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「ごめん、まだムリ……」
スペスは、肩を大きく上下させて言った。
「ふふ、冗談よ」
アルマが笑うと、スペスも苦笑いをうかべる。
「正直、ここまで登りがキツいとは思わなかったなぁ……」
「ちょっとペースが速かったのよ。ここからはスペスが先に行ってくれる。わたしが後からついていくから」
「いや、ボクは平気だよ。少し休めば大丈夫」
強がるスペスに、アルマはいいのよ、と首を振った。
「山を歩くときは、遅い方に合わせるのが基本なの。思ってたよりもスペスがついてきたから、わたしもちょっと速くなっちゃったのよ」
「……そうなんだ」
「でーもっ!」
と言って、アルマはじーっとスペスを見た。
「――あなたの場合、他のところにも原因があるわよねー?」
「な……、なんのこと?」
「なんのこと? じゃないわよ。なんなの、その大荷物は? そんなに持って来たら重くて疲れるに決まってるでしょ! ソレ、いったい何が入ってるのよ!」
アルマが指さしたスペスのカバンは、パンパンに膨らんでいて、中に入りきらなかった袋が外側にいくつも吊るしてあった。
さらには、服のポケットにまで物が詰めこまれているのが見て取れる。
「いやっ、これは――」と、あからさまにスペスが目をそらす。「……いろいろだよ、いろいろ」
「いろいろって、なによ? 怪しいわね……ちょっと見せなさい!」
「あっ、ダメだって、ちょっと! あーっ!」
スペスからカバンを剥ぎとって、アルマは中を開ける。
「芋ね……」
まず出てきたのは、村で栽培されている丸芋が五個。ずっしりと重たい良い芋だった。
「畑を手伝った時にもらったんだけど、万が一、遭難したら食料になるかと思って……」
スペスの言葉に、アルマは素朴な疑問を口にする。
「これ、生だと食べられないわよ?」
「大丈夫、鍋とフライパンも持ってきた」
スペスがカバンの外にぶらさげられた袋をさす。
歩くときにカチャカチャいってたのはコレか。そう思ったアルマは芋と調理器具をまとめて自分のカゴにほうり投げた。
「没収!」
「えー⁉︎」という抗議の声など気にしない。
次に出てきたのは、服だった。薄くて柔らかいし、着心地は良さそうだが、外で着る服じゃない。
なんとなく――見たことがある気がした。
「アルマのお父さんにもらったパジャマだよ。遭難したときによく眠れるように」
なるほどね、見たことがあるわけだ……。
「没収!」
「そんなっ!」
丁寧にたたんでカゴへ。
「次! これは……、まくら?」
「それがないと眠れな――」
「没収!」
「早いっ!」
「時間がもったいないから、サクサクいくわよ」とアルマはさらにカバンをあさる。
「あとは水筒……は、いいとして、本ね。『よい子のまほうにゅうもん』って、勉強用に貸したやつじゃない。熱心なのはいいけど、歩きながらは読めないわよ?」
「おっしゃるとおりです」
スペスが大人しくうなずく。
「こっちの空の入れ物や袋は?」
「珍しい草や、虫がいたら入れようと思いまして……」
「まあ、いいわ……そんなに重くないし」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「なんでさっきから敬語なのよ……」
ちょっとやりすぎたかなと思いながら、アルマはゴソゴソと取り調べをつづける。
「あとはたいしたものはないわね……」カバンの底までのぞきこんでアルマは言った。
「でも、やっぱりこのカバン、いい革を使っているわね。スペスって、もしかして、いいとこのお坊ちゃんだったりするのかしら?」
「いいとこのお坊ちゃん?」
「貴族とかお金持ちの子供のことよ」
「へえ、もしそうなら――いろんな女の子と結婚できるってことだよね。だったらいいなぁ」
「はいはいソウデスね」と、アルマは冷めた目を向けた。
「じゃあ次は……そこにぶら下げてるやつ」
とアルマは、スペスの腰の物に目をやる。
「それ、ヤクー用のムチでしょ?」