残酷な描写あり
R-15
第14話 『さびしくなるなぁって⁉』
「この遺跡から来た?」
そう言って、アルマは考える。
「――つまりこの遺跡が、スペスを連れてきた魔法の道具ってこと?」
「そうだね……」
ようやく開放されたスペスは、首をさすりながら言った。
「構造的にたぶん《転移》装置だと思う。ボクは何処かから《転移》して、ここに来たんじゃないかな」
「そんなの信じられないわね」
アルマは遺跡を指さす。
「だって、こんなの、ただ石が並べてあるだけじゃない。これで、そんなお話に出てくるような魔法ができるわけ?」
「できるかどうかは、やってみないとわからないけどさ、この装置はまだ機能してるかもしれないんだ」
「どうして? どうして、そんなことがわかるの?」アルマが訝しそうに訊いた。
「えっ? そんなの見たらわかるでしょ?」
「見たら?」
アルマは遺跡をふりかえる。
「なにも、わからないんだけど……」
「そうなの? アルマにはわからない?」
「ひょっとしておかしな物が見えるクスリとか、やってる訳じゃないわよね?」
「なにそれ! そんなものがあるなら、ぜひ、やってみたい!」
「バカ……やめときなさい」とアルマは言った。
「ダメなの?」
「ダメ!」
「そっか……まぁでも、この遺跡がなにかをするための装置なのは間違いないと思うよ。ほら、あのあたりが動力部で、あっちが制御系、あそこから中央の出力部にむかって、全体が回路になってるでしょ?」
でしょ? と言われても、アルマにはなんのことだかサッパリわからない。
「からかうために出まかせを言ってるわけじゃないのよね? それなら、なんでスペスにはそんな事が分かるのよ」
「からかってなんかないさ。細かいところはハルマスが教えてくれるしね」
「また出た」とアルマ言ったが、すぐに思いだす。
「そういえば、覚えてないのよね……まぁいいわ」
納得はいかなかったが、記憶が無い事を責めても仕方がない。
それよりもアルマには気になる事があった。
「じゃあさ、百歩譲ってこの遺跡から《転移》ができるとして、よ」
そこでアルマはためらって一度言葉を切った。
「その……もしできるとして、それで――スペスはどうしたいの?」
「もちろん、転移をつかって帰るよ」
あっさりとスペスは答えた。
「そうよね――」
分かりきっていたその答えについ目を伏せる。
「あ……別に変な意味じゃないのよ。ほら、村に同じくらいの歳の人がいなかったから、さびしくなるなぁって……それだけだから! 帰れるならもちろん、帰ったほうがいいんだからね……」
そんなアルマに、スペスが言う。
「大丈夫、また来るからさ」
「えっ……」
「帰ってからまた来るよ。もう一度アルマに会いに」
そう言ってスペスは微笑む。
「そ……そう?」
とアルマは素っ気なくふるまった。
「ま、わたしは別にどっちでもいいんだけど、スペスが来たいっていうなら、いつでも来たら?」
そう言って慌ててサンドイッチをかじったアルマは、頬がゆるんでいた。
昼食を食べ終わり――『本当に動くのか、確かめたい』というスペスの提案により、遺跡をさらに調べることにした。
とはいっても、アルマにはスペスのする説明がまったく理解できなかったので、作業はほとんどスペスがやっていて、手が空いたアルマは火をおこすことにした。
遺跡のそばで枯れ枝を集めて魔法で《点火》すると、スペスが持ってきた鍋に薬草茶をいれて、あとはただ沸くまで待つ。
「はい、できたわよ」
「ありがとう、置いといて」
できたお茶を持っていくと、遺跡の縁に座り込んだスペスは振り向きもせずに石を調べていた。やることのなくなったアルマは、スペスの近くに座って薬草茶をすする。
「それなの? 〝鮮魚のうち〟ってやつは」
「制御装置、ね」
振り向きもせずに答えたスペスは、さっきから石のあちこちを叩いたり押したりしていた。
「それで、いまは何をしてるの?」
「んー、今は偽装権限で認証を回避して臨時のバイパスから動力を開放しようとしてる……あーっと、もうちょっとなんだけどなぁ……」
早口で説明されてもなにを言ってるかわからなかったので、アルマは「ふーん」とだけ返した。
こちらを見ようともしないスペスは、ときどき顔をあげて遺跡の様子だけを確かめている。真剣なその表情がなければ、なにをふざけているのかと思うところだ。
――きっと集中しているのだろう。
そう思ったアルマは、だまってお茶をすする。
気がつくとすこし肌寒くなっていた。さっきから日が差さないし、風も出てきて焚火が揺れている。アルマはスペスの持ってきたパジャマをカゴから出して、風よけに羽織ると、邪魔にならないように静かに待った。
だいぶ時間がたったころ、ダンッと石をたたいたスペスが、『よしっ!』と叫んだ。
「ようやくなんとかなったよアルマ! これでイケる!」
興奮気味のスペスは、すっかり冷めてしまった薬草茶を一気に流し込む。
「んう……、なに、おわったぁ? よかったわぁ……」
コクリコクリと船をこいでいたアルマは、眠そうに目をあけて、あくびをする。
「あー、さっそく試してみたいなぁ! いきなり人でってわけにもいかないから、なにか生き物で試験しないと。なにか動かないものってないかなぁ……?」
キョロキョロとスペスはあたりを見回した。
「生き物ねぇ……」
消えかけた焚き火に枯れ枝を足していたアルマは、カゴから何かを取り出して渡す。
「はい、これは?」
「これって……芋だよね?」
「あら、芋は生きてるのよ」アルマは、当然という顔をする。
「土にうめたら芽を出すし、長く保存できるでしょ。もしもその芋が死んでたら、すぐに腐っちゃうのよ」
「そうなんだ! それならちょうどいいね、キミにするよ!」
と、スペスは嬉しそうにイモを受け取った。
「お芋さんおめでとー、ふわぁぁぁ……」
まだ眠そうなアルマを残して、スペスは大事そうに芋を持ち、遺跡の中央へ走っていった。中心にある舞台のような丸い石に芋を置いて、スペスは小走りで戻ってくる。
「よしっ、始めるよっ、いい?」
いたずらっ子のようにはしゃぐスペスに、アルマはぼんやりとうなずいた。
そう言って、アルマは考える。
「――つまりこの遺跡が、スペスを連れてきた魔法の道具ってこと?」
「そうだね……」
ようやく開放されたスペスは、首をさすりながら言った。
「構造的にたぶん《転移》装置だと思う。ボクは何処かから《転移》して、ここに来たんじゃないかな」
「そんなの信じられないわね」
アルマは遺跡を指さす。
「だって、こんなの、ただ石が並べてあるだけじゃない。これで、そんなお話に出てくるような魔法ができるわけ?」
「できるかどうかは、やってみないとわからないけどさ、この装置はまだ機能してるかもしれないんだ」
「どうして? どうして、そんなことがわかるの?」アルマが訝しそうに訊いた。
「えっ? そんなの見たらわかるでしょ?」
「見たら?」
アルマは遺跡をふりかえる。
「なにも、わからないんだけど……」
「そうなの? アルマにはわからない?」
「ひょっとしておかしな物が見えるクスリとか、やってる訳じゃないわよね?」
「なにそれ! そんなものがあるなら、ぜひ、やってみたい!」
「バカ……やめときなさい」とアルマは言った。
「ダメなの?」
「ダメ!」
「そっか……まぁでも、この遺跡がなにかをするための装置なのは間違いないと思うよ。ほら、あのあたりが動力部で、あっちが制御系、あそこから中央の出力部にむかって、全体が回路になってるでしょ?」
でしょ? と言われても、アルマにはなんのことだかサッパリわからない。
「からかうために出まかせを言ってるわけじゃないのよね? それなら、なんでスペスにはそんな事が分かるのよ」
「からかってなんかないさ。細かいところはハルマスが教えてくれるしね」
「また出た」とアルマ言ったが、すぐに思いだす。
「そういえば、覚えてないのよね……まぁいいわ」
納得はいかなかったが、記憶が無い事を責めても仕方がない。
それよりもアルマには気になる事があった。
「じゃあさ、百歩譲ってこの遺跡から《転移》ができるとして、よ」
そこでアルマはためらって一度言葉を切った。
「その……もしできるとして、それで――スペスはどうしたいの?」
「もちろん、転移をつかって帰るよ」
あっさりとスペスは答えた。
「そうよね――」
分かりきっていたその答えについ目を伏せる。
「あ……別に変な意味じゃないのよ。ほら、村に同じくらいの歳の人がいなかったから、さびしくなるなぁって……それだけだから! 帰れるならもちろん、帰ったほうがいいんだからね……」
そんなアルマに、スペスが言う。
「大丈夫、また来るからさ」
「えっ……」
「帰ってからまた来るよ。もう一度アルマに会いに」
そう言ってスペスは微笑む。
「そ……そう?」
とアルマは素っ気なくふるまった。
「ま、わたしは別にどっちでもいいんだけど、スペスが来たいっていうなら、いつでも来たら?」
そう言って慌ててサンドイッチをかじったアルマは、頬がゆるんでいた。
昼食を食べ終わり――『本当に動くのか、確かめたい』というスペスの提案により、遺跡をさらに調べることにした。
とはいっても、アルマにはスペスのする説明がまったく理解できなかったので、作業はほとんどスペスがやっていて、手が空いたアルマは火をおこすことにした。
遺跡のそばで枯れ枝を集めて魔法で《点火》すると、スペスが持ってきた鍋に薬草茶をいれて、あとはただ沸くまで待つ。
「はい、できたわよ」
「ありがとう、置いといて」
できたお茶を持っていくと、遺跡の縁に座り込んだスペスは振り向きもせずに石を調べていた。やることのなくなったアルマは、スペスの近くに座って薬草茶をすする。
「それなの? 〝鮮魚のうち〟ってやつは」
「制御装置、ね」
振り向きもせずに答えたスペスは、さっきから石のあちこちを叩いたり押したりしていた。
「それで、いまは何をしてるの?」
「んー、今は偽装権限で認証を回避して臨時のバイパスから動力を開放しようとしてる……あーっと、もうちょっとなんだけどなぁ……」
早口で説明されてもなにを言ってるかわからなかったので、アルマは「ふーん」とだけ返した。
こちらを見ようともしないスペスは、ときどき顔をあげて遺跡の様子だけを確かめている。真剣なその表情がなければ、なにをふざけているのかと思うところだ。
――きっと集中しているのだろう。
そう思ったアルマは、だまってお茶をすする。
気がつくとすこし肌寒くなっていた。さっきから日が差さないし、風も出てきて焚火が揺れている。アルマはスペスの持ってきたパジャマをカゴから出して、風よけに羽織ると、邪魔にならないように静かに待った。
だいぶ時間がたったころ、ダンッと石をたたいたスペスが、『よしっ!』と叫んだ。
「ようやくなんとかなったよアルマ! これでイケる!」
興奮気味のスペスは、すっかり冷めてしまった薬草茶を一気に流し込む。
「んう……、なに、おわったぁ? よかったわぁ……」
コクリコクリと船をこいでいたアルマは、眠そうに目をあけて、あくびをする。
「あー、さっそく試してみたいなぁ! いきなり人でってわけにもいかないから、なにか生き物で試験しないと。なにか動かないものってないかなぁ……?」
キョロキョロとスペスはあたりを見回した。
「生き物ねぇ……」
消えかけた焚き火に枯れ枝を足していたアルマは、カゴから何かを取り出して渡す。
「はい、これは?」
「これって……芋だよね?」
「あら、芋は生きてるのよ」アルマは、当然という顔をする。
「土にうめたら芽を出すし、長く保存できるでしょ。もしもその芋が死んでたら、すぐに腐っちゃうのよ」
「そうなんだ! それならちょうどいいね、キミにするよ!」
と、スペスは嬉しそうにイモを受け取った。
「お芋さんおめでとー、ふわぁぁぁ……」
まだ眠そうなアルマを残して、スペスは大事そうに芋を持ち、遺跡の中央へ走っていった。中心にある舞台のような丸い石に芋を置いて、スペスは小走りで戻ってくる。
「よしっ、始めるよっ、いい?」
いたずらっ子のようにはしゃぐスペスに、アルマはぼんやりとうなずいた。