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作者: 細矢ひろゆき
残酷な描写あり R-15
第28話 『このままじゃ、だめなんだ……⁉』

「おいっ! 小僧ッ‼︎」
 突然、メイランが怒号をあげた。

「いい加減なことを抜かすなよ! 守るだぁっ? 簡単に言ってくれるじゃねぇかっ!」
 頬をぴくぴく震わせたメイランは、さらに語気を強める。

「お前はっ! いついかなる時でもこいつを守れるのか? お前が寝てる時は? お前が近くにいない時はどうする! お前の言ってることはなぁ――もしまかり間違ってお前が死んだら、こいつも死ぬってことなんだぞ!」

 勢いよく立ちあがったメイランが、テーブルを叩く。ガシャンッと、上に乗った料理が飛びあがった。

「いいか! もし、こいつが少しでも戦えていれば、お前が起きるまで、お前が駆けつけるまで、こいつは死なずにすむかもしれねぇ。もしまかり間違ってお前が死んじまっても、こいつが戦えたなら、死なずにすむかもしれねぇ。

 わかってんのか! てめえがいねぇときにこいつを守れるのは、こいつしかいねぇんだぞ! それでも戦えもしねぇって言うならっ、街にでも引きこもってたほうが、死なずにすむんじゃねぇのかっ!」

 そこまで言ったメイランは、ひとつ息を吐くとストンと腰を下ろし、静かな声で続けた。

「もし自分がいなくても、相手を死なせない――そのためにどうしたらいいのかを考えるのが、〝守る〟ってことなんじゃねえのか?

 ちょっと戦えるだけのガキが、簡単に〝守る〟だなんて言うんじゃねぇよ。
 まったく――
 お前だって足手まとい一人を守りながら戦うのがどんだけキツいか、昨日のでよく分かってんだろう?」
 見透かすようなメイランの言葉に、スペスは反論できなかった

 聞いていたアルマは、いい加減にみえたメイランの言葉が、どれだけ自分のことを考えてくれていたのか知った。

 のらりくらりと逃げていた自分が恥ずかしくなって、目が潤み、喉がきゅうっとなった。

――ダメなんだ……。帰るなら、ここで逃げてちゃ……ダメなんだ。
  スペスに頼りっぱなしじゃダメなんだ。
  ここで安全に生きていくよりも、わたしは……。

 村の風景や、両親の顔が、頭に浮かぶ。

――帰って、お父さんやお母さんに会いたい。
  スペスも、元のところへ帰してあげたい。
  そのためには――帰るためには戦えなくちゃいけない……!

 そう考えたアルマは、よしっ! と、心の中で言って立ちあがった。

「メイランさん! あのっ……わたしゴブリンと戦います!
 帰るためには、戦えなくちゃいけないんです!
 だからっ……、だから、わたしに……その、戦い方を教えて下さい!」

 アルマが頭を下げると、メイランがニヤリと笑った。
「いいぜ、お前を〝最強の女〟にしてやる」

「えっ……いや、そんなスゴいのじゃなくて――
 その、ゴブリンと戦えるくらいで……いいですよ?」

「まぁまぁ、いいじゃないか」
 メイランは立ちあがると、アルマに近づいていった。
「……アタシが誰かに稽古つけるなんて、滅多にない事なんだぜ?」

「なに……、なんかこわい……」
 アルマは立ち上がり、思わず後ずさった。

「――あっ、腕を掴まないでっ! そんなに引っ張らないで……! いやあっ、さらわれるーっ。ちょっとスペスーっ! なに見てるのーっ! 助けなさいっ! あーっ、いやーっ、おかーさーんっ!」

 引きずられていくアルマに向けて、スペスはあきらめた顔で手を振り、しずかに食事の片づけをはじめた。

「スペスっ、覚えてなさーいっ!」
 というアルマの絶叫が、朝の森にこだました。
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