残酷な描写あり
R-15
第24話 『釣られたってこと⁉』
「へっ……?」と驚いてアルマはテーブルから顔をあげた。
「どゆこと? 寝ていいって――泊まっていいってこと⁉ 負けたのに⁉ 野宿じゃないの?」
「なんだ……野宿のほうがよかったのか?」女が、ニヤリと笑う。
「えっ、いやいやいや――野宿じゃないほうが、いいです……」
きょとんとしながら、そう答える。
「そうか――言っておくが寝台なんてシャレたものはないからな、床で我慢しとけよ」
「ありがとう……ございます?」
どうにも理解が追いつかなかいアルマは、スペスに小声で訊ねる。
(急にどうしたのかな……? ほんとにわたしたち、泊まっていいの?)
(なに? アルマは泊まりたくないの?)
(いやっ――だから、そうじゃなくってね! ……ほら、待遇がよくなったのはいいんだけど……、なーんかスッキリしないっていうか)
首をひねるアルマに、スペスがあっさりと言う。
(さっきの勝負に関係なく、始めから泊めてくれるつもりだったんじゃない?)
(はっ? じゃあなんで? なんで、腕相撲をやらせたのよ⁉)
(それはあの人に訊かないと分かんないけどさ――なにかアルマを試したかったみたいだね)
(んんー?)と、スペスの言葉に、アルマはさらに首をひねる。
(なに? じゃあ……スペスは気がついてたの?)
(なんとなくは……ね)とスペスがうなずく。
(腕相撲の話が出たあたりから、あのひとの空気? 雰囲気? が変わったでしょ? その時、ああボクらのことを信じてくれたんだなって思ったな)
(うんー? そうだっけ?)とアルマは首をひねりつづける。
(あれ? ちょっとまってよ。わかってたんなら、なんでスペスは〝負けても食料〟なんて、条件を出したのよ?)
(いや、あの時はアルマが迷ってたから、条件をつければ、やる気が出るかなと思って――)
(どゆこと?)
(だって、やらないとあのまま話が進まないし――どうせやるんだったら早いほうがいいでしょ?)
(んん? つまり……?)
首をひねりながら、目を彷徨わせる。
「つまりだな……アタシが針を垂らして、小僧がエサをぶら下げて、お前が食いついたって話だぜ!」
ちいさな小屋の中だ、小声で話していても聞こえていたのだろう。女が、ふたりの会話に割って入った
気づいたアルマが、ハッと顔色を変える。
「つまり、釣られたってこと⁉ スペスもぐるで⁉ ちょっと、なによそれ! 納得いかなーいっ‼︎」
アルマは大声をあげた。
「あっはっは、悪い悪い――」と、女は悪びれた様子もなく言った。
「ほら、お詫びにこれでも食えよ。食べてないんだろ?」
頬を膨らませたアルマに、女は黄色い果物を投げてよこした。
アルマもよく知っているカリンガの実だった。
「なによっ! こんなものじゃ誤魔化されませんからね!」
ツンと顔をそむけてテーブルに果物を置いたが、ふわりと漂ってきた良い香りに、アルマのお腹がぐぅ~と鳴る。
恥ずかしそうにお腹を押さえたアルマは、口を尖らせつつ、諦めたように手を伸ばした。
「し、仕方ないから、これで手を打ってあげます。ありがとう……いただきます」
ぞんざいに礼を言って皮を剥くと、カリンガのさわやかな香りが、疲れた身体を通りぬけた。蜜をたくわえた赤い果肉を見ただけで、自然と口内にツバが出てくる。
我慢できずに一口かぶりつくと、スッキリとした酸味とたっぷりの甘みがアルマの喉を満たす。何度も食べたことがあるカリンガの実なのに、こんなに美味しいと思ったのは生まれて初めてだった。
たまらずに二口、三口と食いついているうちに、あっという間に食べきってしまう。隣を見るとスペスも同じだったようで、すでに二個目にかぶりついている。
負けじとアルマも手を伸ばし、テーブルに山と置かれたカリンガから、もうひとつを取った。
「おいおい、そんなに焦らなくても沢山あるぜ――ったく」
女は呆れたように目を丸くするが、ふと、
「大変だったな……お前たち」と言った。
〝大変だった〟
そう言われたアルマの目に涙が浮かんだ。
大変だった。
本当に大変だった。
スペスとふたりだけで、誰にも会わず、助けもなく、だれにも分かってもらえないような体験をした。
ずっと誰かに分かってほしかった。
それは、すごくすごく言ってほしい言葉だった。
「はいっ……! 大変っ……でしたっ」
言ったとたんに涙がこぼれた。
泣きながら、またカリンガを食べた。
泣きながら食べても、カリンガの実はやっぱり美味しかった。
「どゆこと? 寝ていいって――泊まっていいってこと⁉ 負けたのに⁉ 野宿じゃないの?」
「なんだ……野宿のほうがよかったのか?」女が、ニヤリと笑う。
「えっ、いやいやいや――野宿じゃないほうが、いいです……」
きょとんとしながら、そう答える。
「そうか――言っておくが寝台なんてシャレたものはないからな、床で我慢しとけよ」
「ありがとう……ございます?」
どうにも理解が追いつかなかいアルマは、スペスに小声で訊ねる。
(急にどうしたのかな……? ほんとにわたしたち、泊まっていいの?)
(なに? アルマは泊まりたくないの?)
(いやっ――だから、そうじゃなくってね! ……ほら、待遇がよくなったのはいいんだけど……、なーんかスッキリしないっていうか)
首をひねるアルマに、スペスがあっさりと言う。
(さっきの勝負に関係なく、始めから泊めてくれるつもりだったんじゃない?)
(はっ? じゃあなんで? なんで、腕相撲をやらせたのよ⁉)
(それはあの人に訊かないと分かんないけどさ――なにかアルマを試したかったみたいだね)
(んんー?)と、スペスの言葉に、アルマはさらに首をひねる。
(なに? じゃあ……スペスは気がついてたの?)
(なんとなくは……ね)とスペスがうなずく。
(腕相撲の話が出たあたりから、あのひとの空気? 雰囲気? が変わったでしょ? その時、ああボクらのことを信じてくれたんだなって思ったな)
(うんー? そうだっけ?)とアルマは首をひねりつづける。
(あれ? ちょっとまってよ。わかってたんなら、なんでスペスは〝負けても食料〟なんて、条件を出したのよ?)
(いや、あの時はアルマが迷ってたから、条件をつければ、やる気が出るかなと思って――)
(どゆこと?)
(だって、やらないとあのまま話が進まないし――どうせやるんだったら早いほうがいいでしょ?)
(んん? つまり……?)
首をひねりながら、目を彷徨わせる。
「つまりだな……アタシが針を垂らして、小僧がエサをぶら下げて、お前が食いついたって話だぜ!」
ちいさな小屋の中だ、小声で話していても聞こえていたのだろう。女が、ふたりの会話に割って入った
気づいたアルマが、ハッと顔色を変える。
「つまり、釣られたってこと⁉ スペスもぐるで⁉ ちょっと、なによそれ! 納得いかなーいっ‼︎」
アルマは大声をあげた。
「あっはっは、悪い悪い――」と、女は悪びれた様子もなく言った。
「ほら、お詫びにこれでも食えよ。食べてないんだろ?」
頬を膨らませたアルマに、女は黄色い果物を投げてよこした。
アルマもよく知っているカリンガの実だった。
「なによっ! こんなものじゃ誤魔化されませんからね!」
ツンと顔をそむけてテーブルに果物を置いたが、ふわりと漂ってきた良い香りに、アルマのお腹がぐぅ~と鳴る。
恥ずかしそうにお腹を押さえたアルマは、口を尖らせつつ、諦めたように手を伸ばした。
「し、仕方ないから、これで手を打ってあげます。ありがとう……いただきます」
ぞんざいに礼を言って皮を剥くと、カリンガのさわやかな香りが、疲れた身体を通りぬけた。蜜をたくわえた赤い果肉を見ただけで、自然と口内にツバが出てくる。
我慢できずに一口かぶりつくと、スッキリとした酸味とたっぷりの甘みがアルマの喉を満たす。何度も食べたことがあるカリンガの実なのに、こんなに美味しいと思ったのは生まれて初めてだった。
たまらずに二口、三口と食いついているうちに、あっという間に食べきってしまう。隣を見るとスペスも同じだったようで、すでに二個目にかぶりついている。
負けじとアルマも手を伸ばし、テーブルに山と置かれたカリンガから、もうひとつを取った。
「おいおい、そんなに焦らなくても沢山あるぜ――ったく」
女は呆れたように目を丸くするが、ふと、
「大変だったな……お前たち」と言った。
〝大変だった〟
そう言われたアルマの目に涙が浮かんだ。
大変だった。
本当に大変だった。
スペスとふたりだけで、誰にも会わず、助けもなく、だれにも分かってもらえないような体験をした。
ずっと誰かに分かってほしかった。
それは、すごくすごく言ってほしい言葉だった。
「はいっ……! 大変っ……でしたっ」
言ったとたんに涙がこぼれた。
泣きながら、またカリンガを食べた。
泣きながら食べても、カリンガの実はやっぱり美味しかった。