残酷な描写あり
R-15
第35話 『特訓二日目⁉』
翌日。
アルマの訓練は早朝から始まっていた。
「やあっ!」とアルマが振った木剣を、メイランがおなじく木剣で受ける。
木剣どうしがぶつかって、ゴヅッ、という鈍い音をあげた。
「もっと前に出ろ! 切先じゃなく刃元で切らないと、動く相手には当たらないぞ!」
「はいっ!」
ゴヅッ!
「もっと当たる瞬間に集中しろ、一気に魔力を流しこめ!」
「はいっ!」
たった二日の訓練では、駆け引きや、高度な技術は覚えようがない。
メイランの練習内容は、アルマのパワーを生かして〝やられるまえにやる〟という力押しの、極端な『攻撃重視』に振られていた。
治癒魔法を使えることもあって、多少の傷は覚悟のうえで、防御ごと相手をたたくという至極単純な作戦だ。
そのため、教えるのも攻防時に威力を高める《強化》のみという『一芸必殺』ぶりだった。
ゴヅッ! とまた木剣がぶつかる。
「今のは悪くない。忘れるな!」
「はいっ!」
「よしっ、次は防御をやる。アタシが攻撃するから、お前が受けろ」
アルマが一瞬、不安そうな顔になる。
「安心しろ、最初はゆっくりやるさ」メイランが不安を消すように笑った。
「――ただし、気は抜くなよ。受ける瞬間に、魔力でしっかり《強化》するんだぞ」
「はいっ!」
「よし構えろ!」
アルマは、体の前でぴたりと木剣を止めた。
それを見たメイランは、流れるように木剣を振り出したが、
そのスピードは言葉通りの〝ゆっくり〟で、
アルマの木剣に当たるまでに、ゆうに五つは数えられるくらいだった。
「???」
あまりの遅さに、アルマがどうしたんだろう、と思ったとき、木剣どうしが接触した。
バギンッ!
という聞いたことのない音がして、アルマの木剣がものすごい力で押されたかと思うと、構えていたアルマごと後ろへ吹き飛ばした。
軽々と宙を舞ったアルマは、そのまま地面で一回バウンドして数回後ろに転がり、木にぶつかってようやく止まる。
「莫迦かっ! 気を抜くなと言っただろうがっ! 死ぬぞッ!」
メイランが怒鳴り声に、アルマは『きゅう~』と言ったまま動かなかった。
「ありゃあ聞こえてないな……」
メイランはボリボリと頭を掻くと、助けにむかった。
「なんかすごい音がしたけど、どうしたの?」
練習場のすみでムチと投石器の練習をしていたスペスが、駆けつけた。
「頭を打ったようだが、治療はした。少し休ませれば大丈夫だろう」
メイランはそう言って寝かされたアルマを診ている。
「そっか……、大丈夫ならいいけど」
そう話す二人の声に、アルマは目を開けた。
「んぁ……あれ? スペス? わたし……なんで寝てたの?」
不思議そうにしながら、ボーッとする頭で身体を起こす。
「訓練中に気を抜いて、頭を打ったんだ。覚えているか?」
「えっと……あ……」
アルマが口に手を当てる。
「思い出したか――訓練とはいえ死ぬこともある。気は抜くな」
真剣な顔のメイランに、
「はい……」とアルマはうなずいた。
「よし。もう少し休め」
「いえ、大丈夫です! やります!」
立ちあがろうとするアルマを、メイランが止めた。
「いいから寝ていろ。体を壊したらなんにもならん。今は、やすむ時だ」
「はい……」
と答えて、またアルマは横になる。
「あの木のうえに太陽がきたら再開だ。それまでに次の訓練の説明をしておこう。寝ながらでいいから聞いておけ――」
アルマがうなずくと、スペスが手を振った。
「それじゃあ、ボクは邪魔したら悪いから戻るね。アルマ頑張って!」
「スペスもね……」とアルマは、手を振り返す。
「始めるぞ。この後はさっきの攻撃と防御を交互に繰り返す。慣れてきたら、より実戦に近い形で、常に動きながら連続で繰り返していくぞ。わかってると思うが、大事なのは瞬間的に魔力を出し切って《強化》を――」
寝たままで説明を聞くアルマは――見えている空に向かって唇をキュッと結んだ。
悔しげなその顔を、森から吹いてくる風がさらさらと涼しげに撫でていった。
アルマの訓練は早朝から始まっていた。
「やあっ!」とアルマが振った木剣を、メイランがおなじく木剣で受ける。
木剣どうしがぶつかって、ゴヅッ、という鈍い音をあげた。
「もっと前に出ろ! 切先じゃなく刃元で切らないと、動く相手には当たらないぞ!」
「はいっ!」
ゴヅッ!
「もっと当たる瞬間に集中しろ、一気に魔力を流しこめ!」
「はいっ!」
たった二日の訓練では、駆け引きや、高度な技術は覚えようがない。
メイランの練習内容は、アルマのパワーを生かして〝やられるまえにやる〟という力押しの、極端な『攻撃重視』に振られていた。
治癒魔法を使えることもあって、多少の傷は覚悟のうえで、防御ごと相手をたたくという至極単純な作戦だ。
そのため、教えるのも攻防時に威力を高める《強化》のみという『一芸必殺』ぶりだった。
ゴヅッ! とまた木剣がぶつかる。
「今のは悪くない。忘れるな!」
「はいっ!」
「よしっ、次は防御をやる。アタシが攻撃するから、お前が受けろ」
アルマが一瞬、不安そうな顔になる。
「安心しろ、最初はゆっくりやるさ」メイランが不安を消すように笑った。
「――ただし、気は抜くなよ。受ける瞬間に、魔力でしっかり《強化》するんだぞ」
「はいっ!」
「よし構えろ!」
アルマは、体の前でぴたりと木剣を止めた。
それを見たメイランは、流れるように木剣を振り出したが、
そのスピードは言葉通りの〝ゆっくり〟で、
アルマの木剣に当たるまでに、ゆうに五つは数えられるくらいだった。
「???」
あまりの遅さに、アルマがどうしたんだろう、と思ったとき、木剣どうしが接触した。
バギンッ!
という聞いたことのない音がして、アルマの木剣がものすごい力で押されたかと思うと、構えていたアルマごと後ろへ吹き飛ばした。
軽々と宙を舞ったアルマは、そのまま地面で一回バウンドして数回後ろに転がり、木にぶつかってようやく止まる。
「莫迦かっ! 気を抜くなと言っただろうがっ! 死ぬぞッ!」
メイランが怒鳴り声に、アルマは『きゅう~』と言ったまま動かなかった。
「ありゃあ聞こえてないな……」
メイランはボリボリと頭を掻くと、助けにむかった。
「なんかすごい音がしたけど、どうしたの?」
練習場のすみでムチと投石器の練習をしていたスペスが、駆けつけた。
「頭を打ったようだが、治療はした。少し休ませれば大丈夫だろう」
メイランはそう言って寝かされたアルマを診ている。
「そっか……、大丈夫ならいいけど」
そう話す二人の声に、アルマは目を開けた。
「んぁ……あれ? スペス? わたし……なんで寝てたの?」
不思議そうにしながら、ボーッとする頭で身体を起こす。
「訓練中に気を抜いて、頭を打ったんだ。覚えているか?」
「えっと……あ……」
アルマが口に手を当てる。
「思い出したか――訓練とはいえ死ぬこともある。気は抜くな」
真剣な顔のメイランに、
「はい……」とアルマはうなずいた。
「よし。もう少し休め」
「いえ、大丈夫です! やります!」
立ちあがろうとするアルマを、メイランが止めた。
「いいから寝ていろ。体を壊したらなんにもならん。今は、やすむ時だ」
「はい……」
と答えて、またアルマは横になる。
「あの木のうえに太陽がきたら再開だ。それまでに次の訓練の説明をしておこう。寝ながらでいいから聞いておけ――」
アルマがうなずくと、スペスが手を振った。
「それじゃあ、ボクは邪魔したら悪いから戻るね。アルマ頑張って!」
「スペスもね……」とアルマは、手を振り返す。
「始めるぞ。この後はさっきの攻撃と防御を交互に繰り返す。慣れてきたら、より実戦に近い形で、常に動きながら連続で繰り返していくぞ。わかってると思うが、大事なのは瞬間的に魔力を出し切って《強化》を――」
寝たままで説明を聞くアルマは――見えている空に向かって唇をキュッと結んだ。
悔しげなその顔を、森から吹いてくる風がさらさらと涼しげに撫でていった。