残酷な描写あり
R-15
第32話 『切るに決まってる⁉』
メイランの圧に負けて、言葉が尻すぼみになったスペスは、
〝お情けを〟とばかりに、持っていた枝をさし出した。
「なによ、それ?」
メイランの後ろからアルマがのぞき込む。
「ふむ、スリングか」
枝を手にしたメイランが言った。
「スリングって、なんです?」
「投石器だな。いくつか種類があるんだが、これは棒のさきの袋に石をいれる」
足もとから適当な石を取ると、メイランは先端の袋に入れ、枝を握った。
「あとはこうして回して勢いをつけてから――」
話しながらメイランは、枝を石ごとぐるぐる回しはじめる。
「そのまま投げるっ!」
メイランが大きく腕をふると、枝はヒュンという音を立てて大きくしなり、一番速度に乗ったところで袋から石が飛びだした。
そのまま一直線に飛んだ石は、立ててあった薪をこなごなに砕いて、後ろにあった木にめりこむ。
「すご~い!」
見ていたアルマが、パチパチと拍手した。
「おい、小僧!」
「ふぁいっ!」とスペスが身を固くする。
「なかなか悪くないが、そうだな――もう少し布を小さくしろ、離れが良くなって石が当てやすくなる」
「あ……うん、わかった」とスペスはうなずいた。
「ボクにはもう少し短いと、振りやすくていいんだけどね――」
「あら……そんなの切ったらいいんじゃないの?」
アルマが口をはさむ。
「それがさぁ……硬ったくて切れないんだよね、この木」
「そうなの?」
「そうそう、まるで鉄みたいだよ」とスペスはうなずいた。
「……こういうのってさ、魔法で切れないの? 例えば《水》を針みたいに細く出すとか、《火》を、ものすごく強くするとか」
「なに言ってるの? そんなのできるわけないじゃない」
アルマが怪訝な顔をする。
「水で切れるわけがないし、火じゃ燃えちゃうでしょ。鉄を溶かすっていうならまだわかるけど……」
「いや、そうじゃなくて、もっと、もの凄い高温にして一気に焼き切るんだけど……そうかー、できないのかー。ハルマスは出来そうだって言ってるんだけどな――」
「ハルマス?」メイランが訊いた。
「ああ、気にしないでください。そういう〝病気〟なので」
アルマが即答する。
「そうか……」と言ったメイランが、スペスに枝を放る。
「ちょっとこいつを持っていろ、もじゃもじゃ」
「だから、もじゃもじゃじゃなくてスペスだよ」
そう言うスペスを無視して、メイランは小屋へ向かったが、入り口でふり返る。
「いいか、ちゃんと、待っていろよ」
「――えっ!」
そのままメイランは中へ入っていった。
「これは、サボっていた罰かしらね――いままでお世話になったわね……スペス」
「いや、それ笑えないんだけど――」
「いままでぬろんぬお世話になったってありがぽひょろー?」
「いや、むりに笑わそうとしなくていいから……」
メイランは、待つというほどの間もなく、手に大振りの曲刀を持って戻ってくる。
「待たせたな」
「あ、あのぅ……メイランさん、それは?」恐る恐るアルマがたずねる。
「アタシの愛刀、〝首切り包丁〟だ」
メイランが構えてみせた曲刀は、大きく身厚で、見るからに重そうだった。
「なかなかの業物なんだぜ、獣をさばくのにも使えるし――首も、落とせる!」
ひと振りブンッと音を立てて、メイランは得意気に笑った。
「おい、小僧――そいつを前に出してしっかりと持っておけ」
メイランがスペスのスリングを指す。
「えっ……、い、いいけど、なにをするのかな?」
「決まってんだろ……切るんだよ」
「く、首をっ⁉」
「ばーか、その枝をだよ――短くしたいんだろ?」
「あ……うん」
「じゃあ、はやく出せ」
「こ、こう?」
恐る恐る、スペスはスリングを前に差し出す。
「――どのくらいだ?」
「えっ?」
「どのくらい、切ればいい?」
「えっとこのくら――」
「フッ!」
スペスがゆびで長さを示した瞬間にはもう、メイランは曲刀を振り終わっていた。
枝の先がスパッと飛ばされ、一瞬おくれで届く風圧が、スペスの顔をなでる。
「うひゃぁっ!」
とスペスは尻もちをついていた。
「――どうだ?」
メイランが訊いた。
「えっ……、ああ大丈夫、切れてないみたい……だよ」
スペスは、首のあたりをペタペタとさわる。
「だから、ちげーよ」と、メイランは曲刀を肩にかついだ。
「――長さはどうだって訊いたんだ。必要ならもう少し切るぞ?」
「ああ……、えーっと」
スペスは急いで枝を振ってみる。
「うん、ちょうどいいよ。これぐらいが良かったんだ」
「そうか」メイランが満足そうにうなずいた。
「――なら、飯にするぞ、手伝え」
「はーい」
「わかった」
メイランについて小屋へ向かう途中――突然アルマが『ぷっ』と吹き出した。
「さっきのスペスってば、なに? 『うあひゃぁっ!』とか言ってたわよ。そんなに怖かったの~?」
と、面白そうにスペスをのぞき込む。
「そりゃあ、怖かったよ。怖くて逃げ出したかった」
ブスッとした顔で、スペスは答えた。
「絶対に斬られないって分かっていても、武器を持ったあの人の前には立ちたくないね――ウソだと思うなら、アルマもやってみればいいよ。絶対に『怖いっ。今すぐ、逃げ出したいっ』って思うからさ!」
「やーよ、そんなの」とアルマは笑って顔をそらす。
「あれは、サボってたスペスへの罰でしょ?」
「あんな罰は、ないと思うんだけど――」
「ん……? 罰?」
前を歩いていたメイランが立ち止まった。
「そうか、そういえばサボっていた罰を与えていなかったな。薪を百本追加しておく、夕方までにきっちり終わらせておけ」
「げっ!」とスペスは言ったが、
「なんだ?」というメイランに、『わかりました……』とうつむいた。
「せっかく、ごまかせていたのに――」
スペスは恨みがましい目をアルマに向けたが、当のアルマは必死に笑いをこらえていた。
〝お情けを〟とばかりに、持っていた枝をさし出した。
「なによ、それ?」
メイランの後ろからアルマがのぞき込む。
「ふむ、スリングか」
枝を手にしたメイランが言った。
「スリングって、なんです?」
「投石器だな。いくつか種類があるんだが、これは棒のさきの袋に石をいれる」
足もとから適当な石を取ると、メイランは先端の袋に入れ、枝を握った。
「あとはこうして回して勢いをつけてから――」
話しながらメイランは、枝を石ごとぐるぐる回しはじめる。
「そのまま投げるっ!」
メイランが大きく腕をふると、枝はヒュンという音を立てて大きくしなり、一番速度に乗ったところで袋から石が飛びだした。
そのまま一直線に飛んだ石は、立ててあった薪をこなごなに砕いて、後ろにあった木にめりこむ。
「すご~い!」
見ていたアルマが、パチパチと拍手した。
「おい、小僧!」
「ふぁいっ!」とスペスが身を固くする。
「なかなか悪くないが、そうだな――もう少し布を小さくしろ、離れが良くなって石が当てやすくなる」
「あ……うん、わかった」とスペスはうなずいた。
「ボクにはもう少し短いと、振りやすくていいんだけどね――」
「あら……そんなの切ったらいいんじゃないの?」
アルマが口をはさむ。
「それがさぁ……硬ったくて切れないんだよね、この木」
「そうなの?」
「そうそう、まるで鉄みたいだよ」とスペスはうなずいた。
「……こういうのってさ、魔法で切れないの? 例えば《水》を針みたいに細く出すとか、《火》を、ものすごく強くするとか」
「なに言ってるの? そんなのできるわけないじゃない」
アルマが怪訝な顔をする。
「水で切れるわけがないし、火じゃ燃えちゃうでしょ。鉄を溶かすっていうならまだわかるけど……」
「いや、そうじゃなくて、もっと、もの凄い高温にして一気に焼き切るんだけど……そうかー、できないのかー。ハルマスは出来そうだって言ってるんだけどな――」
「ハルマス?」メイランが訊いた。
「ああ、気にしないでください。そういう〝病気〟なので」
アルマが即答する。
「そうか……」と言ったメイランが、スペスに枝を放る。
「ちょっとこいつを持っていろ、もじゃもじゃ」
「だから、もじゃもじゃじゃなくてスペスだよ」
そう言うスペスを無視して、メイランは小屋へ向かったが、入り口でふり返る。
「いいか、ちゃんと、待っていろよ」
「――えっ!」
そのままメイランは中へ入っていった。
「これは、サボっていた罰かしらね――いままでお世話になったわね……スペス」
「いや、それ笑えないんだけど――」
「いままでぬろんぬお世話になったってありがぽひょろー?」
「いや、むりに笑わそうとしなくていいから……」
メイランは、待つというほどの間もなく、手に大振りの曲刀を持って戻ってくる。
「待たせたな」
「あ、あのぅ……メイランさん、それは?」恐る恐るアルマがたずねる。
「アタシの愛刀、〝首切り包丁〟だ」
メイランが構えてみせた曲刀は、大きく身厚で、見るからに重そうだった。
「なかなかの業物なんだぜ、獣をさばくのにも使えるし――首も、落とせる!」
ひと振りブンッと音を立てて、メイランは得意気に笑った。
「おい、小僧――そいつを前に出してしっかりと持っておけ」
メイランがスペスのスリングを指す。
「えっ……、い、いいけど、なにをするのかな?」
「決まってんだろ……切るんだよ」
「く、首をっ⁉」
「ばーか、その枝をだよ――短くしたいんだろ?」
「あ……うん」
「じゃあ、はやく出せ」
「こ、こう?」
恐る恐る、スペスはスリングを前に差し出す。
「――どのくらいだ?」
「えっ?」
「どのくらい、切ればいい?」
「えっとこのくら――」
「フッ!」
スペスがゆびで長さを示した瞬間にはもう、メイランは曲刀を振り終わっていた。
枝の先がスパッと飛ばされ、一瞬おくれで届く風圧が、スペスの顔をなでる。
「うひゃぁっ!」
とスペスは尻もちをついていた。
「――どうだ?」
メイランが訊いた。
「えっ……、ああ大丈夫、切れてないみたい……だよ」
スペスは、首のあたりをペタペタとさわる。
「だから、ちげーよ」と、メイランは曲刀を肩にかついだ。
「――長さはどうだって訊いたんだ。必要ならもう少し切るぞ?」
「ああ……、えーっと」
スペスは急いで枝を振ってみる。
「うん、ちょうどいいよ。これぐらいが良かったんだ」
「そうか」メイランが満足そうにうなずいた。
「――なら、飯にするぞ、手伝え」
「はーい」
「わかった」
メイランについて小屋へ向かう途中――突然アルマが『ぷっ』と吹き出した。
「さっきのスペスってば、なに? 『うあひゃぁっ!』とか言ってたわよ。そんなに怖かったの~?」
と、面白そうにスペスをのぞき込む。
「そりゃあ、怖かったよ。怖くて逃げ出したかった」
ブスッとした顔で、スペスは答えた。
「絶対に斬られないって分かっていても、武器を持ったあの人の前には立ちたくないね――ウソだと思うなら、アルマもやってみればいいよ。絶対に『怖いっ。今すぐ、逃げ出したいっ』って思うからさ!」
「やーよ、そんなの」とアルマは笑って顔をそらす。
「あれは、サボってたスペスへの罰でしょ?」
「あんな罰は、ないと思うんだけど――」
「ん……? 罰?」
前を歩いていたメイランが立ち止まった。
「そうか、そういえばサボっていた罰を与えていなかったな。薪を百本追加しておく、夕方までにきっちり終わらせておけ」
「げっ!」とスペスは言ったが、
「なんだ?」というメイランに、『わかりました……』とうつむいた。
「せっかく、ごまかせていたのに――」
スペスは恨みがましい目をアルマに向けたが、当のアルマは必死に笑いをこらえていた。