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作者: 細矢ひろゆき
残酷な描写あり R-15
第13話 『キノコみたいに生えてこないのよ⁉』
 スペスは言う。
「ボクはさ、のかもしれない」

 アルマは、なにも言わなかった。

「まず考えたのは、ボクが『どうしてここに来たのか』なんだ」
 スペスはそう言って指を二本立てる。

「浮かんだのは二つ、〝迷った〟か、〝遺跡を調べに来た〟か、だ」
 アルマがうなずく。

「まず〝迷った〟可能性なんだけど」スペスがつづける。
「――もしボクが道を外れて、森の中を歩いてきたのなら、草木をかきわけて進むんだから、服や身体に、傷や汚れがつくと思うんだ。でもあのとき、そんなものは無かった。自分でも、きれいな服だと思ったくらいだ」

「山の中を歩いてきたんじゃなくて、村から来る道をまちがえて登ってきたんじゃないの?」
 アルマが訊いた。
「その可能性はゼロじゃないよ」とスペスもうなずく。

「でも――街からくる道とくらべてここへ登る道はすごく狭いでしょ。もし、まちがえたのなら、すぐに気づいてもどると思うんだ」
「それは……そうよね」

「もし森の中を迷ってる途中であの道に出たとしても、ボクなら下におりると思うんだ」
「どうして?」
「上のほうに住むひとは少ないし、水場もない。道があるなら、下に行ったほうが助かる可能性は高いかなって」
「それはそうね」
 アルマはまたひとつ納得して、うなずいた。

 スペスが、サンドイッチをひとつつまむ。
「ふぉいでねこんふぉわ、しゅらべにきたふぉうなんだけど」
「コラ、食べながらしゃべらない」
 アルマが注意すると、スペスはコクコクとうなずいて、口に入ったサンドイッチを水で流し込む。

「……そんなに急いで食べなくても、待つわよ」
 アルマはあきれたように言ったが、
 スペスは飲みこむようにサンドイッチを平らげると、
「いいから、いいから」と、また話しだした。

「それでね……〝迷った〟可能性が低いなら、今度は、ボクがここに何かを〝調べに来た〟ほうを考えてみたんだ。でもその場合、行くまえに村に寄っていないのがおかしいと思うんだよね」

「それはそうよね」とアルマは同意する。「村に寄れば、水や食べ物が手に入るもの」
「そうだね、それに何かの情報も入るかもしれない。そう考えたら、村に寄るほうが利点は多いよ」

「なにかの理由でこっそり調べたかった、とかは?」
「それだったら、もっと装備をもってくると思う。特に水と食料あたりを」
「スペスは、水も持っていなかったものねぇ……」

「それに、この遺跡はあんまり知られてないんでしょ?」
「うん、ここに来る人は見たことがないわ」とアルマはうなずいた。
「そう考えたら〝調べに来た〟っていうのも、考えにくいんだよね」
 スペスの出した結論に、アルマは疑問を口にする。

「でも〝迷った〟のでも、〝調べに来た〟のでもないなら、スペスはどうしてここにいたのよ? 人は、キノコみたいに何もないところからは生えてこないのよ?」

「それは面白いね!」とスペスは親指を立てる。「キノコっていうのは、なかなかいいよ」
「おもしろいことを言ったつもりはないんですけどー」とアルマは口を尖らせた。

「まあまあ。もちろん人は生えてこない。だから別の可能性を考えてみたんだ。キノコみたいに生えたりしなくても、それに近いことが起きたんじゃないか、ってね」
「キノコじゃないなら、分からないわよ」
「じゃあヒント」とスペスは言った。

「ボクは山の中のどこも通らず、誰にも会わずに、ここまで移動してきた、のかもしれない」
「何よそれ……、それこそキノコじゃない、キノコ!」
「ハズレー。キノコは移動しないんでしょ」
「じゃあ空でも飛んだっていうの? 鳥じゃないんだし――。あっ!」
 とアルマが声を出した。

「――魔法?」
「正解!」とスペスが拍手する。
「やったぁ!」と手を上げかけたアルマは、
「いや、違うでしょ!」とスペスに言った。

「だってあなた、魔法は使えないじゃない。それとも『本当は使えたんだゼ』とか言うつもり?」
「いや、使えないよ」あっさりとスペスは認める。

「でも状況を考えると、それが一番可能性があるでしょ」
「うーん、たしかに……。それはそう、なのかしら?」
 よくわからないアルマは、首をひねった。

「正確には、誰かに魔法で連れてこられたか、なにか魔法に近い道具を使ったんじゃあないかな、って考えた」
「そっちほうが説得力はありそうね」

「ちなみに、移動する魔法ってどんなのがあるの?」
「そういうことを知らないで、よくその答えにたどり着けたわね……」
 感心しながらアルマは記憶をたぐる。

「たしか空を飛ぶ《飛行》の魔法はあるわよ。かなり高度な魔法だけどね。あとは勇者様だけが使えた《転移》っていう魔法があってね、それは遠くの場所へも一瞬で行けたらしいわよ」
「転移!」
 スペスは嬉しそうにうなずくと、腕を組む。
「転移かぁ……じゃあきっとそれだな!」

「なによ……なに一人でわかった顔をしてるのよ。ズルい、わたしにも教えなさい!」
 アルマはスペスの首を締める。
「いててっ、いや、もうとっくに教えたでしょ!」

「うそおっしゃい。はやく吐かないと、すこしづつ首がしまっていくわよ!」
「だ、だからっ、いちばん最初にこう言ったでしょ!」
「さいしょ?」

『……ボクはさ、この遺跡から来たのかもしれない』
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