残酷な描写あり
R-15
第27話 『戦う気はありません⁉』
「これって……スペスが借りてた――」
たった今アルマが出てきた真新しい小屋は、
リメイラ村でスペスが仮住まいにしていた古い小屋と、まったく同じ形だった。
「決まりだねっ!」
とスペスが嬉しそうに言う。
「三百年前なんて、ウソでしょう⁉ ……此処が?」
呆然と小屋を見上げていると、遅れて出てきたメイランが訊いた。
「どういう事だ? アタシにもわかるように説明してくれ」
「ボクらの村にも、これとまったくおなじ小屋があるんだよ」
スペスが嬉しそうに話しはじめる。
「――でもね、この小屋は出来たばっかりで新しいけど、ボクらの知っている小屋は、もうかなり古くてボロボロなんだ。それこそ三百年経った後みたいにね」
「ふむ……」とメイランはアゴに手をあてた。
「この小屋はアタシが建てたものだ、同じものは二つとないはずだな……」
「でも、もしそれが同じ小屋だとしたら?
ふたつが違うのは、できてからの時間ってことになる。
つまりボクらは、この小屋がボロボロになるくらいの未来から来たのかもしれない、って話になるんだよ」
「ふーん、そんなことが本当にあるのかねぇ……」
メイランが不思議そうな顔で腕組みをする。
「――でもまあ、こいつにはアガムル杉を使っているからな。ちゃんと手入れをすれば、三百年くらいはもってもおかしくないな」
得意気なメイランの言葉は、アルマの最後の言い訳を潰してしまった。
「そんな――」
信じられない気持ちで小屋を見あげると、屋根の上には雲ひとつない青空がみえた。
三人で再び食卓へ戻ると、メイランが訊ねた。
「それで? 仮にお前たちが三百年前から来たとして、これからどうするつもりだ?」
「やっぱり、あの遺跡に行くしかないよね」とスペスが言った。
「来た理由も、帰る方法もわからないけど、まずはあそこを調べないと始まらないよ」
「でも、あそこは……あの、緑のゴブリンが出るわ」
うつむいたアルマは、指で果物を突っついた。
「ゴブリン程度、お前なら簡単に追っぱらえるだろ?」
メイランは、当然という顔をする。
「ひぇっ! む、むむむ、無理ですよあんなの……」
アルマはぶんぶんと首を振った。
「そうだ、メイランさん一緒に来てくださいよ。お願いしますっ!」
「やだよ、ゴブリンなんて……」とメイランはそっぽを向いた。
「弱いヤツをいじめても、面白くもないだろ? もっと強いのがいるってんなら話は別だけどさぁ……」
「面白いとか、面白くないとかじゃないと思うんですけど……」
「いや、アタシはずっと面白いことをやってないと死ぬんだよ」
メイランはニヤニヤしながらアルマを見る。
「それでもっ、そこをなんとかっ! お願いしますっ、お願いしますっ!」
すがるようにアルマは必死に頼み込んだ。
少し考えたメイランは、『よしわかった!』とテーブルに片肘をついた。
「――アタシに腕相撲で勝てたら、行ってやろう!」
「そんなの、絶対無理じゃないですか~」
泣きそうな顔で、アルマは出された手を見る。
「あっはっは」と笑ったメイランが手をおろした。
「別に、意地悪で言ってるわけじゃないんだぜ。せっかくここまで来たんだ。お前たちに出来ないことがあれば、少しくらい手伝ってもやるさ。
でもな――できる事まで人に頼るな。冷静になればゴブリンなんて大したことないんだぜ。実際、ここに来るまでに追い払ってきたんだろ?」
「でも、あれはスペスが――」
「お前も、同じことをやればいいだけだ」
「でも、わたしムチとか使えないし……」
「武器なんて何でもいいんだよ。丈夫な木の棒でもありゃ、それで十分だ」
「でも、死んじゃうかもしれないし……」
「そりゃ、戦えば死ぬことぐらいあるだろう」メイランは平然と言いきる。「それに戦えなきゃ、どのみち死ぬ」
「そんなぁ……」
「細かいことは気にすんな! 大事なのは、戦う気があるかないかだけだぜ!」
「ありません!」
アルマは口を真一文字にむすんで言いきった。
メイランが、スペスに向かって苦笑する。
「なんだぁ? 三百年も経つと、こんな呑気なヤツでも、ここで生きていけるのか?」
「ボクはあまり知らないんだけど、少なくとも命の危険を感じるようなことは無かったよ」
「そいつは重畳だな――」とメイランは言った。「だがな、それじゃあ、ここでは生き残れない」
「そんなこと言っても、無理ですよぅ、あんなの……」
事実を突きつけられてなお、アルマは逡巡していた。
「貴族の御令嬢みたいなやつだな……、ゴブリンなんて数が多くなきゃ、村の女でも棒きれ持ってやりあうぞ」
アルマは、スプーンで麦粥をかき混ぜながら、自分の母親が棒でゴブリンを叩きまくる光景を想像した。
「えっ……無理――」
「まぁあれだ、それがダメなら帰るのは諦めろ。街まではアタシが送ってやるから、そこでずっと暮らしな」
「そんなぁ……」
「大丈夫だよアルマ。またあいつらが出てきても、僕が守る! だから平気さ!」
スペスが言ったその時だった。
「おいっ! 小僧ッ‼︎」
突然、メイランが怒号をあげた。
たった今アルマが出てきた真新しい小屋は、
リメイラ村でスペスが仮住まいにしていた古い小屋と、まったく同じ形だった。
「決まりだねっ!」
とスペスが嬉しそうに言う。
「三百年前なんて、ウソでしょう⁉ ……此処が?」
呆然と小屋を見上げていると、遅れて出てきたメイランが訊いた。
「どういう事だ? アタシにもわかるように説明してくれ」
「ボクらの村にも、これとまったくおなじ小屋があるんだよ」
スペスが嬉しそうに話しはじめる。
「――でもね、この小屋は出来たばっかりで新しいけど、ボクらの知っている小屋は、もうかなり古くてボロボロなんだ。それこそ三百年経った後みたいにね」
「ふむ……」とメイランはアゴに手をあてた。
「この小屋はアタシが建てたものだ、同じものは二つとないはずだな……」
「でも、もしそれが同じ小屋だとしたら?
ふたつが違うのは、できてからの時間ってことになる。
つまりボクらは、この小屋がボロボロになるくらいの未来から来たのかもしれない、って話になるんだよ」
「ふーん、そんなことが本当にあるのかねぇ……」
メイランが不思議そうな顔で腕組みをする。
「――でもまあ、こいつにはアガムル杉を使っているからな。ちゃんと手入れをすれば、三百年くらいはもってもおかしくないな」
得意気なメイランの言葉は、アルマの最後の言い訳を潰してしまった。
「そんな――」
信じられない気持ちで小屋を見あげると、屋根の上には雲ひとつない青空がみえた。
三人で再び食卓へ戻ると、メイランが訊ねた。
「それで? 仮にお前たちが三百年前から来たとして、これからどうするつもりだ?」
「やっぱり、あの遺跡に行くしかないよね」とスペスが言った。
「来た理由も、帰る方法もわからないけど、まずはあそこを調べないと始まらないよ」
「でも、あそこは……あの、緑のゴブリンが出るわ」
うつむいたアルマは、指で果物を突っついた。
「ゴブリン程度、お前なら簡単に追っぱらえるだろ?」
メイランは、当然という顔をする。
「ひぇっ! む、むむむ、無理ですよあんなの……」
アルマはぶんぶんと首を振った。
「そうだ、メイランさん一緒に来てくださいよ。お願いしますっ!」
「やだよ、ゴブリンなんて……」とメイランはそっぽを向いた。
「弱いヤツをいじめても、面白くもないだろ? もっと強いのがいるってんなら話は別だけどさぁ……」
「面白いとか、面白くないとかじゃないと思うんですけど……」
「いや、アタシはずっと面白いことをやってないと死ぬんだよ」
メイランはニヤニヤしながらアルマを見る。
「それでもっ、そこをなんとかっ! お願いしますっ、お願いしますっ!」
すがるようにアルマは必死に頼み込んだ。
少し考えたメイランは、『よしわかった!』とテーブルに片肘をついた。
「――アタシに腕相撲で勝てたら、行ってやろう!」
「そんなの、絶対無理じゃないですか~」
泣きそうな顔で、アルマは出された手を見る。
「あっはっは」と笑ったメイランが手をおろした。
「別に、意地悪で言ってるわけじゃないんだぜ。せっかくここまで来たんだ。お前たちに出来ないことがあれば、少しくらい手伝ってもやるさ。
でもな――できる事まで人に頼るな。冷静になればゴブリンなんて大したことないんだぜ。実際、ここに来るまでに追い払ってきたんだろ?」
「でも、あれはスペスが――」
「お前も、同じことをやればいいだけだ」
「でも、わたしムチとか使えないし……」
「武器なんて何でもいいんだよ。丈夫な木の棒でもありゃ、それで十分だ」
「でも、死んじゃうかもしれないし……」
「そりゃ、戦えば死ぬことぐらいあるだろう」メイランは平然と言いきる。「それに戦えなきゃ、どのみち死ぬ」
「そんなぁ……」
「細かいことは気にすんな! 大事なのは、戦う気があるかないかだけだぜ!」
「ありません!」
アルマは口を真一文字にむすんで言いきった。
メイランが、スペスに向かって苦笑する。
「なんだぁ? 三百年も経つと、こんな呑気なヤツでも、ここで生きていけるのか?」
「ボクはあまり知らないんだけど、少なくとも命の危険を感じるようなことは無かったよ」
「そいつは重畳だな――」とメイランは言った。「だがな、それじゃあ、ここでは生き残れない」
「そんなこと言っても、無理ですよぅ、あんなの……」
事実を突きつけられてなお、アルマは逡巡していた。
「貴族の御令嬢みたいなやつだな……、ゴブリンなんて数が多くなきゃ、村の女でも棒きれ持ってやりあうぞ」
アルマは、スプーンで麦粥をかき混ぜながら、自分の母親が棒でゴブリンを叩きまくる光景を想像した。
「えっ……無理――」
「まぁあれだ、それがダメなら帰るのは諦めろ。街まではアタシが送ってやるから、そこでずっと暮らしな」
「そんなぁ……」
「大丈夫だよアルマ。またあいつらが出てきても、僕が守る! だから平気さ!」
スペスが言ったその時だった。
「おいっ! 小僧ッ‼︎」
突然、メイランが怒号をあげた。