残酷な描写あり
R-15
第50話 『魔法をおしえて⁉』
すぐにはこれといった話はうかばなかったが、
スペスは、腕を組んで話題をひねりだそうとしているうちに、急にある事を思い出した。
「イオキアさんは、魔法はつかえるよね?」
「まあ、それなりには、できると思いますが――」
あいまいにイオキアが答える。
「じゃあさ。よかったら、ボクに魔法をおしえてくれない?」
「魔法をですか? わたしに教えられるようなものであれば、もちろん構いませんが……」
「そっか、よかった。火の魔法の《点火》なんだけど、お願いできる?」
「はっ……ご冗談を」
とイオキアが口の端をゆがめた。
「――魔法の初歩も初歩じゃないですか、そんなものを教えろだなんて、人族が言う冗談は、理解できませんね」
品のある態度をくずさなかったイオキアが、不快そうに言った。
それが少しだけ面白くて――スペスは思わず笑みを浮かべそうになる。
だがもちろん、イオキアが機嫌を損ねたのは誤解からなので、スペスは誤魔化すために口元を舐め、なるべく真剣な顔つきで言った。
「それは違うよ。イオキアさん」
わざと真っすぐにイオキアを見つめる。
「ボクはさ、話すと長くなるんだけど、ちょっとした事情で最近まで、魔法ってものを知らなかったんだよ」
「そんなことが、あるのですか?」
憮然とした表情だったイオキアが、戸惑いを浮かべる。
「まぁ、信じられないのも無理ないとは思うけどね。少なくとも、ボクがまったく魔法を使えない事と、イオキアさんをバカにしている訳じゃないって事だけは信じてほしいな」
「本当に、本当なのですか?」
まだ信じられないといった顔つきで、イオキアが訊いた。
「だから本当だってば! なんなら、あとでアルマに聞いてもらってもいいよ」
スペスは、わざと苛ついたように言う。
「わ、わかりました……信じますよ」
イオキアが、なだめるように手をあげた。
「――そのかわり、もし、嘘だったらひどいですからね」
最後に付けられたその言葉に、スペスは〝案外おもしろい人物なのかもしれない〟と思いながら答えた。
「もちろんさ。嘘じゃないことは約束するよ」
「わかりました」
うなずいたイオキアは、真面目な声で訊く。
「それで――どこが分からないんです?」
「ああ、ええと……指の先に魔力をあつめるっていう感覚がよくわからなくて」
「なるほど……本当に初歩ですね」
イオキアはアゴに手を当てた。
「ちょっと、やってみてもらえますか?」
「うん」とスペスは指を二本立てる。
指の先に体内の魔力を集めるイメージをやってみたが、なにかが起きる気配はなかった。
「……ふむ。魔力があまり動いていないようですね――」
そう言ったイオキアは、スペスの腕に両手をそえた。
「私が〝誘導〟してみましょう。《点火》なら少しの魔力で足りるので、肩のあたりから動かしてみますね」
イオキアが、肘にあてた手をなぞるように動かすと、腕の中でなにかが動くのを感じた。
「わかりますか?」
「うんなにかが動いてる」
「それが魔力の動きです。動かした魔力はなにもしないとすぐにもどってしまうので、馴れないうちは波のように何度も何度も先の方に集めていきます。やってみてください」
「わかった」
言われたとおりにスペスは魔力を腕から手先へと繰り返し動かしていった。
「そうですね。いい感じです。そのまま、そのままですよ――」
腕を支えながら、静かにイオキアは言った。
「手の中心からさらに指の先へと動かしてください。指先に魔力が十分あつまったら、火になって出るイメージをします」
スペスは、小さな袋に綿でも詰めこむように、手に集まった魔力を指先へと押し込んでいく。
ボボッ……
くすぶるように一瞬だけ指先に〝赤いもの〟が見えた。
「まだです! 気を抜かないで!」
イオキアの声が飛ぶ。
油断しかけたスペスは、あっというまに散りそうになった魔力を慌ててかきあつめ、もう一度、指先へ送りこむ。
もう油断しないように、意識をさらに集中していった。
ふいに――
指先からなんの前触れもなく、小さな炎がでた。
魔力でつくられた炎は、煤を出すこともなく、ただ熱だけを放って赤くゆらめく。
「やった!」
スペスが大声でさけんだ。
「やった、やったよ! できたできた! ありがとう、イオキアさん!」
「いえいえ」とイオキアは笑った。「私はただお手伝いをしただけです。貴方の力ですよ」
「そんなことないって! イオキアさん、教えるのが上手いよ!」
「……そうなのですか? あまり他人に教えたことが無いのでよく分からないのですが」
「ほんと、ほんと!」とスペスは興奮気味に言った。
「アルマなんて『そんなのバーッとやってえいっ、よ』とかで、なにを言ってるのかも分からないんだから――」
「それは、ええと……アルマさんは感覚派なんですね」
「そうなのかなぁ?」
「きっとそうですよ」
とイオキアは納得させるようにうなずく。
「……さぁ。いまので感じはつかめましたね!」
「うん、集中って言葉にとらわれすぎてたな。どっちかっていうと動かして押しこむって感じだ!」
「そのとおりです!」とイオキアは微笑んだ。
スペスは、腕を組んで話題をひねりだそうとしているうちに、急にある事を思い出した。
「イオキアさんは、魔法はつかえるよね?」
「まあ、それなりには、できると思いますが――」
あいまいにイオキアが答える。
「じゃあさ。よかったら、ボクに魔法をおしえてくれない?」
「魔法をですか? わたしに教えられるようなものであれば、もちろん構いませんが……」
「そっか、よかった。火の魔法の《点火》なんだけど、お願いできる?」
「はっ……ご冗談を」
とイオキアが口の端をゆがめた。
「――魔法の初歩も初歩じゃないですか、そんなものを教えろだなんて、人族が言う冗談は、理解できませんね」
品のある態度をくずさなかったイオキアが、不快そうに言った。
それが少しだけ面白くて――スペスは思わず笑みを浮かべそうになる。
だがもちろん、イオキアが機嫌を損ねたのは誤解からなので、スペスは誤魔化すために口元を舐め、なるべく真剣な顔つきで言った。
「それは違うよ。イオキアさん」
わざと真っすぐにイオキアを見つめる。
「ボクはさ、話すと長くなるんだけど、ちょっとした事情で最近まで、魔法ってものを知らなかったんだよ」
「そんなことが、あるのですか?」
憮然とした表情だったイオキアが、戸惑いを浮かべる。
「まぁ、信じられないのも無理ないとは思うけどね。少なくとも、ボクがまったく魔法を使えない事と、イオキアさんをバカにしている訳じゃないって事だけは信じてほしいな」
「本当に、本当なのですか?」
まだ信じられないといった顔つきで、イオキアが訊いた。
「だから本当だってば! なんなら、あとでアルマに聞いてもらってもいいよ」
スペスは、わざと苛ついたように言う。
「わ、わかりました……信じますよ」
イオキアが、なだめるように手をあげた。
「――そのかわり、もし、嘘だったらひどいですからね」
最後に付けられたその言葉に、スペスは〝案外おもしろい人物なのかもしれない〟と思いながら答えた。
「もちろんさ。嘘じゃないことは約束するよ」
「わかりました」
うなずいたイオキアは、真面目な声で訊く。
「それで――どこが分からないんです?」
「ああ、ええと……指の先に魔力をあつめるっていう感覚がよくわからなくて」
「なるほど……本当に初歩ですね」
イオキアはアゴに手を当てた。
「ちょっと、やってみてもらえますか?」
「うん」とスペスは指を二本立てる。
指の先に体内の魔力を集めるイメージをやってみたが、なにかが起きる気配はなかった。
「……ふむ。魔力があまり動いていないようですね――」
そう言ったイオキアは、スペスの腕に両手をそえた。
「私が〝誘導〟してみましょう。《点火》なら少しの魔力で足りるので、肩のあたりから動かしてみますね」
イオキアが、肘にあてた手をなぞるように動かすと、腕の中でなにかが動くのを感じた。
「わかりますか?」
「うんなにかが動いてる」
「それが魔力の動きです。動かした魔力はなにもしないとすぐにもどってしまうので、馴れないうちは波のように何度も何度も先の方に集めていきます。やってみてください」
「わかった」
言われたとおりにスペスは魔力を腕から手先へと繰り返し動かしていった。
「そうですね。いい感じです。そのまま、そのままですよ――」
腕を支えながら、静かにイオキアは言った。
「手の中心からさらに指の先へと動かしてください。指先に魔力が十分あつまったら、火になって出るイメージをします」
スペスは、小さな袋に綿でも詰めこむように、手に集まった魔力を指先へと押し込んでいく。
ボボッ……
くすぶるように一瞬だけ指先に〝赤いもの〟が見えた。
「まだです! 気を抜かないで!」
イオキアの声が飛ぶ。
油断しかけたスペスは、あっというまに散りそうになった魔力を慌ててかきあつめ、もう一度、指先へ送りこむ。
もう油断しないように、意識をさらに集中していった。
ふいに――
指先からなんの前触れもなく、小さな炎がでた。
魔力でつくられた炎は、煤を出すこともなく、ただ熱だけを放って赤くゆらめく。
「やった!」
スペスが大声でさけんだ。
「やった、やったよ! できたできた! ありがとう、イオキアさん!」
「いえいえ」とイオキアは笑った。「私はただお手伝いをしただけです。貴方の力ですよ」
「そんなことないって! イオキアさん、教えるのが上手いよ!」
「……そうなのですか? あまり他人に教えたことが無いのでよく分からないのですが」
「ほんと、ほんと!」とスペスは興奮気味に言った。
「アルマなんて『そんなのバーッとやってえいっ、よ』とかで、なにを言ってるのかも分からないんだから――」
「それは、ええと……アルマさんは感覚派なんですね」
「そうなのかなぁ?」
「きっとそうですよ」
とイオキアは納得させるようにうなずく。
「……さぁ。いまので感じはつかめましたね!」
「うん、集中って言葉にとらわれすぎてたな。どっちかっていうと動かして押しこむって感じだ!」
「そのとおりです!」とイオキアは微笑んだ。