残酷な描写あり
R-15
第30話 『力の秘密⁉』
「――お前、なんで自分の力が強いのか、知ってるか?」
「えっ、なんで?」
そんな事を考えたことのなかったアルマは、思ったままを答えた。
「えーと……生まれつき、だから?」
「まぁ、もともとの力もそれなりに強いんだろうがな――」
メイランは、持っていた木剣を真っ直ぐにアルマに向けた。
「お前は力を入れるときに、魔力で無意識に自分を|《強化》してるのさ」
「えっ、そうですか?」
アルマは意外そうな顔をする。
「……そんなこと、やってないですけど」
「〝無意識に〟って言っただろ――お前、小さい頃から手伝いとかで力仕事をしてないか?」
「あ、してます。水を運んだり、重たい道具や、患者さんを運んだり……」
「そういう経験で、ごく稀にだが、自然に《強化》が使えるようになる奴がいる。アタシの国じゃ《発勁》っていうんだがな。これは長く修行しても、お前のように自然に覚えた奴には、なかなか敵わないものなんだ」
「ふ~ん、《発勁》……?」
アルマは木剣を持つ手を見る。
いまいちピンとこない。
「実感がないのも無理はない。呼吸の仕方を意識するみたいなものだからな――、だが、無意識にやってきたものを意識することで、その効果は何倍にもなる」
「何倍……」
アルマの頭に、昨日の腕相撲が思い出された。もし自分が《強化》を使いこなせていれば、少しは勝負になったのだろうか。
メイランは説明をつづける。
「《強化》を自然にできるようになった奴は、逆に、その効果を実感しにくいのが欠点だ。そこでまず、自分が《強化》にどのくらい助けられているのかを教えてやる。ついてこい」
そう言って、メイランは練習場の隅へ歩いていく。草の生えた練習場には、あちこちに丸太で作った器具が置いてあったが、アルマにはその使い方がまったくわからなかった。
「……あそこだ」
足を止めたメイランが、木剣で草むらの一角を指す。
まわりと違ってそこだけは、丸く切り抜かれたように草が生えていなかった。
「理由はわからんが、あのあたりは魔素が極端に薄くなっている。つまりあそこにいると魔素を使う魔法はバカみたいに弱くなるってことだ。自分の中の魔力しか使えないってことだからな」
アルマは、メイランがここに自分を連れて来た理由がわかった。
「つまり、あそこにいると《強化》が効きにくくなる、ってことなんですね」
「そうだ、理解が早いな」
「あ、でも魔素がないってことは、息ができなくなったりしません?」
「安心しろ、空気はいつも流れているから大丈夫だ。すこし息苦しく感じるかもしれんから、無理はするな。それと、その木剣は一度あずかる」
「わかりました。行ってみます――」
アルマは木剣を渡すと、草の生えてないところへ、こわごわと一歩を踏み出す。
「えーと、特に変わった感じはしないんですけど……?」
「外側はあまり影響がない。真ん中が一番薄くなっているから、様子をみながら進んでみろ」
アルマは言われたとおり、中心へそろりそろりと移動した。
メイランも二本の木剣を持って入ってくる。
どうだ、と聞かれて、アルマは身体をひねったり手足を上げ下げしてみる。
「えーと、大丈夫……みたいです。あっ、でも少し身体が……重く感じます」
「よし、これを持ってみろ」
アルマは差し出された木剣の柄を握る。
「いいか、足の上に落とさないように気をつけろよ」
「……?」
メイランが持っていた手をはなす。
「……きゃっ!」
ドズッという鈍い音とともに木剣が落下した。
さっきまで軽々と振り回せていた木剣が、重くてまったく持てなかった。
持ち上げてみろ、と言われて木剣を拾おうとしたが、
「んっ……無理っ、ですっ!」
顔を真っ赤にして力んでも、木剣の片側をあげて地面に立てるのが精いっぱいだった。
「少しは理解できたか?」
「はぁっ、はぁっ……わかりました」
うなずいたメイランは、落ちた木剣を軽々と拾い、膝に手をつくアルマに説明する。
「いつもは、まわりにある魔素を利用してるから体内の魔力はあまり使わない。しかしここでは逆に、意識して魔力を使わないと力が出せない」
アルマは黙ってうなずく。たしかにそのとおりだった。
「まずは、ここでその木剣を振れるくらいになってもらう。いきなり真ん中でやるのはきついだろう、もう少し外側に行くぞ」
「は、はい!」
と、アルマは慌てて移動する。
その背中を追いかけるように、木々からすり抜けてきた陽の光が注いでいた。
* * * * * * * *
アルマが特訓をしている頃――
薪割りをしていたスペスは、必死になって一本の丸太を持ち上げようとしていた。
「お、重いっ!」
その赤っぽい丸太はよく目がつまっていて、ほかの丸太とくらべて数倍は重かった。
「コレ、やたらと重いけど、なんの木なのかな?」
しゃがみこんだスペスは、じっくりと観察をはじめる。
前後左右から丸太をながめ、ぺたぺたと触ってみたスペスは、なにかに気づいて、となりの小屋を見た。
――あの小屋に使われてるのと同じやつだ――じょうぶな木だって聞いてたけど、こんなに重いのか……。
関心しながら小屋を見上げたスペスは、近くにおなじ木の〝枝〟が落ちているをみつけて拾いあげた。その枝はかなり細いのに重さがあって、試しに曲げようとしてみても、折れるどころか、ほとんど曲がりもしなかった。
どのくらい強いのか知りたくなったスペスは、地面に置いて、足も使って曲げてみる。
だが、力をいれた瞬間、すべった枝がバチンッとスペスのあごを強打し、スペスは声も出さずにうずくまった。
しばらくそのまま動かなかったスペスだったが、突然、勢いよく立ちあがり、あごの痛みもわすれて、あたりに落ちている他の枝をあさりだす。
しばらくして、真っ直ぐなものを何本か選びだしたスペスは、グイグイと強度を確認し、良さそうな一本を握りしめて、小屋の中へ駆けていった。
すでに、薪割りのことは頭のどこにもなかった――
「えっ、なんで?」
そんな事を考えたことのなかったアルマは、思ったままを答えた。
「えーと……生まれつき、だから?」
「まぁ、もともとの力もそれなりに強いんだろうがな――」
メイランは、持っていた木剣を真っ直ぐにアルマに向けた。
「お前は力を入れるときに、魔力で無意識に自分を|《強化》してるのさ」
「えっ、そうですか?」
アルマは意外そうな顔をする。
「……そんなこと、やってないですけど」
「〝無意識に〟って言っただろ――お前、小さい頃から手伝いとかで力仕事をしてないか?」
「あ、してます。水を運んだり、重たい道具や、患者さんを運んだり……」
「そういう経験で、ごく稀にだが、自然に《強化》が使えるようになる奴がいる。アタシの国じゃ《発勁》っていうんだがな。これは長く修行しても、お前のように自然に覚えた奴には、なかなか敵わないものなんだ」
「ふ~ん、《発勁》……?」
アルマは木剣を持つ手を見る。
いまいちピンとこない。
「実感がないのも無理はない。呼吸の仕方を意識するみたいなものだからな――、だが、無意識にやってきたものを意識することで、その効果は何倍にもなる」
「何倍……」
アルマの頭に、昨日の腕相撲が思い出された。もし自分が《強化》を使いこなせていれば、少しは勝負になったのだろうか。
メイランは説明をつづける。
「《強化》を自然にできるようになった奴は、逆に、その効果を実感しにくいのが欠点だ。そこでまず、自分が《強化》にどのくらい助けられているのかを教えてやる。ついてこい」
そう言って、メイランは練習場の隅へ歩いていく。草の生えた練習場には、あちこちに丸太で作った器具が置いてあったが、アルマにはその使い方がまったくわからなかった。
「……あそこだ」
足を止めたメイランが、木剣で草むらの一角を指す。
まわりと違ってそこだけは、丸く切り抜かれたように草が生えていなかった。
「理由はわからんが、あのあたりは魔素が極端に薄くなっている。つまりあそこにいると魔素を使う魔法はバカみたいに弱くなるってことだ。自分の中の魔力しか使えないってことだからな」
アルマは、メイランがここに自分を連れて来た理由がわかった。
「つまり、あそこにいると《強化》が効きにくくなる、ってことなんですね」
「そうだ、理解が早いな」
「あ、でも魔素がないってことは、息ができなくなったりしません?」
「安心しろ、空気はいつも流れているから大丈夫だ。すこし息苦しく感じるかもしれんから、無理はするな。それと、その木剣は一度あずかる」
「わかりました。行ってみます――」
アルマは木剣を渡すと、草の生えてないところへ、こわごわと一歩を踏み出す。
「えーと、特に変わった感じはしないんですけど……?」
「外側はあまり影響がない。真ん中が一番薄くなっているから、様子をみながら進んでみろ」
アルマは言われたとおり、中心へそろりそろりと移動した。
メイランも二本の木剣を持って入ってくる。
どうだ、と聞かれて、アルマは身体をひねったり手足を上げ下げしてみる。
「えーと、大丈夫……みたいです。あっ、でも少し身体が……重く感じます」
「よし、これを持ってみろ」
アルマは差し出された木剣の柄を握る。
「いいか、足の上に落とさないように気をつけろよ」
「……?」
メイランが持っていた手をはなす。
「……きゃっ!」
ドズッという鈍い音とともに木剣が落下した。
さっきまで軽々と振り回せていた木剣が、重くてまったく持てなかった。
持ち上げてみろ、と言われて木剣を拾おうとしたが、
「んっ……無理っ、ですっ!」
顔を真っ赤にして力んでも、木剣の片側をあげて地面に立てるのが精いっぱいだった。
「少しは理解できたか?」
「はぁっ、はぁっ……わかりました」
うなずいたメイランは、落ちた木剣を軽々と拾い、膝に手をつくアルマに説明する。
「いつもは、まわりにある魔素を利用してるから体内の魔力はあまり使わない。しかしここでは逆に、意識して魔力を使わないと力が出せない」
アルマは黙ってうなずく。たしかにそのとおりだった。
「まずは、ここでその木剣を振れるくらいになってもらう。いきなり真ん中でやるのはきついだろう、もう少し外側に行くぞ」
「は、はい!」
と、アルマは慌てて移動する。
その背中を追いかけるように、木々からすり抜けてきた陽の光が注いでいた。
* * * * * * * *
アルマが特訓をしている頃――
薪割りをしていたスペスは、必死になって一本の丸太を持ち上げようとしていた。
「お、重いっ!」
その赤っぽい丸太はよく目がつまっていて、ほかの丸太とくらべて数倍は重かった。
「コレ、やたらと重いけど、なんの木なのかな?」
しゃがみこんだスペスは、じっくりと観察をはじめる。
前後左右から丸太をながめ、ぺたぺたと触ってみたスペスは、なにかに気づいて、となりの小屋を見た。
――あの小屋に使われてるのと同じやつだ――じょうぶな木だって聞いてたけど、こんなに重いのか……。
関心しながら小屋を見上げたスペスは、近くにおなじ木の〝枝〟が落ちているをみつけて拾いあげた。その枝はかなり細いのに重さがあって、試しに曲げようとしてみても、折れるどころか、ほとんど曲がりもしなかった。
どのくらい強いのか知りたくなったスペスは、地面に置いて、足も使って曲げてみる。
だが、力をいれた瞬間、すべった枝がバチンッとスペスのあごを強打し、スペスは声も出さずにうずくまった。
しばらくそのまま動かなかったスペスだったが、突然、勢いよく立ちあがり、あごの痛みもわすれて、あたりに落ちている他の枝をあさりだす。
しばらくして、真っ直ぐなものを何本か選びだしたスペスは、グイグイと強度を確認し、良さそうな一本を握りしめて、小屋の中へ駆けていった。
すでに、薪割りのことは頭のどこにもなかった――