残酷な描写あり
R-15
第31話 『特訓の効果⁉』
日も高くなった頃――アルマの特訓は、まだ続いていた。
「何度言ったらわかるんだ! 筋力じゃなく、体のなかの魔力で持ち上げるんだよっ!」
メイランの怒鳴り声が飛ぶ。
「そんなこと言っても~、これめちゃくちゃ疲れるんですけど~」
泣きごとをもらしながらも、アルマは、木剣を中段まで持ち上げる事ができていた。
「魔力しか使わないんだから、当たり前だっ!」
メイランが厳しい声をぶつける。
「――ここでそいつが振れるなら、魔素のあるところでは、もっと効果が出ることくらい分かるだろう!」
それを言うメイランは、アルマのすぐ隣で両手に三本ずつにまとめた木剣をもち、流れるような動作を、なんども繰りかえしていた。
止まった姿勢から素早く動いたかと思うと、ピタリとまた静止する。
繰り返されるその動きは、しなやかなのに強く、木剣が振られるたびに空気が震えるようだった。
――絶対に、この人おかしいわ……。
すこしでも勝負になるかと思った自分の甘さを、アルマは思い知らされていた。
しばらく続けていると、メイランが木剣をおろした。
「よし、止めていいぞ! 休憩だ」
それを聞いたアルマは、木剣を放り出し、その場であお向けにころがった。
「も……もう無理、動けません~」
「コラ……そこにいたら魔力が回復しないだろう。さっさと、こっちに出てこい」
「そんなこと言っても体が動きませんよぅ――」
倒れたまま、アルマは顔だけをメイランに向ける。正直、指一本すら動かしたくなかった。
「そういえば、言っていなかったが――」
急に、メイランが真顔になる。
「ソコは少しずつ魔力も吸い取られていくからな。そんな状態で寝ていると、そのうち骨と皮だけのガリガリになっちまうぞ」
「いひゃあっ!」
変な声を出したアルマは、転がるように草のある所まで走って出た。
「あっはっは。なんだよ、まだまだ動けるじゃないか!」
メイランが大笑いする。
「も……もしかして騙しました⁉ ひどい!」
アルマは頬をふくらませて抗議したが、急に「あっ」と声をあげる。身体がとても軽くかんじたのだ。
「わかったか?」メイランがニヤリと笑う。
「いままで無自覚にやっていたことを自覚できるだけでも違いは大きいぞ。魔素がつかえる状況で、さっきのように《強化》を使えれば、その威力は比較にならないほど上がる」
「すこしは、わかりましたけど――」と、アルマはうなずいた。
「でも、戦いながら、全力で魔力を使い続けたら、すぐに動けなくなっちゃいますよ」
心の中でそっと、わたしはあなたとは違うんです、と付け加えた。
「そんなのは、やり方しだいだぜ」
メイランがニヤリと笑う。
「なにも戦闘中だからって、ずっと全力でいる必要はない、そんなのは無駄が多いだろ?」
「えっと……どういうことですか?」
「ほんとうに力が必要なのは、ここぞっていう一瞬だけだ。たとえば攻撃や防御をするごく短い瞬間に、集中して全力を出すんだよ」
「なんだか難しそうですね……」アルマは不安そうな顔をする。
「もちろん、簡単じゃあないが、もしそれができれば、いままでとそう変わらない魔力で、長く戦えるようになるんだぜ?」
「それは、そうなんでしょうけど……」とアルマは口ごもる。
「ま、習うより慣れろだ。お前は、もともと《強化》が使えるんだから、コツさえつかめばすぐにできるようになる。もちろんそっちの訓練もやっていくから、あんまり心配するな」
「はぁ……、よろしくお願いします」
「さて、これで休憩は終わりだ、続けろ」
「えーっ⁉ もうですか? まだぜんぜん動けないですよ~」
アルマはささやかな抵抗を試みた。
「安心しろ。本当に動けない時は、そんな言葉すら出ない」
無情な言葉に肩を落としたアルマは、諦めたように木剣をもって、のろのろと練習場所に戻っていった。
* * * * * * *
高く太陽のあがった真昼ごろ。
「あーっ! 惜しいっ!」
というスペスの声が、小屋の前で響く。
やや離れたところには薪がいくつか立ててあり、スペスが握っている枝の先には、布の袋がつけてあった。
「なかなかタイミングが難しいなぁ……」と一人でぶつぶつと呟く。
「石を離すタイミングと、肘の使い方かなぁ……。当たれば威力があるけど、当てられなきゃしょうがないし――」
腕組みしながら考えていると、うしろから突然、肩をガッとつかまれた。
「与えられた薪割りもしないで、なにを遊んでいる?」
ビクッと硬直したスペスが、ギッギッギッ……と壊れた扉のように振りかえると、
背後には肩をいからせて立つメイランがいた。
さらに後ろでは、アルマが声を殺して笑っている。
スペスは、〝なぜ声をかけなかったのか〟という非難の目を向けたが、
アルマはメイランのうしろに隠れて舌を出し、ひらひらと手を振りかえしてきた。
「ちくしょう、朝の仕返しのつもりだな――」
「ほう、よそ見とはいい度胸だな。もじゃもじゃ頭?」
毒づいたスペスを、メイランが真上から睨んでいた。
「も、もじゃもじゃじゃなくて、スペスだよっ。あ……遊んでいたわけじゃなくてさ……」
スペスは、懸命に弁解をはじめる。
「その……ボクもムチだけじゃ不安だから、何か武器になるものがないかって考えてて……、それで、あの……思いつきで、コレを作ってみたんだけど……」
メイランの圧に負けて、言葉が尻すぼみになったスペスは、
〝お情けを〟とばかりに、持っていた枝をさし出した。
「何度言ったらわかるんだ! 筋力じゃなく、体のなかの魔力で持ち上げるんだよっ!」
メイランの怒鳴り声が飛ぶ。
「そんなこと言っても~、これめちゃくちゃ疲れるんですけど~」
泣きごとをもらしながらも、アルマは、木剣を中段まで持ち上げる事ができていた。
「魔力しか使わないんだから、当たり前だっ!」
メイランが厳しい声をぶつける。
「――ここでそいつが振れるなら、魔素のあるところでは、もっと効果が出ることくらい分かるだろう!」
それを言うメイランは、アルマのすぐ隣で両手に三本ずつにまとめた木剣をもち、流れるような動作を、なんども繰りかえしていた。
止まった姿勢から素早く動いたかと思うと、ピタリとまた静止する。
繰り返されるその動きは、しなやかなのに強く、木剣が振られるたびに空気が震えるようだった。
――絶対に、この人おかしいわ……。
すこしでも勝負になるかと思った自分の甘さを、アルマは思い知らされていた。
しばらく続けていると、メイランが木剣をおろした。
「よし、止めていいぞ! 休憩だ」
それを聞いたアルマは、木剣を放り出し、その場であお向けにころがった。
「も……もう無理、動けません~」
「コラ……そこにいたら魔力が回復しないだろう。さっさと、こっちに出てこい」
「そんなこと言っても体が動きませんよぅ――」
倒れたまま、アルマは顔だけをメイランに向ける。正直、指一本すら動かしたくなかった。
「そういえば、言っていなかったが――」
急に、メイランが真顔になる。
「ソコは少しずつ魔力も吸い取られていくからな。そんな状態で寝ていると、そのうち骨と皮だけのガリガリになっちまうぞ」
「いひゃあっ!」
変な声を出したアルマは、転がるように草のある所まで走って出た。
「あっはっは。なんだよ、まだまだ動けるじゃないか!」
メイランが大笑いする。
「も……もしかして騙しました⁉ ひどい!」
アルマは頬をふくらませて抗議したが、急に「あっ」と声をあげる。身体がとても軽くかんじたのだ。
「わかったか?」メイランがニヤリと笑う。
「いままで無自覚にやっていたことを自覚できるだけでも違いは大きいぞ。魔素がつかえる状況で、さっきのように《強化》を使えれば、その威力は比較にならないほど上がる」
「すこしは、わかりましたけど――」と、アルマはうなずいた。
「でも、戦いながら、全力で魔力を使い続けたら、すぐに動けなくなっちゃいますよ」
心の中でそっと、わたしはあなたとは違うんです、と付け加えた。
「そんなのは、やり方しだいだぜ」
メイランがニヤリと笑う。
「なにも戦闘中だからって、ずっと全力でいる必要はない、そんなのは無駄が多いだろ?」
「えっと……どういうことですか?」
「ほんとうに力が必要なのは、ここぞっていう一瞬だけだ。たとえば攻撃や防御をするごく短い瞬間に、集中して全力を出すんだよ」
「なんだか難しそうですね……」アルマは不安そうな顔をする。
「もちろん、簡単じゃあないが、もしそれができれば、いままでとそう変わらない魔力で、長く戦えるようになるんだぜ?」
「それは、そうなんでしょうけど……」とアルマは口ごもる。
「ま、習うより慣れろだ。お前は、もともと《強化》が使えるんだから、コツさえつかめばすぐにできるようになる。もちろんそっちの訓練もやっていくから、あんまり心配するな」
「はぁ……、よろしくお願いします」
「さて、これで休憩は終わりだ、続けろ」
「えーっ⁉ もうですか? まだぜんぜん動けないですよ~」
アルマはささやかな抵抗を試みた。
「安心しろ。本当に動けない時は、そんな言葉すら出ない」
無情な言葉に肩を落としたアルマは、諦めたように木剣をもって、のろのろと練習場所に戻っていった。
* * * * * * *
高く太陽のあがった真昼ごろ。
「あーっ! 惜しいっ!」
というスペスの声が、小屋の前で響く。
やや離れたところには薪がいくつか立ててあり、スペスが握っている枝の先には、布の袋がつけてあった。
「なかなかタイミングが難しいなぁ……」と一人でぶつぶつと呟く。
「石を離すタイミングと、肘の使い方かなぁ……。当たれば威力があるけど、当てられなきゃしょうがないし――」
腕組みしながら考えていると、うしろから突然、肩をガッとつかまれた。
「与えられた薪割りもしないで、なにを遊んでいる?」
ビクッと硬直したスペスが、ギッギッギッ……と壊れた扉のように振りかえると、
背後には肩をいからせて立つメイランがいた。
さらに後ろでは、アルマが声を殺して笑っている。
スペスは、〝なぜ声をかけなかったのか〟という非難の目を向けたが、
アルマはメイランのうしろに隠れて舌を出し、ひらひらと手を振りかえしてきた。
「ちくしょう、朝の仕返しのつもりだな――」
「ほう、よそ見とはいい度胸だな。もじゃもじゃ頭?」
毒づいたスペスを、メイランが真上から睨んでいた。
「も、もじゃもじゃじゃなくて、スペスだよっ。あ……遊んでいたわけじゃなくてさ……」
スペスは、懸命に弁解をはじめる。
「その……ボクもムチだけじゃ不安だから、何か武器になるものがないかって考えてて……、それで、あの……思いつきで、コレを作ってみたんだけど……」
メイランの圧に負けて、言葉が尻すぼみになったスペスは、
〝お情けを〟とばかりに、持っていた枝をさし出した。