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作者: 細矢ひろゆき
残酷な描写あり R-15
第68話 『早く来てよね……⁉』
「たしかこのあたりだったはず――」

 集落の外れまでやってきたアルマは、きょろきょろとあたりを見まわす。
「どれだっけ? タッシェ?」

 尋ねてはみたものの、かかえられたタッシェは、ずっと泣きじゃくっていた。

「そうよね……」とアルマは首を振る。「わたしだってそうしたい気分だもの……」
 重い息をつきながら、近くの家の扉を開ける。
「ここは……違う?」

 中を見たアルマは扉を閉めると、つぎの家へと向かいながら、あやすように声をかけた。
「大丈夫よ、お兄ちゃんはきっと、あとで来てくれるからね――」
 そして自分に言い聞かせるようにつぶやく。

「だってスペスは言ったもの……わたしを守るって。言ったんだから。必ず村に返すって。そうじゃなかったら、わたしだって――」

 思わずうつむきそうになった顔を上げ、アルマはつぎの扉を開く。

「あった……これよね?」

 アルマが覗いた薄暗い小屋には、土間にいくつかの箱やたるが置かれていた。
 すばやく中に入ったアルマは扉を閉め、背中をなでながらタッシェが落ち着くのを待つ。
 そうするあいだにも、遠くからは、叫び声となにかがぶつかるような音が聞こえてきた。

「お兄ちゃんが来るまで隠れていなきゃいけないのよ……だからお願い。ね、タッシェ?」
 抱きしめてそう言うと、ひっくひっくとベソをかいていたタッシェが、こくりとうなずいた。
 アルマは微笑んで、タッシェをそっと下におろす。

 のそのそと隅のほうへ歩いていったタッシェが土に手をつくと、土が沈みはじめ、暗く狭い穴ができた。
 タッシェはしゃくりあげながら、もぞもぞと穴へ入っていく。

 アルマも、置いてある箱で手早く周りを隠し、あとを追って穴に入った。

 
 下までおりると、四つん這いなら通れるほどの横穴につながっていて、手前に袋が置いてあった。開けてみると、水と食料だった。

 袋のとなりに座りこんでいたタッシェが、また声をあげて泣き始める。
 外の音が遠くなった穴の底では、タッシェの泣き声だけが強く響いていた。

 アルマも、暗いなかでじっと座りこむうちに、行ってしまったスペスの事を考えてしまい、鼻にツンとくるものを感じる。

 それでも、こぼれそうになる涙をなんとかこらえたアルマは、じっと上を見あげた。
「早くきてよね……スペス」
 願いを込めてつぶやいた穴の上には、薄暗い天井だけが見えていた。

* * * * * * *

 その頃――
 始まったアールヴと悪魔との戦闘は、アールヴの優勢で進んでいた。
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