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作者: 細矢ひろゆき
残酷な描写あり R-15
第43話 『どこから来たの⁉』
 アルマは何かが気になった――が、スペスが『早く、食べようよー』と急かしたので、考えるのをやめた。

「はい、じゃあ食べましょ、いただきまーす」
「いただきまーす」
 ふたりがパンを口にしても、タッシェはパンをぐるぐると回し、あちこちから眺めている。

「食べられる物だから大丈夫よ」
「美味しいよー、大丈夫だよー」
 何度も声をかけながら食べて見せると、
「ダァイジョブ?」と、タッシェはためらいがちに口をつけた。

 ふたりが見守る横でタッシェはパンの端っこをかじると、一度大きく目をひらき、もごもごと一生懸命に噛んで、飲みこんだ。
「…………。」

 わずかな沈黙のあと――スペスに向かってぱあっと笑顔を咲かせたタッシェは、
「デリーシュ! オニィチャ、デリーシュ!」
 と叫んで、すごい勢いでパンを食べはじめた。

「あらあら~、どこかの誰かさんみたいね」
 とアルマはからかうように言ったが、スペスは真面目な顔で、
「わかる……」とうなずいていた。

「なんていうか、美味しいものって偉大だよね」
「このぐらいで、特別ありがたいとは思わないんだけど。……知らないっていうのは幸せなことなのかしら――」
 つまらなそうに、アルマは手元のパンをながめる。

「どうして?」とスペスが不思議そうに訊いた。
「――ありがたいと思わないくらいに食べてきたなら、それはとても幸せな事じゃないの?」
「それは……そうなんだけど。……そうじゃなくて」
 アルマは言いたいことが浮かばずに考えこむ。

「もしかして、ボクらと一緒に『美味しい!』って喜びたかったの?」
「そう、それ!」とアルマはスペスを指さす。

「ふーん……、アルマって、けっこう欲張りなんだね」
「ぐっ――。そ、そうなのかしら?」
 アルマが手にしたパンをじっと見ていると、よくわかっていないタッシェが、
「ダアィジョブ、ダアィジョブ!」と、笑顔で背中を叩いてきた。

「あれ……冗談のつもりだったんだけど、気にした?」
 スペスが、ふたつ目のパンに手を伸ばしながら訊いた。
「そ、そんなことないわよ――冗談よね……知ってた、知ってた」
 顔を赤くしながら、アルマは姿勢をなおしてパンを食べた。

 お腹いっぱいになるまで食べた三人は、そのまま食休みをとっていたが、やがてタッシェが退屈そうに足をぶらぶらしはじめる。
 日が出たことで気温も上がっていて、あたりは急速に乾き、土がぬかるんでいる以外に、雨の跡はなくなった。

「ふわぁ……」と陽気につられて、スペスがあくびをする。
「――それじゃ、この子を帰しにいこうか」

「そうね、遠くじゃないといいんだけど、ふぁっ……」
 アルマもつられてあくびをしそうになり、あわてて口を押さえる。

「まぁ、子供の足だからね」とスペスはタッシェを見る。「そんなに遠くじゃないと思うけど――」
「けど?」

「言葉が通じないのが心配かな。ボクらが連れ去ったなんて誤解をされたら、面倒なことになりそうだよね」心配そうにスペスが腕を組む。

「でも――このままひとりで帰らせるわけにもいかないでしょ?」
「そうだよね」とスペスがうなずく。
「……まぁとりあえず、どこに住んでるのか訊いてみようか」

 スペスはタッシェに向きあうと『お・う・ち・ど・こ?』と身振りを付けて訊いたが、タッシェは不思議そうに首をかしげた。

「絵にしてみたらどうかしら?」
 アルマは落ちていた木の枝を拾うと、まだ湿っている地面に、三角や四角で家の絵をかいた。タッシェがぱっと顔を輝かせて遺跡の向こうを指さした。

「やっぱりあっちか――」
 タッシェが指したのは、例の道がある方だった。
「じゃあ、ひとまず、あそこの道を行ってみようよ」
「そうね、そうしましょうか」

 そう言って、ふたりが立ちあがった瞬間、ドスッと音がして、なにか長いものがアルマのカゴに突き立った。

「矢だっ!」

 スペスが叫び、かぶさるようにタッシェをかばう。
 飛んできたと思われる方を見ると、道がある草むらのあたりに、弓を構える人影が見えた。

「ジュッリ! ヴレ、シノフォン!」
 叫んでいる言葉はわからなかったが、友好的な声音こわねでない事だけは分かった。
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